【ケチャドバ】トリノ対ミラン【2020-21シーズン・セリエA第36節】
スタメン

3-5-2のトリノと4-2-3-1のミラン
○新システムの機能性
トリノは守備時に5-3-2で待ち構え、状況に応じて前に出てくる形が基本。
シーズン後半戦のインテル戦ですとかラツィオ戦ですとか、ミランは5-3-2でカッチリと守られた場合に攻めあぐねる試合が多かったので、この試合ではちゃんと攻め切れるかどうかっていうのがポイントの1つでした。
それに関し、重要になったのがミランのスタメンと、それに基づく(前節に引き続いた)システムのマイナーチェンジです。
具体的に、この試合では前節と同様にブラヒムを先発起用。一方で、1トップには負傷離脱したイブラに代わってレビッチを抜擢します。
レビッチはイブラと異なり、積極的にボールを受けに下がって組み立てや崩しに参加する事はしませんが、むしろこれは好都合。
裏を窺って相手最終ラインに圧をかけ、その背後のチャルハノールやブラヒムにスペースを提供してくれます。

――例えばこの場面。カラブリアが相手2トップの横でボールを受ける。ここでチャルハノールはライン間にポジショニングし、レビッチは裏に抜ける動きで相手DFを引き付け、チャルにスペースを提供する

――その後の場面。カラブリアからライン間のチャルハノールにパスが通った
思うに、イブラが積極的に下がる動きには、2列目にいるレビッチの前線への侵入が大事であって、後者がないとゴール前での攻撃力が減少してしまいます。
そして、もしブラヒムをチャルハノールとセットで起用するなら、彼らにボールを運ばせて1トップは前線に残るという形が効果的だと思いますし、この方がバランスも取れるんじゃないかと。
続いてブラヒムについてなのですが、彼の抜擢と台頭がこのシーズン最終盤戦において非常に重要だったと感じています。
彼の良さは何といってもドリブルでボールを運べること。ライン間でボールを引き出し、そこから相手のマークを掻い潜ってボールを前進させられます。

――例えばこの場面。ブラヒムがカラブリアからボールを引き出す

――その後の場面。相手CBボンジョルノにタイトにマークされるが、ブラヒムはしっかりとキープしてボールを運んでいった
フィジカル面の強度不足による危うさは未だ多少ありますが、今のミランにおいてこの手のタイプは非常に希少。加えてテクニックもあるため、狭いスペースで周囲の味方と連動して崩していけるのも大きい、と。
また、こうしたブラヒム台頭(とシステムのマイナーチェンジ)の恩恵を受けたのがチャルハノールです。彼は左ハーフスペース付近を基本ポジションとしつつ、流動的に動いていきます。
そして、このシステムだとブラヒム(やサレマ)と近い距離を保てるため素早くボールを叩くことができますし、これなら持ち前のポジショニングとパス判断が活きますね。
それと、この2人の併用というのは以前にも何度かあったわけですが、当時に比べて関係性がだいぶ整理されたように思われます。

――参考:この試合におけるミラン各選手の平均ポジションについて(左攻め。『WhoScored』より)。ブラヒム(21)は右寄り中央、チャルハノール(10)は左寄り中央に基本ポジションを取りつつ、ポジションチェンジを交えながら流動的に動き回る。
更に、チャルハノールが空ける左サイドはテオの格好の持ち場となります。
スペースがあり、前向きでボールを受けたときのテオはワールドクラスですし、中央ライン間でボールを受けたブラヒムやチャルから素早く左サイドに叩き、テオがドリブルでチャンスに繋げていく形はここ2試合で既に散見されていますね。

――例えばこの場面。ミランのバックパスに応じて前に出てきたトリノ。ここでトリノは中盤3枚がそれぞれミランのSBとダブルボランチをマーク。そこで、ミランはチャルハノールとブラヒムがその背後にポジショニングし、ケアーからパスを引き出す

――その後の場面。チャルハノールに対してはCBがチェックに来るが、チャルは横のブラヒムにワンタッチで叩く。

――その後の場面。左サイド前方のスペースに走り込むテオに、ブラヒムがスルーパスを通してチャンスを演出。最終的にCKを獲得した
このように、ブラヒムの抜擢をきっかけとしてチームの機能性が大きく向上したように見受けられますし、「イブラ不在時の形」という難しい問題に対し1つの解決策が生まれたといえるのではないかと。
しかも、これは来シーズンにも繋がる好材料であります。というのも、ミランとしてはイブラの後継者問題に頭を悩ませていたわけですが、イブラの「実質的な代役」などそうそういるはずもなく…。噂に上がるベロッティやブラホビッチなんかも、イブラの「実質的な代役」として考えると個人的に疑問符が付くところでした。
ただ、2列目以下が中心となってボールを運べ、トップの選手をゴール近くで集中させられる環境ができれば話は変わってきますし、ミランにおいても先述の通りその土壌が整いつつありますから、彼らのような優秀なストライカーも持て余すことなく活かし得ます。
その意味でも、ブラヒムの存在は重要だと個人的に思っていて、現時点ではドライローンでの加入となっていますが来シーズン以降も是非とも残って欲しいと感じます。
報道だとフロント陣はとっくにそのことを認識し、ブラヒムに関し保有元のマドリーと交渉を行うとされていますし、無事に合意に達することを願いたいですね。
○ケチャドバ
さて。話をこの試合内容に戻しますが、先述のようにミランは組織的に機能したという事もあり、トリノをボコボコにします。
前半17分のテオのゴールを皮切りに、26分にはケシエが追加点となるPKを沈めて2点リードで前半終了。内容的にも、この時点で勝敗はほぼ決していましたね。
そして後半も50分にブラヒム、62分にテオが決め、67~79分の12分間でレビッチがトリプレッタを達成。結果的に7得点を挙げての完勝でした。
――参考:この試合のハイライト映像
得点が多いので最後の方は割愛するとして、ミランの最初の3得点のシーンについてはもう少し詳しく触れていこうかなと。
まず1点目のシーンについてです。

