【高い壁と意地の反撃】リバプール対ミラン【2021-22シーズン・CL第1節】
スタメン

基本システム:リバプール「4-3-3」、ミラン「4-2-3-1」
○魔の15分間
まずはこの試合全体を通しての内容について、xG(ゴール期待値)の観点から振り返ってみようと思います。
Liverpool 3 (2.5)-(1.4) 2 AC Milan Running xG pic.twitter.com/I7ks8AwT8c
— Crab Stats Graphics (@CrabStats) September 15, 2021

以上のグラフを見ていくと、まずリバプールが開始から15分までの間に早くも「約1.3~1.4」ものxGを記録していることがわかります。PKがあったこともあり跳ね上がっていますね。しかしながら、その後の前半のxGに関してはさほど上がらず。
対するミランは全体を通してほとんど決定的なシュートチャンスを作れませんでしたが、数少ない前半終盤の決定機を2つモノにしたことでリバプールを追い詰めることができました。
そして、最終的なxGはリバプールが「2.5」であるのに対しミランは「1.4」。実際のスコアは3-2でしたが、データとそう違わない結果になったかなと。
こうして振り返ると、ミランとしてはやはり立ち上がりの約15分間をリバプールに完全に支配されたのが非常に印象的でしたし、それだけにその時間帯で失点を1点に抑えられたというのは大きかったと感じますね。そして、その後は互角とは言わないまでも、ミランも持ち味を発揮し始めて前半終盤には2点を挙げたわけですから、十分に健闘してくれたのではないかと思います。
さて。そんなわけで、今回のマッチレビューでは「前半15分辺りまでのリバプールの完全支配」と「その後のミランの反撃」に焦点を絞って見ていきたいと思います。
○インサイドハーフの動き
まずはリバプールの攻撃についてですが、ミランを苦しめた要素の一つとして「インサイドハーフの動き」が挙げられます。

――例えばこの場面。左SBロバートソンにボールが渡り、そこにはサレマが対応。その背後にはケイタが流れてベナセルをサイドに連れ出し(赤)、一方ジョタが中盤に下がってパスを引き出す

――ジョタがフリーでボールを受けリバプールが速攻を開始。そのまま決定機にまで繋げた
以上のように相手のインサイドハーフのフリーランニングによってミランのボランチが動かされ、それにより生じた中盤のスペースを使われるという形で、序盤から危険なシーンを作られました。
また、彼らインサイドハーフはサイドだけでなく前方にも動きます。その際にはミランのCBとSBの間を突く動きで対面のミランボランチを最終ラインに押し込み、中盤にスペースを作り出していく、と。
そして9分。リバプールは上記の形を活かし、早くも先制ゴールを挙げました。

――リバプールの1点目のシーンについて。右サイドでアーノルドにボールが渡り、前方のサラーにパス。この間、ヘンダーソンがミランCB-SBを突く動きを見せてベナセルを引っ張る。これにより、中盤にスペースを生じさせる

――その後の場面。空いた中央のスペースへとアーノルドがインナーラップで入り込み、サラーからパスを引き出す。そのままエリア内へと侵入し、トモリのOGを誘発した
この点に関し、ミランの中途半端な守備対応というのもリバプールの攻撃を助長する原因となっていました。
具体的に見ていきましょう。ミランのベースシステムは「4-2-3-1」ですが、守備時はトップ下のブラヒムが相手CBにプレスをかけるなどして「4-4-2」の形に定期的に変化していきます。
その際、相手が3MFを置くチームであれば一時的に中盤で数的不利となるわけですが、普段のミランであれば相手ボールホルダーへのプレッシャーの強さやサイドハーフの絞り、2トップ間やボランチのマーク受け渡し等々で上手くカバーしていく、と。
しかし、この試合(序盤)のミランはチームとして連動した守備が中々できず、そのためプレスがハマらずに中盤を使われるシーンというのが見られました。

