【脅威的なボランチコンビ】 ミラン対ラツィオ 【2021-22シーズン・セリエA第3節】
スタメン

基本システム:ミラン「4-2-3-1」、ラツィオ「4-3-3」
○試合概要
試合は前半からホームのミランが主導権を握った。組織的な守備で中盤を支配し、ラツィオのパスミスを誘ってカウンターを繰り出すなどして多くのチャンスを作り出していく。すると45分、カウンターからラファエル・レオンがシュートを決めてミランが先制に成功。その直後に得たPKはケシエが外し、追加点獲得とまではならなかったものの、シュート数「14対2」と大差を付けて前半を折り返した。
後半からは徐々に守備の強度を下げつつも、機を見て追加点を狙うミラン。そして66分、約4カ月ぶりの実戦復帰となったイブラヒモビッチが交代からわずか数分でネットを揺らし、ミランが貴重な追加点を獲得した。その後もラツィオの攻撃をしっかりと防ぎ切り、ミランが2-0と完勝を収めた。
○ミランの中盤支配
先の通り、この試合のミランは中盤を支配することで試合の主導権を握り、ラツィオに対し優勢に試合を進めていきました。
具体的に、まずはミランの守備とそれに対するラツィオの攻撃を見ていきましょう。
ミランはラツィオの中盤逆三角形に対し、トップ下のブラヒムとダブルボランチのケシエとトナーリがそれぞれ相手をマークし構える形が基本。そして、プレスのスイッチを入れる際には1トップのレビッチもしくはトップ下のブラヒムが前に出て、相手のCBにプレッシャーをかけていきます。
これに対し、ラツィオは主に中盤を経由しながらのプレス突破を図ります。例えば上述のようにブラヒムが前に出た場合、彼はアンカーのルーカスを一時的に背中で見る格好となります。そこでラツィオはインサイドハーフを経由したレイオフ等でルーカスにボールを渡そうする、と。

――例えばこの場面。右CBフェリペに対してプレスをかけるブラヒム。ここでフェリペはボールを受けに下がってきたサビッチにパスを送る。

――その後の場面。サビッチはワンタッチでルーカスにパス。これによりルーカスがフリーでボールを受けた
このようなラツィオの中盤経由の攻撃を封じ込めるのに絶大な貢献を果たしたのが、ミランボランチコンビのケシエとトナーリです。
まずケシエは、対面のミリンコビッチ・サビッチを徹底的にマーク。彼にパスが出た際には厳しいマークで前を向かせず、サビッチのプレーを大きく制限していきました。

――例えばこの場面。レビッチに左側を切るようプレスをかけられたフェリペは、前方で受けに下がってきたサビッチにパスを送る。ここにはケシエが対応

――その後、ケシエのプレッシャーを受けたサビッチはボールロスト。そのままミランのショートカウンターに繋がった
そしてトナーリも、基本的に対面のルイス・アルベルトをキッチリと監視し、自由にプレーさせず。また、状況に応じてアルベルトのマークを受け渡してスペースや別のパスコースの管理も行います。
一つ具体例を挙げると、それはルーカスの監視です。先述の通りブラヒムがプレスのため前に出た際、ルーカスはレイオフなどによりフリーでボールを受けるリスクがありましたが、そこにトナーリがプレッシャーをかけることで相手の狙いを阻止したわけですね。
上記の方法と「ブラヒム、レビッチがプレスバックして対応する」方法とを状況に応じて使い分けることで、ポイントの一つであった「アンカー(ルーカス)のケア」をしっかりと行うことができました。

――例えばこの場面。フェリペからサビッチにパス。しかしここではトナーリがルーカスをマークしており、ブラヒムの背後のスペースをカバー

――その後の場面。サビッチはケシエのプレッシャーにより前を向けず、また近くのルーカスもマークされパスを出せない状況。そこで左CBアチェルビへの浮き球のバックパスを選択。しかしそこにはレビッチが付いており、競り合いになる

――その後の場面。レビッチとアチェルビの競り合いによりこぼれたボールをトナーリが拾い、ミランボールとなった
そして、ボールを奪ってからは積極的なドリブルでの持ち運びや縦パスによりボールを前進させていきます。
今季のトナーリに、昨季のような消極さはどこにも見られません。
さて。中盤を封じられたラツィオは、時おりサイドからの突破やロングボールにより打開を図りますが上手くいかず。特に後者はロマニョーリがインモービレに対し果敢にチャレンジし、封じ込めていきました。
するとラツィオは、前半途中から両WGを入れ替え、ペドロを右サイドに回す形に変更。
この点、ケシエはサビッチを徹底マークする関係上、場合によっては中盤にスペースが生じるため、そこをスペース認知に長けたペドロに突かせようとしたのではないかと思われます。

――例えばこの場面。ルーカスがボールを持って前進する間、サビッチはケシエを引き連れて前方へ。それにより生じた手前の中盤のスペースにペドロが侵入し、パスを引き出す

――その後の場面。ボールを受けたペドロは前方のスペースにドリブルでボールを運び、チャンスを演出した
こういったペドロの動きにより中盤でボールを引き出され、何度か押し込まれはしたものの、ミランはしっかりとゴール前で対応してチャンスを作らせず。
また、ラツィオは時おりサビッチが左サイド側に顔を出し、同サイドに人数をかけて突破を図るものの、彼には先述の通りケシエがマンツーマン気味にしっかりと対応しているためミランは数的不利にはならず、相手に何もさせません。

