【勝利を呼び込んだゲームプラン】 ミラン対アタランタ 【2021-22シーズン・セリエA第37節】
スタメン

基本システム:ミラン「4-2-3-1」、アタランタ「3-4-1-2」
まずはミランの攻撃(ボール保持)の形についてです。
この試合ではテオがここ最近よりも守備的な役割を担当し、後方からのビルドアップ時にはカルル、トモリと共に3バックを形成する形が基本。そこにメニャンを含めた4人でパスを回していき、アタランタのマンツーマン志向の強いプレスを抑制していきます。

――後方でのミランの基本的な攻撃陣形
前節のヴェローナ戦では積極的に中に絞ってパスを引き出そうとする傾向のあったテオですが、今回は守備面を重視した意図があったように思われます。

――参考1:この試合の「ボール保持時におけるミランの平均ポジション」

――参考2:ヴェローナ戦の「ボール保持時におけるミランの平均ポジション」。テオ(19)の位置がアタランタ戦よりも高い
また、ケシエはアンカーポジションに入り最終ラインをサポート。そしてトナーリは前節同様に高めの位置を取り、左寄りに位置することの多いクルニッチと共に後方からパスを引き出したりロングボールのこぼれ球を拾ったりといった形が基本。そのため中盤や2列目の機能については前節と同様といった印象でした。
一方、この試合においてポイントの一つになったのがカラブリアの動きであったと思います。彼は積極的に内に絞って中盤に潜り込み、最終ラインからパスを引き出していきました。
サレマが幅を取って対面の相手WBを牽制し、またトナーリが中盤の背後に入って相手のMFやCBにプレッシャーをかけることで生じ得るスペースにて、カラブリアがパスを受けるという形ですね。

――例えばこの場面。カラブリアに内に絞り、メニャンからパスを引き出す

――その後の場面。フロイラーが前に出てきて対応するが、ここでカラブリアは前方のクルニッチにパスを送った
そこには主にボランチのフロイラーが出て対応するわけですが、上記のミランのスペースメイクによりやや対応に遅れる場面というのもちらほら。そのため、ミランとしてはここを起点に速攻を仕掛けたいところでしたが、カラブリアにパスミスが目立つなどして中々上手くいきません。

――例えばこの場面。同様の形でカラブリアがパスを引き出す

――その後の場面。フロイラーが素早く寄せてきたため、カラブリアは右サイドに流れているカルルにパスを出し、プレス回避を試みる。しかしここでパスミスし、ムリエルにボールを渡してしまった
一方、左サイドもテオがバランスを取る形を重視したことで、前節のような人数をかけたポゼッション攻撃とはならず攻めあぐねる展開が続きました。レオンへのスペースメイクが上手くいかないことで、特に前半は彼が有効にボールを持ち仕掛けるというシーンは非常に少なかったですし、クルニッチやジルーもパスがずれるなどして有効にボールを前進させることが中々できませんでした。
そこで前半中盤~終盤にかけては、右サイドの構成を変えたり(トナーリが下がり、カラブリアが上がるなど)、ケシエが下がってトモリが前線に飛び出したりなど流動性を高めながら攻撃を仕掛け、ゴール前への侵入を図るミラン。しかしながら、決定機にまでは中々至らないという展開が続きました。
○アタランタの攻撃
一方、アタランタの攻撃はどうか。
この点、後方からのビルドアップにて、アタランタの右サイドではボランチのコープマイネルスがサイドに流れたり一列下がったりという動きを行い、右CBデローンを上げるやや変則的な攻撃を何度か見せました。
これにより、デローンへの対応にレオンが下がらざるを得ない状況を作り出し、レオンの体力を削りにかかります、また、仮にレオンが下がらなければデローンにパスを受けられ易くなってしまう、と。

――例えばこの場面。サイドでコープマイネルスがボールを受け、前方のハテブールにパスを供給。一方、デローンは前に上がる
しかし、こうした形で突破することは中々できず、逆にミランにボールを奪われカウンターの起点にされる場面が見られました。

