【名将のゲームマネジメント】アトレティコ対ミラン【2021-22シーズン・CL第5節】
スタメン

基本システム:アトレティコ「4-4-2」、ミラン「4-2-3-1」
まずはアトレティコの攻撃とミランの守備についてです。
アトレティコのベースフォーメーションは4-4-2ですが、攻撃時は両サイドのうちカラスコがそのまま左サイドに張るのが基本であるのに対し、右サイドハーフのデパウルは内に絞って同サイドのジョレンテがサイドを使う形。左右非対称の変則的な3バックの配置を取ります

更に、2トップの一角であるグリーズマンが積極的にライン間に顔を出す動きを見せます。
よって、このように中央に人数をかけるアトレティコに対し、ミランがどう守るかというのが1つの注目でした。
これについて、ポイントの1つといえたのがクルニッチの働きだったと思います。
クルニッチはハイプレス時には相手の右CBをマークする役割を持っていたわけですが、ボールが逆サイド(左サイド)に流れるなどすると、中盤に下がってスペースを埋めつつ、周囲にいるデパウルへのパスを警戒。これにより、ミランボランチの片方が相手ボランチのレマルへの対応のために前やサイドに出たとしても、中盤には穴ができにくくなり、アトレティコは対角線のデパウルへ展開して手薄なサイドを突くという形が作れなくなります。

――例えばこの場面。GKからエルモソ(赤22)にパスが渡り、ミランがそこへ連動してプレスをかけにいく。その際、相手右CBをマークしていたクルニッチは迅速に中盤に下がることで、ミランダブルボランチ(黒8、79)のスライドにより空いたスペースを埋める
それと合わせ、ミランDFラインがコンパクトな陣形を維持することでライン間のスペースを縮小。このようにしてアトレティコのエルモソを起点とする左からの組み立てをほぼ完全に封じ込めていきつつ、ボール奪取からショートカウンターのチャンスを数多く作り出していきました。

――例えばこの場面。陣形を縦横にコンパクトに保ち、左サイドで追い詰めるミラン。バックパスを受けたエルモソは逆サイドへの展開を試みるが、クルニッチとジルー(黒9)によりパスコースは切られている状態。そこにブラヒム(黒10)が素早くプレス

――その後の場面。展開を諦めたエルモソは同サイドで攻撃を続け、カラスコ(赤21)への縦パスを試みる。しかし、このコースを読んでいたカルルがインターセプトに成功し、ミランのショートカウンターへと繋がった
○CB-SB間
こうしたミランに対し、アトレティコは攻撃の起点として右SBのジョレンテを活用していきます。
クルニッチが内に絞って中盤のスペース(主に左ハーフスペース)を担当することで、フリーになり易い同サイドのジョレンテ。そのため、ジョレンテには主に左SBのテオが対応するわけですが、それによりミラン左SB-CB間周辺のスペースが空いてしまいます。
アトレティコはそこをデパウルが突くことで崩しを図っていく、というのが1つの有力な攻撃の形でした。
しかし、そうしたアトレティコの攻撃をミランはしっかりと対応。ケシエがそのスペースを埋めることで、デパウルに自由を許しません。

――例えばこの場面。サイドチェンジでボールを受けたジョレンテ(赤14)に対し、寄せに行くテオ(黒19)。ここでデパウル(赤5)が飛び出しジョレンテからパスを引き出すが、ケシエ(黒79)が付いていき自由にさせず。最終的にミランのスローインとなった
陣形が整っていない時や少しの連携ミスで当該スペースを突破されるときはありましたが(20分過ぎ辺りはちょっとヤバかった)、全体としては概ねこのようにして上手く守れていたのではないかと思います。
○ミランの組み立て
続いて、ミランの攻撃とアトレティコの守備についてです。
アトレティコは状況に応じてハイプレスを仕掛ける時もありましたが、基本は4―4のブロックを作って待ち構える形。それに対し、ミランは普段通りボランチが積極的に下がってCBと3バックを形成し、後方から組み立てていきます。
この点について、ポイントになったスペースが両サイドです。前節のフィオレンティーナ戦では相手が5~6バックになって守るなどしてサイドを封鎖してきましたが、アトレティコは4―4のラインを維持する形が基本でしたから、比較的サイドが空きやすい状況です。そのためミランは押し上げた両SB(テオ、カルル)等がそこで起点となり、アトレティコを押し込んでいく、と。

