【感動的なミラノダービー】 インテル対ミラン 【2021-22シーズン・セリエA第24節】
スタメン

基本システム:インテル「3-5-2」、ミラン「4-2-3-1」
○インテルの支配~攻撃~
まずはインテルの攻撃と、ミランの守備についてです。
ミランはハイプレス主体でインテルのビルドアップを妨害しにかかりますが、大体においてインテルのパス回しにより躱され、チャンスを作り出されていきます。
インテルの狙いとしてはインサイドハーフの動きでミランボランチを釣り出し、それにより空いた中盤のスペースに2トップの一角(主にジェコ)が侵入してボールを引き出すというものだったかなと。
具体的に。インテルは右を起点に組み立てる傾向がありましたが、そんな右サイドにおいてポイントになったのがバレッラとジェコでした。
バレッラはビルドアップ時に主に右サイドに下がってボールを引き出し、対面のトナーリを前へと釣り出します。そして、その背後のスペースには主にジェコが侵入し、プレスを突破していくというのが一つの形です。

――例えばこの場面。右サイドに下りてボールを持つバレッラと、そこに対応するトナーリ。その背後のスペースでジェコがパスを引き出しにかかり、相方のラウタロはミランCBを牽制
そこから先はダンフリースの走力を活かして右サイドで素早く攻め込んでいく形を取ったり、左サイドに展開してペリシッチを活かしたりと、主に両WBを上手く絡めながら崩しを図りました。

――その後の場面。ジェコがワンタッチで右サイドの裏のスペースにパス。ダンフリースの走力を活かして突破を図った
もう一つ、ビルドアップVSハイプレスの構図において厄介だったのがサイドチェンジです。
デ・フライを始め後方+中盤のインテル選手たちは飛ばすパスを出せるという事で、ミランのサイドハーフが相手CBに対応した際にサイドのスペースを突かれるなどしてプレスを空転させられる場面というのが散見。リバプール戦でも同様のことをやられた記憶がありますが、選手の質が高い相手だとピッチをワイドに使われ易いため、コンパクトな守備が上手くいかない場面が目立ちますね。

――例えばこの場面。シュクリニアルから左サイドに流れていたジェコに正確なロングパスが通る
ミランとしては守備・トランジション重視で臨んだだけにハイプレスが中々ハマらなかったのは痛恨ですし、そのため前半はひたすらインテルに主導権を握られ続け、38分にはセットプレーからペリシッチに先制ゴールを許すという結果に繋がりました。
○ミランの拙攻
続いてミランの攻撃と、インテルの守備についてです。
堅固なインテルの守備に対し、そのまま同サイドを攻めこむのは難しい。そこでミランとしては如何にしてレオン&テオの左サイドを活かすかという所で、一つの狙いとして見られたのは「右サイドから組み立てて左サイドに展開していく」というものです。
ベナセルの下がる動きやカラブリアの内に絞る動き、またカルルの積極的な前進などを組み合わせて右サイドからボールを運びインテル守備陣を同サイドに引き付けつつ、逆サイドではテオが早い段階でインサイドに絞って右からの展開の受け皿となる形です。
こうした形が上手くいけば、左サイドでテオの縦パスやドリブルを起点とする崩しや敵陣深くでのレオンの仕掛けが期待されたわけですが、全体としてほとんど上手くいかず。その理由としては、右サイドからの展開の段階でのミスが1つ挙げられます。

――例えばこの場面。右サイドでボールを回し、サレマから中央のベナセルにボールを展開しようとするミラン。同時にテオも展開に備えてスタンバイ。しかし、そのパスにジェコが鋭く反応する

