【洗練された守備組織】 アタランタ対ミラン 【2021-22シーズン・セリエA第7節】
スタメン

基本システム:アタランタ「3-4-1-2」、ミラン「4-2-3-1」
○電光石火の先制点
試合開始からわずか28秒、ミランはカラブリアがネットを揺らして先制点を獲得。
キックオフ直後に生じたアタランタの隙を突いた格好となりましたが、その得点までのプロセスにはミランの狙いとする形が見て取れました。

――1点目の流れについて。キックオフ直後、アタランタが前方へのロングボールを選択。その後ミランがボールを回収し、下がったケシエがボールを受けたシーン。
アタランタの守備は、まず2トップがそれぞれミランの2CBをマークし、トナーリにはペッシーナが、ケシエにはデローンが付く形が基本です。
そこでミランは、ダブルボランチが縦横に動くことで対面のマーカーを引き付け、中央にスペースを作り出します。上記のシーンにおいてはケシエが下がってボールを受けてデローンを前に引き付ける一方で、トナーリはサイドに流れてペッシーナをサイドに引き付けることで、結果として中盤にスペースを生じさせる、と。

――その後の場面。ケシエから中央でフリーのサレマにパスが渡る
空いた中央のスペースにはサレマが侵入し、ケシエからパスを引き出しました。DF陣は手前のレビッチ、ブラヒム等に牽制され、前に出て潰しに行くことができません。
更に、ここでポイントとなったのがテオのポジショニングです。

――その後の場面。サレマからテオにパスが通る

――その後の場面。テオから裏に抜けたカラブリア(赤)にスルーパスが通り、カラブリアがネットを揺らした
攻撃時、主にサイドレーンに位置するSHレオンに対し、同SBのテオが内寄りのポジションを取る形は最近の試合で良く見られるものですが、この試合ではその傾向をより強めました。
上記のシーンにおいてテオは中盤に深く潜り込み、サレマからパスを受けて相手のプレスを完全に外すことに成功。そこから同じく中へと侵入したカラブリアにスルーパスを送り、先制点をお膳立てしました。
アタランタのマンツーマン色の強いディフェンスへの対策の1つとして、このようなSB(テオ)の中に絞る動きを用いてマークを外そうとしたのでしょうし、中盤でボールを受けようと前方にスペースさえあればテオは輝きます。そのため上記のシーンに限らず、テオを活用しようとする場面は散見されました。

――例えばこの後半の場面。ボールロスト直後、前からの圧力を強めるアタランタの守備に対し、テオが内に潜りライン間に侵入することでケアーからパスを引き出す

――テオがボールを受け、ミランの速攻に。その後、前方のレビッチにスルーパスを供給し、ミランが惜しいチャンスを作り出した
○ミランの守備~左サイドでの対応~
最高の立ち上がりを見せたミラン。その後は主にアタランタがボールを持つ展開となりますが、ミランは組織的な守備を披露してアタランタの攻撃を封じ込めていきました。
まずはミラン側左サイドでの守備についてです。

――ジムシティがボールを持った場面
基本的にアタランタはCB・ボランチ・WB・CFから成るひし形のユニットを中心に、そこからゲームを組み立てようとしますが、ミランはそこに激しくプレスをかけていきます。

――例えばこの場面。GKからジムシティにボールが渡った際、まずはレオンがプレス。プレスを受けたジムシティはサイドのザッパコスタに渡すが、そこにはテオがチェックに行く
先に挙げた4人への対応として、基本的にミランはジムシティにレオン、ザッパコスタにテオ、デローンにブラヒム、マリノフスキにケシエ(orトモリ)をそれぞれ付け、厳しくマークしていきました。
そしてボールをサイドに誘導してからは、ミラン各選手が相手のバックパスや中央への展開を阻止する位置取りをし、相手を同サイドに封じ込めていく、と。

――先ほどの場面の後。下がってボールを受けにきたマリノフスキにはトモリが対応し、上がるデローンにはブラヒムが付いていく。また、中盤ではサレマが絞って逆サイドのボランチ(フロイラー)をマークし、レオンとレビッチがバックパスのコースを切る。
この後、ザッパコスタのマリノフスキへのパスはテオにカットされ、ミランのショートカウンターに繋がった
こうしたミランの守備に対し、アタランタは例えば以下のような形で突破を図ります。