――その後の場面。前に上がったデローンがハテブールからパスを受けられず、安全なパスコースが無い状況に。ここでテオが鋭く寄せに行き、ボールを奪取しカウンターに繋げた
そのため、アタランタの有効な攻撃は主に左サイドもしくはトランジションの流れから押し込み、崩しにかかるといった形で行われます。左サイドにおいては守備時にムリエルが左に流れる関係上、彼が左サイドでボールを持ち仕掛ける場面というのが散見されました。
また、彼と好関係を築いたのが左WBのザッパコスタで、不安定なパフォーマンスが続くカラブリア周辺のスペースを彼らが中心となって攻めていく、と。

――例えばこの場面。縦パスを受けたムリエルに対しサレマ、カルルが反応。しかし、ムリエルはダイレクトでザッパコスタに展開する

――その後の場面。ザッパコスタに対しカラブリアが寄せるも躱されてしまい、一気に前方にドリブルで持ち運んだ
また、先述の通りミランにパスミスがやや目立ったため、そういったミスからトランジションに繋げたアタランタがミランを押し込むシーンというのも見られました。
○安定した守備のメカニズム
しかし、最初のトピックで少し言及したように、この試合のミランは自陣での組織守備(からのロングカウンター)を重視していたように見受けられます。実際、ミランは押し込まれた際にもアタランタに決定機を作らせることは少なく、多くの場合未然にピンチを防げていました。
この点についてポイントになった選手を何人か挙げていくと、まずはカルルです。先述したようにカラブリアが不安定だったりムリエルが積極的にドリブルで仕掛けてきたりなど、ミラン側右サイドはいくつかの困難を抱えていました。そんな中カルルはいつもの如くフレッシュかつ安定したパフォーマンスを披露。中でも相手に裏のスペースを突かれた際の帰陣のスピードには目を見張るものがありました。

――先ほどの続きの場面。ドリブルで持ち運ぶザッパコスタに対し、迅速な帰陣で対応するカルル(赤)

――参考3:この試合における「スプリント時の平均スピード」について。カルルが相手チームも合わせてトップの数字を記録
また、「対アタランタ特効(特殊効果)」を持つケシエも素晴らしいプレーを見せます。基本的に彼は相手アタッカーのキーマンの1人であるペッシーナを厳しく管理し自由を制限しながら、トランジションの局面では幅広くピッチをカバーして相手の迅速な攻めを妨害。また、タックルによるボール奪取といった直接的なプレーもいつもより多く行い、守備面にて大きな貢献を果たしました。

――参考4:この試合におけるタックル成功数ランキング。カルルがチーム1位、ケシエがチーム2位タイを記録

――参考5:この試合における「走行距離ランキング」。ケシエがチームトップを記録
最後に言及したいのがクルニッチです。上述の通り、前節に比べ攻撃面では鳴りを潜めた彼ですが、そもそもこの試合で求められた主な仕事は守備面だったかと思われます。
彼はトナーリ、ケシエのダブルボランチと協同して相手のMFとアタッカーの自由を制限し、殊に押し込まれた際には左サイド側でディフェンシブサードのスペース・選択肢を消す見事なパフォーマンスを披露しました。

――例えばこの場面。こぼれ球を拾い右アウトサイドで攻撃を仕掛けるアタランタ。ミランの両CBがサイドに出て対応する中、ハテブールが中央ペナルティエリア内へと侵入していく。そこで、クルニッチも当該エリアに下がって対応

――その後の場面。エリア内にクロスが入るが、ハテブールにはクルニッチが付いており(赤)、ボールは問題なくキーパーにより処理された。
以前に「ミランの守備の弱所」という記事を書いた際に、上記のような攻撃の形(ミランCBを前・サイドに引き付け、空いた中央のスペースに後方から誰かが飛び込む)をやられるとミランとしては苦しく、それゆえ後ろ向きの守備が得意じゃないブラヒムはアタランタのようなチーム相手だと先発起用されるのは難しいだろうという話をしました。
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この点、クルニッチは走力・持久力があり献身性も高いため後ろ向きの守備を苦にせず、更にはスペースを埋める感覚に優れていることから上記のように弱所も時としてカバーする仕事ができます。
更に、彼が左サイド側のスペースを献身的に埋めることでもたらされる大きな利点として、「レオンの守備負担の軽減」という視点は外せません。

