【翼の折れた悪魔の奮闘】ミラン対ユベントス【2020-21シーズン・セリエA第16節】
メチャクチャ長くなってしまったので、お時間のあるときに見ていただけると幸いです。
スタメン

4-2-3-1のミランと3-5-2(守備時4-4-2)のユベントス。
ミランはレビッチとクルニッチが、コロナウイルスの陽性反応により急遽欠場となりました。、
○ミランの守備
この試合のミランの狙いは明確でした。
まずは守備について。ミランは最前線から猛プレスをかけ、ユベントスのビルドアップ妨害を図ります。
イブラ、ベナセル等が欠場し、更にボランチの一角も本職じゃないカラブリアという事で、押し込まれる時間帯はできるだけ少なくしたい。よって、いつも以上にハイプレス・ショートカウンターに活路を見出そうとします。

――例えばこの場面。相手GKへのバックパスに対してもカスティジェホがすかさずプレスをかけに行く。プレッシャーを受けたシュチェスニーは右サイドへロングボール

――右サイドのキエーザへのロングボールに対しては、テオが鋭い出足で反応し、ビルドアップを妨害した
これに対するユベントスは基本的に真っ向勝負。ミランのプレスに対し怯むことなく後方からボールを繋ぎつつ(主に左サイドから)、ミランを前に引き付けたところでロングボールを縦に落とす、もしくはサイドチェンジといった形などから速攻を狙います。
一方でこの点に関し、序盤はダロトがロナウドへのマークを優先した結果、左WBフラボッタがフリーとなり、そこからボールを運ばれるシーンが何度かありました。

――例えばこの場面。ミランのハイプレスに対し、ユベントスはデリフト、ラムジーと繋いでフリーのフラボッタへボールを送る

――フラボッタがボールを持ち、速攻に繋げた。このシーンでダロトはサイドに流れたロナウドのマークに付いており、前に出て行けず(赤色)
しかしそうした場面を除けば、概ねミランの序盤の入りは良く、立ち上がりはユベントスに思い通りプレーさせていなかったという印象です。

――先ほどと同様のシーンについて。ここではダロトがフラボッタにしっかりと対応。

――その後、ロナウドへの縦パスに対してはケアーがしっかりと付き、ボール奪取に成功した(黄色)。
そして7分には、ベンタンクールのパスミスからミランがエリア内でチャンスを迎えました(しかしカスティジェホが決めきれず)。
○ミランの攻撃と、レビッチ不在の影響
続いてミランの攻撃に関してですが、ボール奪取後のミランは普段のように高速カウンターを仕掛けていきます。
特に、1トップのレオンを左サイドに流し、そこを起点に攻めようとする狙いが序盤は見られました。

――例えばこの場面。ミランが自陣でボール回収し、ケアーがすかさず左サイドにロングフィード

――その後の場面。サイドに流れたレオンにボールが入り、カウンターに。ダニーロは対面のハウゲのマークに付いており、レオンへの対応に少し遅れた
しかし、1トップのレオンをサイドに流す場合、バランスを取るために後方もしくはサイドから前線へと飛び出す選手(飛び出しに強い選手)が求められます。
普段はレビッチがその役割を担っているわけですが、試合前にコロナ陽性反応が出てしまい急遽欠場。そのポジションには代わりにハウゲが入りました。
しかしながら、ハウゲはスペースを突く意識や精度がレビッチと比べると低いですし、今のところハウゲはサイドでボールを持ち、そこから仕掛けるという点に特長があります。そのため、レビッチと同様の役割を彼に期待するのは難しいように感じられました。
これに関連し、13分には速攻からミランが決定機を作りかけたわけですが、ゴール前で惜しくもハウゲに合わなかったシーンがあります。

――ユベントスのハイプレスを躱して速攻、ダロトがボールを持った場面。レオンがサイドに流れてDFの注意を引き付け、逆サイドからハウゲが中央へ走る

――その後、ダロトがハウゲに正確なアーリークロス

――クロスはギリギリのところでハウゲに合わず、ボールはサイドにこぼれた
このシーン。「もしレビッチであれば絶対に決められた」と言うつもりはありませんが、それでも単純なスピードやこうした動き(前線に飛び出しゴールを狙う動き、クロスへの対応)に関しては明らかにレビッチに分があります。よって、彼ならば決定機に繋げられたかもしれません。
この場面を筆頭に、個人的にはレビッチ不在の影響を強く感じましたし、コロナによる試合直前の離脱が本当に悔やまれました。既に怪我による欠場が以前から決まっていたイブラ、ベナセル、サレマ等とは話が違いますしね。
世間の風潮に反し、僕はレオンのCF起用は決して悪くないと思っているのですが、一方で1トップ時はレビッチのようなタイプの選手を併用する必要があるとも思っているので、今回は非常に残念でしたね。
それと、ハウゲ個人のパフォーマンスも気になりました。
相手がユベントス、それも予期せぬ事態からいきなりのリーグ初先発という事で、おそらく多少なり緊張があったと推察されます。彼のポテンシャルはこんなものではないと思いますし、引き続き今後の改善に期待していきたいです
○ユベントスの攻撃
さて。試合展開に話を戻します。
先述の通りミランが継続的にハイプレスをかけビルドアップを妨害する一方、ユベントスも随所にプレスを突破してミラン陣内深くまで侵入していきます。15分には、それにより得たCKの流れからキエーザがポスト直撃のシュートを放ちました。
ミランのSHはユベントスの左右CBに継続的にプレス・マークする関係上、ミランが押し込まれる状況になった際、ユベントスの幅を使った攻撃によってユベントスのWBとミランのSBが局所的に1対1でマッチアップする(しかける)状況が見られます。
そして右WBのキエーザは攻撃面で優れているため、彼とテオのマッチアップが気になるところでありました。
すると17分。上記の形からキエーザとテオがマッチアップ。その後、キエーザは前方のディバラとのパス交換でエリア内に侵入し、そのままドンナルンマの守るゴールを破りました。

