【2種類のプレッシング構造】 ミラン対ヴェネツィア&スペツィア 【2021-22シーズン・セリエA第5節、6節】

――スペツィア対ミランのスタメン
ベネツィア戦(5節)とスペツィア戦(6節)にて、ミランは異なるハイプレスの形を用いました。
まずは先にスペツィア戦について見ていきましょう。

――スペツィア戦、相手GK時の守備陣形
ボールを受けた相手右CBに対し、トップ下(この試合ではダニエル・マルディーニ)が相手アンカーへの斜めのパスコースを切りながらプレスを開始。それに応じて後方の味方が連動し、手近なパスコースを潰していく、と。ミランのプレス時における基本的なスタイルですね。
ここで、相手としては一応右SBへのパスコースがありますが、そこに出せば一気に左SH(レビッチ)に詰められてサイドに追い込まれるため、個人技術やパス回しに自信がなければ選択し辛いコースです。そのため、前線へのロングボールにより打開を図るわけですが、ミランは以下のようにロングボール回収を目論みます。

――その後の場面。スペツィアは中央へのロングボールを選択するが、ここでは相手左インサイドハーフをマークするために絞っていたサレマがクリアし、そのこぼれ球をトナーリが回収してミランボールに。その後、カウンターからミランが惜しいチャンスを作り出した
自身のマーク担当の背中に位置するミランボランチは、相手からロングボールが出たらすぐに後方へ。すると上記のようにマーク担当に先んじてこぼれ球を拾える確率が高まり、そこからカウンターへと繋ぎやすくなるというわけですね。
○ヴェネツィア戦のプレス

――ミラン対ヴェネツィアのスタメン
続いて、今回の本題となるヴェネツィア戦についてです。
GK時にも後方に人数をかけ、繋ぐ意思を見せるヴェネツィアに対し、まずミランはトップ下とダブルボランチで相手の中盤3枚をしっかりとマーク。
そして相手2CBへのプレス時、ミランは先述のようにCFとトップ下で対応する形が基本ですが、この試合では主にレオン(左サイドハーフ)が前に出て相手右CB(カルダーラ)にプレスをかけていきます。

――相手ゴールキック時のミランの陣形。
この試合の相手アンカーはビルドアップの際に最終ラインに下りるなど柔軟に動いてきたため、従来の方法でトップ下が対応するには難しいものがありました(アンカーを切りながらのプレスや、ボランチとのマーク受け渡しなど)。そのため、今回はブラヒム(トップ下)が相手アンカーに対してしっかりと付くことで、中盤に穴を空けないようにするというのが1つの狙いだったのではないかと考えています。
また、このプレスを行った場合の利点として、「レオンの守備負担の軽減」が挙げられます。
レオンが相手右SBへのパスコースを切りながらCBにプレスをかけ・マークした場合、ボールホルダーの採りうる選択肢は左サイドへの展開か、前線へのロングボールが基本となります。
そして仮に左サイドに展開された場合は、レビッチの鋭いプレスと同サイドのフロレンツィ(右サイドハーフ)とでパスコースを限定しつつ、中央のスペースはダブルボランチが素早くスライドして埋めることで、相手を同サイドに閉じ込めると。

――例えばこの場面。左CB(チェッカローニ)がGKからボールを受けて左サイドに持ち運ぶが、その背後からレビッチがチェイシング(赤)。同時に、味方が身近なパスコースを消す。ダブルボランチ(4・8)は対面のインサイドハーフをマークしつつ、相手の縦パス・ロングパスを警戒する位置取り。この後レビッチが相手のミスを誘い、ミランボールとなった
後者のロングボールについても、相手FWとの競り合いにしっかりとCB陣が対応したり、こぼれ球に迅速に対応したりすることでマイボールにしていきました。
このようにして狙い通りにボールを再回収できれば、レオンが高い位置に残ったまま再び攻撃(あわよくばカウンターや速攻)に移ることができます。
レオンの守備意識が改善したのは確かですが、それでも依然としてレビッチ等と比べればプレスの強度や判断に差は見られますし、連戦に因る疲労も考慮すれば彼の守備タスクを減らせるこのような形は合理的といえますね。
ただし、レオンが前に出ることで左サイドのスペースが空きやすくなりますし、仮にそちらに展開された場合は相手に時間とスペースを与えてしまいかねません。

――例えばこの場面。相手GKから前線へロングボール。ロマニョーリがクリアするも、前方にはスペースがあり、相手右SBがこぼれ球を拾う
こうした際は左SBと左CB(バロトゥーレ、ロマニョーリ)の判断や、ボランチの素早いプレスバックが強く求められますね。
この点について、この試合では何度かミラン側左サイドを使われボールを持ち運ばれるシーンこそありましたが、そこから決定機に繋がるシーンはなかったと記憶しています。

――その後の場面。バロトゥーレが相手右SBに寄せに行き、ロマニョーリはスライドして相手右WGに対応。ボールは右IHに渡るが、トナーリのプレスバックにより相手の攻撃を遅らせた
まとめ
相手チームの戦術や自チームの状況・コンディションに応じてシステムを微調整することで、継続的かつ効果的なプレッシングを実現しているミラン。
#ACMilan lead Serie A for pressures in the opposition half.
— MilanData📊 (@acmilandata) October 5, 2021
[via @StatsBomb] pic.twitter.com/Ro3S5qduFS

――『StatsBomb』より
上のデータによれば、ミランはここまで「敵陣でのプレッシャー」という数値でセリエAトップとなっているらしく、これもまたミランのプレッシングが機能していることを裏付ける1つといえるのではないかなと思います。
一方、このような状態を維持するには「選手の良好なコンディション」が前提として求められるため、現在リーグ戦とCLの両コンペティションに参加しているミランにとっては「過密日程による疲労蓄積」が問題となり得ます。
しかしながら、この点についてはターンオーバーの実施というのが対応策の1つとして考えられ、現にミランはこの2試合にてターンオーバーを行い、いずれも勝利を収めることに成功(スペツィア戦はだいぶ苦戦しましたが)。少なくとも今のところはさほど問題となっておりません。
今後もターンオーバーの実施等により選手の疲労を管理し、チームとして良好なコンディションを維持しつつ、結果をも残す…。実行難易度は高いですが、今のミランのチーム力であれば十分に可能ではないかと思われます。大いに期待していきたいですね。
Forza Milan!
最後まで読んでいただきありがとうございました。