トンマーゾ・ポベガのプレースタイルについて~証明した「可能性」~
ミランの2021-22プレシーズンがスタートして1週間以上が経ちました。
ケアーを始めとする国際大会へ参加した選手たちは遅めのバカンス中、またイブラやカラブリアは負傷中といったように、現時点で多くの主力が完全に合流できてはいないものの、既に新シーズンに向けた監督へのアピール合戦は行われています。
そんな中、ミランは先日セリエCのSSDプロ・セストと練習試合を実施。6-0と完勝を収めました。
(※フルマッチ動画)
この試合で後半から出場し、後半にミランが奪った3得点全てに絡んだのがトンマーゾ・ポベガです。
昨季はスペツィアにレンタル移籍し、20試合で6ゴールをマーク。このように確かな成長を遂げてミランに復帰し、復帰早々の練習試合にてアピールに成功しました。
今回はそんなポベガについて、この試合を主な判断材料として彼のプレースタイルや特長を探っていこうかなと。
〇ポベガのプレースタイル ~VSプロ・セスト~
プロ・セスト戦で見られたポベガの特徴としては、まず「素早く正確なパス判断」と「高いキック力」が挙げられます。
この試合では2ボランチの一角として出場したポベガ。そのためビルドアップ時には相手のプレッシャーを受けながら後方でボールを引き出す動きを何度か求められたわけですが、そうした際にも冷静に対処していきました。

――例えばこの場面。ミランがバックパスでキーパーまでボールを戻し、それに応じてプロ・セストがプレッシャーを強める。ここで、ポベガが周囲のマーク状況を見ながら下がり、キーパーからボールを引き出す

――その後の場面。ポベガはワンタッチで右サイドにいるフリーのカルダーラ(画面外)に正確なパスを送る。相手の左SHはミランのCBスタンガを見ていたため、流れの中で右にいたCBカルダーラへの対応に遅れる

――その後の場面。カルダーラからコンティにパス。

――このようにしてプロセストのプレスを突破した
ただ、プロ・セストが組織的かつ激しいプレスをかけてくるシーンはほとんどなく、そのため組み立ての局面においてポベガにかかる負担は大きくありませんでしたね。ですので、よりレベルの高い試合でも同様に落ち着いて捌けるかというのは今後の注目ポイントではないかと。
続いて崩しの局面についてですが、この局面でポベガは本領を発揮し次々と見せ場を作っていきました。

――例えばこの場面。ボランチのエンリコが中央でボールを持ち、その後左サイドにロングボールを送る。その間、ポベガ(赤)は周囲を確認して自身に相手CHとSHが付いていること、それによりその背後にスペースがあることを認識

――その後の場面。エンリコから左SBケルケス(黄)にボールが渡る。それと同時にポベガは対面のマーカーを振り切り、前方のライン間にいち早く侵入する

――その後の場面。ケルケスからライン間でフリーのポベガにパス。それにより、ミラン左サイドのハウゲ(緑)を監視していた相手SBはポベガに対応にいく。

――その後の場面。ボールを受けたポベガはワンタッチで左サイドのハウゲにパスを出し、SBを躱す

――このようにしてポベガが中継役となり、ボール運びに貢献した
スペースを見つけるための「認識力(視野の広さ)」、そしてスペースへといち早く侵入するための「運動量と(判断)スピード」、更にそこでパスを受けてから素早くボールを叩くための「判断力やパス精度」…。上記の場面においてはこうした複数の能力が求められると思いますが、ポベガはそのいずれもが水準以上であるように見受けられました。
また、先述の通りキック力があるため、サイドチェンジやロブパスといった長短の様々なパスが出せます。加えて「縦への意識が強い」ため、積極的に縦パス・スルーパスを通してチャンスを演出しました。