――例えばこの場面。ザッパコスタがマリノフスキからボールを受ける。

――その後、マリノフスキがサイドに流れ、ボランチのケシエを引っ張り中央にスペースを作り出す
このようにして生じさせた中央のスペースにザッパコスタが外から飛び込んでいくという形を見せますが、そこには主にテオがマークを外すことなく付いていくことで対応。上記のシーンにおいても、その後パスを出せずにボールをキープしたマリノフスキが、ケシエとプレスバックしたブラヒムに挟まれボールを奪われています。
更に、アタランタはペッシーナやサパタが右サイドに顔を出してビルドアップの出口となることで打開を図りますが、それに対してはトナーリやCB陣がそれぞれ対応してピンチの芽を摘んでいきました

――例えばこの場面。サイドに追い詰められるも、ザッパコスタは右サイド前方に流れていたペッシーナ(画面外)にパスを送る

――しかしここにもトモリが対応し、攻撃を止めた(赤)
○ミランの守備~右サイドでの対応~
以上のように、アタランタはミラン側左サイドからの組み立てを多くの場面で封じられ、時にはボールロストから速攻を食らう展開になりました。
そこで、アタランタは時おりサイドチェンジを使うなどして、ミラン側右サイドからも打開を狙います。しかしそこでもミランの整然とした守備が待ち受ける結果となりました

――例えばこの場面。ミラン側から見て右へサイドチェンジ

――その後の場面。中央に絞っていたサレマが素早くサイドに戻って対応。最終的に相手の攻撃を遅らせた
右サイドではケアー、カラブリア、トナーリ、サレマが中心となって対応します。特にケアーは対面のサパタを相手に堂々たるパフォーマンスを披露。カウンターの場面で一度サパタに抜かれピンチを迎えはしたものの、それ以外は見事に封じ込めてくれましたね。
また、アタランタは20分過ぎにペッシーナが負傷交代し、左サイドのユニットがペッツェッラ(交代選手)とメーレとなったことで機能性が低下。これもまたミランの右サイドの守備を結果的に助けることとなりました。
そして、右サイドでの対応について左サイドでのソレと同じく重要となったのが、バックパスによる作り直しや中央への展開の阻止です。

――例えばこの場面。アタランタ側左サイドでフロイラーがボールを受け、中央への展開を目論む。しかし、中盤のデローンへのパスコースはブラヒムが切っており、またレビッチやレオンがプレスの準備をすることでバックパス・サイドチェンジを牽制

――その後の場面。フロイラーは展開を諦め、近くの味方にパス。引き続きスペースの狭い同サイドでの攻撃を続けた
非常にコンパクトな守備を志向するミランにとって、相手のバックパスや中央経由等によるサイドチェンジは出来る限り避けたいことです。特に、自分たちから見て右から左へ展開される場合、前残りしている左サイドハーフとボランチの間のスペースを使われやすく、実際ミランが過去にアタランタにボコられた試合ではそのスペースをイリチッチやマリノフスキ等に攻略されていました。

――例えば、過去の試合におけるこの場面。左サイド後方からボールを運んできたジムシティ(CB)に対し、ミランは中盤3枚(ダブルボランチ+右サイドハーフ)が絞って対応。一方、レビッチ(黄丸。左サイドハーフ)は前方に残る。ここで、マリノフスキーが中央でパスを受ける機会を窺う

――その後の場面。マリノフスキーがジムシティからボールを受ける。ボランチがスライドして対応しようとするも、マリノフスキーは後方から上がってきたデ・ローン(緑丸)にパス。この後、デ・ローンはそのまま前方のスペースに持ち運び、最終的にミドルシュートを放った
しかし今回は、チーム全体として強度の高い守備を披露することで相手に時間とスペースを与えず、コンパクトな守備陣形を維持します。
この点に関し、先述の通りブラヒムは中央にて中継地点となり得るデローンをマークし、中央経由の攻撃を阻止する役割を遂行。彼は普段と比べると目立ちませんでしたが、素晴らしい守備面での貢献だったと思います。
そしてレビッチ。彼もまた攻撃のみならず守備の貢献度が非常に高く、彼の存在はチームのプレスの機能性を高める上で不可欠なものとなっています。

