【徹底的なミラン対策】スペツィア対ミラン【2020-21シーズン・セリエA第22節】
スタメン

スペツィア:4ー3-3(『Google試合速報』より)

ミラン:4-2-3-1(『Google試合速報』より)
○ミランの守備とスペツィアの攻撃
まずはミランの守備(ハイプレス)と、それに対するスペツィアの攻撃についてです。

――ミランの前線の守備陣形
イブラが片方のCB(主にエルリック)をマークし、もう一方のCB(主にイスマイリ)を一時的にフリーにさせます。で、そこにボールが渡ってから、チャルハノールもしくはレオンが前に出て行き対応する形が基本です。
これに対し、スペツィアは主にミランのボランチとサイドハーフ周辺のスペースを使ってきます。例えばレオンが前に出てきた際、その背後にいる選手(右SBヴィナーリとか)に素早くロングボールを送り、そこを起点に攻めていくといった形ですね。

――例えばこの場面。レオンがイスマイリへのパスを予測し、前に出る。一方、GKプロヴェデルは右サイドのヴィナーリへのパスを選択

――その後の場面。エステベスに付いていたケシエだが、ヴィナーリに対応しにサイドへ出る。そこで、ヴィナーリはヘディングでエステベスに落とす。

――その後の場面。プレスバックしたチャルハノールとケシエでエステベスを挟みに行くが間に合わず、サポナーラへのサイドチェンジにより速攻に繋げられた。
11分にはアグデロがゴール前でボールを持ち決定機を迎えますが、ミランが何とか防いで事なきを得ました。
○スペツィアの守備とミランの攻撃
続いてはスペツィアの守備とミランの攻撃ですが、ここでもスペツィアはチームとして極めて優れたパフォーマンスを披露します。
スペツィアはハイプレス時、左インサイドハーフのマッジョーレが一列前に上がり、1トップのアグデロと共にミランの2CBに対応。そして、残りのMF2人とCBの片方でケシエとベナセルとチャルハノールを監視、また両WGがミランのSBに対応していきます。

――ミランのGKの場面。ドンナルンマからケアーにボールが出てから、マッジョーレがチェックにいく。そして、ベナセルをリッチがマークし、ケシエをエステベスが見る。そのため、ケアーはサイドのダロトにパス。

――その後の場面。ボールを受けたダロトに対しては、WGのサポナーラが縦のスペースを素早く消しにチェックに行く。同時に、マッジョーレは横のケシエへのパスコースを閉じ、それに応じてエステベスが前方へのロングパスを警戒して後方に下がる。一方、囲い込まれ、身近にパスコースの無いダロトはロングパスを選択

――その後の場面。ダロトからのロングボールに対しては、チャルハノールをマークしていたエルリックがクリア。ここで、先の動きによりエステベスがしっかりとリッチ、バストーニと共にこぼれ球に反応でき、中盤で数的優位を作る

――その後、バストーニがこぼれ球を拾うことに成功。カウンターに繋げた。
スペツィアは個々が素晴らしく、非常に連動した守備を見せたわけですが、中でもマッジョーレはミランCBへのプレス、ミランボランチへのパスコース切り、GKへの2度追いプレスなど様々な役割を遂行し、ミランの右からのビルドアップ封じに大きく貢献していきました。

――例えばこの場面。スペツィアのプレスにより、ミランは右サイドのケアーからドンナルンマまでバックパス。これに対してマッジョーレがドンナルンマにまで寄せに行き、全体を押し上げる。そこで、ドンナルンマは左サイドのロマニョーリにパス。

――その後の場面。ロマニョーリに対してはアグデロが素早くプレスをかけ、同時に味方が連動して周囲のパスコースを潰していく。

――ロマニョーリはロングボールを選択するが、アグデロがカットしスローインに。ビルドアップの妨害に成功した
前節のクロトーネ戦では、相手がミランSBに簡単にボール持たせてくれたわけですが、今回はしっかりと両SBが相手にマークされたため、そこを有効に使えずボールの運び出しに苦労することになったと。また、CFアグデロの献身性と貢献度も尋常じゃなく、この点も前節との大きな違いでした。
こうしたスペツィアの整理された守備に対してミランは、ベナセルの積極的な動き出しや、ベナセル&ケシエの流動的なポジションチェンジによりスペツィアのプレスを回避し、速攻に繋げていこうとするわけですが…上手くいかず。
これに関してはスペツィアの守備陣も凄く集中していて、ロングボールや楔のパスへの対応も非常に素早いものがありました。

