【完敗】ミラン対アタランタ【2020-21シーズン・セリエA第19節】
スタメン

ミラン:4-2-3-1(『Google試合速報』より)

アタランタ:3-4-1-2(『Google試合速報』より)
○アタランタの守備
今回はミランの攻撃の局面に重点を置いて書いていこうと思うのですが、そのためにも、まずはアタランタの守備(ハイプレス)について軽く触れておきます。

――ドンナルンマがボールを持った場面
上記のように、2トップのサパタとイリチッチがそれぞれミランの2CBをマーク。
そして、3枚の中盤の内、ペッシーナとデ・ローンがミランのダブルボランチをマークしています。で、残りのフロイラーはというと、中盤のスペースをカバーしながら、カラブリアにボールが出た(出そうな)場合に素早くプレスをかけにいきます。
最終ラインは、それぞれ対面のイブラ、レオン、メイテ(右前方にポジショニング)をマークするのが基本。左WBのゴセンスはカスティジェホをマークし、右WBのハテブールは対面のテオにボールが渡った(渡りそうな)場合に縦を切る形で出てきます。
○ミランの攻撃
アタランタの守備について軽く触れたところで、本題であるミランの攻撃についてです。
この試合のミランの主な攻撃戦術は、前線(主にイブラ)への集中的なロングボールにありました。
中でも序盤はイブラとレオンを近い距離でプレーさせ、そこへロングボールを放り込む。そしてそのこぼれ球を拾って速攻という形を狙っていきます。

――例えばこの場面。ドンナルンマからのロングボールにレオンが競り、前方のイブラに落とす

――その後、一旦はロメロにクリアされるも、こぼれ球をレオンが拾う。そのレオンのスルーパスにイブラが抜け出し、惜しいチャンスを作り出した
先述のようにアタランタがハイプレスに来ますし、ベナセルもチャルも欠場のため中盤で繋ぐのは危険。よって妥当な選択だと思います。この試合のレオンは攻撃面でかなりキレてましたしね。
○メイテ起用の意図
そして、この試合の注目の一つにトップ下の人選がありました。
チャルハノール不在時、これまで主にトップ下で起用されていたのはブラヒムです。彼は積極的にライン間でボールを受けてからのドリブルに特徴があるわけですが、フィジカルコンタクトに弱いこともあり、潰されてボールロストするシーンというのが少なくありません。
そして、今回の相手はセリエA最強クラスの球際の強さを誇るアタランタ。したがって、ブラヒムを起用した場合に上記の弱点が露呈し、ボールロストからのショートカウンターで危険なシーンを作られしまう可能性は十分に考えられました。
そこで、今節のトップ下として白羽の矢が立ったのがメイテです。
フィジカルの優れたメイテであれば、ロングボールのこぼれ球を拾う役としては優れていますし、またスピードを活かしたフリーランニングによってマーカーを引き付けることで、ロングボールを入れる為のスペースを提供しようとしたのではないかと考えられます。
実際、今回のメイテのポジショニングは普段のチャルハノール・ブラヒムのそれと比べると基本的に高かったように見受けられましたし、彼に求められていた役割がこれまでのトップ下と異なるものであることが窺えましたね。
しかしながら、この起用法は結果として上手くいきませんでした。
○不振の原因1
その大きな理由としては、この戦術の肝である「前線(イブラ)へのロングボール」が全体として機能しなかったことが考えられます。
試合の最序盤こそ、イブラ(もしくはレオン)が前線でボールを収め、そこを崩しの起点にして攻めるという形でゴールを脅かすことができましたが、その後はミスもあり、ほとんど上手くいきません。

――例えばこの場面。ドンナルンマからイブラめがけてロングボールが送られるも、その手前でロメロがあっさりとクリア。

――ロメロのクリアボールを拾われ、ミランは一瞬でにピンチに陥った
もちろん、この点に関してはアタランタの守備も特筆すべきものがありました。
ミランは右SBカラブリアの長短のパスを起点に攻めることが多いわけですが、そのカラブリアに対しては、先述の通りフロイラーが献身的にプレスをかけにくることで中々自由にパスを出させません。

――ドンナルンマからカラブリアにパスが渡った場面。ここでフロイラーがすぐにプレスをかけに出てくる

――進路を塞がれたカラブリアはすぐ前方のロングボールを選択。そのボールにメイテが飛び出すも、その後ジムシティにクリアされる
おそらくミランとしては、メイテを右サイドやや高めに位置させることでゴセンスとジムシティを警戒させ、カラブリアへのプレスを抑制しようという狙いもあったのかもしれません。ですが、このようにフロイラーが代わりに中盤からプレスをかけに来ると。
更に、極めつけはイブラの相手をしていた中央CBのロメロです。驚異的な粘り強さを発揮して、イブラを全くと言っていいほど自由にプレーさせません。
また、時には積極的なパスカットでミランの攻撃の芽を摘み取ってきました。

