【勝利をもたらす個の力】 ミラン対サンプドリア 【2021-22シーズン・セリエA第25節】
スタメン

基本システム:ミラン「4-2-3-1」、サンプドリア「4-4-1-1」
今回はミランの攻撃と、それに対するサンプドリアの好守に焦点を絞って見ていきたいと思います。
サンプドリアがプレス主体の守備を行い、それに対してミランがどうプレスを躱して速攻に持ち込むかというのがポイントの1つでしたが、これは数日前のラツィオ戦と同様です。
しかしながら、このサンプドリア戦(の特に前半)において、ミランはラツィオ戦のようにプレスを何度も綺麗に外して速攻という形を作ることができませんでした。
具体的に見ていきましょう。
まず、サンプドリアの守備時の基本陣形は「5-3-2」です。右サイドのコンティが早い段階で最終ラインに加わり5バックを形成し、中盤をトルスビー、リンコン、カンドレーヴァの3枚で構成。この3枚は全体的にやや左寄りに位置します。そしてセンシ、カプートで2トップを作る、と。

――サンプドリアの陣形
この陣形は初期位置の時点ではミラン左SBのフロレンツィを浮かせることが多く、彼に対しては状況に応じてカンドレーヴァ、コンティがスライドして対応していきます。
サンプドリアとしては、このフロレンツィを狙い所の1つとしてしたように見受けられました。
というのもミラン左SBの絶対的レギュラーであるテオが累積警告により出場停止を余儀なくされ、その代役として務め得るのはカラブリアであれフロレンツィであれカルルであれ、みな本職でない選手たちです。当然サンプドリアはそのことをリサーチ済みでしょうから、不慣れな位置に入った彼らのうち誰か(実際にはフロレンツィ)をビルドアップの弱所とみなしていたのではないかと。
事実、フロレンツィはあまり左足を使えず、ビルドアップの際には左SBとしてぎこちない動作を余儀なくされています(左足でトラップしないため、体の方向が多くの場合縦ではなく中央を向くなど)。それでも何度か右足で縦パスを入れるなど出来ることをしていましたし、致命的なミスこそありませんでしたが、全体を通してのビルドアップの貢献にはやはり限界があったかなと。

――参考1:この試合におけるミランの各ゾーンでのタッチ数について(『セリエA公式』より)。ディフェンシブサード(青のエリア)においてはおそらくフロレンツィ起用の影響もあり、左よりも右サイドでのボールタッチが目立った
○ミランの右サイド
それでは、ミランの右サイドからの組み立てはどうか。
先に少し言及したように、サンプドリアの可変時の都合もあり、中盤はややミラン側右サイドに寄った形が多くなります。そのため同サイドでの守備時はコンパクトな陣形を維持し易いというのがありました。
それでもミランとしては、ボランチの動きで相手の中盤の選手を釣り出し、空いた中央のスペースに入り込んでいるブラヒムやメシアスにボールを送り届けるといった形を見せますが、そこに対しサンプは最終ラインからの縦スライドを使うなどして対応。
例えばブラヒムがライン間でパスを引き出そうとした際には、CBコリーが積極的に前に出て潰すといった形でライン間の選択肢を制限しました。

――例えばこの場面。トナーリがサイドに流れてリンコンの注意を引き、この後ライン間のブラヒムがメシアスからパスを引き出す

――その後の場面。ボールを受けて前を向いたブラヒムに対し、コリーが前に出て対応。ボールをカットした
前回のラツィオはミランの思い通りに陣形を動かされ、空いたスペースを使われ速攻を食らいまくったわけですが、その原因としては最終ラインの消極的な振る舞いが挙げられます。一方で、サンプは上図のように最終ラインから飛び出してくる、と。
またこの点に関しては、サンプが5バックへ可変したというのも大きかったかなと。基本的な話ですが、後ろが4枚より5枚の方が縦スライドは戦術的にも心理的にも容易になりますし、おそらくサンプドリアはそのためにもコンティを下げる形を採ったのでしょう。
こうしたサンプドリアの守備に対して特に割を食ったのがブラヒムです。先日のラツィオ戦ではライン間で水を得た魚のようだった彼ですが、今回は上記のため大体において沈黙、と。
もちろん連戦に因る疲労も不振の原因の一つとしてあったでしょうが、まだまだチーム戦術に活かされてなんぼの選手だという印象は拭えません(独力で打開する力がレオンやテオほどないなぁと)。
○決定的な先制点
上記のように全体的にサンプの守備に苦戦したミランでしたが、得点については7分という早い時間帯に生まれています。
メニャンの前線へのロングフィードに抜け出したレオンがボールを拾い、そのままゴール前へとボールを運んでシュートし先制点を獲得しました。

――メニャンからレオンへとロングボールが送られる場面
このシーンにおいて、コンティがフロレンツィや(おそらく)ブラヒムへのパスを警戒してやや高い位置を取っており、それによりギャップの生じたWB(コンティ)-CB(ベレシンスキ)間をレオンが突いたという戦術的な見方もできますが、これに関しては何よりもメニャンの素晴らしいパス精度・範囲・判断とレオンの突破力という「圧倒的な個の力」の組み合わせが作り出したゴールといって差し支えないものでしょう。ミランにおいては、彼ら2人のコンビでしか成し得ない類のゴールです。
(ゴール映像)
上述のようにサンプドリアが守備を重視した戦術を採る中でこのゴールがもたらしたものは非常に大きく、結果的にミランにとってはサンプドリアの出鼻を挫き勝利をもたらす1点となりました。
ミラン1-0サンプドリア
雑感
前半は攻めあぐねる時間帯が長く、また後半になってチャンスこそ増えたものの決定機をモノにできないというもどかしい試合展開が続きましたが、試合序盤の先制点により何とか勝利を収めたミラン。
中2~3日、それもランチタイムキックオフという厳しい状況での試合だっただけに、勝利という結果を得られたことは本当に良かったと思います。
それに、今回は割愛しましたが守備に関しては十分なパフォーマンスを披露し、サンプドリアにほとんどシュートチャンスを作らせることなくクリーンシートで終えることに成功。中でもベナセル、トナーリのボランチコンビが卓越したパフォーマンスを見せ、中盤で相手にリズムを作らせなかったというのが好守の要因の1つではないかなと。是非ともこの調子を維持して欲しいですね。
さて。今節の結果を受けてミランは暫定ながら首位に浮上しています。
まだまだシーズンは続きますが、一旦は離れかけた首位の座に(暫定とはいえ)返り咲けたというのは非常に嬉しいですし、改めて現チームの強みというものを感じています。
ここからライバルクラブの多くは欧州カップ戦に挑みますが、ミランにはありません。この日程的なアドバンテージを存分に活かし、安定したパフォーマンスで勝ち点を積み重ね続けてもらいたいと思います。
Forza Milan!
最後まで読んでいただきありがとうございました。