【祝】 ミラン優勝、11年ぶりのスクデット獲得!! 【2021-22シーズン】
2021-22シーズン最終節。サッスオーロ戦に勝利を収めたミランは優勝を果たし、11年ぶりとなる通算19回目のスクデットを獲得しました!
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— Lega Serie A (@SerieA_EN) May 22, 2022
それではいつも通りマッチレビューを…といきたいところですが、今回は今季のスクデット獲得について、過去を追想しながら自分の思いを書かせていただきます。
しかしながら、同じスクデットといえど当時と今回とで抱く感想は大きく異なるものがあります。
○かつてのスクデット
僕が最初にミランのスクデット獲得の瞬間を経験したのは10-11シーズン、当時のミランはタレント軍団でありました。

ネスタやガットゥーゾやセードルフといった、年齢を重ねつつも(コンディションが良ければ)ハイレベルを維持していたレジェンド選手達が中盤とDFラインの軸となり、前線には全盛期のイブラヒモビッチやロビーニョ、パト、カッサーノといったビッグネームがひしめく強力なスカッドです。
スクデットを獲るための必要条件ともいえる「経験」と「実力」を兼ね備えた多くの選手達に対し、アッレグリ監督が適切な戦術を授けたことで必然的にチームとして躍動。シーズン途中には怪我人続出などで厳しいやりくりを強いられる時期もありましたが、終わってみれば2位に6ポイント差を付けて優勝を果たしました。

――10-11シーズンにおける主力メンバー及びサブメンバーの年齢(※年齢は『fbref』より)。選手名記載の基準は「リーグ戦で9試合以上スタメン出場したこと」。
○優勝の要因1:若手の成長
それでは今シーズン。戦力的な観点から、10-11シーズンとの違いとして真っ先に挙げられるのは「主力選手の年齢」であると思われます。

――21-22シーズンにおける主力メンバー及びサブメンバーの年齢。選手名記載の条件は同上
多くの中堅・ベテラン選手達がミランの主力としてスタメンに選ばれていた当時と異なり、今季のミランでシーズンを通してレギュラーの座を確保したといえるベテランはジルーただ一人です。ケアーとイブラは負傷欠場数が非常に多く、それぞれ10試合・11試合の先発に止まり、フロレンツィも優秀なバックアッパーという位置付けで継続的なスタメンとはなりませんでした。
その代わり、スタメンに多く名を連ねたのは有望な若手選手達です。そのため、若い彼らには当時のミランの主力達にあった「経験」こそ不足していたものの、逆にかつてのミランの主力に不足していた若さゆえの「ポテンシャル」という強みが存分にありました。
事実、「10-11シーズンに成長した選手を挙げなさい」と言われても個人的に答えに窮するところがありますが(シウバ、アバーテくらい?)、「21-22シーズンに~(以下同文)」と訊かれれば何人もの選手を瞬時に挙げることが可能です。
例えばテオ・エルナンデス。レオンと主に同サイドでコンビを組むことになった今シーズン、彼には攻撃時に幅を取ったりゴール前に飛び出したりする従来の攻撃的な役割に加え、インサイドレーンに積極的に侵入してスペース・パスの選択肢を作り出したり、後方でバランスを取ったりと試合に応じて様々なタスクをこなす選手へと成長を遂げました。
そして、そのテオと共に左サイドでリーグ最強のコンビを結成したレオン。昨季までと役割が少し変わり、アウトサイドレーンないしその近くを主戦場にしてボールを受け、ドリブルで打開するといったタスクの下で伸び伸びとプレーし成長。愛くるしい笑顔とは裏腹の破壊的なドリブルで相手守備陣を切り裂いていきました。

また、これまでは「継続性(シーズン終盤戦に調子を落とす)」や「ゴールへの関与」といった点に課題を抱えていたレオンでしたが、その点も大きく改善した印象を受けます。実際、シーズン最後の6試合で3ゴール6アシストとチームの攻撃を牽引し、スクデット獲得に決定的な役割を果たしました。
続いて今シーズンに急成長した代表的選手として、サンドロ・トナーリの名も挙げないわけにはいきません。
ベナセル、ケシエという当初の中盤レギュラーがシーズン初めに負傷やコンディション不良に悩まされた中、トナーリはシーズン最初から最後までフル稼働。昨シーズンに見られたプレーの臆病さや消極性は無くなり、中盤のリーダーとして自信と確信を持ってプレーしている様子が窺えました。
そうしたメンタル的な変化はパフォーマンスにも大きな影響を与えます。今季のトナーリは攻守において実質的な貢献を果たし、テオと同様、様々なタスクをこなす万能型の選手へと変貌を遂げました。

最後に特筆しておきたい選手がピエール・カルルです。彼にとって転機となったのがシーズン後半戦最初、新年一発目の試合となったローマ戦です、
それまではあくまで「SBのサブ」としての位置付けであったカルルですが、CBに離脱者が続出したことで20節のローマ戦にてスタメンに抜擢されます。そこで一定のパフォーマンスを見せ信頼を得たカルルは、CBとして定期的に出場するようになり、試合毎に安定感を増していきました。
そして第28節のナポリ戦にてトモリとのコンビが本格的に誕生してからは、セリエA最強といっていい守備ユニットの構成メンバーとして君臨。そこからのリーグ戦11試合をわずか2失点で抑えることに大きく貢献しました。
個人的に、彼こそがスクデット獲得のためのラストピースであったと考えています。

