【縦のダイナミズム復活】 ヴェネツィア対ミラン 【2021-22シーズン・セリエA第21節】
今回はセリエA第21節、ヴェネツィア対ミランのマッチレビューを行いたいと思います。
スタメン

基本システム:ヴェネツィア「4-3-2-1」、ミラン「4-2-3-1」
スタメン

基本システム:ヴェネツィア「4-3-2-1」、ミラン「4-2-3-1」
○縦のダイナミズム
試合開始早々の2分。スルーパスに抜け出したレオンがエリア内でクロスを送り、それにイブラが合わせてミランが幸先良く先制点を奪いました。
昨年末から僕が強調していた「縦のダイナミズム」という言葉。横文字を覚えたばかりのおじさんばりに多用し、その不足を嘆いていたわけですが、レオン(とレビッチ)の戦線復帰と共にこの点に大きな改善が見られます。
――前節ローマ戦におけるレオンのプレー集(注目のゴールシーンは0:13から)
前節ローマ戦の3点目もそうですが、レオンの裏に抜け出すスピード、そして抜け出した後のフィジカル・スピード・テクニックというのは驚異的です。例えば同じようにクルニッチやブラヒム、サレマ等が裏に抜け出したとて、よほどピンポイントにボールを受けなければその後のプレーで引っかかることが多いわけですが、レオンはそのままゴールまで繋げられる個の力があると。
もちろん、レオンの縦へのダイナミズムはオンザボール時においても発揮されます(というより、現時点ではオンザボールの方が凄い)。アウトサイドレーンでボールを持ち、そこから前へとボールを運んでいける力は特筆すべきものがあり、これはミランの組み立て・崩しの両面において大きな貢献を果たしていました。
事実、レオンが戦線離脱した昨年末のミランはその力に頼ることができず、また対戦相手の対策(ライン間を縮小し、ブラヒム等アタッカーを窒息させる)もあり攻撃面で大層苦戦していたのは記憶に新しいところです。その際には一応メシアスが同様の役割を担ったわけですが、やはりレオンに比べればこの観点における力不足は否めませんでしたしね。
○ミランのサイド攻撃
さて。そんなわけでミランは主にレオンの個の力を活かして効率的にチャンスを作り出していきます。また、その際にはヴェネツィアの守備の構造的な弱所も突けていた印象です。
というのもヴェネツィアの守備は前線3枚でプレッシャーをかけ、中盤3枚もそれに連動する形が基本です。しかし中盤が3枚のため、状況によって彼らのスライドが間に合わず、サイドを十分に守り切れない場面というのがどうしても起こり易くなります。
ミランとしてはその部分を主にレオンやテオといったスピードスターが突くことで、チャンスを演出していきました。

――例えばこの場面。自陣でボールを奪ったミランが右から左サイドへボールを展開。その際、ヴェネツィアは守備陣形を整えようするがサイドのスペースが空いている。そのスペースを狙うテオへレオンがパスを送る

――その後の場面。テオが前方のスペースへドリブルを開始。そのまま一気にスピードに乗り、エリア前まで侵入していった
この他にも、以下のようにして中盤の相手選手を前に釣り出し、最終的にサイドでの1対1を作り出します。

――例えばこの場面。ヴェネツィアは前線3枚と両インサイドハーフ2枚が前からプレッシャーをかける。ここでメニャンはロングボールを選択

――その後の場面。イブラとブラヒムが中盤のスペース、アンカー(アンパドゥ)の両脇にポジショニングし、ロングボールの受け手となる。ここではイブラがロングボールをブラヒムへと落とす

――その後の場面。ボールを受けたブラヒムは、左サイドのレオンへと素早く展開

――その後の場面。周囲のサポートがなく、レオンとの1対1を余儀なくされるヴェネツィア右SB。この後レオンが縦へ突破し、クロスを供給した
一方、右サイドに関しては、フロレンツィがビルドアップの出口として機能するシーンが見られました。
例えば、後方からのビルドアップ時にはフロレンツィが少し高めの位置を取り、フロレンツィを除くDFライン3枚とGKメニャンでヴェネツィアの前線3枚を引き付けてから、フロレンツィにパスを供給。ヴェネツィアは前線3枚で対応できない選択肢にはMFやSBが対応するわけですが、ミランとしてはそれにより生じていくスペースを使っていく、と。

――例えばこの場面。テオ、ガッビア、カルル(画面外)とパスを繋ぎ、左から右へとボールを動かすミラン。ヴェネツィアは彼らに対し前線の3枚で対応

――その後の場面。カルルはフロレンツィへのパスを選択。そこには中盤からブシオが飛び出て対応

――その後の場面。ブシオのサイドへの対応により生じた背後のスペースに入るバカヨコ。そこへフロレンツィがパス

――その後の場面。バカヨコには左SBが前に出て対応するが、それにより生じた背後のスペースにイブラ侵入してパスを引き出し、最終的にチャンスを演出。ミランは連鎖的にスペースを作り出しながらボールを運んでいった
このようにして上手く速攻の機会を作り出していったミラン。相手が守備をしっかりとセットした状況ではミスもあり攻めあぐねるシーンもありましたが、最終的には個の力を活かしながら2得点を追加し、計3得点を挙げての完勝を収めました。
○従属的な守備
一方、ミランの守備についてはどうか。
この点について、注目はやはりスタメン復帰したイブラとレオンの守備貢献度でしたが、結論からいうと前節の同ポジション2人(ジルー、サレマ)と比べ貢献度が低く、プレスの機能性は落ちる結果となりました。