――例えばこの場面。リバプールが攻め込むも、仕切り直してGKにまでボールを戻す。そこでブラヒムはボールを受けたCBゴメスにすぐに寄せに行くが、後ろの選手たちの準備がまだできていない。

――その後の場面。ゴメスからサイドでフリーとなっているケイタにパス。そこには後方からサレマが寄せに行くが、それによりその背後ではロバートソンとジョタがカラブリアに対し数的優位を作る(赤)

――その後、ライン間でパスを引き出したフリーのジョタが速攻を開始。最終的にリバプールはシュートにまで繋げた
○リバプールのプレス
ミランは攻撃の局面においても、特に序盤はリバプールのプレスに苦しめられほとんど有効にビルドアップすることができませんでした。
リバプールは1トップのオリギがミランCBの間から片側サイドへ押し込むようプレスをかけ、また両WGは基本的に中に絞りつつ、ボールサイドのWGはミランSBへのパスを、逆サイド側のWGは前方のミランCBへのパスをそれぞれ警戒。
そして中盤3枚(特にインサイドハーフ)は対面のミランボランチに対応することで、中央(ボランチ)からのミランのビルドアップを妨害していきます。

――例えばこの場面。オリギがボールホルダーのトモリにプレス。トモリは前方のケシエにパスを送るが、そこにはケイタが対応

――ケイタからのプレッシャーを受けたケシエは、右サイドのカラブリア(赤)にサイドチェンジのパスを送る

――その後の場面。しかしそのパスを読んでいたロバートソンがインターセプトしてショートカウンターに持ち込み、惜しいチャンスを作り出した
サイドに展開しようにも、狙いの読まれやすいパスであれば上記のようにインターセプトされてしまう苦しい状況。そのためミランはメニャンから素早くワンタッチでサイドに速いパスを出す形もありましたが、味方に繋がらずタッチラインを割ってしまいました。
○守備陣の奮闘
開始から攻守ともに圧倒されたミランは先述の通り9分に失点。続く13分にはPKを与えてしまい、大ピンチに陥ります。
しかしながら、そのPKをメニャンがストップ。早々に試合を決定づけられる可能性もありましたが、メニャンの活躍により何とか事なきを得ました。
こうしたメニャンの活躍や、トモリを始めとするDF陣のゴール前での踏ん張りにより、ミランは押し込まれピンチを迎えながらも追加点を許さず耐えることができましたね。
○ミランの反撃
メニャンのPKストップにより流れが変わり、落ち着きを取り戻したミランが少しずつではありますが惜しい形を作り出していきました。
具体的に見ていきましょう。先述の通り、ミランはダブルボランチが相手の中盤(主にインサイドハーフ)に抑え込まれている状況でしたが、それでもロングボールによる展開は極力使わずに(ジルーやイブラがおらず、前線で収まらないため)、後方で粘り強くパスを回していきます。
そうして相手のMFを前に釣り出しながら、生じたライン間のスペースにポジションを取るブラヒム等へとパスを入れ、そこから速攻へと移行していくという形で惜しいシーンを作り出す、と

――例えばこの場面。ミランはCBとボランチ間でパス交換を繰り返し、リバプールの前線と中盤を前に引き寄せる。その背後にはブラヒムと、内に絞ったサレマの2人が構え、トモリからパスを引き出す

――その後の場面。トモリの縦パスがブラヒムに通り、速攻を開始するミラン。CBのゴメスは内に絞っていた近くのサレマに牽制され、前に出られず
そして、ボランチからの展開が中々望めない状況下にて、ライン間への出し手として大きな貢献を果たしたのがトモリでした。
時にはドリブルによる持ち出しで前方へのパスコースを作り出し、そこへ積極的に縦パスを供給。トモリからの球出しはこの試合のミランにとって非常に重要なものでしたね。
このようにしてボールを前進させていったミランは、シュートチャンスこそリバプールDF陣に阻まれて作れないものの、ゴール前への侵入やクロスといった惜しいシーンを増やしていきます。
そして42分。ミランが同点に追いつきました。