――その後の場面。ジェコのカット(赤)によりボールはインテルが回収。この後、カウンターからダンフリースが決定機を迎えた
インテル2トップ+3MFの守備が良かったこともあり、ミランは左へと展開する際の中継地点となる中央でのミスが目立ってしまった、と。結果として左サイド(レオン)へ良い形でボールが入ることはほとんどなく、また中央でのロストのため相手の危険なカウンターを幾度か食らうハメに。攻守においてマイナスに働く結果となりました。
○トップ下の誤算
さて。続いては選手個々のパフォーマンスに言及していきますが、この点に関してまず特筆したいのがケシエです。
彼のトップ下起用理由が主に守備面(とそこからのトランジション)にあったのは明白ですが、結果として全くと言っていいほど機能しませんでした。
彼はまずブロゾビッチをマークする仕事を担いましたが、インテルは先述の通り2トップに縦パスを入れたりサイドチェンジしたりでプレスを空転させる術を持っており、最終ラインやバレッラから前にパスを入れられるため問題なくボールが回るという状況。そしてブロゾビッチはプレッシャーにより前を向けずとも彼らにテンポ良くパスを送ることで、ビルドアップに貢献していきます。
しかもケシエは強度の面でも物足りず、ブロゾビッチのテクニックに翻弄されひらりひらりと躱される始末。シーズン前半のインテル戦で同様の役割を担ったクルニッチの方がよっぽど頑張っていましたし、これでは何のために起用したかわかりません。
そしてケシエの攻撃面。こちらも案の定というべきか機能しません。
エンポリ戦で彼がトップ下として結果を残せたのは、エンポリがブロック守備時に「4-3-1-2」を採用してサイドにスペースを残したことでミランのサイド攻撃が機能したことと、相手のバイタル付近がガラガラのためケシエのダイナミズム(飛び出し)が活きたからです。
しかしこの試合(前半)は先述の通りサイド攻撃が機能せず。そのため中央でボールを受けさせようにも、ケシエにライン間で受けるセンスはないですから有効にボールを引き出すシーンはほとんどありません。

――例えばこの場面。ベナセルからパスを受けるケシエ

――その後の場面。狭いサイドのスペースに不正確なパスを送り、あわやチームのボールロストに
また崩しの局面においても、インテルはバイタル付近にしっかりと質と量(人数)が揃っているため固いですし、ケシエのダイナミズムが活きるシーンは皆無といっていいものがありました。

――例えばこの場面。ベナセルからテオへとボールが展開される

――テオが前方のケシエにパス。ケシエは動かずにポストプレーを選択

――最終的に囲まれ(赤)、ボールロストした(※オフサイドだったため事なきを得る)
ケシエ大好き監督であるピオリが58分という早い時間帯でケシエを交代させたことが物語るように、この起用法はハッキリ言って失敗でしょう。とは言え、ブラヒムを先発で使いたくない(スーパーサブとして使いたい)意図は分かりますし、例えクルニッチを先発起用しても試合の大勢には影響しなかったでしょうから致し方ない側面はありました(それだけに、トップ下を十分に務められる選手を1人補強すべきだったとつくづく思いますが)。
○ブラヒム投入と後半の反撃
さて。そんなケシエに代わって58分からトップ下に入ったのがブラヒムです。
前任者と違いライン間でしっかりとボールを受けられる彼が入ったことで、ミランは中央からの崩しの形を作り出していくようになります。
確かにブラヒム個人でDF陣を崩し切るには至らないものの、アジリティとターン技術を活かして積極的に前を向き、ドリブルで仕掛けることで攻撃を活性化。それにより敵陣深くへ段々とボールを運べるようになり、仮にボールを奪われてもそこからチームとしての素早いネガティブトランジションを行うことで、高い位置でのボール回収はし易くなります。

――例えばこの場面。メシアスからボールを受けるブラヒム。このあと敵に囲まれるも、何とか前方にボールを前進させる

――その後の場面。この位置でボールを失うも、メシアス(※後半からサレマと交代で出場)と共にすぐさまカウンタープレス
上記の流れから最終的にミランがボール奪取に成功し、カウンターからジルーが相手ゴールに押し込んでミランが同点に追いつきました。
また、後半になり徐々にインテルがペースを落としたことや、更にブラヒムが入り中央でボールを引き出せることでミランはポゼッションも安定します。

――例えばこの場面。ブラヒムはライン間に潜り、トナーリからの正確なパスを正確に受ける。この後すぐにサイドのテオにパスしたが、これによりインテルの守備陣を押し下げることに成功
こうしてインテルを押し込むことで、中央経由のボール展開で「相手3MFの横のスペース」という当初からミランの狙い所としていたであろう部分を突き易くなる、と。
すると78分には正に狙い通りの形で崩し、ジルーのビューティフルゴールが生まれました。

――2点目のシーンについて。テオからベナセルへとパスが渡る際に、ブラヒムはカラブリアの存在とスペースを認識する

――その後の場面。ベナセルからボールを受けたブラヒムが、バレッラの横のスペースに入り込んだカラブリアにボールを展開

――その後の場面。ボールを受けたカラブリアに対してはCBバストーニが前に出てカバー。しかしそれにより生じた背後のスペースにジルーが走り込み、カラブリアからスルーパスを引き出す