――例えばこの場面。中央のポベガから左にサイドチェンジのパスが送られる

――その後の場面。ケルケスがその正確なロングパスを受ける。そして、そこへ対応した相手SBの背後にハウゲがランニングしてスルーパスを引き出すことで、惜しい形を作り出した
更に、エリア付近では味方と連携しながら自らもゴールに迫ります。

――例えばこの場面。ボールホルダーのコンティ、前線のコロンボ、ライン間のポベガで崩しを図る。そこで、まずはコロンボがコンティからパスを引き出す

――その後の場面。コロンボのレイオフによりボールはポベガへ。一方、ポベガはボールが届く短い間に背後を確認し、ハウゲの存在とプレスバックしてきた相手CHの存在を認識する

――その後の場面。ポベガはワンタッチでハウゲにボールを流し、プレスバックを躱して動き直す

――その後の場面。ハウゲから素早いリターンパスを受けたポベガがフリーでシュートを放った
このシーンは(も)実際に映像を観てもらった方が分かりやすいですが、彼の視野と冷静さが光った好プレーだったと思います。
さて。結果的にこの試合では、ポベガの強烈なミドルシュートが相手GKのオウンゴールを誘発してチームの4点目をゲット。その後も2アシストを記録するなど素晴らしい活躍を披露しました。
本来はより前方に立ち位置を取りやすいインサイドハーフの方が彼にとってやり易いのでしょうが、こうして2ボランチの一角としても結果を残してくれたのはチームにとっても収穫です。今後レベルの高い相手と対戦した時にどうなるかは未知数ですが、少なくともミランのボランチとしての可能性はしっかりと示してくれたと思います。
最後にトランジションの局面についてですが、この部分においてもポベガはいくつかの見せ場を作ります。
まずはネガティブトランジションの局面です。

――例えばこの場面。ミランのシュートのこぼれ球が相手CHに流れる。そこへポベガが対応

――ポベガの素早いチェックにより相手はボールロスト。再びミランボールとなった
対戦相手のレベルが高くなかったこともあり、守備やネガトラにおいてもほとんど苦戦することなく安定したパフォーマンスを披露しました。
続いて、ポジティブトランジションです。

――例えばこの場面。相手のロングボールをケルケスがカットし、ボールはポベガに渡る。一方、相手のCHはポベガのトラップ際を狙ってカウンタープレスを仕掛ける

――その後の場面。ポベガは相手のプレスに動じることなく前方のカポネに縦パスを通す

――その後の場面。カポネが中に切り込む間、ポベガはエリア内へ勢い良く飛び込んでいく

――その後の場面。カポネの中央へのパスが合わずに相手ボールとなったが、ポベガのパスを起点に惜しい形を作り出した
この局面においても、彼の素早い判断力や縦への意識が活きています。
攻守における素早いトランジションというはピオリ・ミランに強く求められる要素であるわけですが、この点についてポベガは十分な素質を持っているように見受けられますね。
〇おわりに
現在ポベガはチームの補強資金捻出の必要性により、アタランタ等への移籍の噂が報じられています。
しかし、上記のプロセスト戦での好パフォーマンスやボランチの層の薄さ等を考慮すると、果たしてポベガをすぐに売却するという判断が正しいのかどうかは大いに疑問の余地があります。
というのも、ポベガが今シーズンのミランの貴重な戦力になる可能性は十分にあると思いますし、またアタランタのような順位上のライバルクラブに彼のような有望選手を放出するというのは決して得策ではありません。
それに、生え抜き選手には自チームで活躍して欲しいという心情的な理由もありますしね。
いずれにせよ、現時点でポベガの売却を決めるというのは明らかに早計だと思うので、今後の練習やプレシーズンマッチでのパフォーマンス、かつチームの補強・放出状況を十分に考慮した上で判断して欲しいと思います。
ちなみに僕としてはポベガに大いなる可能性を感じているのでミランに残留して欲しいですし、彼が無事にチームに残れるよう、このプレシーズン期間に説得力のあるパフォーマンスを見せ続けてくれることを願っています。
それでは今回はこの辺で。