――ミランの1点目のシーンについて。ケアーが浮き球でライン間のブラヒムにパスを送る

――その後の場面。レビッチが裏に抜け出してDFラインを押し下げ、ライン間のサレマにスペースを提供(赤)。そこへブラヒムがパスを通す

――その後の場面。レビッチの抜け出しに合わせてレオンも中央に向かって斜めに走り、相手守備陣を惑わす

――その後の場面。サレマからレオン、レビッチと繋いで最後はレビッチがシュートを決めた
その直後の44分にはカウンターから最後はブラヒムが押し込み、ミランが瞬く間に追加点をゲット。
1点目はブラヒム起点の崩し、2点目はカウンターと双方ともにミランの得意とするパターンでしたし、チームとしての強みをしっかりと発揮できたのではないかと思いますね。
○ミランの守備修正とリバプールの対応
ミランは守備についても、前半序盤に見られた問題を修正。具体的には前線と中盤以下のプレスの連動性が低かった点を見直し、中盤にてリバプールの選手にフリーでボールを持たれないようにしました。

――例えばこの場面。CBゴメスがボールを持っている際、まずはブラヒムがしっかりと中央のファビーニョへのパスコースを消す

――その後の場面。ゴメスからマティプへ横パス。それをキッカケにレビッチが素早くプレスをかけにいく。同時に、ケシエがファビーニョへとマークを移す

――その後の場面。ミランはハイプレスへと移行。リバプールをサイドに追い詰めていった
中盤にてフリーで持たれ、速攻を食らうといった形が減れば当然ながら守備陣の負担も減りますし、守備の安定感が向上します。実際に、それでもリバプールに攻め込まれるシーンこそ何度かあったものの、前半序盤のような被速攻から決定機を作られるような場面は減りました。
しかし、このようなミランに対して、リバプールは機を見てアンカーのファビーニョを上がらせることで、ブラヒムのマークを外してフリーでボールを持つ形を作っていく、と。
実際、後半早々の48分におけるリバプールの同点弾のシーンでは前線に上がったファビーニョがゴールに絡みました。

――リバプールの2点目のシーンについて。右インサイドハーフのヘンダーソン(赤)がサイドに流れてレオンを引き付け、中央にはヘンダーソンの代わりにファビーニョが侵入。ここで、マティプはサイドでフリーのアーノルド(青)にパスを送る

――その後の場面。アーノルドへの対応のため、ケシエがサイドに寄る。これにより中央で少しの時間とスペースを得たファビーニョがボールを受ける。ここからは細かいパス交換で相手DFを崩し、最終的にサラーがゴールを決めた
ブラヒムがファビーニョにマンツーマンで付いていくっていうのは体力的に難しいですし、戦術的に合理的とは言い難いですからね。
攻守に多大な貢献を果たすファビーニョの優秀さを改めて感じる試合となりました。
そして、その後は69分にヘンダーソンが素晴らしいミドルシュートをネットに突き刺し、リバプールが勝ち越し。試合は3-2で終了しました。
まとめ
非常に悪い立ち上がりとなってしまったこの試合。
ミランにはCL出場経験の少ない選手が多く、それ故にリバプールの選手たちと彼らのスタジアムのプレッシャーに呑まれてしまったというのは原因として間違いなくあるでしょうね。
しかし、それでもPKストップを機に徐々にペースを掴んで2得点を奪った点はチームの意地と底力を感じましたし、最終的に敗れはしたもののホームでのリベンジマッチに期待できる内容になったのではないかと思われます。
この一戦を糧にして更に成長を遂げてくれれば何よりですし、引き続きポテンシャルの塊である現チームを見守っていきたいですね。
Forza Milan!
最後まで読んでいただきありがとうございました。