ミランの守備戦術とメンバー構成の変化について
(※予約投稿のため、第28節フィオレンティーナ戦後の公開となっていますが、記事内容についてはフィオレンティーナ戦前までの試合を基に書いています)
これについてはまず、最前線からのハイプレス一辺倒だった守備を若干ながら修正し、裏のスペースケアを重視するようになった印象です。
例えば、先述のミラノダービー然り同じく0-3でボコられたアタランタ戦然り、彼らのような相手チームは敢えてミランを前に引き出し、その裏のスペースをアタックする形でチャンスを作り出してきました。
例として、前々回の記事にも載せたインテル戦のシーンを一つ振り返ります。

――1失点目の流れについて。ハキミ(WB)が自陣深い位置まで下がり、シュクリニアル(CB)からボールを引き出す。そこにはテオが対応。また、同じく下がるバレッラにはケシエが付いていき、周囲の選手もそれぞれマークに付く

――その後の場面。テオの寄せが間に合わず、ハキミは前方の様子を見た上でロングパスを送る

――その後、前方でロングボールを受けたルカクが対面のロマニョーリを剥がし、ドリブルで一気にペナルティエリア内に侵入していく

――その後の場面。最初のピンチはケアーの素晴らしいカバーリングで防いだものの、こぼれ球をルカクに拾われ、クロス。それにラウタロが頭で合わせてネットを揺らした
このように、3バックを相手にした際に相手のWBを捕まえきれず、そこを起点にロングボールなりサイドチェンジのパスを出される形がミランにとって一つの嫌な攻撃パターンであったわけですが…。この点については前述のようにラインを若干下げつつ、相手WBに自由にボールを持たせないような守備組織を作ることで改善した印象です。
具体的に、インテル戦後に行われたローマ戦、ヴェローナ戦におけるシーンを見ていこうと思います。まずはローマ戦(1-2でミラン勝利)です。

――ローマの左CBから左WBにパスが出たシーン(ローマは左攻め)

――その後の場面。左WBに対し、サレマが中央へのパスコースを切り、同時にチャルハノールは斜め前のボランチへのパスコースを切る。その間にカラブリアが素早く左WBに詰めにいく。これによりパスコースが限定されたWBは、CBにバックパス。

――その後の場面。左CBへのバックパスをスイッチに、ミランは連動して一気に前に押し上げる。ボールを受けた左CBはたまらずGKにまでバックパス

――その後の場面。GKに対してはイブラが詰めに行く

――その後、GKの不安定なボールコントロールもあり、イブラがボール奪取(赤)。決定的なチャンスを作り出した
ローマ両WB(カルスドルプ、スピナッツォーラ)があまり良くなかったというのもありましたけど、ミランとしては相手WBから自由にボールを展開させないよう強く意識し、コンパクトかつ激しくプレスをかけていたように感じられましたし、それがボール奪取延いてはカウンターチャンスの量産に繋がったのではないかと。
また、以下のように、バックパスに対しあまり深追いしないというのもありました。

――例えばこの場面。長いバックパスからGKにボールが渡る。その後、GKは左CBにパス。その際、サレマは後ろの状況を見て、左CBには詰めに行かずにポジションを整える

――その後の場面。後方からの押し上げにより、コンパクトな陣形になってからボールホルダーに寄せに行った
続いてはヴェローナ戦(2-0でミラン勝利)です。こちらは特にミランの守備的なアプローチがハマり、それが勝利に繋がった試合だったといえるのではないかと。
頻繁にサイドに流れるシャドーと左WBの2人で、主に左からのサイド突破を目論むヴェローナに対し、ミランはサレマをWBに、カラブリアをシャドーに付かせ、サイドでは2対2をしっかりと作れるようにしていました。

――左CBがボールを持ち運んでいる場面(左攻め)。サレマは左WBをマーク
そして、相手の左CBに対してはある程度ボールを持たせつつ、そのまま持ち運んでくればボランチのメイテが基本的に対応(もしくはサレマが素早く前に飛び出す)。そして、それにより生じやすくなる中央のスペースにはトップ下のクルニッチが下がったり、左サイドのカスティジェホが絞って埋めたりなどして対応する形です。こうして、ヴェローナの左サイド突破と中央からの展開を封じていきました。

――例えばこの場面。ドリブルで持ち運ぶ左CBにはメイテが対応。相手の左ボランチにはトップ下のクルニッチが、そして中央にポジションを取る右シャドーにはカスティジェホが絞ってマークする。それにより、ケシエは後方でボランチを監視しつつ中央のスペースをカバー。サレマはWBをマーク。

