ミラン選手のパフォーマンス評価その1【2021-22シーズン・セリエA第1~2節】
ただし、言及する選手はスタメンのみ、それも攻撃の局面に絞った話となりますがご了承ください。それだけでも結構な文章量になりました。
的確な判断と積極性を活かしたパスは早くもミランの組み立てに大きな影響を与えてくれており、中でもサンプドリア戦においては相手の強めのプレッシャーを掻い潜るためのパスの出し手として躍動。先制ゴールのシーンにおけるロングボールを始め、速攻の起点となるパスを多く供給してくれました。

――例えばこの場面。メニャンがボールをキープし、前方の状況を確認。ここでは相手ボランチのトルスビーがメニャンにプレスをかけにくる。

――メニャンがキックモーションに入る。角度とキックモーションにより、前方~右方向への(ロング)キックだと相手に予測させる

――しかし、実際にメニャンが選択したのは左斜め前方のブラヒムへのショートパス。

――メニャンによる相手の虚をつく見事なパスにより、ブラヒムはドフリーでボールを持つことに成功した
チームメイトとの連携が深まれば更に良くなると思いますし、期待大です。
○ケアー
ショートパスによる繋ぎの面で特筆すべき点はないものの、鋭く正確なロングフィードによるチャンスメイクは健在。サンプドリア戦後半に見せた、左サイドのレオンに送ったパスは流石の一言でしたね。

――ケアーから左サイドに張るレオン(赤)にロングパス

――その後の場面。そのボールを受けたレオンは対面の相手を躱してそのままエリア内に侵入。決定機を作り出した
○トモリ
トナーリ等の下がる動きに応じて左サイドに流れたり、前方のスペースにボールを運んだりといった柔軟性を感じる場面がちらほら。また、昨季から縦パスの意欲は高かったものの、今季はその精度が上がっている印象を受けますね。

――例えばこの場面。ここではカラブリア、ケアーと3バックを形成。トモリは相手2トップの横にポジショニングし、ケアーからパスを引き出してボールを前進させた
○カラブリア
下がって3バックの一角となるパターンとそのままサイドで組み立てに参加するパターンを使い分けつつ、攻撃参加の際には同サイドのサレマと息の合ったプレーを披露。昨季に引き続いて内と外の両方でプレーする柔軟性の高さを見せつけています。
今後の注目は、攻撃参加時にどれだけチャンスを作り出せるかという点でしょうか。例えばサレマがサイドに張った際に、カラブリアが内のハーフスペースを駆け上がりエリア近辺でボールを受ける状況があるわけですが、そういうときに正確なミドルシュートやロブパス・クロスで継続的にチャンスを作り出せれば、選手としてより高みに到達できるかなと。

――例えばこの場面。サレマがサイドに張り、カラブリアがハーフスペースに侵入してブラヒムからパスを引き出す

――その後、カラブリアはミドルシュートを放った
○テオ
相変わらず上手くハマったときの個としての破壊力は申し分なく、カリアリ戦においては2、3点目に関与するなど流石の攻撃力を披露。

――3点目の場面。相手のサイドチェンジをカットしたテオは、そのまま中央へドリブルで進んで相手を引き付けてからライン間のブラヒムにパス

――その後の場面。ブラヒムがドリブルで持ち運ぶ間、テオはエリア内へと勢い良くフリーランニング

――その後の場面。テオがフリーランニングにより相手を引き付けたことで、ジルーへのパスコースが空く。そこへブラヒムが冷静にパスを通し、そのボールを受けたジルーが見事なシュートでネットを揺らした
ただし、全体を通して本領を発揮し切れているかというとそのようには感じられず、その原因の一つはやはり同サイドのレオンとの連係面にあると思われます。
ワンツーの壁役になるなどしてテオの持ち上がりをサポートしてくれるレビッチとは異なり、レオンは自らがドリブルで積極的に仕掛けるプレースタイルのためテオとはあまり相性が良くないですし、現状は2人の個性が調和していない印象ですね。
○トナーリ
この2試合では相方のクルニッチと中盤でバランスを取りながら、最終ラインに下がるなどして後方でボールを引き出す役割を主に担当。

