ラファエル・レオンに求められる「オフザボールの動き」の改善
現チームで唯一無二の突破力は健在ながら、それが結果に結びつかない日々が続いています。
今回はそんなレオンについて、個人的にかなり気になっていることに言及していきたいと思います。
先日のトリノ戦、ミランはある一つのビルドアップの形を用意していました。
それはCBトモリによる持ち運びです。相手の2トップ(ベロッティ、ブレカロ)に対し、最後方でGKメニャンを含む数的優位でボールを回し、フリーとなったトモリに渡す、と。

――例えばこの場面。ホルダーのメニャンに寄せに行くベロッティ。ここでメニャンは下がってきたトナーリに一旦パスを当てる

――その後の場面。トナーリからトモリにボールが渡され、フリーのトモリが前方にドリブルで運んでいった
しかしミランは、そこからの展開に窮するというシーンが散見されました。例えば以下の通りです。

――その後の場面
ここで前方のレオンはトモリからボールを貰いに下がってくるわけですが、果たしてこれはこの状況において妥当なプレー選択なのかどうか疑問の余地があります。
というのも、ここでボールホルダーのトモリは後方からクリーンな形でボールを持ち出せており、フリーな状態です。背後ではマーカーのベロッティが戻ってきているとはいえ、まだ十分にボールを持てるスペースと時間を得ているように見受けられます。
しかしながら、ここでレオンが自身のマーカー(ズィマ)を引き連れて下がってくることで、トモリの前方のスペースを封じてしまいました。

――その後の場面。行き詰ったトモリはこのあと逆サイドにロングボールを入れるが、精度を欠きそのままゴールラインを割った
それではもし、ここでレオンが裏に抜ける選択をしたらどうなったか。
マーカーであるズィマはレオンに付いていったでしょうから、トモリの前方にスペースを提供することができたでしょう。更に、レオンが裏に走ることで裏のスペースへのパスコースが生まれます。レオンのロングボールに対する処理能力を考えれば十分にチャンスが生じ得る選択肢です。
また、こうしたプレー選択は周囲との関係性という観点からも支持できます。例えばCFのジルーはこの試合、ブレーメル(中央CB)に厳しくマークされつつも、彼を引き連れながら積極的に楔のパスを受けに動いていました。上図のシーンにおいても、ジルーはトモリからのパスを受けに下がってきており、トモリに選択肢を提供していますね。
こうしたプレーは厄介極まりないブレーメルをゴール前から引き離す効果がありますし、またジルーの得意なプレースタイルを踏まえても適切な役割だったように思われます。
しかしながら、当該プレーをチームとして十分に活かすならば、下がるジルー&相手マーカーに応じて裏に飛び出す選手が必須となります。この点、テオは良くやっていた印象を受けましたが、技術・フィジカル的には最も裏への抜け出しを効果的に行えるであろうレオンは先述の通りです。しかも以下のように、ジルーと動きが被るシーンなども見られました。

――テオからパスを引き出そうとジルー、レオンの双方がマーカーを引き連れて下がってくる
レオンの動きについて気になったのはこれらだけでなく、ゴール前のシーンでもありました。例えば以下のシーンです。

――当該場面
ブラヒムがゴール前へとボールを運ぶ間にブレーメルに潰されボールロストしたシーンですが、ここで注目したいのがそれに至るまでのレオンの動きです。

――先ほどの直前の場面。ジルーのポストプレーにより前を向いたブラヒムがドリブルでボールを運ぶ。一方、レオンには矢印の方向に飛び込む選択肢がある
ブラヒムの前方には絶好のスペースがあり、利き足や角度等を考えてもそこにブラヒムがスルーパスを送り込むのは比較的容易です。つまり、当該スペースにレオンがタイミング良く走り込み、スルーパスを良い形で受けられれば一気に決定機を作り出せます。もし相手DFが素早い反応でそのスペースを消したり、ブラヒムとレオンの呼吸が合わずにスルーパスのタイミングを逸したりしても結果的に相手を動かすことができますから、ブラヒムにドリブルの為のスペースを与えることができたでしょう。
しかしながら、レオンが実際に選択したのはこのような縦(斜め)の動きではなく、横方向に流れながらブラヒムのパスを待ち受ける形です。

――その後の場面。レオンの実際の動きは横に流れるというのもの。ここから最初のボールロスト場面へと繋がった
これでは仮にボールを受けても対面に相手DFがいるので改めてドリブル等で局面を打開する必要がありますし、そうこうしている内にブレーメルを始め相手DF達は帰陣してしまい、ゴールを奪うのは難しくなります。
ハッキリ言ってこれは非効率的なプレーではないでしょうか。もしこれが、かつてレオンのプレースタイルを形容する際によく名前を使われた選手であるPSGのエムバペであれば、鋭い飛び出しでスルーパスを呼び込んだはずです。
○レオンの課題
要旨をまとめると、最近のレオンは「裏(スペース)への意識が低く、足元でボールを貰いたがる傾向」が今まで以上に高まっているのではないかというのが個人的な印象です。そしてこれが、成績不振という現状を引き起こしている原因の1つではないかと考えています。
確かにレオンの持つ相手を抜き去るドリブル能力は素晴らしく、それはデータにもハッキリと表れています。
現時点でレオンはリーグ戦におけるドリブル成功数が「80回」であり、これは2位に「20差」もつける圧倒的な数字です。

しかし、これらのドリブルが全て効果的なものだったか、もっと言えば必要のあるものだったかどうかは疑問の余地があります。
例えば「DFの手前でボールを貰ってその相手を抜く」プレーと「タイミングの良い裏への抜け出しで対面の相手の背後でボールを引き出す」プレー、前者ではドリブル成功数が加算されますが後者にはされません。しかし、同様の場面でも後者のプレーがより決定的なチャンスへと繋がるケースは間違いなく存在します。
そしてレオンには圧倒的なドリブル能力がありますが、現状はその能力に頼り過ぎてしまい、よりチームとして効果的なプレーを差し置いてドリブルで解決しようとするきらいがあるのではないか、と。
そのため今後はドリブルだけでなく、周囲のチームメイトを活かす為の機能的なプレーというのをもっと意識的に行えるようになる必要があると思います。裏(スペース)への意識を高めるというのはそのための1つの方法といえますね。
さもなければ、継続的に結果を残し続けるプレーヤーになるのは難しいのではないでしょうか。
最後に。僕自身、レオンには相当に期待しているので要求水準が高くなりますし、彼が世界トップクラスの選手に到達し得るポテンシャルを持っていると信じています。
確かに、シーズン通しての疲労もだいぶ溜まっているであろう現在、プレー選択をすぐに大きく改善することは難しいでしょう。しかしながら、ミランのエースとしての期待を背負う彼には今一度チームを勝たせるためのプレーが求められます。
今季の公式戦はカップ戦を含め、最大で残り8試合です。レオンのここからのパフォーマンスがミランの最終成績を大きく左右することは間違いありません。
彼には是非とも復調・出来れば成長をも果たしてもらい、再びミランの攻撃をリードしてもらいたいですね。
それでは今回はこの辺で。