【鉄壁の守備と最高のフィナーレ】 アタランタ対ミラン 【2020-21シーズン・セリエA第38節】
スタメン

3-4-2-1のアタランタと4-2-3-1のミラン。
○ミランの守備システム
この試合より前の戦績を振り返ると、ピオリ・ミランはアタランタと3度対戦し1分け2敗と未勝利。スコアも「0-5、1-1、0-3」と惨憺たるものでした。
また、そういったアタランタ戦においてミランは同様のやられ方を露呈してしまっており、その最たる例が①自身のハイプレスを躱される、②相手にサイド(主に左)から押し込まれる、③空けたバイタルを使われチャンスを量産される、といったものです。
そこで今回のピオリ監督はしっかりと対策を講じ、見事な守備組織を構築することで上記の負けパターンを完全に回避。
結果的に無失点に抑えることに成功しました
○アタランタの左サイド封じ
具体的に見ていきましょう。まずはこの試合、ミランは守備時に普段よりもラインを下げて対応します。
ハイプレスはネガティブトランジション時など限定的にし、基本的にはアタランタの最終ラインにボールを持たせました。
その結果、ボールポゼッション率についてはアタランタが圧倒。長い時間ボールを保持します。
しかし、結局はボールを握らせてもチャンスを作らせなければ良いわけで、ミランは自陣への侵入こそ許しますが、そこからはアタランタのサイド(主に左)を使った攻撃を徹底的に封じ込めました。

――参考1:この試合のボール支配率およびシュートスタッツについて(『SofaScore』より)アタランタは「70%」ものボール支配率を記録したものの、枠内シュート数はわずか「1本」にとどまっている
その際のポイントの1つとして、まず守備時におけるサレマの(実質)WB化が挙げられます。

――ミランの守備陣形について。最終ラインに入るサレマ(赤)。一方、他の2列目のチャルとブラヒムはレオンの両脇に入る形が基本
このようにして、サレマは対面の相手選手(多くはWBゴセンス)にマンマークで付く形を徹底。それによりアタランタの人数をかけたサイド攻撃に対し、ほぼ常に数的同数以上で対処することが可能になりました。

――例えばこの場面。ここではボールホルダーのジムシティに対し、ベナセルが前に出て対応。一方、サレマは大外のゴセンスをマーク。これにより、カラブリアが内寄りのポジションを取ることができ、シャドーのペッシーナをしっかりとマークできる

――その後の場面。アタランタはジムシティからゴセンス、ゴセンスからペッシーナと繋いでいこうとするが、ミランのプレッシャーにより繋げられず。ゴセンスのパスはラインを割り、ミランのスローインとなった
そして、もう一つのポイントがブラヒムとチャルハノールです。基本的に彼らは、守備時にまず1トップであるレオンのやや後方に入り、それぞれ中央のパスコースを封鎖。その後、相手がサイドにボールを持ち運んだあとは少し後方のCBやボランチをマークし、相手のバックパスを警戒します。

――例えばこの場面。ジムシティ(黄色)が左サイドでボールを持った際、チャルハノール(ここでは流れの中でブラヒムとポジションを交代)はやや後方のフロイラーをマーク
これをやることで、アタランタによる「バックパスからの中央へパスorドリブル」という流れでスペースに展開する形を抑制し、そのまま同サイドに封じ込めることが可能になりますね

――その後の場面。実際にフロイラーにパスが出るが、ここはチャルハノールが対応し、中央への展開を阻止

――その後の場面。今度はデ・ローンが左サイドへ顔を出して展開を図るも、そこにはブラヒムが対応

――最終的にアタランタはGKにボールを戻し、最後方からのやり直しを余儀なくされた
また、アタランタには「最前線のサパタにキープさせ、相手を押し込む」という手があるわけですが、そこはケアーが粘り強い守備で対応し、封じ込めていきます。

――例えばこの場面。左サイドから前方のサパタに縦パスが入る。ここはケアーが対応

――その後、ケアーは自陣サイド深くで粘り強く対応(赤)。最終的にミランのゴールキックにした
更に、アタランタの強力な武器である「流動的なポジションチェンジによる攻撃」に対しても、ミランは周囲と上手く連動することで、スペースを空けることなく対処していきます。

――例えばこの場面。ここではフロイラーが下がってボールを受け、CBのジムシティがサイドに張り、WBゴセンスが内寄りにポジショニング。そして、シャドーのペッシーナが中盤に入る。そこでミランは、ブラヒムがゴセンスをマークし、ボールホルダーのフロイラーにはベナセルが対応しに行く