――例えばこの場面。ベナセルが一列下がってボールを引き出す。その後、前方のレオン(画面外)に縦パスを通す

――その後の場面。下がるレオンにはしっかりとヴィナーリが付いてきて対応。また、その背後のスペースを窺うテオにはギャシがマンツー気味に付き、中央のチャルハノールにはCBエルリックが前に出てマーク。よって、ボールはその後、再びベナセルに戻る

――その後の場面。再度ボールを受けたベナセルは、今度はライン間にいるチャルハノールに浮き球のパスを送る。しかし、これにもエルリックが素早く対応。

――ファールにはなったものの、スペツィアはミランのビルドアップを妨害することに成功した(赤)
また、いくつか作り出せたチャンスもモノにできず、と。

――例えばこの場面。ベナセルが最終ラインに下がってボールを受け、エステベスを引き付ける。その後、前方のチャルハノール(画面外)に縦パスを通す

――その後の場面。チャルハノールにはイスマイリがすぐに付いてくるが、チャルハノールがワンタッチで叩き、前方のレオンにパス

――その後、レオンもワンタッチでイブラにスルーパスを通そうとするが、それは読まれておりカットされる。右サイドでダロト(赤)がフリーで待っていたため、そこに出しても良かったか
というわけで、スペツィアは攻守ともに優れたパフォーマンスを披露し、序盤からミラン相手に主導権を握ることに成功。ミランの攻撃を封じ込めつつ、自分たちは惜しいチャンスを作り出していきました。
○大苦戦
その後もミランは流れを取り戻すことに大苦戦。
前線のイブラ等を目がけたロングボールは、大体において相手にプレスをかけられた状態で放り込むため正確でなく、また比較的フリーでボールを持てたGKドンナルンマもパス精度が低いため、スペツィアは次々と回収orクリア。前線でボールが収まりません。
そして、後方からのパス回しに関しても、スペツィアの継続的なプレスに苦しみましたし、それもあってパスミスによる被カウンターも散見されました。
ミランはセットプレーからいくつか惜しいヘディングを放ったものの、それ以外はゴールから遠い時間帯が続くことに。
対するスペツィアは、引き続き速攻・カウンターからチャンスを演出。ミランも最後の局面では自由にやらせなかったものの、危険なシーンを多々作られてしまいました。
何とか前半はスコアレスで終了にはなったものの、試合内容は完全にスペツィア優位といって差し支えないものだったのではないかと。
○徹底的なミラン封じ
それにしても、スペツィア(イタリアーノ監督)はミランを凄く良く研究しているなぁと思いました。
まず、ミランのビルドアップの肝である右SB(というかカラブリア。今日は不運にもサスペンションだったのでダロトが代役。これが痛かった。)からの展開を封じるため、そこにボールが渡ればしっかりと人数をかけて囲い込む。そして、逆SBのテオは組み立てに関してはあんまり上手くないので、走力とフィジカルに長けた選手(この試合ではギャシ)をマンツー気味で付け、スプリント勝負や単純なワンツーなどで突破されないようにすればひとまずOK。
両SBを封じられたので、ミランとしてはベナセルのボール配給力に頼りたいわけですが、彼自身がまだ本調子でないというのと、久々の本格出場なため周りとの連携があまり合わず、基本的に沈黙(特に前方のサレマがほとんど効果的に受けに来ない)。また、アグデロの献身的な守備も非常に厄介でした。。
そして、チャルハノールに対してはCBorボランチ1枚がタイトに付いて封じ込める。
そうなるとミランにとって後はイブラやレオン目がけたロングボールしか打開策がないわけですが、スペツィアはDF陣が非常に安定したプレーを見せ、中盤の選手と共同しながらこぼれ球を含めて尽く回収orクリアしていく、と。先述の通り、プレスが効いていたので正確なボールもあまり飛んで来ませんしね。
一方で、攻撃に関しては素早くミランのボランチとサイドハーフの間にボールを送り込んで起点を作り、コンパクトに守りたいミランに対してサイドチェンジを使って展開していく、と。