――例えばこの場面。ミランは前からプレッシャーを強めるも、GKにまでプレスがかからず。それによりフリーの右SB(青)へのパスコースが空いてしまい、あっさりと通されてしまった
復帰明けのイブラとレオンはコンディション的に十分でなく、プレス強度や継続性にかなり欠けるパフォーマンスに。そのため、ファーストディフェンスによるパスコースの制限が中々行えず、チームとして従属的な守備を余儀なくされてしまいます。
ただし、おそらくこういった状況は事前に織り込み済みだったように思われます。
というのも前節のミランは、ボランチの一角であるクルニッチを攻撃時に積極的に上がらせたわけですが、この試合ではトナーリとコンビを組んだボランチのバカヨコはボールの後ろでバランスを取る形が基本。このように後ろの枚数を確保することでトランジションに備え、守備の安定を重視していた印象です。
また、ヴェネツィアの決定力の低さから、ある程度押し込まれても守り切れるという目算があったのかなと。事実、ヴェネツィアはゴール前にてクロスやシュート精度の低さが目立ちましたし、被決定機というのは皆無に等しいものがありましたしね。
結局のところ、ミランは無失点に抑えることに成功しました。
ヴェネツィア0-3ミラン
雑感
シーズン後半戦早々に厳しい日程の中で試合を行いましたが、結果は完勝。2連勝スタートという事で、実に幸先の良いスタートを切ることができました。
試合を通しての感想としては、やはりキックオフ直後に先制点を奪えたというのが大きかったように感じます。あのゴールで精神的にも大きな差が生まれましたしね。
また、レオンとイブラがスタメン復帰し、後半にはレビッチも実戦復帰を果たしたことで、攻撃面の選択肢は再び豊富なものになろうとしています。3人ともコンディション的にはまだ上がり切っていないでしょうが、2週間後のユベントス戦までには出来る限り仕上げてもらいたいですね。
特にイブラ、レオンに関しては守備面でのパフォーマンスを上げてもらいたいところです。状態が上がれば、もっと守備面でも貢献できるはずですしね。
Forza Milan!
最後まで読んでいただきありがとうございました。
試合開始早々の2分。スルーパスに抜け出したレオンがエリア内でクロスを送り、それにイブラが合わせてミランが幸先良く先制点を奪いました。
昨年末から僕が強調していた「縦のダイナミズム」という言葉。横文字を覚えたばかりのおじさんばりに多用し、その不足を嘆いていたわけですが、レオン(とレビッチ)の戦線復帰と共にこの点に大きな改善が見られます。
Rafael Leao 25 mins cameo vs Roma pic.twitter.com/YKWLjU5RBD
— Hugo ✞ (@HugoFilmzi) January 6, 2022
――前節ローマ戦におけるレオンのプレー集(注目のゴールシーンは0:13から)
前節ローマ戦の3点目もそうですが、レオンの裏に抜け出すスピード、そして抜け出した後のフィジカル・スピード・テクニックというのは驚異的です。例えば同じようにクルニッチやブラヒム、サレマ等が裏に抜け出したとて、よほどピンポイントにボールを受けなければその後のプレーで引っかかることが多いわけですが、レオンはそのままゴールまで繋げられる個の力があると。
もちろん、レオンの縦へのダイナミズムはオンザボール時においても発揮されます(というより、現時点ではオンザボールの方が凄い)。アウトサイドレーンでボールを持ち、そこから前へとボールを運んでいける力は特筆すべきものがあり、これはミランの組み立て・崩しの両面において大きな貢献を果たしていました。
事実、レオンが戦線離脱した昨年末のミランはその力に頼ることができず、また対戦相手の対策(ライン間を縮小し、ブラヒム等アタッカーを窒息させる)もあり攻撃面で大層苦戦していたのは記憶に新しいところです。その際には一応メシアスが同様の役割を担ったわけですが、やはりレオンに比べればこの観点における力不足は否めませんでしたしね。
○ミランのサイド攻撃
さて。そんなわけでミランは主にレオンの個の力を活かして効率的にチャンスを作り出していきます。また、その際にはヴェネツィアの守備の構造的な弱所も突けていた印象です。
というのもヴェネツィアの守備は前線3枚でプレッシャーをかけ、中盤3枚もそれに連動する形が基本です。しかし中盤が3枚のため、状況によって彼らのスライドが間に合わず、サイドを十分に守り切れない場面というのがどうしても起こり易くなります。
ミランとしてはその部分を主にレオンやテオといったスピードスターが突くことで、チャンスを演出していきました。