さて。このように彼らを始め多くの主力選手たちが殻を破り、成長したことでチーム全体に勢いが生まれ、最終的に当初の下馬評を覆して優勝という頂に到達できたといえると思います。
10-11シーズンとの比較でいえば、当時のミランが最初から持っていた「(スクデットを獲れるだけの)実力」というものを今季のミランはシーズン中に身に付けていき、また主力メンバーに不足していた「経験」は成長による自信・確信を得たことで生まれた「勢い」でその多くをカバーしたのではないかなと。
時に、成長著しい若手の勢いというのがベテランの経験を凌駕することはあります。この点をミランに絡めて考えると、当時CLタイトルホルダーとして臨んだ07-08シーズンのCLにて、通称「ヤング・ガナーズ」と呼ばれたアーセナルを前に敗北を喫したことはその一例といえますね。
○優勝の要因2:ベテランの貢献
そうはいっても、勢いだけで優勝まで突っ走れるほどセリエAは甘くありません。長丁場のシーズンにおいては浮き沈みというのが大なり小なり存在するものですから、チームの状態が下向いたときやプレッシャーのかかる状況などにおいては仲間を積極的に鼓舞し、そうした状態からの立ち直りを促進する存在が重要な鍵を握ります。
また、育成という観点においても経験豊富な頼れる選手が若手の導き手となり、メンタル的・技術的な成長を手助けすることは大事です。その意味で、今季のミランで経験豊富なベテラン選手達が担った役割というのは非常に大きいものがあったと思います。
例えばジルーはCFのレギュラーとして多くの試合に先発し、攻守両面で身体を張ってフォア・ザ・チームの精神を体現。そしてストライカーの本分であるゴールも重要な場面で尽く決める活躍を見せました。
ミラノダービー戦での決勝点を含むドッピエッタ、ナポリとの首位攻防戦での決勝点、そして最終節サッスオーロ戦での優勝決定弾など、シーズン後半戦に入りジルーが決めた多くのゴールは我々の記憶に残る最高クラスの価値を持つものです。

また、彼は若手達の「兄貴分」として盛り上げ役を買って出るなど、ピッチ外での活躍も目立ちましたね。
一方、イブラ、ケアー、フロレンツィといった他のベテラン勢は怪我により出場時間こそ多くありませんでしたが、それぞれが自分の持ち味を発揮してチームに貢献してくれました。
フロレンツィはムードメーカーとしてロッカールームの中心にいたことがチームメイトから語られており、ケアーもまた選手の模範としてあるべき姿を徹底。
そして何より、イブラが「勝者のメンタリティ」を2年半かけてチームに植え付けた効果はきっと計り知れないものがあったに違いありません。定量化できずとも、イブラの帰還以前と以後の両方のチームパフォーマンスを見続けてきた者として、それだけははっきりと断言できます。

ピッチで華々しい活躍を見せる若手達を裏で支えた彼らの貢献なくして、最高の結果を勝ち得ることはなかったでしょうね。
○王道の優勝、ロマンティックな優勝
さて。という訳で長々と書いてきたわけですが、僕にとって10-11シーズンの優勝というのは「王道の優勝」でした。優勝に必要な戦力を予め擁しつつ、かつそれでも物足りない部分は冬の移籍市場で完璧な補強を行い万全の態勢を整え、優勝まで邁進したわけですからね。
しかし今季は違います。シーズン前の下馬評が物語るように、ミランが優勝の最有力チームと考える識者はほとんどいませんでした。
それを覆した大きなキッカケは、先述の通り何と言ってもシーズン中の若手の大きな成長でしょう。彼らの成長により他優勝候補との戦力的なギャップを大きく埋めたこと、それに伴う戦術・組織レベルの大きな向上により、「シーズンを通して」優勝に相応しいチームとなりました。もちろん、その若手達の成長と勢いを支えたのがベテラン勢による要所での貢献であることは先述した通りです。
以上より、今シーズンは若手とベテランが各々の使命を自覚し、それを遂行したことが優勝の大きな要因であるとまとめることができると思いますし、こうしたチームワーク・結束力が生んだ優勝を有名サッカージャーナリスト様のお言葉を借りて「ロマンティックな優勝」と評させてもらいたいと思います。
まして前回の優勝から11年の間、この愛するクラブが直面した多くの苦難・困難を我が事のように僕は感じてきただけに、今シーズンの優勝は前回と比べてもやはり質の違う満足感です。当時は素直に感情を爆発させて大喜びできた一方、今回は何というか喜び以上に凄く感慨深いものがありますね。
○優勝の要因3:コーチとフロントの尽力
最後に。ここまで選手達に焦点を当ててきましたが、そんな彼らをチームとして1つにまとめ上げつつ適切な戦術を与えて鉄壁の組織を作り上げたピオリ監督、及び彼を支えたコーチ陣…そしてメニャン獲得という「神の一手」を始め、優れた判断力で優勝し得るスカッドを編成したフロント陣も惜しみない称賛を受けて然るべきと思います。
特にピオリ監督のチームマネージメントは傑出していましたし、個人的には昨季の時点で既に名将の地位を確立したと思っていますが、今季の優勝を受けてもはや彼の実力を評価しない人はいないでしょう。ミランの長い歴史においては数々の名将が指揮をとりましたが、ピオリの成し遂げたものの偉大さはそんな彼らと比べても決して引けを取らないものだと思います。
今季をもってミランはオーナーが変わるかもしれませんが、報道によればピオリを筆頭にコーチ陣はもちろん、マルディーニやマッサーラ、モンカダ等強化担当も続投が既定路線とされています。
来季も彼らを中心により強力なチームを作り上げてもらいたいですし、「セリエA連覇」と「CLでの躍進」といった2つの目標を立てられるよう最善を尽くしていただきたいですね。
とはいえまずは「ミラン優勝おめでとう!」ということで、クラブに関わる全ての方々に心から感謝し、今しばらく今季の優勝の余韻に浸りたいと思います。
Complimenti al AC Milan!!

最後まで読んでいただきありがとうございました。
来シーズン以降も引き続きよろしくお願いいたします!