――その後の場面。フロイラーが近くのペッシーナにボールを預けるが、そのペッシーナに対してはケシエが付く。

――その後の場面。ペッシーナはサイドのジムシティにボールを預け、前進するもケシエがマークを外すことなく付いていく。また、ペッシーナの前進に合わせてフロイラーはやや後退するが、こちらもベナセルが監視。そして、前線に侵入したゴセンスにはカラブリアが付き、ブラヒムは中央へのパスコースを閉じる。ボールホルダーのジムシティにはサレマが対応

――その後の場面。ジムシティの縦パスをサレマがカット

――そのこぼれ球を中央のチャルハノールが拾った
今までだったら「左サイドから押し込まれ、そこから中央ないしハーフスペースにいるイリチッチ(orマリノフスキー)に展開されてピンチ」というのが1つの定番の形でしたが、このように攻撃の起点となる左サイドをキッチリと抑えることでそうしたピンチを未然に防ぐことができますね。
一応、比較として1年前のアタランタ戦(1-1で引き分け)におけるワンシーンを参照しておきましょう。

――例えば、以前の試合におけるこの場面。左サイド後方からボールを運んできたジムシティに対し、ミランは中盤3枚(ダブルボランチ+右サイドハーフ)が絞って対応。一方、レビッチ(黄丸。左サイドハーフ)は前方に残る。そこで、マリノフスキーが中央でパスを受ける機会を窺う

――その後の場面。マリノフスキーがジムシティからボールを受ける。ビリアがスライドして対応するも、マリノフスキーは後方から上がってきたデ・ローン(緑丸)にパス。この後、デ・ローンはそのまま前のスペースに持ち運び、最終的にミドルシュートを放った
○マリノフスキー封じ
前回までと異なり、今回は上手くアタランタの左サイド攻撃を抑制したミランでしたが、左から中央へパスを通された(通されそうになった)場合の対策もしっかりとしています。
まず、アタランタに左から攻め込まれた場合はチャルハノールを中盤ラインに下げ、中央のスペースを埋めさせるというのが一つ。前述のキャプチャ画像のように、以前だったらレビッチ等を始めとする左サイドハーフの選手がそこまでガッツリと戻らなかったわけですが、今回はパスを出される前にしっかりと危険なスペースを埋めようとしたわけですね。

――例えばこの場面。左サイドからの押し込み→バックパスにより、ここではジムシティが中央へのドリブルを開始。バイタルにはサパタとマリノフスキーが構えている

――その後の場面。チャルがケシエと共にサパタへのパスを警戒。また、マリノフスキーにはトモリがマーク。ジムシティはパスを選択するも、中央のスペースが狭い状況

――その後の場面。パスは合わず、トモリにクリアされた
そして、ミラン戦までの直近10試合で6ゴール9アシストを記録していた右シャドーのマリノフスキーは特に要注意人物だったわけですが、彼に対してはトモリが徹底的にマークし、自由にプレーさせません。

――例えばこの場面。右ハーフスペースのマリノフスキーにパスが出る。そこにはトモリが対応。

――トモリの厳しいチェックにより、マリノフスキーは前を向けず。最終的にベナセルのカットでミランボールとなった
また、アタランタが右サイドから組み立て~崩そうとする際には積極的にマリノフスキーが絡んでいこうとするわけですが、そこにもトモリがしつこく付いていくシーンが散見されました。

――例えばこの場面。CBからのパスを受けるため下がってきたマリノフスキー。そこにはトモリも付いていく
イリチッチやマリノフスキーといった、右ハーフスペースを主戦場とする選手を封じ込めるというのはミランがアタランタに勝つための必要条件だったわけですが、トモリはこの難しい役割を十分にこなしてくれたのではないかと。
また、トモリと同サイドのケシエやテオもマリノフスキー封じに貢献。
先のようにマリノフスキーが下がってきた場合、状況によってはケシエが彼をマークしたり、もしくは迅速なカバーリングでマリノフスキーの突破を防いだりなどですね。

――例えばこの場面。ボールを受けたマリノフスキーは見事な反転を見せ、ここではトモリのマークを外すことに成功する

――しかし、その後ケシエとテオが素早く帰陣し、マリノフスキーの攻撃を遅らせる

――それにより最終的に、トモリがマリノフスキーからボールを奪い返すことに成功した
○ケシエの圧倒的パフォーマンス
ケシエの役割は上記に止まらず、圧倒的な運動量を武器にピッチを駆け回り、チームの堅守延いてはアタランタ封じに多大なる貢献を果たしてくれました