――例えばこの場面。ここでケアー(黒24)は左のテオ(黒19)へのサイドチェンジを選択
これに関連し、もう1つのポイントといえるのがトナーリを中心とする中央でのゲームメイクでした。
サイドを起点に押し込もうにも、単調なリズムやバレバレのタイミングでサイドに送れば迅速なスライド守備により容易に対応されますし、ともすればボールロスト・インターセプトから被カウンターのキッカケにもなってしまいます。
この点、ミランはCBとダブルボランチのケシエとトナーリが協同しながら安定したボールポゼッションを披露。特にトナーリはボールキープして上手くタメを作ったり、体の向きでフェイントをかけたりしながら相手の予測に反するプレーを繰り返しつつ、正確な長短のパスを操りチームのボール運びに大きく貢献。
チームのパス回しにおいてタイミングやリズムをコントロールするにはレジスタとしての能力が強く求められるわけですが、この点においてもトナーリは長足の進歩を遂げている印象です。
僕は開幕前~直後にトナーリを「万能型」の選手になりそうと表現しましたが、それどころか「超万能型」として今後のミランを支えてくれるかもしれません。
○崩しとネガトラの局面
サイドを起点にボールを運んだ後はクロスをメインにチャンスの創出を目論むミラン。特に右サイドは主にシンプルな形でクロスを入れていきます。
一方、左サイドではブラヒムやテオのドリブル突破やそれをサポートするクルニッチ、神出鬼没のサレマ等が中心となって相手の守備を多少なりともこじ開け、チャンスを演出しました。

――参考1:この試合におけるミランのヒートマップ。両サイド、特に左サイドでのポゼッションが目立った
結局のところゴール前でのアトレティコの人数をかけた堅守に阻まれ、決定機となるシュートチャンスには中々至らなかったわけですが、組み立て~崩しに至る安定したポゼッションにより相手を押し込むことには成功。そのため、ネガティブトランジション時においても安定したパフォーマンスを披露し、アトレティコにカウンターのチャンスをあまり作らせませんでした。

――ミランが左サイドで人数をかけて攻め込むが、ボールロスト。アトレティコは前方のスアレス(赤9)にボールを預けカウンターを始めようとするが、準備のできているミランがすぐにボールを回収した
そして後半。65分からイブラ、メシアス等を投入して攻勢を強めたミランは87分、メシアスがヘディングでネットを揺らして待望の先制点を獲得。
先述の攻撃によりアトレティコを疲弊させた結果、後半中盤以降になって相手の体力や集中力が低下した側面はあると思いますし、その時間帯から交代枠を使って攻勢を強めたミランの正に狙い通りの展開だったといえるのではないかと。
試合はそのまま終了。0-1でミランが勝利を収めました。
アトレティコ0-1ミラン
雑感
CLで4戦勝ちなしという絶体絶命の状況で迎えた第5戦。アトレティコの敵地にて、内容の伴った見事な勝利で勝ち点3を獲得しました。
この試合に関していうと、何よりもピオリ監督による90分を通したゲームマネジメントが奏功した結果なのではないかと思います。
まずはレオンを起用できないという状況において、クルニッチを同ポジションにて起用したこと。もちろんクルニッチにレオンのようなドリブルでの突破力や推進力はないわけですが、その一方で守備時の献身性や走力、中盤のスペースを埋める感覚というレオンにはないものを持っています。そこで、クルニッチを先のトピックにて言及したタスクを担わせることで、守備の安定性を大きく向上させました。
そうして前半~後半途中までの時点で相手に得点を許さず、それ以降の出足が鈍る時間帯でイブラ、メシアス等の攻撃的なカードを切って1点をもぎ取り勝利、と。
怪我人が多く十分な選択肢が無い中での試合ではありましたが、このようにして見事なゲームマネジメントで乗り切ったピオリ監督は称賛されて然るべきですし、無事に彼との契約延長がなされたことを本当に嬉しく思います。
さて。この試合の結果によりミランは3位に浮上しており、最終節のリバプール戦に勝利すれば2位でのGL突破も見えてきました(その裏のポルト対アトレティコの結果次第)。
正直僕は今季のCLを半ば諦めていたわけですが、こうなった以上は意地でもリバプールに勝利を収め、そして大逆転突破を成し遂げてもらいたいと思います。
Forza Milan!
最後まで読んでいただきありがとうございました。