ここまでやられちゃうと、今日のミランではお手上げのような印象を受けました。
実際、後半も同様のスペツィアに対し明確な有効策はなく、前後半通じて枠内シュートは「0」。その一方でスペツィアに2失点を喫し、0-2で敗れることとなりましたしね。
○後半の流れ
書くべきことはここまでで大体書いたと思うので、あとは後半の流れをざっと見るだけにします。
後半立ち上がりから積極的な姿勢を見せ、敵陣深くまで侵入するスペツィア。53分にはシュート3連発を浴びせるなど、上々の滑り出しを見せます。
一方のミランですが、相変わらずミスが目立つ内容。
すると56分、テオがアグデロにボールを奪われ、スペツィアのカウンターに。その後、見事な勢いでエリア内に侵入され、最後はマッジョーレに押し込まれてスペツィアに先制を許しました。
スペツィアが素晴らしいってのを差し引いても、ミランは前半から判断ミス・パスミスが目立ちますし、こんな調子で自ら攻撃の勢いを削いでいたらどうしようもありません。
その後ミランは64分に怒涛の3枚代え。ケアー、ベナセル、レオンに代え、トモリ、メイテ、マンジュキッチを投入します。
これで4-4-2に変更。チャルハノールを左サイドに回し、イブラとマンジュキッチの2トップで打開を図ります。
しかし、その数分後。セットプレーからバストーニに強烈なシュートを叩き込まれて2失点目を喫すると…。
それからミランは前線への放り込みを中心に攻勢をかけますが、これでも決定機には至らず。
マンジュキッチはもっとコンディションを上げていかないと厳しいかなぁと。活躍まで時間がかかるというのは織り込み済みなので仕方ないですけどね。
そんなわけで、試合は2-0で終了。
スペツィア2-0ミラン
雑感
最初に、指揮官とキャプテンの試合後コメントを一部抜粋します。
ピオリ「スペツィアは我々よりも良いプレーを見せた。我々はスペツィアのプレッシングシステムに苦戦し、時間と共にボール回収が更に困難になっていってしまった。」
「我々はボールを持った時、また持っていない時においても、より良い方法で動かなければならなかった。我々は彼らのプレッシングに屈してしまったんだ。」
「この試合を軽視していたわけではなかったが、クオリティ、アイデア、インテンシティその全てをピッチで披露することができなかった」
ロマニョーリ「僕たちは試合へのアプローチを完全に誤った。プレスをかけられず、ビルドアップにおけるプレーも酷いものだったね。スペツィアは勝利に値した。僕たちは彼らを侮っていたんだ。」
双方ともに完敗を認めており(当たり前)、ピオリからはスペツィアの優秀なプレー、またロマニョーリからは自分たちのお粗末なプレーに対する言及が見られました。
この試合でミランが完敗を喫した原因に関しては、スペツィアの卓越した素晴らしいプレーと同じくらいミラン自身の緩慢なプレーにもあるわけでして、選手たちの意識がこの先のダービー戦に早くも向いていたように感じます。
ただ、これを機に再度チーム全体で気持ちを引き締めるはずですし、この一戦が今後に向け良い教訓になったとポジティブに考えることは可能です。
一方で、一番の問題としては、各チームによるミラン研究が進み、戦術的対策を立ててそれを忠実に実践してくるチームが増えるようになった(なってくる)ことかなと。
まぁミランが常時ベストメンバーかつベストコンディションで試合に臨めるのであれば、さほど心配する必要はないと思うんですけどね。
ですが、そんなことはもちろんあり得ず、今回のようにチームのコンディションが悪いと、下位チームといえど組織力の高い相手にはアッサリ勝ち点を失うことが今のままだと起こり得ます。
ですので今後、ミランとしては殊に攻撃面の修正・改善(特にビルドアップの局面。雑なロングボールが多すぎる)が求められますし、ここがシーズン後半戦の最初の踏ん張りどころじゃないかなと。
ミッドウィークにはELが再開し、その後はインテル戦、ローマ戦と大一番が続きますが、是非とも頑張って欲しいと思います。
Forza Milan!
最後まで読んでいただきありがとうございました。