【強さの証明】ミラン対カリアリ【2021-22シーズン・セリエA第2節】
スタメン

基本フォーメーション:ミラン「4-2-3-1」、カリアリ「5-3-2」
◎試合概要
今シーズン初のホーム戦となったカリアリ戦。長期間の規制を経て、再びスタジアムへと戻ってきた多くの観客の後押しを受けたミランが序盤から積極的な姿勢を見せると、12分に早くも先制。相手ゴール前で得たFKのチャンスをトナーリがモノにし、素晴らしいシュートを直接ネットに突き刺した。その3分後にはカリアリのデイオラに同点弾も奪われるも、ミランはすぐに反撃。17分、レオンのシュートがブラヒムに当たってコースが変わり、ボールはそのままゴールに吸い込まれるラッキーな形で勝ち越し点を獲得した。
その後も試合の主導権を握ったミランは24分と43分に追加点をゲット。前者はカウンターの場面にて、テオが素晴らしいフリーランニングで相手を引き付けてジルーへのパスコースを提供。そこへブラヒムが的確な判断でパスを送り、ジルーが冷静なダイレクトシュートでネットを揺らした。また、後者の得点はPK。ブラヒムのシュートが相手の腕に当たってミランがPKを獲得すると、再びジルーがこのチャンスをモノにした。
前半だけで4得点を奪ったミランは後半も優勢に試合を進める。結果的に追加点を奪うには至らなかったものの、試合のリズムをコントロールしてカリアリの反撃も許さず。試合はそのまま4-1で終了した。
○スローイン時の守備
さて。ここからはいつも通り、試合における戦術的な事柄について見ていきます。
まずは、先制点のFKに繋がった一連のシーンについてです。

――左サイド深くからのカリアリのスローイン。人数をかけるミラン。そのこぼれ球にはジルーが反応し、サレマにワンタッチでパスを送る

――ボールを受けたサレマはその後、ファールを受けてゴール前でFKを獲得した(赤)
前回も少し書きましたが、相手スローインからの守備というのはミランの一つのポイントで、その際には片側サイドに多くの人数をかけてボールを奪いにかかります。
このシーンでも敵陣深くのスローインからボールを奪い、その後にファールを受けてFKを獲得。このFKをトナーリが直接決めました。
ただし、片側サイドに人数をかけるという事は逆サイドにスペースを作ることになるため、ボールを奪えずに相手にキープされ、逆サイドに展開されるとピンチになり得ます。実際、この試合の失点シーンでは相手スローインの流れからボールを奪えず、逆サイドに展開され押し込まれたことが原因となっています。

――ペドロがスローインを受ける。ここではトモリがペドロをタイトにマークし、ボールが浮いたところをトナーリと挟み込んで奪おうとする

――その後の場面。ペドロは何とかボールをキープし、左サイドの味方へとボールを展開する

――その後の場面。左サイドからクロスを上げるカリアリ。その際、ミランは押し込まれた影響でバイタルが空き、そこにはペドロがフリーで侵入しようとしている

――その後の場面。クロスのクリアボールがフリーのペドロに渡る。トモリが急いで対応するも間に合わず、ペドロのエリア内へのロブパスにデイオラが合わせてカリアリが同点に追いついた
ミランはチーム全体にトランジションの意識が根付いていますし、この試合においても大体の場面においてはしっかりと素早いトランジションを見せていたわけですが、このシーンなどはブラヒム、レオンのどちらかがもう少しペドロに注意を向け、バイタルをケアすべく迅速に戻るべきだったかなぁと思います。
○中央突破
さて。続いてはミランの攻撃に話を移します。
守備時に5-3-2で守るカリアリに対し、この試合のミランは主に「中央経由による崩し」と「サイド突破からのクロス」の2パターンを用い、チャンスを量産していきました。
まずは前者についてですが、こちらは主に相手2トップの背後にポジションを取るクルニッチが重要な役割を担当します。
具体的に。ミランは最終ライン4枚+トナーリが中心となり、立ち位置を頻繁に変えながら後方で組み立てつつ、クルニッチは基本的に相手2トップの背後や間でボールを引き出すという形ですね。
5-3-2の攻略ポイントの1つには「1列目(2CF)と2列目(3MF)の間でボールを受ける」というのがあります。これをやられると守備側としては、ボールホルダーに自由にプレーさせないためには1列目が急いでプレスバックするか中盤が前に出ることを余儀なくされ、こうした相手の対応を逆手に取ることで、攻撃側が優位にゲームを進めることが可能になります。
そこで、こうした形を活かしてミランはボールを展開し、その後はブラヒムやジルー等アタッカーを中心としたフィニッシュの局面へと移行。9分には早速決定機を作り出すことに成功しました。