――その後の場面。ジルーは見事な反転からシュートコースを作り出し、ネットに流し込んだ
ブラヒムの投入により状況を大きく変え、逆転まで繋げたミラン。ケシエがアレだっただけに始めからブラヒムでも良かったんじゃないかという意見もありますが、個人的にはこのゲームプランで良かったと思います。
もちろんブラヒムのコンディションが不調時と比べて上がっているのは間違いないわけですが、この試合で披露したキレのある突破を前半から見せられたかというと疑問符が付きます。というのもインテルのプレス強度は前半の方が明らかに高かったですし、後半からのプレーよりもフィジカル的に苦戦したであろうことは想像に難くありません。
そのため、勝負所で流れを持ってくるためにブラヒムを温存した今回の戦略は理に適っていましたし、実際に結果も出たわけですから、ピオリ監督の見事なゲームマネジメントだったんじゃないかなと思います。
○この試合のMOM
さて。ターニングポイントは先述の通りブラヒム投入だと思うのですが、それでもやはりこの試合の主役はジルーであったと個人的には考えています。
彼は前後半を通じてチームのために守備に奔走。中でも1点目のシーンではサンチェスから強烈なプレスバックでボールを奪取し、その後すぐさま立ち上りエリア内に侵入してゴールを決める気迫のプレーを披露。
そして2点目は、彼のスペース認識能力が存分に発揮された見事なプレーでネットを揺らしてくれました。
また、先述のブラヒムの躍動にも彼が一枚噛んでいると個人的には考えています。
ジルーは攻撃時に(殊に崩しの局面にて)前線からあまり動かないタイプであるわけですが、これはブラヒムとの相性という観点からは決して悪くありません。
というのもジルーが前線で敵CBとマッチアップし、その手前でブラヒムがライン間(ないし手前)で広く動いてパスを引き出すというシンプルな役割分担により、ブラヒムにとってプレーし易い環境ができているんじゃないかと。

――参考1:この試合におけるジルーのヒートマップ(『セリエA公式』より。上が前半、下が後半)。主戦場としている場所が明確(赤)
これがイブラの場合、彼のプレーエリアは良くも悪くもやや広いため、ブラヒムの使いたいスペースに彼が下がってくるという事がままあります。その際にはブラヒムがイブラと役割を交換したりするわけですが、ブラヒムに最前線でのプレーはフィジカル的に厳しいわけで、そういうこともあり両者のプレースタイル的な相性が良くないというのが僕の考えです(去年末からずっと言ってることですが)。

――参考2:セリエA第13節、フィオレンティーナ戦におけるイブラのヒートマップ。ジルーと比べプレーエリアが広く、流動的(体力のある前半が顕著)
話を戻しますが、とにかくジルーのこの試合におけるパフォーマンス(ベテランとしての振る舞い含む)は素晴らしいものがあったと思いますし、是非ともこの調子を維持して欲しいと思います。シーズン後半戦のキーマンの1人ですね。
○守備陣の奮闘
最後に軽くにはなりますが、ダブルボランチを含む守備陣の奮闘にも触れておきたいと思います。
前半は明らかなインテルのゲームであったわけで、その時間帯に試合の大勢が決してしまう可能性は決して低くありませんでした。そんな中でメニャンを中心とする守備陣がギリギリのところで踏ん張り、辛うじて1失点に抑えられたというのは本当に大きかったなぁと。それがなければ後半の反撃もきっと無かったでしょうしね。
ロマニョーリは比較的早い時間帯にイエローを貰いながらも焦らず落ち着いたプレーを見せていましたし、カルルも見事なハイパフォーマンス。またメニャンは言わずもがなで、ダブルボランチのトナーリとベナセルも流石の機動力でした(特にトナーリ)。
さて。そんなわけで最終的なスコアは1-2。最後まで油断ならない展開でしたが、素晴らしい逆転勝利を収めました。
インテル1-2ミラン
雑感
雑感といっても少しだけです(今の感動を適切に表現できないので)。
率直に言って感動的な試合でしたし、これほど盛り上がる試合展開には中々巡り合えるものじゃありません。その意味でも、本当にチームに感謝したいです。
ですが、ここからのシーズン後半戦も様々なドラマが生まれると思いますので、その全てを目に焼き付けていきたいですね。
Forza Milan!
今回はかなり長くなりましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。