――1点目のシーンについて。右サイドでボールを受けたブラヒムが、中央へカットイン

――その後の場面。やや後方からエリア手前に侵入してきたテオに、ブラヒムがパス。ここからテオが強烈なシュートを突き刺し、ミランが先制点を奪った
ブラヒムの右サイドからのカットインは前節ユベントス戦でも披露しており、その際はPKを奪取することに成功しています。
ブラヒムをトップ下で起用し、基本的に右寄りにポジショニングさせることの利点はここにもあると思いますし、一時期主に起用されていた左サイドハーフだと中々できない類のプレーですね。
また、テオのシュートについては見事としか言いようがありません。
続いて、2点目のシーンです。

――2点目のPK獲得に繋がった一連のシーンについて。まずはチャルが右サイドでボールを受ける。ここにはトリノ左WBと左インサイドハーフが対応。その間、前方ではベナセルがサイドに流れてアンカーを釣り出し、カスティジェホ(画面外)が裏に抜けてDFラインを牽制

――その後の場面。このようにして生じた中央のスペースにケシエが入り込み、チャルハノールからパスを引き出して速攻を開始

――その後、ボールを持ち運んだケシエはレビッチにパス

――その後の場面。レビッチがエリア内のカスティジェホを見つけ、そこにパスを通す。その後、カスティジェホが倒されてミランがPKを獲得した
ここではチームとして連動した動きを見せることで、相手をずらし中央にスペースを生じさせることに成功。それが最終的にPK奪取、延いては追加点に繋がりました。
後方からしっかりと組み立て、相手の守備を崩し決定機にまで至った見事な崩しでした。
最後に、3点目のシーンです。

――3点目のシーンについて。GKからリスタートしたトリノは、ロドリゲスから右へサイドチェンジのパスを送る。そこへはレビッチが対応

――その後の場面。右サイドでレビッチのプレッシャーを受けたシンゴは、ワンタッチでバックパス

――その後の場面。バックパスを受けたブレーメルに対し、レビッチがプレスに出る。それに応じ、周囲が連動して近くの相手選手をしっかりとマークし、プレッシャーを強める

――その後の場面。ブレーメルはリネティにパスを出すも、ここでケシエがインターセプト。ここからショートカウンターに繋がり、最終的にブラヒムがゴールを決めた
3点目はショートカウンターからのゴールでした。
このシーンの注目の1つはレビッチです。相手のサイドチェンジに対して抜け目なくプレスをかけに行き、相手にバックパスを強いることに成功。そこからチームで連動してスペースとパスコースを限定し、最終的にケシエのボール奪取に繋がりました。
こうしたレビッチの守備範囲や強度といった部分はイブラに明確に勝る部分でありますし、本当に素晴らしい献身性だと思います。
また、この後もレビッチは4点目のアシスト、そしてチームの5~7点目を決めるなど最高のパフォーマンスを披露。ホントに頼りになる選手ですね。
🙌 Ante Rebic is the first AC Milan player to score a Serie A hat-trick since Carlos Bacca in August 2016, also vs Torino pic.twitter.com/qytJVl8SUH
— WhoScored.com (@WhoScored) May 13, 2021
ちなみに、ミランの選手がハットトリックを決めたのは2016年のバッカ以来とのことです。
まぁそんなわけで、試合は0-7で終了。守備陣も最後まで油断することなく、キッチリと無失点で抑えてくれました。
トリノ0-7ミラン
雑感
このトリノ戦でしっかりと勝利を収め、ミランの勝ち点は「75」。
ミランはあと1勝すれば4位以内が(ほぼ)確定するという事で、遂にここまで来ましたね。
ユベントス戦で出色のパフォーマンスを見せた直後のこの試合でも、チームは油断することなく素晴らしいパフォーマンスを見せてくれましたし、次節もそれは変わらないでしょう。
正直、僕はもう既に次節のことを考えてメチャクチャ緊張しています。ですがこのチームならやってくれるだろうという気持ちも強いので、後はもうチームをひたすら信じるだけですね。
次節で決めてくれることを強く願います。
Forza Milan!
最後まで読んでいただきありがとうございました。
○お礼
前回のユーベ戦のマッチレポート記事について、記事下の「拍手ボタン」やコメント、ツイッター等々にて多くの反応をいただきました。この場でお礼を申し上げます。
こうした反応をいただけるのはブログ更新のモチベーションにも繋がりますし、何より本当に嬉しいです。
ユベントス戦のマッチレビュー後編についても、できればカリアリ戦前(無理そうならアタランタ戦前)には行いたいと考えていますので、今しばらくお待ちいただけると幸いです。
それでは、今後ともよろしくお願いいたします。