ピエール・カルルのサクセスストーリー

ピエール・カルル
本日はピエール・カルルについて、ミランに加入してからの2シーズンを彼のコメントとともに振り返っていきたいと思います。
20-21シーズン

「僕のデビューは遅かった。ELのスパルタ・プラハとのアウェー戦で、それまで僕は4カ月間プレーしていなかったんだ。イタリアサッカーは戦術的・フィジカル的にフランスサッカーとは大きく異なっているから、適応するための時間が数カ月必要だった。歯を食いしばって必死に理解したよ。プレーしていない時に幸せになる権利はない。もがいて、汗をかき、目標に向かって走り続ける必要がある」



カルルの言うように、彼のミランデビュー戦は12月に行われたEL第6節のスパルタ・プラハ戦でした。
既にグループステージ突破を決めていたミランにとってこの試合は「消化試合」の側面が強く、控えメンバーのみで構成されたスタメンでしたが、その中でカルルは印象的なパフォーマンスを披露し0-1の勝利に貢献。それまでは一切出番がなく、来る冬の移籍市場でのレンタル移籍が囁かれるなど穏やかでない状況でしたが、これを機に出場機会を増やしていきます。



リーグでのデビュー戦となったのが先の試合の3日後、第11節パルマ戦です。
この試合では先発したCBガッビアが開始からわずか5分後に負傷。その交代選手としてカルルが投入されたという流れでした。

こうした緊急出場というのは選手にとって決して簡単なことではなく、それがトップチームデビューから間もない若手であれば尚更です。しかしながらカルルは持ち味を発揮し、その穴を埋める見事なパフォーマンスを披露。試合は2-2の引き分けに終わったものの、カルルが評価を上げたことは確かでしょう。

事実、その後のジェノア戦、サッスオーロ戦、ラツィオ戦とカルルは立て続けに先発フル出場を果たし、バックアッパーとしての地位を高めていくこととなります。

「デビュー当時はあまりに忙しくて、プレッシャーを感じる余裕すらなかった。そんな中で最初の試合はとても上手くいって、監督も僕の走力や持ち味に気付いてくれた。でも、僕にはまだ明らかに改善すべき点があったね」



しかしながらその一方、出場機会を得た事でカルルがいくつかの判断ミスや技術的な課題を露呈することになります。
例えば当時はエリア内での守備、殊にマーキング面に粗さが見られ、相手をフリーにさせてしまう場面というのが散見。実際、先述の先発試合においても複数失点に絡むなど、CBとして第一に求められる安定感という点に物足りなさを感じるところでした。

それもあり、ケアーが復帰した15節ベネヴェント戦以降は再びベンチに座ることの多くなったカルル。更に1月にはCBトモリが加入したことで、シーズン後半戦はSBで数試合出場するに止まりました。

結局、当シーズンの出場数は公式戦18試合(1106分)で1ゴールという結果に。ただしトップチームのデビューシーズンとしては上々なものといえますし、この経験が翌シーズンの飛躍へと繋がることとなります。


21-22シーズン

そして今シーズン。当初のカルルの位置付けは昨季後半戦に引き続き「SBの控え」というものでした。
ちょくちょく負傷離脱するカラブリアの代わりとして右SB、またテオの実質的な控えが不在だった左SBも何試合か務め、シーズン前半戦は両SBで16試合(うちスタメン7試合)に出場。昨シーズン同様、頼れるバックアッパーとしてチームに貢献していました。

そんな彼に転機が訪れたのはシーズン後半戦一発目のローマ戦です。
ケアー、トモリ、ロマニョーリというレギュラーCBがいずれも欠場を余儀なくされたため、ガッビアと共に急造CBコンビを組むこととなったカルル。しかしそこでチームの失点を「1」に抑え込み勝利に貢献したことで、CBとしての資質に再び目を向けられることになります。



上記の離脱者続出は冬の移籍市場開幕中の出来事だったため、ミランはCBを緊急補強するだろうと盛んに報じられていたわけですが…。チームはカルルのポテンシャルに賭けることを決断しました。



その後もリーグ戦5試合(20~24節)連続でCBとしてフル出場を果たし、ユベントスやインテル相手にも決して怯まずエリア内でも落ち着いたパフォーマンスを披露。昨季からの成長を見せつけました。
そして3試合(25~27節)のベンチを挟んで迎えた第28節ナポリ戦。ロマニョーリの欠場によりトモリとカルルのCBコンビが遂に誕生します。

トモリ&カルル1

そして、この試合では彼らが相手エースのオシメンを抑え込むにあたって中心的な役割を担い、首位攻防戦をウノゼロで勝利することに成功しました。



この後、すぐにロマニョーリは復帰するわけですがピオリ監督はトモリ&カルルコンビを固定することを決断。終盤戦に向けてスクデット獲得の為のラストピースを手にしたミランは、ナポリ戦を含む最後の11試合でわずかに2つの失点に抑え優勝を果たした、と。

この傑出した守備成績の要因の一つが「カルルの抜擢」にあったのは間違いなく、またその期待に応えたカルルの潜在能力やパーソナリティーにはただただ感服でしたね。

最終的に、今シーズンのカルルは公式戦37試合(2516分)に出場して1ゴール3アシストを記録。昨季よりも出場試合・時間共に2倍以上に増やし、チームにおいてレギュラーとしての地位を完全に確立したシーズンとなりました。



これからのカルル

今シーズンの大活躍を受け、ミランはカルルとの契約延長並びに昇給に向けて動いているとのことです。



現在のカルルとの契約は2025年まで残っていますが、プロテクトも兼ねて契約期間を伸ばすべきですし、また現在の推定年俸は60万ユーロと実力に比して破格の安さです。延長及び昇給は極めて妥当でしょう。
来季は端からレギュラーとしてチームを支える存在ですから、ピッチ内でのプレーに集中できるよう事前に契約面での心配事を取り払って欲しいと思います。

他方で、このように21歳という若さで優勝チームのレギュラーに君臨したカルルのサクセスストーリーはミランに所属する若手選手たちに強いモチベーションを与えたに違いありません。
来シーズンもまた「第2・第3のカルル」が生まれてくれればチーム力の飛躍的な向上が見込めますし、彼らには是非とも頑張って欲しいですね。

「今の若い人たちに言えるのは、時間を無駄にしてはいけないこと、そしてトレーニングは誰も待ってくれないということかな。後悔というのは一時の疲労よりも多くの痛みを自分に与えてしまう。サッカーの世界以外にも言えることだけどね。とにかくトライしてみて欲しい」




それでは今回はこの辺で。

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