――参考2:この試合におけるタックル成功数ランキング(『Whoscored』より。)ケシエは「5回」で1位

――参考3:この試合におけるインターセプト数ランキング。ケシエは「3回」で1位タイ
中でも特筆すべき点は、ネガティブトランジション時の対応です。
この試合では、ミランの攻撃の起点となるべきベナセルにミスが目立ったこともあり、危険な位置でアタランタにボールを奪われるシーンがやや散見されたわけですが、その際にケシエが躍動。
的確なポジショニングによるインターセプトや素早い帰陣によるカバーリング、また強烈なチェックによるボール奪取などでアタランタの攻撃を尽く阻んでいきました。

――例えばこのアタランタのカウンターの場面。アタランタはボールを右に展開

――その後の場面。トロイから更に大外のメーレにボールを展開。これによりテオを外に引っ張り出し、広がったSB-CB間にトロイが走り込んでチャンスを作ることを目論むアタランタ

――しかし、そのスペースはケシエの迅速な帰陣と的確な判断により埋められる。メーレはトロイにパスを出すも、手前にケシエがいるためトロイはメーレにリターンパス

――そのリターンパスに対し、ケシエが素早く反応。メーレに詰めに行くことで、最終的にミランボールにした
先述の通り、組織として見事なパフォーマンスを披露したミランですが、それでもなおケシエの個人能力なくしてアタランタの攻撃を防ぎ切ることは極めて難しかったでしょう。
シーズンを通して安定したパフォーマンスを披露し続けただけでなく、こうした超大一番で神懸かり的な活躍を見せてくれたケシエはカンピオーネといって差し支えないと思いますし、今後もチームリーダーの1人としてミランを引っ張っていってもらいたいですね。
○攻撃の形
最後に、攻撃についても少し触れていきます。
この試合におけるミランは、極力リスクを排した攻撃を展開。組み立て時においてはロングボールを優先し、前線のレオン目がけたロングボールもしくは裏のスペースに蹴ってレオン等を走らせる形を徹底します。
これもまた一種のアタランタの攻撃対策であって、彼らのハイプレスによる被ショートカウンターのリスクを軽減させようとしたのでしょうね。
ただ、ミランの攻撃に関していえば完全にハマったとは言い難く、中でも誤算だった点としてベナセルのミスの多さが挙げられます。
彼の状態が良ければもう少しポゼッションできたでしょうし、ロングカウンターの起点としてのパスにも期待できたのですが…。ただ、ベナセルも守備の局面は素晴らしかったと思いますけどね。
また、レオンもいつもに比べるとかなり献身的な守備を披露し、攻撃の際も前線で孤軍奮闘するシーンが散見されましたが、後半に訪れた決定機をモノにすることができませんでした。
我慢を強いられる時間帯が長く、集中力の維持が課題のレオンにとって特に厳しい試合展開であっただけに、強烈な成功体験延いては飛躍のキッカケにもなり得たあのチャンスは是非ともゴールに繋げて欲しかったなぁと思います。
結局のところ、ミランは前後半の終盤それぞれで獲得したPKをケシエが冷静に沈め、2得点でアタランタに勝利したわけですが、欲を言えば今後はより強力なカウンターをチームとして備えていきたいところですね。
また、そのためには選手の質も求められますので、若手選手たちの更なる成長や補強に大いに期待です。
雑感
まず、この試合におけるゴール期待値(xG)を載せておきます。

――参考4:第38節、アタランタ対ミランのxG(『understat.com』より。)
ミランのxGが「2.06」に対し、アタランタのxGは「0.61」となっており、ゴール期待値でもミランが上回っています。また、今シーズンのアタランタの1試合における平均xGが「2.19」とのことですので、この試合のミランの守備が如何に機能していたかが分かります。
確かに後半はアタランタのムリエル投入や、ミランの疲労等々により徐々に押し込まれるシーンが増え、ヒヤリとするシーンもいくつかありました。しかし最後の局面においては変わらず選手たちが粘り強い守備を披露。序盤にも書いた通り、結局のところアタランタの枠内シュートを前後半通して「1」に抑えることに成功していますからね。
近年のアタランタにはこれまで本当に苦しめられましたし、あの屈辱的な0-5の敗戦は今でも忘れがたいものです。
しかし、だからこそ、こうした大一番でアタランタに勝利できたというのは紛れもなくチームの成長の賜物であると思いますし、今シーズンの最後を飾るに相応しい試合だったとしみじみ思います。
さて。
今シーズンは数多くの感動的な試合を見せてくれたミランですが、来シーズンも名将ピオリ監督の下、チームとして更なる成長が期待されます。
「ヤング・ミラン」の持つ無限のポテンシャルがどれほど発揮されるか、今から楽しみでなりませんね。
Forza Milan!
最後まで読んでいただきありがとうございました。