――左のトモリからボールを受けたクルニッチ。その際、相手の中盤の1人であるデイオラがクルニッチへプレスをかけにくる。そこでクルニッチはケアーへのバックパスを選択

――その後の場面。ボールを受けたケアーは左サイドのトモリに展開。その際、カリアリの中盤はデイオラが前に釣り出された影響で2枚となっている。

――その後の場面。トモリは2枚の中盤の間を通し、ジルーに縦パスを供給。そして、ジルーの裏へのフリックにレオンが抜け出し、決定機を作り出した
そして、前半17分に得たチーム2点目についても、中央のクルニッチを経由してブラヒム→テオ→レオンと繋いでネットを揺らしています。

――2点目のシーンについて。右サイドからカラブリアがボールを持ち出し、1~2列目の間でフリーのクルニッチにパス

――その後の場面。カリアリの中盤は前に出られず、前線のプレスバックも間に合わないため、クルニッチは時間とスペースを得る。そして、ライン間のブラヒムへと正確な縦パスを供給

――ブラヒムがドリブルでここまで持ち運び、近くのテオに預ける。その後、テオからパスを受けたレオンがシュートを放ち、2点目を決めた
最終的なゴール自体は偶然性の高いものでしたが、それまでの流れは意図した良い形だったのではないかと思います。
ところで、クルニッチは元々ポジショニングセンスに優れていましたが、今季はそこに安定したパス技術と落ち着きを身に付けたことで選手として一皮むけた印象を受けますね。
こういう戦術的柔軟性があり、かつ控えの立場でも文句一つ言わない選手っていうのは長いリーグ戦を戦い抜く上で非常に貴重な選手だと思いますし、一時期移籍の噂もありましたが残ってくれてホントに良かったと思います。
○サイド突破
もう一つの主な攻め手は「サイド突破」です。この点について、サイドハーフのレオンやサレマが普段(積極的に内に絞る)とは少し異なりサイドを起点にプレーする場面を増やすことで、SBやブラヒム等と連動しながら積極的にサイド突破に絡んでいきました。
一応、前節のサレマと今節のサレマのボールタッチポジションの違いを確認しておきましょう。

――参考1:前節サンプドリア戦におけるサレマのボールタッチポジション(左攻め。『WhoScored』より)。右サイドだけでなく、中央エリアや左サイドでも積極的にボールタッチしている

――参考2:今節カリアリ戦におけるサレマのボールタッチポジション(右攻め)。サンプドリア戦に比べ、ボールタッチは基本ポジションである右サイドに集中している
5-3-2の守備だと中央に人が多いため、素直に中央やハーフスペースに縦パスを入れてもそこでキープしたり、相手守備陣を崩したりするのは難しいものがあります。そのため、先述のように第一プレッシャーラインの背後でボールを引き出して相手の中盤を引き出すとか、今回言及するようにサイドの比較的スペースのある場所でボールを持ち、連携でサイドを崩してからクロスといった形でチャンスを作っていく、と。
今のミランにはターゲットマンとしてイブラ不在時にもジルーがいるため、クロスから得点の匂いが十分にしますしね。
そして、この点に関し重要な役割を担ったのがレオンでした。彼が積極的にサイドからドリブルで仕掛けてチャンスを作り出していきます。