――参考6:この試合におけるミランの「守備時の平均ポジション」について。クルニッチ(33)は左サイド側深くに下がり、一方レオン(17)はジルー(9)と共に前に残る傾向
チームが押し込まれた際にレオンも自陣深くに戻らせてしまうと、前線にはロングカウンター向きじゃないジルー1人を残すことになりカウンターを機能させることは難しくなります。また、そもそもレオンは守備が得意ではないし、カウンター要員として備えさせた方がチームとしても彼個人としても明らかに良いと。
ただし彼が基本的に自陣深くまで戻らない分、他の誰かが守備に犠牲を払う必要があり、それがこの試合におけるクルニッチの最大の役割だったんじゃないかと思います。
そして、彼の守備貢献は後述する2点目のテオの衝撃的な1人ロングカウンターによって報われることになりました。
○ロングカウンターによる”仕上げ”
さて。試合展開に話を戻します。
後半に入り。ミランは狙いとしていたであろう(ロング)カウンターからレオン、テオの2人で2点をもぎ取りました。先の通りレオンの守備負担を軽減させ、かつ前半にテオの体力を温存させた戦術的判断が功を奏したともいえますね。
この2得点への布石として、先に52分のシーンに言及したいと思います。

――当該シーンについて。ミラン側右サイドからのアタランタの攻めを防ぎ、ボールをキャッチしたメニャンが左サイドのテオに素早く展開。ロングカウンターを発動させる

――その後の場面。一気に相手エリアにドリブルで侵入するテオに対し、コープマイネルスが止めに入りファールをとなった(赤)
これによりコープマイネルスがイエローカードを提示され、自由を制約される結果になる、と。
そして54分にジルー、サレマに代えてレビッチとメシアスが投入し、チーム全体の走力を上げていくミラン、すると直後の56分。ロングカウンターからレオンが決めてミランが先制に成功しました。

――1点目のシーンについて。自陣でボールを奪ったミランは右サイドのメシアスに展開し、カウンターを発動

――その後の場面。CFレビッチが手前に引く動きでパロミノを少し前に釣り出す、そして、前方に残っていたレオンが素早くその背後のスペースへ斜めに走り込み、メシアスからスルーパスを引き出す

――その後の場面。レオンは対面のコープマイネルスをいなしながら上手く前方にボールを持ち出し、そのままゴールを奪った
そして続く75分、テオの爆走ロングカウンターによりミランが追加点を獲得。ほぼほぼ試合を決定付けました。

――2点目のシーンについて。カラブリアの縦パスをインターセプトされ、再び自陣に戻るミラン。ここでアタランタは右サイドのボガ(※途中出場)に展開したため、クルニッチがすぐさまボガに対応するため左サイド側のスペースに戻る

――その後の場面。ボガの仕掛けに対応し切ったクルニッチがボールを奪い、そのこぼれ球を拾ったテオがロングカウンターを仕掛け2点目に繋がった
――参考7:2点目の映像
両得点シーンの共通点として、コープマイネルスがボールホルダーに対応しきれなかったことが挙げられます 。そして、その原因の1つに52分の被カウンターのシーンで貰ったイエローカードが多少なり関係しているのは確かではないかなと。特に2点目のシーンは、その時点でノーカードであればイエロー覚悟で激しく止めに行こうとすることもできたでしょうしね。
ミランとしてはチームの誇るカウンターマシーン2人の強みを最大限に発揮し、得点延いては勝利を手にすることができました。
ミラン2-0アタランタ
雑感
決して楽な試合ではありませんでしたが、90分トータルで見たとき、勝利という結果は妥当なものだったのではないかなと思います。
それもこれも安定した守備があってのものですし、後半には相手の猛攻や久々のバカヨコ投入といったかなりリスキーな状況に陥りつつも、しっかりと無失点に守りきった選手たちには改めて称賛の言葉を送らせてもらいたいです。
さて。難敵アタランタを下し、スクデット獲得まであと一歩のところまで到達したミラン。
最終節のサッスオーロ戦にしたって今のミランが実力を出し切れれば十分に勝てるはずですから、後はもう決して油断せずに万全の準備をして試合に臨んでもらいたいと思います。
Forza Milan!
今回は非常に長くなりましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。