――例えばこの場面。レオンがこの位置まで下がってきてボールを受け、すぐに前を向く。これによりフロイラーを引き付けてから、カラブリアにパスを出す。

――レオンのキープによって、ここでは比較的フリーでボールを受けられたカラブリア。それと同時に、メイテが右サイドに走ってジムシティを引き付け、前線中央ではイブラとロメロの1対1に。そこへカラブリアがロングボールを送り込む

――しかし、この1対1ではロメロがイブラを押さえ込んでボールをキープさせず(赤)

――こぼれ球はアタランタに渡った
そんなわけで、前線にほとんど上手くボールが収まらないミラン。これにより、メイテを起用するメリットが大きく失われます。
そんな中26分、優勢に試合を進めていたアタランタはセットプレーからロメロがゴールを決め、先制に成功しました。
ロメロはイブラを封じ込めるだけでなく決勝点も奪う獅子奮迅の活躍ぶり。敵ながら天晴れです。
○不振の原因2
前線へのロングボールが中々機能しないミランでしたが、それでも他の攻め手はあったように思われます。
というのも、フロイラーがカラブリアのプレスに来るため、中盤のスペースが空く状況というのが生まれます。よって、そこに誰かが入り込んで上手くプレーできればプレスを突破し、速攻に繋げられました。

――例えばこの場面。ケシエが下がってケアーから上手くボールを引き出し、ワンタッチでサイドのカラブリアに叩く。ここにはフロイラーが対応する。

――その後、カラブリアは前方へのロングボールを選択し、こぼれ球がメイテに。ここでもアタランタはサイドにいるトナーリ、メイテ、カスティジェホにそれぞれ選手が対応している。しかし、それにより中盤にスペースが空いており、そこにはイブラが入り込んでいる

――その後、5分5分のボールが中央のイブラの下に転がる。アタランタは急いでプレスバックするも、イブラは素早く左サイドに展開

――左サイドでフリーのテオにボールが渡り、ミランが速攻を開始した
ミランの場合、通常このスペースを有効に使うべきなのはトップ下です。チャルハノールはもちろん、ブラヒムもこの手のプレーは結構やれます。
しかし、この試合のトップ下はメイテ。指示もあったでしょうが、彼は先述の通り基本的に高い位置を取るため、あまり中盤でボールを受けられません。

――例えばこの場面。ケシエから正確なロングパスがカラブリアに渡る

――その後、ボールを持ったカラブリアにフロイラーが対応。これにより中盤にスペースが生じるが、メイテは前方に移動し、中央にパスコースを作れず。そこでカラブリアはサイドのカスティジェホにパスするも、当然詰まる

――その後の場面。バックパスにより再びボールが受けたカラブリアが、今度は前方のメイテに縦パスを送る。

――しかしメイテは下がってくるのが遅れたこともあり、相手にインターセプトされた
また、前半45分の中にはライン間で受けるようなシーンもあるにはありましたが、本職がボランチの選手という事もあり、不慣れなポジションでのプレーで技術的におぼつかないように見受けられました。

――例えばこの場面。カラブリアがボールを運び、フロイラーが対応。ここではメイテがスペースを認識し、ライン間でカラブリアからパスを引き出す

――その後の場面。メイテは複数人に囲まれるが何とか躱し、左サイドにボールを展開した
そもそも、こういうプレーをさせるのであればブラヒムの方が良いよねってことで、結局のところ前半だけでメイテは交代となってしまいました。
ただ、メイテの先発起用の意図は何となくわかりましたし、アタランタの守備やミランの離脱者事情を考えれば放り込み重視の戦術と選手起用は妥当だと思うので、僕は今回のピオーリ監督の采配はそんなに責められるものではないと思っています。
そもそもベナセルとチャルハノールがいればこんな奇策に頼る必要はなかったわけですしね…。結論としては2人とも早く戻ってきてくれということで(笑)
ボランチの層も厚くないですし、メイテはちゃんと本職で起用して欲しいと思います。
○テオの乱調
それと、少し余談にはなりますが、今回はテオのパフォーマンスも相当悪かったです。
先述の通りミランは、右サイドで組み立ててアタランタDFを十分に引き付けてから、左サイドに展開して速攻という形によって複数のチャンスを演出したわけですが、肝心の左SBテオのプレー精度が低く、結構な数のチャンスをフイにします。

――例えばこの場面。右サイドでイブラにスローインが入った状況。ここでミランは、イブラやメイテだけでなくレオンまでもが右サイドに来ることでアタランタ守備陣を同サイドに引き付ける