――この場面ではトナーリが最終ラインでボールを受ける。それに伴いトモリが左サイドに流れ、そこへトナーリがパスを通す。その後、チームは左サイドから中央、右サイドにボールを展開し、相手ゴール前に侵入。得点チャンスに繋がった
昨季はその消極さ故にピッチで行方不明になることも多々ありましたが、今季は主体的に組み立てに関与しようとする意識が感じられます。また、トランジション時には素早く縦に付けるパスを出したり、ドリブルで前に持ち運んだり等、縦への積極的なプレーが見られるようになりました。
加えて、カリアリ戦では直接FKを決め、新プレースキッカーとして早速結果を残すなど、非常に良い形でシーズンに入ることができていますし、今後は更に大きく成長してくれるのではいかと期待が高まりますね。
ところで、昨季はトナーリの完成形が見えずに個人的に頭を悩ませましたが、今季のプレーを見るにおそらくは何かしらのスペシャリストではなく攻守のあらゆる局面にて貢献するオールラウンダータイプが理想なのではないかと感じます。そういう意味では、これまでピルロやガットゥーゾといった「スペシャリスト」と様々な点で比較されてきたトナーリですが、彼らとはハッキリと異なる選手になることが予想されますね。
そして、現代サッカーにおいてはむしろ中盤にはオールラウンダーなタイプが求められていますから、今後のミランにおいてトナーリが中盤の軸になる可能性は十分にあるのではないかと。というわけで、彼の更なる成長が本当に楽しみです。
○クルニッチ
サンプドリア戦では相手のボランチが自身にタイトにマークしてきたため、下がって相手をそのまま前に引き付けることで、同様に前線から下りてくるブラヒムにスペースを提供するなどして貢献。試合後のピオリ監督の口ぶりからするに、これはチーム戦術だったわけですが、ポジショニングセンスに長けたクルニッチの動きを活かす形の一つだったかなと。
また、カリアリ戦では主に相手の1~2列目でパスを引き出し、そこで相手を引き付けたり前方にパスを付けたりするなどして貢献。

――例えばこの場面。右サイドからカラブリアがボールを持ち出し、1~2列目の間でフリーのクルニッチにパス

――その後の場面。カリアリの中盤は前に出られず、前線のプレスバックも間に合わないため、クルニッチは時間とスペースを得る。そして、ライン間のブラヒムへと正確な縦パスを供給した
守備強度の高い相手と戦うときにどうなるかっていうのはありますが、今回のような相手であれば十分に通用しますし、引き続きボランチ・2列目の控えとしてクルニッチを重宝することは間違いないはずです。
○サレマ
優れたインテリジェンスと流動的な動きを武器とする彼は、今季もサイドと内でのプレーを使い分けてチームの多彩な攻撃に大きく貢献してくれています。
カリアリ戦では基本ポジションである右サイド起点のプレーが多かったものの、サンプドリア戦では積極的に中央、時には左サイドに顔を出して局所的に数的優位を作るなどして相手を惑わしていきました。

――例えばこの場面。サイドに流れたクルニッチがボールを持った際、サレマが左サイドに顔を出すことで、ブラヒムと共に相手ボランチのトルスビーに対し数的優位を作り出す。そこで、クルニッチはブラヒムにパス

――その後の場面。ボールを受けたブラヒムに対し、トルスビーが背後のサレマを警戒しながら寄せる。しかしサレマはその背後でスペースへと動き、ブラヒムからパスを引き出す

――その後の場面。サレマが前を向き、速攻を仕掛けた
そして、もう一つ注目したいのがクロスです。
サレマは順足となる右サイドでのプレーが基本であるため、右サイド深くからのプレー選択肢はカットインではなくクロスがメインとなります。この点、サレマのクロスというのはまだ十分に驚異とはなっていないものの、チャンスに繋がりかけるシーンというのはチラホラ見られており、特にジルーに合わせるクロスには可能性を感じます。
サレマはチームへの貢献度の高さの割に未だそこまで評価されていませんが、その原因の大半がファイナルサードでのプレー精度(=ゴール・アシストの少なさ)にあることは間違いないでしょう。
その意味で、ここを改善できれば紛う事なきチームの中心選手の1人と評されるはずですし、個人的に大好きな選手ということもあり是非とも頑張って欲しいと思います。
○ブラヒム
サンプドリア戦では積極的に下がってボールを引き出し、そのままドリブルで持ち運んで前進させる役割を遂行。
相手の2トップとダブルボランチがミランの2CBとダブルボランチをタイトにマークする中、その背後でパスを引き出してボールを運んでいくブラヒムの存在は戦術的に非常に重要なものがありました。

