【4-3-3の効果】 ナポリ対ミラン 【2021-22シーズン・セリエA第28節】
スタメン

基本システム:ナポリ「4-2-3-1」、ミラン「4-3-3」
○新システム
この試合のポイントとして挙げられるのは、何といってもミランの「4-3-3(4-1-4-1)」へのシステム変更だと思います。
今季、トップ下のポジションを実質的に独占しているブラヒムのパフォーマンスに陰りが見られ、トップ下を置く必要性が低くなっている現在。それ故こうした変更を加えるのは妥当といえば妥当でしょうが、それでもこれまでは無理くり同フォーメーションで戦っていただけに、この大一番での変更は驚きでした。
そんなわけで今回は、「4-3-3変更による効果」という観点を中心に振り返っていきたいと思います。
○ミランの攻撃
まずはミランの攻撃とナポリの守備についてです。
ナポリは守備時、ジエリンスキとオシメンの2トップでミランの最後方でのビルドアップ(GK+2CB)を妨害していく形を取るのが基本です。
一方、ミランにとってポイントになったのがアンカーの存在です。この試合ではトナーリが恒常的にアンカーポジションを務めたわけですが、これに対しナポリは2トップによってパスコースを牽制したり、ボランチの片方が前に出てトナーリ(もしくは外に開いたCB)を監視したりといった形を取ります。

――ミランの最後方での陣形と、ナポリの守備陣形
こうすることで問題になり得るのが、ボランチが前に出ることで生じやすくなる「中盤のスペース」であり、ミランの狙いはソコだったように思われます。
具体的に。相手ボランチの背後や周辺に、両インサイドハーフのケシエとベナセルがポジショニング。同時に、メシアスは右アウトサイド、レオンはやや内に絞ってジルーと近い距離を保ちながら、それぞれ相手DFラインを牽制。そうしてミランは最後方から当該スペースへボールを送り込み、速攻へと繋げていこうとするのが攻撃パターンの一つでした。

――先ほどの続きの場面。中盤のケシエがメニャンからのロングボールに競り合う。ここではポリターノが絞って中盤のスペースを埋めているが、これによりサイドのテオがフリーとなる

――その後の場面。こぼれ球を拾ったジルーが素早くテオに叩く。この後、テオを起点にミランがゴール前まで侵入した
こういった点に関し、良い動きを見せたのがテオです。ナポリがサイドに誘導してボール奪取を目論むのに対し、テオは中に入り込む動きでそうした狙いに反抗。時に中盤のスペースでボールを受け、速攻の起点となりました。

――例えばこの場面。サイドのテオから前方のケシエにパスが送られる。ファビアン・ルイスは牽制のためサイドに出ている。ここで、テオは中に侵入し、中盤のスペースでケシエからパスを引き出す

――その後の場面。テオにはロボツカが対応するが、これによりベナセルがフリーとなる。

――ボールを受けたベナセルが速攻を開始した
ミランとしては今回のように、相手が前に出てきてくれると得意の速攻を多く繰り出し易くなりますし(強豪に強いのもこれが原因の一つでしょう)、必然的にチャンスを作り易くなる、と。
ただし、右サイドのメシアス・カラブリアを筆頭にゴール前でのパスミスやズレが目立ち、決定機には中々至りませんでした。
そんな中でしたが47分、セットプレーの流れからジルーがゴールに流し込み、ミランが先制点を獲得します。
○ミランの守備
続いてミランの守備についてです。
ミランはジルーと片方の両インサイドハーフの計2人をメインにナポリの最後方のビルドアップを妨害しにかかりますが、それに対してナポリはGKを含む数的優位のパス回しで対応。ミランの前からのプレスを躱していきます。
この点について何度かミランの問題となったのが、インサイドハーフが前に出た際のマークの受け渡しです。

――例えばこの場面。GKオスピナから右CBラフマニにパス。それと同時にケシエがファビアン・ルイスのマークを離してラフマニに寄せに行く

――その後の場面。ジエリンスキを経由してファビアン・ルイスにボールが渡る
普段のミランであれば、サイドハーフ(主に右サイドハーフ)が絞って中盤の枚数を確保したり、相手CBに対しサイドハーフが前に出ることで中盤3枚をそのままキープできたりするわけですが、この試合では上記のように相手選手を浮かせてしまう場面がちらほら見られました(その原因の一つとして考えられることについては後述)。
そこで、ナポリとしてはレイオフを活用することでボランチにパスを送ったり、逆にミランのMFが背後を気にして出られない時にはCBを起点にボールを前進させたりなど、安定したポゼッションを披露。中でも、背後の認識が甘いレオンの隙を突き、ディ・ロレンツォが攻め上がってパスを引き出す形は有効でした。

