テオ・エルナンデス、プレースタイルの進化について
今季のミランが素晴らしい成績を収めている要因の1つとして、「若手選手の成長および活躍」というのが考えられます。
この点、レオンやトナーリ、カルルを始め様々な選手の名前を挙げることができますが、今回はその中でもテオ・エルナンデスについて言及していこうかなと。
テオは2シーズン前、ミランに加入してすぐさま左SBのレギュラーの座を獲得。それからというもの、一般的なSBとは一線を画す圧倒的な個人技により何度もチームを救ってきました。
そして今シーズン。これまで同様にドリブルやフィジカル・パワーを存分に活かしたプレーにより多くの得点に関与してくれているわけですが、それだけでなく今季の彼はより「戦術的な選手」へと変貌を遂げた印象があります。
それでは具体的に。直近3試合を参考にして、テオがこなす様々なタスクを振り返っていきましょう。
フィオレンティーナ戦
まずは35節フィオレンティーナ戦についてです。この試合におけるテオは主に左サイドの幅を取る役割を担当し、攻撃時には積極的に攻め上がって崩しに絡んでいきました。加入当初から彼が得意とする役割ですね。

――フィオレンティーナ戦後半の場面。テオは左サイド高い位置を取り、対面の相手WGを押し込む

――別の場面。ここではテオがクルニッチからスルーパスを受け、惜しいシーンを作り出した

――参考1:フィオレンティーナ戦におけるミランの攻撃時の平均ポジション。テオ(19)の位置に注目
また、こうしたプレーによる副次効果として、対面の相手WG(ニコ・ゴンザレス、途中からイコネ)を守勢に回らせることができ、攻撃力を削れます。事実、この試合のゴンザレスはドリブル回数が「1回」に止まり(彼の1試合平均ドリブル回数は「3.5回」)、シュート数も枠外が2本と、ボールを持てども攻撃面で存在感を発揮できずに途中交代を余儀なくされました。
ヴェローナ戦
続いては36節のヴェローナ戦についてです。この試合におけるテオは積極的にインサイドレーンに侵入し、中でパスを引き出す役割を担当。これにより対面の相手右WB(ファラオーニ)を中央に引きつけることで、レオンがドリブルで仕掛けるためのスペースをサイドに作り出そうとしました。

――例えばこの場面。テオが内に絞って相手右WBファラオーニを引き付けながら、カラブリからパスを引き出したシーン。その後、テオはCFジルーにワンタッチで落とし、そのジルーは左サイドのレオンに展開する

――その後の場面。周囲の味方の動きにより、ボールを受けたレオンの周りにスペースを生じさせる。ここからレオンはドリブルを仕掛け、そのままゴール前に侵入してあわやPKかというシーンを作り出した

――参考2:ヴェローナ戦戦におけるミランの攻撃時の平均ポジション。先ほどと比較し、テオ(19)が中央寄りでプレーしていることがわかる
こうした「インサイドレーンでのプレー」というのが、今季のテオの成長を示す好例の1つではないかなと。
確かに、昨季までもサイドからドリブルで中に侵入したり、インナーラップでエリア前に突撃したりといったプレーは見せていました。しかし、上記のようにビルドアップの局面でインサイドレーンに入ってパスを引き出すようなプレーを積極的に行うようになったのは今季からだと思います。
この点については、テオと同サイドで主にコンビを組むウインガーがレビッチからレオンに代わったのが大きかったのでしょう。ハーフスペースにてストライカー的な役割を担いつつ、テオのオーバーラップを積極的に活かす意識のあったレビッチと異なり、レオンはより独力での突破力があり、かつサイド寄りの位置で真価を発揮するタイプです。そのため、今季のテオはレオンのドリブルをサポートする動きが強く求められ、中央寄りでのプレーが増えたというのはその一環と考えられます。
そしてこういった戦術的要請に対し、テオはオフザボールの質やインサイドレーンでのプレー精度・判断を向上させる形でしっかりと適応。その結果プレーの幅が広くなり、様々な攻撃タスクに順応できるより魅力的な選手へと成長を遂げました。
アタランタ戦
最後に、第38節アタランタ戦についてです。
この試合でテオは過去2戦よりも守備的な役割を担当。2人のCBと3バックを形成して最終ラインでのパス回しに積極的に関与するなど、後方でバランスを取る形を重視します。

――後方でのミランの基本的な攻撃陣形

――参考3:アタランタ戦におけるミランの攻撃時の平均ポジション。前2試合と比較し、テオ(19)の位置が守備的なことがわかる
すなわち、この試合のテオには守備面での貢献がいつも以上に求められたのだと考えられます。
そして、実際にテオは非常に安定したパフォーマンスを披露することでチームの無失点に大きく貢献しました。具体的に、この試合における彼のスタッツを見てみましょう。

――参考4
まずタックル成功数(Tackles)については「5回」とチーム2位の数字を記録。このように積極的な守備を行いつつも、ドリブルで抜かれた回数(Dribbled past)は「0回」です(※ちなみに、右SBカラブリアの抜かれた回数は「4回」。相手のストロングサイドがそちらにあったので致し方ない面もありますが)。
そして、「地上戦のデュエル回数(うち成功数)」も「12(10)回」とこれまた素晴らしい数字をマークしています(平均成功数は「5.5回」)。
かつてのテオは守備面に複数の課題を抱えていましたし、また組み立ての局面においても判断ミスで非常に危険なボールロストをしてしまうなど、集中力に欠ける場面というのがチラホラ見受けられました。
しかし、今ではこの試合のようなタスクをも任せるに足る選手になりましたし、こうした部分もテオが今シーズンに大きく成長したところではないでしょうか。
○おわりに
今のミランの中で必要不可欠な選手というのは多数いますが、その中でもテオは1、2を争うレベルで重要な存在であると個人的には考えています。
まして彼はまだ24歳ですし、年齢的にも更なる成長の余地が十分に残されているでしょう。
テオがどれほどの領域まで到達できるか・・・今後が本当に楽しみですし、願わくはこれからもずっとミランに残留し続けて欲しいです。そしてレジェンドとして語り継がれるほどの成績を残し、それによってクラブに多くのタイトルをもたらしてくれたら最高ですね。
それでは今回はこの辺で。