――その後の場面。左CBから左シャドーに縦パスが入るが、そこはカラブリアがしっかりと対応。この後、ミランがこぼれ球を拾った
特に、この試合に左サイドで起用されたカスティジェホの中央への意識は非常に高く、時には逆サイドの右にまで来てプレスをかけるなどしていましたね。
以上より、ヴェローナ戦に関してはだいぶ極端ではあったものの、基本的に最近のミランは「縦横にコンパクト、かつアグレッシブな守備」というコンセプトの下、間延びすることなく守ろうとする狙いがこれまで以上に感じられるようになった印象です。
②メンバー構成に関する変化
続いてメンバー構成に関する変化ですが、何よりもCBにトモリを重用するようになった点が大きいでしょうね。
改めていう事ではないかもしれませんが、彼はとにかく対人が強い、と。
トモリは、下がってボールを受けにいく対面の相手に対する反応に優れており、相手に起点となる動きを許さないですし、オープンスペースでも持ち前の速さと強さで尽く相手チャンスの芽を摘み取ってくれます。
また、リトリート時の守備はどうなるかなと思いましたがだいぶ安定していますし、ある程度のポジショニングミスであれば身体能力でリカバーできるので現状でもさほど問題なしと。
殊にゴール前での落ち着きは素晴らしく、数的同数ないし不利な状況であっても冷静に対処できる非常に優秀なメンタルを備えているように思われます。

――例えばこのローマ戦後半の場面(右攻め)。前方に飛び出したヴェレトゥにスピナッツォーラがスルーパスを通す

――その後の場面。スルーパスを受けたヴェレトゥがエリア内に侵入。そこにはトモリが対応。一方、その背後にはトップのマジョラルが走り込み、ヴェレトゥからパスを呼び込もうとする

――その後の場面。ヴェレトゥの動きを冷静に窺ったトモリは、ヴェレトゥのパスに合わせて止まり、インターセプトを図る

――その後、インターセプトは無事に成功し、トモリがボール(赤)を回収した
以上より、トモリはで今のミランの戦術に非常に合ったタイプの選手だと思いますし、伸びしろも十分ですから、これからも重用されていくのではないかと。可能であれば是非とも来シーズン以降もミランで見たい選手ですが、買取OP行使額とされる2800万ユーロを払えるかどうかが問題ですね。
そして、トモリほどではないとは言え、左サイドハーフのポジションにクルニッチが起用されるようになったというのも注目すべき点だと思います。
基本的に、ミランの両サイドハーフは右に走力のある守備的な選手(サレマ、カスティジェホ)を、左にストライカー色の濃い攻撃的な選手(レオン、レビッチ)を置くわけですが…。イブラとマンジュキッチ離脱に伴うレオンの1トップ起用だったり、レビッチの負傷離脱だったり、ハウゲの不振だったりで、最近は左サイドの人選に頭を悩ませています。
現在そのポジションで起用されることの多いクルニッチは、レオンやレビッチに比べ攻撃力には欠ける一方で守備はとにかく献身的。レオンはもちろん、レビッチと比べてもプレスバックの意識が高いように見受けられます。
また、本職は中盤(中央)の選手だけあって、中央のスペースを埋める意識や精度が高い点も見逃せません。

――例えばこのナポリ戦の場面(ナポリは右攻め)。ボランチのデンメがCBの横に下がってボールを受け、そこにはケシエが対応。一方、中央ではトナーリ1人に対し、ボランチのファビアンとトップ下のジエリンスキの2人が待ち構える状況

――その後の場面。デンメからファビアンにボールが渡り、そこにはトナーリが対応。そこで、ファビアンはワンタッチでジエリンスキに叩く。しかし、そこはクルニッチが察知し、素早く絞って対応しにいく

――その後の場面。ジエリンスキは前を向ければサイドのSH、SBと共にチャンスを作れそうな状況だったものの、クルニッチの素早い寄せにより前を向けず

――その後の場面。ジエリンスキを逆サイドに追いやることに成功した
しかしながら、レビッチやレオンに比べ、個の力で劣るクルニッチを起用することで攻撃力が低下しますし、それを補うための有効な対策も見られません。
例えば、両サイドハーフのバランスの観点で言えば右に攻撃的な(ドリブルで運べる)選手を置ければよいのでしょうが、右は選択肢に乏しい(サレマorカスティジェホ)ためそういった方法もとれません(個人的にはブラヒムを起用してみても面白いと思うのですが、色々な事情があって起用できないのでしょう)
クルニッチ個人のパフォーマンスは以前よりも上がっていますし、同SBテオとの連携も徐々に高まっている印象ですが、それでもまだ攻撃面で物足りなさは否めないですしね。
チームとしての守備の安定感は向上した印象ですが、攻撃を犠牲にしている以上は根本的な解決とは言い難いですし、この点についてはまだチームとして改善が期待される部分だと思います。
○まとめ
インテルに惨敗してからというもの、ピオリ監督は守備面の改善に力を入れているように見受けられます。
実際、インテル戦より後は1試合で喫する失点数を「1」以下に抑えられていますし、離脱者の続出や過密日程の中で一定の成果は出せているのではないかと、
一方、守備を重視するあまり攻撃面が疎かになっている点はあると思いますし、直近5試合で4得点(内PKで2得点、CKで1得点)というのは物足りない数字です。
この点についてはイブラが待望の実戦復帰を果たし、ベナセルも練習復帰という事で、ここからの改善に期待していきたいと思います。
長くなりましたが、今回はこの辺で。