――その後、こぼれ球を拾ったミランは左サイドに展開。テオがボールを受けて速攻を開始

――その後の場面。ドリブルで敵陣深くまで運んだテオは、そのままクロスを選択。しかしクロス精度が低くあっさりとクリアされ、アタランタのカウンターに繋がった
僕は基本的に、普段から良くない選手が良くないプレーをしても言及せずにスルーするのですが、テオの場合はもちろん話が違います。
彼のパフォーマンスはチームの勝敗に直結することも少なくないだけに、今回はかなりチームにとって痛かったですね。
○ブラヒム投入
後半早々の53分、PKを獲得したイリチッチがチャンスをモノにし、追加点の獲得に成功。ミランを引き離します。
対するミランは後半からメイテに代わってブラヒムを投入したわけですが、やはり彼の方が左右に積極的に動くし、中盤(ライン間)でボールを貰うことができます。
入って早々に中盤の狭いスペースでボールをコントロールし、相手に追突され悶絶しつつも前線にボールを繋げたシーンや、左サイドで貰ってから右に展開したシーンなど、少なくない見せ場を作り出してくれました。
ただ一方で、やはりフィジカル的にアタランタの選手とは大きな差があるブラヒムを起用する怖さというのは後半からでも感じました。

――例えばこの場面。カラブリアがボールを持ち、フロイラーが対応。ここで、ブラヒムがスペースをしっかりと認識してパスを引き出す

――その後の場面。ブラヒムは中央に進路をとるも、その間にゴセンスとプレスバックしたサパタに挟まれボールロスト(赤)。ファールとなったが、ヒヤリとしたシーン。
もし、こういう所で奪われたらアタランタの高速カウンターが炸裂するので非常に危険です。実際、ミランの3失点目のシーンではアタランタのカウンターから物の見事にやられました(3失点目はブラヒムのせいではないですけどね)。
もちろん、こういう所で奪われずにパスやドリブルでプレスを回避できればチャンスを作れるわけですが…その辺のリターンとリスクを考えたとき、ブラヒムだとスタートからではリスクが大きいと考えられたのだと思います。
タラレバですが、もしチャルハノールなら、ポジショニングセンスを活かして相手のマークを外した状態でボールを受けたり、ワンタッチパスで局面を打開できたりするのでアタランタ相手にも躊躇なく先発起用できたのでしょうが…。彼の不在は本当に痛恨でした。

――3失点目の場面について。テオがボールを持ち、前方ではブラヒムがフリーで待ち構えているが、ここでは出せずに近くのケシエにパス。

――その後、ケシエから再びボールを受けたテオだが、今度はブラヒムに対しトロイがしっかりと付いている。そこで、テオは前方のレビッチにパスを出すが、彼にもロメロがしっかりと対応し、インターセプトされる

――その後の場面。ロメロが駆け上がり、アタランタがカウンターを開始。このシーンの後にロメロからサパタにパスが通り、サパタが冷静にネットに流し込んだ
ミラン(ピオーリ)としては、こういう形での失点は絶対に避けたかったはずなんですよね…。
○待望の新戦力
少し戻って70分。ミランはレオンとカスティジェホに代えてレビッチとマンジュキッチを投入します。
レビッチはコロナからの復帰、マンジュキッチはミランデビュー戦という事で、いずれも待望の瞬間でした。
そして、投入されてからわずか数十秒後にシュートを撃つマンジュキッチ(笑)多分、この試合で一番惜しいシーンだったんじゃないかと。
この試合でマンジュキッチは右サイドで起用されましたが、今回はパワープレー要員としての側面が強く、果たして今後も同ポジションで継続的に起用されるかどうかはわかりません。
ただ個人的には、彼が右サイドハーフでハマってくれると非常に有り難いと思っています。
さて。試合に関しては、結局のところミランは無得点で終了。ただ、レビッチとテオの連携の再確認とか、イブラとマンジュキッチのツインタワーの可能性とか、終盤の攻撃に関しては結構見どころがあったんじゃないかと。
ミラン0-3アタランタ
雑感
内容も結果も完敗でした。
本当はアタランタの素晴らしい攻撃とミランの守備についても書くべきなのですが、完敗のせいで今そこまで書く気が起きないのと、おそらく次のインテル戦でも似た形で攻めこまれると思うので、その時にでも一緒に書こうかなと。
正直、気持ち的にはかなり落ち込む一戦でしたが、これにてシーズン前半戦が終了し、ミランが冬の王者となりました。
トータルで見れば、ここまでリーグ19戦で13勝4分2敗と素晴らしい成績を収めているわけで、今のチームの仕事ぶりが高く評価されるべきものであることに変わりありません。
ちなみに、冬の王者の優勝確率は「67.8%」らしいです。また、04-05シーズン以降は17回の内15回は冬の王者が優勝しているとか。
ただ最近だと、17-18シーズンにナポリが冬の王者になりながら優勝を逃していますし、今季のミランも他の上位勢との選手層の差を考えれば全く以て安心できる状況ではありません。
イブラがいるのでチームのメンタル面は問題ないと思いますが、今一度気を引き締めて次のインテル戦、ボローニャ戦に臨んでほしいと思います。
Forza Milan!
最後まで読んでいただきありがとうございました。