――例えばこの場面。サビッチが左に流れ、ラツィオの左サイドでのパス回しに参加。しかしここでもケシエがマークを外さない

――その後、サビッチにボールが渡るもロストし、ミランがボールを回収した
45分のミランの先制ゴールにおいても、ラツィオが左サイド起点の細かいパス交換で突破を図るも失敗しボールロスト、その後ミランがカウンターの局面に移行することで生まれています。
というわけでミランは全体として素晴らしい守備を披露し、ラツィオの強力な攻撃陣に対して被シュート数を「2本」に抑えました。
○ミランの攻撃
続いて、ミランの攻撃についてです。
特にポイントとなったのは左サイドです。相手アンカーであるルーカスの脇、主に左ハーフスペースでボールを引き出すブラヒムと、主に左サイドレーンで驚異的な破壊力を見せるレオンの2人を中心にチャンスを作り出していきます。

――例えばこの場面。ブラヒムがルーカスの脇にポジショニングし、ロマニョーリからパスを引き出した
ハーフスペースでボールを引き出されたり、中央でボールを持たれたりすると相手としては中を警戒せざるを得ず、そうすることでサイドにスペースが生まれ、そこでレオンがドリブルで仕掛けやすい状況を作ることができます。
このような形で、ミランはチーム戦術としてレオンの突破力を活かしていく、と。

――例えばこの場面。ミランは右へとサイドチェンジし、ラツィオ守備陣を右に動かす

――その後の場面。右サイドのトモリから中央でフリーのケシエにボールが渡り、ケシエが前方にボールを運ぶ。これによりラツィオ守備陣は中央に絞って警戒

――その後、ケシエから左サイドのレオン(画面外)にロングパスが通る

――こうして、相手右SBとの1対1を迎えるレオン。この後、レオンは縦に突破してクロスまで持っていった
惜しむらくは、この試合はレオンのフィニッシュの精度(シュート・クロス)が全体的に低かったことと、前半は前線にジルー・イブラ等ターゲットマンが不在であったためクロス時の迫力に欠けたところでしょうか。ただ、後者については今回1トップに入ったレビッチが守備や的確なワンタッチパスによる繋ぎの面等で奮闘しており、別の形で貢献してくれていたんですけどね。
そして、上記の他にもミランは前トピックにて述べた安定した守備によるボール奪取・そこからのカウンターでもチャンスを創出。
ポゼッション・カウンターの両面からチャンスを量産し、前半だけで「14本」のシュートを放ちました。
○カウンター一閃
後半。ミランは徐々に前線からのプレスの頻度・強度を減らしつつ、主に(ロング)カウンターにより追加点を狙っていこうとします。

――例えばこの場面。自陣深くで相手の攻撃を防ぎ、クリアボールがブラヒムの前に転がる。その間レオンは裏のスペースを狙って動き出す

――その後の場面。ブラヒムからレオンにスルーパスが出るが、ここでは相手SBに先んじられてボールを回収された(赤)
攻勢をかけてくるラツィオに対し、上がってくる相手SBの裏を狙うというのは一つの有効な攻撃手段です。
一方のラツィオは裏へロングボールを出したり、インモービレが下がって組み立てに参加したりしてミラン守備陣を前後に揺さぶっていきますが決定機にまで至らず。ミランが引き続き安定した守備を披露していきます。
膠着状態の中、先に動いたミランは60分に3枚替えを実施し、イブラ、バカヨコ、サレマを投入。
すると66分、ミランはロングカウンターから最後はイブラが決め、貴重な追加点をゲットしました。

――2点目のシーンについて。相手のカウンターを凌ぎ、自陣深くでボールを回収したミラン。そして相手SBが戻る前にトナーリが素早く左サイド前方にパスを供給

――その後の場面。左サイドでトナーリからのパスを受けたレビッチが、ドリブルでゴール前まで侵入していった
ここではトナーリが正確なパスですぐさま相手SB裏のスペースにボールを送ったところからスタートし、その後はレビッチの見事なクロスからイブラが見事に抜け出してゴール、と。
(ロング)カウンターを十分に機能させるにはパスの受け手だけでなく出し手の技量も等しく求められるわけですが、この点についてもトナーリの存在は日に日にチームにとって重要になってきていますね。
それと、長期離脱明けでありながら、出場からわずか数分でアッサリとゴールを決めちゃうのがイブラのイブラたる所以ですよね。正に千両役者ですし、選手としての「格」というのを見せつけてくれます。
さて。2点目を決めて試合をほとんど決定づけたミランは、その後負傷したバカヨコに代えてベナセルを投入。残念ながらバカヨコの投入は守備固めどころか守備緩めとなっていたため、ベナセル交代によりチームとして安定感が増す形となりました。
そして、試合はそのまま終了。ミランが快勝を収めました。
ミラン2-0ラツィオ
雑感
本来ミランはラツィオと相性が良いわけですが、前回の直接対戦時は0-3とコテンパンにやられていましたし、しかも今季のラツィオは最初の2戦で9得点を挙げていたチームです。
そんな相手に無失点で快勝を収められたというのは非常に嬉しいですし、現チームの強さというものを改めて感じた次第です。
ここからリヴァプール、ユベントスと強豪相手のタフな連戦が続きますが、今のミランであれば良い形で乗り切ってくれると信じています。
まずは明日のリバプール戦。引き続きミランのハイパフォーマンスに期待していきましょう。
Forza Milan!
最後まで読んでいただきありがとうございました。