【イブラ起用の光と影】 ボローニャ対ミラン 【2021-22シーズン・セリエA第9節】
スタメン

基本システム:ボローニャ「3-4-2-1」、ミラン「4-2-3-1」
この試合のポイントの一つとして挙げられるのは、やはり前半20分に起きたボローニャCBスマオロの退場でしょう。
16分に被カウンターから先制点を奪われはしたものの、ボローニャは守備時5-3-2の形を基本にコンパクトなブロックを形成し、敵陣深くに侵入を目論むミランに対してタイトな守備を行っていました。

――試合序盤、ボローニャの基本的な陣形。サイドでボールを持つミランに対してはWBとインサイドハーフが主に対応
しかし、CBの退場を機にボローニャは最終ラインの枚数が減り、4-3-2の形に。これによりサイドでのタイトなチェックが難しくなり、ミランにボールを運ばれやすくなる、と。
また、ミランにとってはこれによりSBがボールを持ちやすくなったことで、特にバロトゥーレが積極的な攻め上がりからチャンスに絡みました。

――退場後のボローニャの守備陣形。ここではトナーリからバロトゥーレにパスが通り、スペースのあるサイドからボールを運ぶ
サイドを起点に押し込まれるボローニャ、しかも1人少ない状況のため、前線の選手たちの戻りが間に合わなければクリアボールの回収やバイタルエリアのケアは困難になります。
すると35分。クリアボールのこぼれ球に詰めたカラブリアが強烈なシュートをネットに突き刺し、ミランが2点目をゲットしました。

――こぼれ球に反応し、この後シュートを突き刺すカラブリア。押し込まれたボローニャ守備陣は対応し切れず
ミランとしては11対10というアドバンテージを活かし、見事に追加点をゲットした形ですね。
○プレスの機能性
この試合のもう一つの注目ポイント、それはイブラヒモビッチが及ぼすチームへの影響でした。
今シーズン初のスタメンとなったイブラがどのようなパフォーマンスを見せるか、その点は試合開始から非常に気になるところでありましたが、結論からいうと良い面と悪い面がハッキリと見られた印象です。
まずはマイナス面から見ていきますと、それは守備の強度不足による「チームのプレスの機能性低下」です。

――例えばこの場面。右CBスマオロがボールを持つ
上図はミランを押し込んだものの攻めあぐねたボローニャが、いったん右CBスマオロにボールを戻したシーンです。
3バックでパスを回すボローニャに対し、イブラ(CF)の基本的な役割はメデル(中央CB)のマークとなります。そのためここでもメデルをマークし、中央CB経由の作り直しを防いでいます。しかし…

――その後の場面。スマオロが下がってきたソリアーノとパス交換
もし1トップに起用されたのがレビッチであれば、相手がこのように一呼吸置いたタイミングでスマオロに対し中央からプレスをかけることが考えられます
仮にそうなった場合、相手としては中央への展開は難しくなるためそのまま同サイドの狭いスペースで攻撃を続けるか、バックパスにより自陣までボールを戻すというのが無難な選択となります。
そして、前者であればミランの求めるコンパクトな守備を維持できるため良し、後者であっても相手のバックパスを機に一気に最終ラインを上げ、チーム全体を押し上げることができる、と
では、上記のシーンでは実際にどうなったかというと…

――近くのドミンゲスがスマオロからパスを貰い。フリーで中央へボールを動かす。この間、イブラはメデル(画面外)へのパスコースを遮断する動きに止める。そのため、相手左CB(テアトル)へのパスコースが空き、ドミンゲスはそこにパスを通した
こうなるとミランとしては十分にラインを押し上げられませんし、スライド移動による一定の負担(特にボランチ、トップ下)を余儀なくされます。
確かに、イブラは最低限の守備(パスコース切りや、非連続的ながらも一定のプレス)を行っていますし、このシーンを含め決して致命的な穴になっているわけではありませんが、これまでアタランタ戦やラツィオ戦などで見せたようなコンパクトかつ強度の高い非常に機能的なプレスをチームとして行う上ではやはり不十分です。
また、こうしたイブラの守備範囲の狭さをカバーするのは主にトップ下(クルニッチ)の仕事となり、この試合では状況に応じて相手左CBへのプレス・マークを担当したわけですが、そうなった場合に中盤が手薄になるリスクが生まれます。

――例えばこの場面。バロウに縦パスが渡った際、カラブリアとベナセルの2人で挟みに行く(赤)。ここでクルニッチは左CB(テアトル)を警戒する位置を取るが、その分ボランチ(スバンベリ)へのマークが緩くなる

――その後の場面。ルーズボールをヒッキーが拾い、スバンベリにパス

――スバンベリがフリーで前を向き、エリア内にロングパスを送った
ここでは前方へのロングパスで直接チャンスを作ろうとしてきましたが、右サイドでフリーのシルベストリに展開されていればまた違った形でピンチになっていたかもしれません。
更に、そうしたトップ下の動きに連動して時にはボランチも前に出ていくわけですが、そうなるとライン間が空きやすくなります。