――例えばこの場面。左サイドでのアタランタのスローインにて、相手はCBにボールを戻す。これを機にレビッチが一気にプレスをかける

――ボールはGKにまで戻されるが、レビッチが引き続き強烈なプレス。これに連動して周囲の味方選手たちも前に押し上げる

――その後の場面。ミランは先に述べた左サイドでの守備陣形を素早く作り上げ、アタランタを同サイドに押し込む。この後、ミランはスローインを獲得した
このようにしてミランは、連動した組織的な守備でアタランタの攻撃を大体において見事に封じ込めていきました。
それでも何度か被カウンターやCK等でピンチを迎えはしたものの、そこではメニャンがファインセーブを披露。
すると42分。敵陣にてボールを奪ったトナーリがそのままゴール前に侵入してシュート。キーパーとの1対1を制し、貴重な追加点をゲットしました。

――2点目のシーンについて。ボールを受けたフロイラーに対し、トナーリが寄せに行く。前方の選手はそれぞれマークされパスを出し辛い状況

――その後の場面。フロイラーは反転し左サイドを見るも、パロミノへのパスコースはレビッチに切られている。そうこうしている内にトナーリが距離を詰め、ボールを奪いにかかる

――トナーリがボールを奪い、キーパーとの1対1を制して2点目を獲得した
一見すればフロイラーの軽率なミスによる失点ですが、それだけでなくミランの継続的かつ組織的な守備を前に疲弊し、集中力・判断力が低下していたというのも一因としてあるのではないかと思います。
○ミランのポジティブトランジション
最後にミランのポジティブトランジションについてです。
先述の通り、左右の揺さぶりによる崩しを封じられたアタランタは片側サイド(主に左サイド)から攻めこんでいく形が多かったのですが、その際にはカウンター要員としてやや前残りとなったレオンがトランジション時の起点となり、アタランタを押し返していくシーンが散見されました。

――例えばこの場面。左サイドからの相手の攻撃を凌いだミランは、前方のレオンにパスを送りカウンターに移行する

――その後の場面。デローンがレオンを止めに出てくるがそれを躱し、その後ボールを運んで前線のレビッチにスルーパスを供給。最終的にミランはCKを獲得した
多少のマークは物ともせず前にボールを運んでいけるレオンの存在は非常に重要で、中でも(ロング)カウンター時は彼のドリブルとキープ力が輝きますね。
また、同サイドにはテオもおり、チャンスと見るや一気に駆け上がってきます。細かい連携については未熟ですが、それでもこの2人のいる左サイドは驚異的です
すると78分。ミランはカウンターからレオンが決め、試合を決定づける3点目を獲得しました。

――後半、3点目のシーンについて。アタランタの左サイドから中央へのパスをカットし、自陣ペナルティエリア手前からミランがカウンターに移行。

――ボールを拾ったメシアス(途中投入)は、前方のレオンにパスを送る

――その後の場面。ボールを受けたレオンは、駆け上がってきたテオにパス。

――相手のチェックを躱したテオがそのまま一気にドリブルでゴール前まで持ち運ぶ。その後、テオから再度レオンにボールが渡り、見事なシュートをネットに突き刺した
こうして3点を奪ったミラン。試合終了間際にはミスから連続して2失点を喫しましたが、大事には至らず勝利を収めました。
アタランタ2-3ミラン
雑感
個人のミス(と微妙な判定?)をキッカケに終盤に2失点を喫したものの、チームとしては全体的に素晴らしいパフォーマンスを披露。
振り返れば昨季の最終節アタランタ戦では守備時に5バック気味となる形で挑み、最終的にPKによる2得点で勝利を収めましたが、ミランにとって従属的な試合内容であることは否めませんでした。
一方、この試合でミランはアグレッシブな姿勢で臨んでゲームを実質的に支配し、敵将ガスペリーニにも認めさせる形での勝利であるわけで、同じ勝利という結果でもその具体的な内容には違いがあるように見受けられますね。
このように、名将ピオリ監督の下に組織された今のミランはハイレベルな選手と戦術を兼ね備えたチームであり、どの相手とも十二分に戦えるクオリティを示し続けています。
今後は怪我人や欧州カップ戦の有無によって大きく結果は変わりそうですが、現状はスクデット候補と目されるに相応しいパフォーマンスを見せているだけに、このコンディションを維持・向上し続けてくれることを願ってやみません。
代表ウィーク後のミランにも要注目ですね。
Forza Milan!
最後まで読んでいただきありがとうございました。