【逆転勝利】ミラン対ヴェローナ【2021-22シーズン・セリエA第8節】
スタメン

基本システム:ミラン「4-2-3-1」、ヴェローナ「3-4-2-1」
まずはヴェローナの守備についてです。

――ミランのGK時におけるヴェローナの守備陣形
ヴェローナはかなり厳格なマンツーマン主体のディフェンスを実施。上図のようにミランの中央の選手それぞれにマークに付き、パスの選択肢を消していきます。
これに対し、基本的にミランはロングボールで応戦。主にレビッチorジルーに目がけてボールを送り、そのこぼれ球の回収からの速攻を目論みます。しかし、ヴェローナの屈強かつ集中した守備を前に上手くいきません。

――その後の場面。ロングボールがレビッチに入る。最後方では一時的に1対1となるヴェローナだが、WBが素早くカバーに入る

――その後の場面。こぼれ球を左WBラゾビッチが回収してバックパス。ヴェローナボールとなった
また、こうした守備に最も苦しめられたといっても過言ではないのがサレマです。
インテリジェンスと運動量を武器とする彼は流動的なポジショニングにより局所的に数的優位を作り、そこでスペースを生みだす形を得意とするわけですが、この試合では相手の徹底したマンマークによりそうした得意パターンを作れませんでした。

――例えばこの場面。サレマがこの位置まで下がってくるが、そこには左CBのチェッケリーニも付いてくる

――その後の場面。GKからのロングボールは前線のレビッチへ。そのこぼれ球をサレマが拾おうとするが、サレマに先んじて手前のスペースにチェッケリーニが移動

――その後、チェッケリーニがこぼれ球を拾い、ヴェローナのカウンターに繋がった
左に流れても相手が付いてくるためフリーにはなれず、スペースもない状況。そのため攻めあぐねることとなり、以下のようなカウンターを食らう結果となりました。

――バロトゥーレからバックパスを受けたベナセルが中への展開を目論むが、手近なパスコースは既にマークされ、右サイドへの展開も困難。そこで同サイドでの攻撃を続ける

――その後の場面。再びボールを受けたバロトゥーレはレビッチにパスを出すも、完全に読まれてインターセプト。ヴェローナのカウンターとなり、これが2点目のPKに繋がった
○主力不在の影響
こうしたヴェローナの守備を打ち崩すには、やはり個人技(主にドリブル)によりマークを外してボールを運ぶというのが効果的な方法です。
そして普段のミランであればブラヒムやテオがいて、彼らの推進力あるドリブルから速攻・カウンターへと繋げられるわけですが、不幸にも両者ともにヴェローナ戦を前にコロナで離脱。これがチームにとって大ダメージでした。
2人の代役となったのはダニエル・マルディーニとバロトゥーレですが、どちらも上記2者のような役割を果たせず。特にダニエルは実力不足を露呈し、チームのビルドアップにほとんど絡むことができませんでした。

――参考1:この試合の前半における各選手のパス数。ダニエルはチームワーストとなる「9回」に止まった
そのため、この試合前半においてはレビッチが頑張って相手のマークを剥がす為に積極的に前を向き、ドリブルを仕掛ける役目を請け負うことに。

――参考2:この試合におけるドリブル挑戦数。レビッチは36分の出場ながら、両チームトップとなる「6回」を記録
しかし、こうした役割に向いているのはレオンの方です。コンディションを考慮してレビッチを優先的に起用したのでしょうが、無理がたたってかレビッチは36分に負傷交代。裏目に出てしまったかなと。
そうこうしている内に前半終了。ミランは0-2とリードされたまま後半を迎えることとなりました。
○ミランの修正
後半早々、ミランはダニエルとサレマに代えてクルニッチとカスティジェホを投入。先述の通り2人とも機能していませんでしたから、ナイスな判断だったと思います。
そして、後半のミランの反撃において重要な役割を担ったのがレオンです。
前半終盤にレビッチとの交代で入ったレオンは、持ち前の推進力とキープ力を活かして相手マーカーをいなしつつ、左サイドでのボール運びに大きく貢献してくれました。

――例えばこの場面。レオンが下がってロマニョーリからボールを引き出す。同時にバロトゥーレは前線に駆け上がり、自身をマークするファラオーニを引き連れる

――(自身にとって)十分なスペースでボールを受けたレオン。

――その後、前を向き、ドリブルで一気に敵陣に運んでいった(赤)
上記のようなレオンの動きに際しては、同サイドのバロトゥーレが積極的に駆け上がってマーカーを引き付けることでレオンのためにスペースメイク。
それと同時に、トップ下に入ったクルニッチがボール回しに絡んでいきます。

――例えばこの場面。同様の形でレオンがボールを受ける。ここでクルニッチは前方のジルー(画面外)へのパスコースを空けつつ、自らもパスの選択肢となるよう動く

――その後の場面。レオンからジルーへ楔のパスが通る

――その後の場面。ジルーのポストプレーをクルニッチが的確な位置取りでサポートし、ボールを受ける

――クルニッチからサイドのバロトゥーレにスルーパス。その後、バロトゥーレから惜しいクロスが供給された
更に、ダブルボランチも積極的に左サイドに流れてボールに関与。
こうして左サイドに人数をかけて攻め込んでいきますが、前半と違うのは右サイドにも明確な選択肢を用意していることです。

――例えばこの場面。密集するヴェローナ守備陣。ここでベナセルはサイドチェンジを選択し、手薄なサイドを狙う

――そのサイドチェンジをカスティジェホが受けた
右サイドハーフに入ったカスティジェホはそのまま右サイドを主戦場にしつつ、その分カラブリアが内に絞って中央へのパスコースを確保。この組み合わせを軸に、右サイドでもボールを回しながら相手を押し込んでいきました。

――参考3:前半のサレマのヒートマップ。攻撃時は左サイドでのプレーが目立ったが、先述の通り相手の守備により機能せず。右サイドの人手不足を招く原因の1つになってしまった印象

――参考4:後半のカスティジェホのヒートマップ。右サイドのポイントとして機能。安定したボール回しに一役買った
このようにして質的な修正と位置的な修正の2つを施し、試合の主導権を握ったミラン。すると58分。レオンのクロスからジルーが頭で合わせて1点を返すと、76分、78分にもネットを揺らして見事な逆転勝利を収めました。
ミラン3-2ヴェローナ
雑感
止まらない主力離脱の中で迎えたヴェローナ戦。0-2とリードされて前半を折り返した時は流石に頭を抱えましたが、そこから逆転できるのが今のミランです。監督の的確な戦術修正能力とそれに応える選手達の技量、そして不屈のメンタリティを備えた今のチームなればこその試合でした。
しかも、その逆転の立役者の1人が半構想外状態となっていたカスティジェホです。試合後に感極まるカスティジェホを多くの選手・監督が労うシーンにはチームの雰囲気の良さが窺えましたね。
一方で、それでもなお無視できないのは相次ぐ主力の離脱問題です。中でも、今夏のメルカート終了時点から大きな懸念であった「ブラヒムが離脱したらヤバくないか?」という点については早急な解決が望まれます。
幸いにもクルニッチが復帰し、彼とポストプレーヤーを組ませるという形で何とか今回のブラヒム離脱は凌げそうですが、根本的な解決策としてはやはり冬の移籍市場で同タイプの選手を獲得するというのが一番でしょうね。
さて。代表ウィーク直後からタフなゲームを迎えたミランですが、この後も1週間に2つのペースで試合が続きます。
厳しい日程ではありますが、引き続きチーム力の高さを披露してもらいたいですね。
Forza Milan!
最後まで読んでいただきありがとうございました。