――例えばこの場面。サイドでボールを受けたレオンは、手前のブラヒムにボールを預けてワンツー突破を図る。

――その後の場面。ブラヒムからリターンを受けたレオンはそのまま縦にドリブルで持ち運び、最終的にエリア内にクロスを供給した
レオンは未だに周囲の味方との連携が十分に取れているとは言い難いものの、彼個人のコンディションとしてはすこぶる良いように見受けられますし、この試合では彼のドリブルや圧倒的なフィジカル・スピードにより多くのチャンスを作ったのは紛れもない事実です。チーム4点目となるPKの獲得も、右サイドで彼が見事なドリブルを披露して相手守備陣を翻弄し・崩したことがキッカケですしね。
やはりレオンの個人能力(ポテンシャル含)は申し分ないものがありますし、結局のところ個人技というのは相手の守備を崩し切る上でどうしたって求められるものですから、その意味でレオンという存在はチームにとって重要だなと改めて感じました。
○守備
最後に。カリアリの攻撃と、それに対するミランの守備についてです。
カリアリは攻撃時に後方から繋ぐ意思を見せつつも、隙あらばパワーのある2トップに縦パスやロングボールを供給し、速攻を狙いに行く形が基本。
一方のミランはプレスで対応。普段通りパスコースの限定とコンパクトな守備の両方を重視し、相手のビルドアップを妨害していきます。
この点、前節のサンプドリア戦と同様にトナーリとクルニッチの幅広い守備が効いており、豊富な運動量と献身性によりしっかりとスペース・選択肢を消す守備を遂行。
少なくともセリエAの中下位クラブに対しては十分に通用することを証明してくれています。
他方、それ以外に強調しておきたいのはやはり2CBのケアーとトモリの頑強さです。
前述の通りパワフルな2トップ(ペドロ・パヴォレッティ)へのパスを多用してくるカリアリに対し、時に1対1で対応することを余儀なくされながらも粘り強い対応で自由にさせないミランの2CB。特にケアーは相手キープレイヤーのペドロを(先述の失点シーン以外)地上戦・空中戦問わずほぼ完璧に封じ込める素晴らしいパフォーマンスでした。

――例えばこの場面。ハイプレスをかけるミランに対し、カリアリは前線のパヴォレッティ(画面外)に縦パスを供給

――その後の場面。パヴォレッティがフリックし、ペドロにボールを預ける

――その後の場面。しかしケアーがタイトにマークしてペドロに前を向かせず。(赤)
厳しくマークに付き、時にはファールを与えつつも、イエローカードをもらわないレベルで止めているのは流石の一言。
後半、倒されたペドロが審判にうんざりした表情を見せていたのは印象的でした。

――参考3:この試合におけるファール数ランキング。ケアーは両チームトップとなる4回を記録したが、イエローカードは貰わなかった
こういう試合だとアタッカー陣の好パフォーマンスに目が向きがちですが、一方でケアーとトモリがミランの堅守に果たす役割の大きさというのも改めて感じるべき試合だったかなと。
さて。そんなわけでミランはカリアリの反撃を1失点に抑え、4-1で試合を終わらせました。
ミラン4-1カリアリ
雑感
有観客の中、ホームで4-1と大勝を収めたミラン。
昨季はホーム戦成績がアウェー戦と比較して悪かったり、また逆にロックダウン後の通算成績が良かったことから「観客がいない方が強いのでは?」などといった説も一部でまことしやかに囁かれたりしましたが、そうしたネガティブな話を吹き飛ばす大勝劇だったと思います。多くのサポーターの前で、今のミランが持つ「強さ」をはっきりと示すことができましたね。
ここから更にイブラやケシエの戦列復帰ですとか、ペッレグリやフロレンツィ等新加入選手のフィットがあることを考えるとチームとしての伸びしろは大きいと思いますし、早くも代表ウィーク明けが楽しみです。
最後に、目下気がかりなことはやはりメルカート最終盤におけるミランの動向です。
残るミランの補強ポイントはトップ下と右サイドとされており、ここの補強が完了すればアタッカー陣の層はだいぶ変わります。
ここ最近のミランの動向を見るに、あと1人で精一杯という印象ですが、少なくともトップ下だけは確実に補強してもらいたいところです。
Forza Milan!
最後まで読んでいただきありがとうございました。