【価値ある1勝】 ミラン対トリノ 【2021-22シーズン・セリエA第10節】
スタメン

基本システム:ミラン「4-2-3-1」、トリノ「3-4-2-1」
始めに、この試合における両チームの得点期待値(xG)を見てみましょう。

ミランのxGが「1.12」なのに対し、ヴェローナが「0.49」。
これを基に考えると、ミランからすれば「得点機に繋がるような良い攻撃はあまりできなかったが、一方で安定した守備により相手にチャンスを作らせなかった」といえますし、これは実際に試合を観た上での個人的見解にもなじみます。
では、ミランの攻守に関し以下で具体的に見ていきましょう。
○ミランの攻撃
まずはミランの攻撃についてですが、ミランは中盤で中々ボールを持つことができず、安定したビルドアップを行うことができませんでした。
その原因としてまず1つ挙げられるのが、トリノの守備です。

――トリノの守備陣形
以前に対戦したヴェローナと同様、トリノは守備時に陣形を変えてミランの陣形と噛み合わせ、後方からのビルドアップを妨害していきます。

――その後の場面。カラブリアが中に侵入してタタルシャヌからパスを引き出すも、アイナがここまで付いてきて自由にさせず
ほぼマンツーマンで対応されたミランはヴェローナ戦と同様に①前線へのロングボールを起点とした速攻ないしポゼッションや、②ドリブルによる打開を試みるわけですが、これらが上手くいきません。
①に関しては、主なロングボールのターゲットとなるジルーやレオンがブレーメルを中心とする相手守備陣に大いに苦戦を強いられたこと、更に前線の選手たちの細かいミスが目立ったことでボールを中々保持できなかったというのが考えられます。

――参考1:この試合における守備時の空中戦数ランキング。ブレーメルが1位となる「9回」を記録

――参考2:この試合におけるインターセプト数ランキング。ブレーメルが1位となる「7回」を記録
②に関しても、ドリブルで局面を打開できるブラヒムとテオの不在(テオは後半から登場)ですとか、ヴェローナ戦ではこの観点からキープレーヤーとなっていたレオンがこの試合では疲労困憊していたこと等により、中々上手くいきませんでした。
そもそもミランはヴェローナ戦もかなり苦戦していたわけですが、その時と似た相手のセットアップに対しこちらは当時よりも更に分の悪い状況(レオンの疲労蓄積や、不慣れなカルル左SB起用etc.)でしたから、この試合における苦戦はある意味必然だったといえそうです。
○トナーリのパフォーマンス
さて。続いてミランの守備についてです。
最初に言及した通り、トリノに大したチャンスを作らせることのなかったミラン。その要因の1つとして、まずはトナーリのパフォーマンスを挙げたいと思います。

――例えばこの場面。シンゴがボールを受けた際、前に出て対応するカルル。シンゴは前方のリネティにパス
おそらくトリノは攻め所の1つとして、不慣れな左SBというポジションを務めたカルル周辺のスペースを想定していたはずです。
例えば上記のようにカルルが前に出てきた場合にはその裏のスペースを狙い、そこで起点を作りたいトリノ。しかし、主にそのスペースを狙うリネティに対してミランはトナーリが的確に対応することで、そうした攻撃を大体において封じ込めていきました。

――カルルの背後のスペースでボールを受けたリネティにはトナーリがしっかりマークに付く
また、トナーリのカバーリング範囲は広く、時には逆サイドにも及びました。

――例えばこの場面。左サイドでボールを受けたポベガへの対応のためケシエが前に出る。その背後のスペースでボールを引き出したブレカロにはトナーリが対応

――その後の場面。ブレカロがドリブル突破を目論むが、トナーリが止めてマイボールにした(赤)
そして、13分にはトナーリのCKからジルーが決めてミランが先制点をゲット。
このほかにもトナーリは積極的なドリブルで局面を打開しようとするなど、相変わらずの好パフォーマンスを発揮してくれました。
○ジルーの献身性
続いて、ミランの守備安定の更なる要因としては、ジルーの献身性が挙げられます。
前節のボローニャ戦で1トップとして出場したイブラは守備貢献度が低く、そのため2列目や中盤の選手が積極的にそのカバーを行った結果、相手にスペースを与えてしまうリスクが増大していました。
一方、この試合のジルーはレビッチほどではないにしろ、継続的なプレスやカバーリング・プレスバックなど献身的な守備を実行。それにより相手にとって有効なスペース・選択肢を消すことに貢献してくれました。

――例えばこの場面。レオンがトップに移動し、攻守が入れ替わった際、代わりにジルーが一時的にサイドハーフとしての守備を担当する
また、トリノはこの試合でポベガとルキッチのダブルボランチを中心にミランのプレスを躱しつつ、逆サイドへの展開も積極的に行うことでミランの守備に揺さぶりをかけてきましたが、そうした際にジルーが中盤をサポートします。

――右から左サイドへとボールを展開し、パスを回すトリノ。ここでジルーは下がり、中央のルキッチのマークに付く

――その後の場面。アイナへとパスが渡ったところで、ジルーが中央へのパスコースを切りながらプレス。相手にバックパスを強いた
トリノの積極的な前線への飛び出しや先述のサイドチェンジによりミランは押し込まれる時間帯が少なくなかったものの、前線(ジルー)がプレスバックして自陣での守備に参加してくれることで失点のリスクを減らせますね。

――例えば後半のこの場面。ミランが押し返そうとするも、ルキッチにボールを預け攻撃を続行しようとするトリノ

――その後の場面。パスを受けたルキッチをジルーがプレスバックで止めた
おそらくミランとしては体力的な問題もあり、この試合(の特に後半)にある程度押し込まれる展開になることは織り込み済みだったのではないかと。そこでトリノの捕まえづらい攻撃に対してラインを下げて対応しつつ、全員で粘り強く対応していくことでシュートチャンス(決定機)を作らせないようした、と。
後半途中からはバカヨコ投入という恒例の「守備緩め」を行い、実際に彼のところから2・3度ピンチを招いたミランでしたが、タタルシャヌの好セーブもあり事なきを得て無失点。無事に勝利を収めました。
ミラン1-0トリノ
雑感
非常にタフな試合でしたが、ミランは勝ち点3を積むことに成功。
長いシーズンの中にはこういった試合も往々にしてあるわけですが、そこで勝ち切れるかどうかでシーズン終了後の順位は大きく変わり得ます。その意味で、この勝利は通常よりも高い価値があったといえそうです。
また、その点に関してもう一つ言わせてもらうと、セットプレーから得点を奪えたというのもこの試合の個人的な満足ポイントです。
やはり、流れの中からの攻撃が上手くいかないときに頼りにしたいのはセットプレーであって、それを得点源の1つにできればより安定した結果が得られやすくなります。
そして、今のミランには優秀なキッカー(トナーリ)やフィニッシャー(ジルー等)がいるだけに、今後もセットプレーによる得点は期待していきたいですね。
さて。来週のミランはローマ、ポルト、インテル相手の3連戦という事で、一息つく暇もなく厳しい日程が続きます。
一方、今節にはテオが復帰し、次節以降にはブラヒムやレビッチといった主力の復帰が期待されています。彼らの復帰でブーストをかけ、引き続き勝利を積み重ねていって欲しいと思います。
Forza Milan!
最後まで読んでいただきありがとうございました。