――例えばこの場面。自陣でボールを奪ったミランが右から左サイドへボールを展開。その際、ヴェネツィアは守備陣形を整えようするがサイドのスペースが空いている。そのスペースを狙うテオへレオンがパスを送る

――その後の場面。テオが前方のスペースへドリブルを開始。そのまま一気にスピードに乗り、エリア前まで侵入していった
この他にも、以下のようにして中盤の相手選手を前に釣り出し、最終的にサイドでの1対1を作り出します。

――例えばこの場面。ヴェネツィアは前線3枚と両インサイドハーフ2枚が前からプレッシャーをかける。ここでメニャンはロングボールを選択

――その後の場面。イブラとブラヒムが中盤のスペース、アンカー(アンパドゥ)の両脇にポジショニングし、ロングボールの受け手となる。ここではイブラがロングボールをブラヒムへと落とす

――その後の場面。ボールを受けたブラヒムは、左サイドのレオンへと素早く展開

――その後の場面。周囲のサポートがなく、レオンとの1対1を余儀なくされるヴェネツィア右SB。この後レオンが縦へ突破し、クロスを供給した
一方、右サイドに関しては、フロレンツィがビルドアップの出口として機能するシーンが見られました。
例えば、後方からのビルドアップ時にはフロレンツィが少し高めの位置を取り、フロレンツィを除くDFライン3枚とGKメニャンでヴェネツィアの前線3枚を引き付けてから、フロレンツィにパスを供給。ヴェネツィアは前線3枚で対応できない選択肢にはMFやSBが対応するわけですが、ミランとしてはそれにより生じていくスペースを使っていく、と。

――例えばこの場面。テオ、ガッビア、カルル(画面外)とパスを繋ぎ、左から右へとボールを動かすミラン。ヴェネツィアは彼らに対し前線の3枚で対応

――その後の場面。カルルはフロレンツィへのパスを選択。そこには中盤からブシオが飛び出て対応

――その後の場面。ブシオのサイドへの対応により生じた背後のスペースに入るバカヨコ。そこへフロレンツィがパス

――その後の場面。バカヨコには左SBが前に出て対応するが、それにより生じた背後のスペースにイブラ侵入してパスを引き出し、最終的にチャンスを演出。ミランは連鎖的にスペースを作り出しながらボールを運んでいった
このようにして上手く速攻の機会を作り出していったミラン。相手が守備をしっかりとセットした状況ではミスもあり攻めあぐねるシーンもありましたが、最終的には個の力を活かしながら2得点を追加し、計3得点を挙げての完勝を収めました。
○従属的な守備
一方、ミランの守備についてはどうか。
この点について、注目はやはりスタメン復帰したイブラとレオンの守備貢献度でしたが、結論からいうと前節の同ポジション2人(ジルー、サレマ)と比べ貢献度が低く、プレスの機能性は落ちる結果となりました。

――例えばこの場面。ミランは前からプレッシャーを強めるも、GKにまでプレスがかからず。それによりフリーの右SB(青)へのパスコースが空いてしまい、あっさりと通されてしまった
復帰明けのイブラとレオンはコンディション的に十分でなく、プレス強度や継続性にかなり欠けるパフォーマンスに。そのため、ファーストディフェンスによるパスコースの制限が中々行えず、チームとして従属的な守備を余儀なくされてしまいます。
ただし、おそらくこういった状況は事前に織り込み済みだったように思われます。
というのも前節のミランは、ボランチの一角であるクルニッチを攻撃時に積極的に上がらせたわけですが、この試合ではトナーリとコンビを組んだボランチのバカヨコはボールの後ろでバランスを取る形が基本。このように後ろの枚数を確保することでトランジションに備え、守備の安定を重視していた印象です。
また、ヴェネツィアの決定力の低さから、ある程度押し込まれても守り切れるという目算があったのかなと。事実、ヴェネツィアはゴール前にてクロスやシュート精度の低さが目立ちましたし、被決定機というのは皆無に等しいものがありましたしね。
結局のところ、ミランは無失点に抑えることに成功しました。
ヴェネツィア0-3ミラン
雑感
シーズン後半戦早々に厳しい日程の中で試合を行いましたが、結果は完勝。2連勝スタートという事で、実に幸先の良いスタートを切ることができました。
試合を通しての感想としては、やはりキックオフ直後に先制点を奪えたというのが大きかったように感じます。あのゴールで精神的にも大きな差が生まれましたしね。
また、レオンとイブラがスタメン復帰し、後半にはレビッチも実戦復帰を果たしたことで、攻撃面の選択肢は再び豊富なものになろうとしています。3人ともコンディション的にはまだ上がり切っていないでしょうが、2週間後のユベントス戦までには出来る限り仕上げてもらいたいですね。
特にイブラ、レオンに関しては守備面でのパフォーマンスを上げてもらいたいところです。状態が上がれば、もっと守備面でも貢献できるはずですしね。
Forza Milan!
最後まで読んでいただきありがとうございました。