――先ほどの続きの場面。ファビアンが前を向くと、ディ・ロレンツォが前方に向かって鋭く走り、パスを引き出す

――この後、ディロレンツォは前方のオシメンへとスルーパスを送った
一方、そうした中盤のスペースを埋めるためにミランMFと共に奔走したのがジルーです。積極的なプレスバックやカバーにより相手の攻撃を何度も遅らせてくれました。

――例えばこの場面。細かくパスを繋ぎ、最終的に中央でフリーのロボツカにパスを通すナポリ。そこへジルーが対応

――前方の進路を塞ぎ、攻撃を遅らせた
○粘り強い守備
上記の通りハイプレスが上手くハマらず、相手に主導権を握られる場面もあったミランでしたが、他方でその後の粘り強い守備により、相手に決定機を作らせるような場面というのはほとんどありませんでした。

――参考:この試合における両チームの「ゴール期待値(xG)」(『understat』より)。なお同ソースによれば、この試合のナポリのxG「0.38」は今季リーグ戦でチームワーストの数値
この点については特に、相手の崩しのキーマンといえるオシメン、インシーニェの2人をしっかりと抑え込んだというのが大きかったように思われます。
まずオシメン対策としては、カルルとトモリの2CBコンビが中心です。ナポリはオシメンの縦のダイナミズムを活かすべく裏にボールを送りこんできますが、そうした際はこの2人がスピードを存分に活かし、時に素早く2対1の関係を作って対応します。

――ここではミランのプレスを突破し、オシメンに裏のスペースに走らせるナポリ。しかしこの後、トモリとカルルの2人がかりでオシメンを止めた
それでもなお強引にゴール前をこじ開けんとするオシメンは恐ろしい存在でしたが、結果として無得点。それにはトモリとカルルの活躍が不可欠だったと思います。
続いてインシーニェに対しては、主にカラブリアが徹底マークで封じ込めます。
逆サイドのポリターノと異なりインシーニェは頻繁に中に侵入するわけですが、そうした際にもカラブリアが積極的に付いていくことで対応。また、それにより空いた右サイドにはマリオ・ルイが上がってくるわけですが、その際はメシアスがそのスペースをしっかりと監視します。

――例えばこの場面。ナポリがミランのプレスを回避して前進し、左サイドを駆け上がるルイに展開。ここでカラブリアは中央のインシーニェをマークしているため、左サイドへはメシアスが素早く反応して攻撃を遅らせ、相手にバックパスを強いる

――その後の場面。ボールを受けるインシーニェに対し、トナーリと挟み込んだカラブリアがボールを奪取(赤)。カウンターに繋げた
おそらくですが、この試合のミランはこうした「インシーニェに対するカラブリア、ルイに対するメシアス」という対応関係を極力崩したくなかった意図があったように思われます。
例えばメシアス・カラブリアがそれぞれ相手CB・SBへと縦スライドするようなプレスの形を採った場合、流動的に動くインシーニェを捕まえるのが難しくなりますし、また「オシメンへの対応」という難しいタスクを担う後方のCBに更なる負担がかかります。よって、この試合では例え中盤の支配権を相手にある程度譲ることになろうとも、後方のマークの安定を優先したのかなあと。
そして個人的な印象としては、理想通りとはいかずとも、しっかりと上記キーマンを抑え込み無失点で終えたという点で、概ね狙い通りの守備ができたのではないかと思います。
ナポリ0-1ミラン
雑感
最後の最後まで油断ならない試合でしたが、首位決戦を無事ウノゼロで勝利したミラン。
内容に関していうと、まず4-3-3に一定の手応えを感じられたというのは今後に向けて大きいんじゃないかなと。
インサイドハーフの人選というのは結構な余地がありそうですし、トップ下に手詰まり感のあった現状、是非とも新たな武器として磨いていって欲しいと思います。
そして個人に目を向けると、イブラの復帰というのももちろん大きい。殊に攻めあぐねる試合において、イブラの創造性やゴール前でのフィジカルが活きるといった状況は今後必ずあるはずですから、来るべきときに備えコンディションを上げていってもらいたいです。
一方、懸念材料としてはジルーの負傷交代が挙げられます。
ゴールというストライカーとしての本分を果たすだけでなく、先述の通り献身的に守備をこなせるジルーは現状替えの利かない存在ですし、イブラが復帰しようとも後者の面でジルーの重要性は揺るがないでしょう。
不幸中の幸いにも怪我は軽いといった報道があるので、それを信じたいと思います。
さて。次節はエンポリ戦です。
この試合で攻守に素晴らしい働きを見せたテオが累積警告により欠場するという懸念材料こそありますが、今節で得た貴重な勝ち点3の価値を落とさないよう確実に勝利を収めて欲しいと思います。
Forza Milan!
最後まで読んでいただきありがとうございました。