――例えばこの場面。右サイドでボールを持つソリアーノ。ここでクルニッチは守備に戻り切れていないイブラに代わり、CBへのパスを警戒し前に出る。それに応じ、ベナセルが相手ボランチ(スバンベリ)をマークしに前に出る。一方、ソリアーノはスバンベリにパス

――その後の場面。ベナセルがスバンベリに対応するが躱されてしまう(赤)

――こうして速攻のチャンスを作り出した
前半こそ2-0と無失点で折り返すことに成功したミランでしたが、後半になっても守備は改善されず。49分にはCKからイブラのオウンゴールで失点するわけですが、このCKに至る場面においても上記と同様の問題を露呈してしまいます。

――当該シーンについて。クルニッチがテアトルにプレス。同時にバカヨコ(※後半からトナーリに代わって投入)がソリアーノを牽制しに前に出るが、これによりバロウへの縦パスのコースを空けてしまう。状況的に前に出るべきだったかは疑問

――その後の場面。テアトルからバロウに縦パスが入り、バロウがワンタッチでサイドに展開。これによりCKを獲得した
バカヨコのように状況判断能力の高くない選手が入ったことで、結果としてますます守備が緩くなった印象のミラン。すると数分後、またしても前線守備がハマらずに突破を許し、最後はバロウにシュートを決められ同点に追いつかれてしまいました。
このように、ボローニャ退場後もミランは不安定な守備を露呈。もちろん連戦による疲労や、圧倒的なアドバンテージを得た事による油断もあったでしょうが、いずれにせよ上記のようなプレスの機能不全がその要因の1つとしてあったのは確かだと思います。
○イブラ起用のメリット
さて。ネガティブな話が続いたため、今度はポジティブな話に移りましょう。
この試合のイブラは先のように守備貢献度が低く、またコンディションが上がっていないためかボールロスト・パスミスも目立ちましたが、結果的には1ゴール1アシスト。
フォワードに一番に求められる仕事が「チームの得点に関与すること」と考えれば、この結果は高く評価されて然るべきでしょう。

――ミラン1点目のシーンについて。バロトゥーレが相手の軽率なパスをカットし、ミランがカウンターに移行。その間、イブラは素早く周囲の状況を読み取り、突くべき裏のスペースとレオンの存在を認識

――その後の場面。バロトゥーレからパスを受けたイブラは裏のスペースに正確なスルーパスを通す。この後、パスを受けたレオンはそのままエリア内に持ち運んでシュートを放ち、ネットを揺らした
イブラのインテリジェンスは今なお非常に高く、昨季もそうでしたが上記のように正確かつ素早いパス判断によりチームのカウンターをスムーズに機能させてくれます。
また、数値では表せませんが彼の「存在感」は確実にチームに好影響を与えているように見受けられます。例えば、イブラが相手エリア内に侵入した際には相手がかなり注意深くマークをしてくるわけですが、その場合にはマークが集中する分だけ味方にゴール前でスペースを提供することが可能になりますね。
それに前節のヴェローナ戦においても、相手CBのギュンターがクロスの処理を誤りオウンゴールという通常考えられないプレーをしてしまいましたが、彼の背後にいたイブラの存在感がそのプレーを引き起こした可能性は決して否定できません。
他にもいろいろありますが、とにかくイブラの「得点に関与する力」というのは今でもかなりハイレベルであるように思いますし、彼を起用する上での十分なメリットとなります。
これからイブラのコンディションが上がり、昨季序盤戦のような仕上がりになれば間違いなくチームにとって欠かせない戦力になるでしょうし、何より個人的に大好きな選手なだけに今後の活躍にも期待していきたいです。
雑感
最終スコアはボローニャ2-4ミラン。
同点に追いつかれたミランはその後、更なる退場者を出し9人となったボローニャ相手に攻めあぐねましたが、84分にベナセルが超絶ミドルシュートをネットに突き刺して勝ち越し。そして90分には先述のイブラがゴールを決めて試合を決定づけ、想定外の大苦戦の末に勝利を収めました。
フラストレーションの溜まる試合展開・内容ではあったものの、離脱者続出かつ過密日程という苦境の中で勝利という一番大事な結果を手に入れられたのは本当に大きいと思いますね。
それに近いうちにテオ、ブラヒム、レビッチといった主力は復帰できそうですし、彼らが戻ってくればチームのパフォーマンスも間違いなく向上するでしょうから楽しみです。
さて。今後の注目ポイントとしては先の主力組の復帰もそうですが、やはり一番は「イブラの起用法」にあると僕は思います。
万全な状態のイブラを適切に起用できればチームの破壊力は大きく増しますが、その一方で守備の強度にはある程度目を瞑る必要が出てきます。そのため、相手チームの戦術や実力、自チームのコンディションやメンバーに応じて柔軟にイブラを起用していくというのがベストだと思いますが、果たして時としてイブラを納得してベンチに座らせられるか?というのが懸念材料として挙げられます。
シーズン開幕前にはしきりに取り沙汰されたジルーとの共存の話もいずれは再熱するでしょうし、彼について話題は尽きませんね。
まずは次節のトリノ戦でどうなるか。注目していきましょう。
Forza Milan!
最後まで読んでいただきありがとうございました。