――例えばこの場面。左サイドのトモリにボールが渡り、そこにアタックするCFガッビアディーニ。その際クルニッチは最終ラインに下がって相手ボランチのトルスビーを前に引き付けており、それにより空いている中盤のスペースにブラヒムが動いてトモリからボールを引き出す。また、ここではテオが前線で内に絞って右CB吉田を牽制することで、吉田が前に出辛い状況を作り出している(赤)

――ボールを受けたブラヒムに対し、やや遅れて吉田とプレスバックしたトルスビーが対応。しかし、ここで時間を得ていたブラヒムは前を向き、2人を躱してドリブルで前に運ぶ

――その後の場面。斜めに走り込んできたレオンにブラヒムがパス。惜しくもオフサイドとなったが、チャンスを作り出した
続くカリアリ戦もライン間での引き出しやドリブルでのボール運びで攻撃の中心的な役割を担うと、幅広く動き回って3点に絡む大活躍。
ここまで組み立て・崩しの両局面で素晴らしい貢献を果たしてくれていますし、少々ボールホルダーに寄り過ぎな場面も見られますが、そういった面も「主体性の高さ」と好意的に解釈し得るほどの活躍ぶりです。
ただ、今後気になる点としてはやはり「確実に計算できる他のトップ下の不在」により、ブラヒム酷使の可能性があるということと、酷使による疲労蓄積や負傷のリスクの増加です。
ブラヒムのプレースタイル的に、疲労が溜まり動きが鈍った際に活躍できるかというのは怪しいところがありますし、今後の連戦によりどこまで良好なコンディションを維持できるのかも未知数です。
というのも昨季は定期的にベンチに座る期間があり、それがシーズン終盤のブーストに繋がった側面もあると思うのですが、今季はこのままだと定期的に休みを与えるのは難しいものがありますからね。
というわけで、ダニエル・マルディーニをなどがブラヒムに代わるトップ下として台頭してきてくれるか、はたまたシステムを少し弄ってブラヒムの不在をカバーする組織を構築することが求められると思います。ブラヒムの実力・将来性に疑いの余地はないだけに、過度の負担はかけず上手に起用していきたいですね。
○レオン
フィジカルコンディションの良さはこの2試合でハッキリと見受けられ、特にカリアリ戦では積極的にドリブルで仕掛けてチャンスを演出。
また、以前はそのフィジカルの割に軽いプレーが散見されたものの、最近は相手ゴール近くでフィジカルを活かしてのボールキープなど球際での粘り強いプレーが増えてきた印象です。
それと、新加入選手であるメニャンによる後方からのロングボールや、近くのジルーのポストプレーによりレオンのシンプルな縦へのスピードが活かされる場面が見られます。

――例えばこの場面。サイドでボールを受けたレオンは、手前のブラヒムにボールを預けてワンツー突破を図る。

――その後の場面。ブラヒムからリターンを受けたレオンはそのまま縦にドリブルで持ち運び、最終的にエリア内にクロスを供給した
もしも味方との相互理解が深まり、味方に活かされるプレーと味方を活かすプレーの双方に磨きがかかればパフォーマンスは間違いなく更に上がるでしょうし、こういった部分は今後のレオンの最大の課題にして伸びしろではないかと思われますね。
○ジルー
前線でのポストプレーで2列目以下の味方を的確にサポートしつつ、自らもここまで2ゴールを決める大活躍を披露。
イブラは運動量の少なくなった今でも比較的動き回り、時には組み立てにも積極的に関与しようとするわけですが、ジルーはより前線の基準点としての役割に専念している印象です(ビルドアップ時のサポートはありますが)。そして、パスを受けたら周囲の味方に手早くボールを預け、ゴール前での崩しに貢献していく、と。

――例えばこの場面。トモリから縦パスを受けたジルーは見事なワンタッチで裏のスペースにボールを転がす。そこへレオンが抜け出し、決定機を作り出した
また、クロスのターゲットとしても期待通り機能しており、公式戦ではクロスからのゴールこそ未だありませんが既にその脅威は十分に感じられますね。
不幸にもコロナに感染してしまい一時的に戦線離脱となりましたが、加入して間もなくチームのリーダーの1人として申し分のない働きを見せてくれていますし、今後の更なるフィットによる活躍が本当に楽しみです。
というわけで、今回は以上となります。
言及した選手はスタメンのみ、それも攻撃に関する話だけでしたが予想以上に書くことが多くなってしまいました。もし今後同様の記事を書くことがあれば、各選手について1人当たりの話題を増やすために記事をポジション毎に小分けにしたいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。