――1点目のシーンについて。フリーでボールを持ったデリフトがダニーロにサイドチェンジ。このとき、ミランの守備は右サイドに寄っており、逆サイドが手薄な状況

――その後の場面。ダニーロから右サイドに張るキエーザにパスが渡り、テオとマッチアップ

――その後、キエーザはディバラとのパス交換でエリア内に侵入し、ゴールを奪った
○ミランの反撃
その後は一進一退の攻防といった印象です。
ユベントスは相変わらず何度か良いプレス突破を見せる一方で、自陣でのパスミスなどもあり完全には流れを持っていけない状況。
対するミランは失点後も気落ちせず継続的にプレスをかけ続け、劣勢時はレオンのドリブルやチャルハノールのキープ・パスで盛り返していきます。
また、時間の経過と共に、疲れからかユベントスに前線へのシンプルなロングボールという形が増え始めますが、ミランがしっかりと対応して弾き返すことで速攻のチャンスを作らせません。

――例えばこの場面。終盤になってもハイプレスをかけ続けるミランに対し、ユベントスはロナウドにシンプルなロングボールを送る。

――ロナウドにはケアーが対応し、ロングボールを弾き返した(黄色)
すると30分辺りからミランが主導権を握る時間帯となり、その際にはボランチのケシエが安定したパス捌を見せ、またカラブリアも鋭い縦パスなどで見せ場を作ります。

――例えばこの場面。中にドリブルするテオに対し、ユベントスの中盤ラインが中央に絞って対応。同時に、カラブリアはユーベ中盤ラインの横にポジションニングし、テオからパスを引き出す

――その後の場面。ボールを受けたカラブリアは、ライン間に侵入したテオの足元に鋭い縦パスを通す。トラップミスによりボールが流れたものの、チャンスになりかけた
不慣れなポジションながら、カラブリアは攻守ともに想像以上にやってくれましたし、正直驚きました。
そしてミランに流れが傾いていた中、41分。ロングカウンターから最後はカラブリアが見事なミドルシュートを決め、ミランが同点に追いつきます。

――得点シーンについて。自陣でボールを奪ったミランがカウンターを開始する。カラブリアからボールを受けたハウゲに対してダニーロが前に出て対応するが、その背後のスペースに流れたレオン(画面外)にパスを通される。

――その後の場面。サイドのスペースでボールを受けたレオン。同時に、テオが背後から長距離スプリントでエリア内に侵入し、ユーベ守備陣の注意を引き付ける

――その後の場面。レオンは冷静に状況を見極め、バイタルエリアで構えるカラブリアにラストパス。そのパスからカラブリアがダイレクトでシュートを放ち、見事にネットを揺らした
このシーンでは、先述の「レオンがサイドに流れた場合の中央エリア問題」について、テオが後方から長距離スプリントすることで補った格好ですね。毎回出来る芸当ではないですが、素晴らしいカウンターでした(このカウンターに繋がったボール奪取のシーンは、正直ファールだと思いましたが…)。
こうしてミランは何とか前半終盤に追いつき、1-1で折り返すことに成功します。
○後半の修正と攻防
後半、ミランはいくつか戦術修正を加えます。
まず、プレス時にはレオンをデリフトをマークし、左SHハウゲと共にユベントスのパス回しをミラン側左サイドへと誘導していきます。

――GKにバックパスが渡った場面。レオンはデリフトへのパスを牽制する動きを見せてから寄せ、ボールをミラン側左サイドへ

――左サイドではコンパクトな陣形を形成し、ボール奪取を図る
おそらくこれにはいくつか理由があって、まず前半の組み立て時に目立っていたデリフトにパスを出させたくないというのが一つ。後はユーベ側左サイドへの迅速なサイドチェンジを阻止し、主にロナウドに良い形でボールを渡らせないようにしようとしたのかなと。
また、これによってミラン側左サイドでコンパクトな状態で守ることができ、この試合で不安定な守備対応を見せるテオやロマニョーリを1対1に晒すリスクも減らせますね。
そして、もしユベントスがサイドチェンジを狙おうにも、そのための有力な中継地点の一つであるデリフトにはレオンが付いている状態。そこで、左WBのフラボッタにパスを出そうとした場合、そこには下がり目に位置するカスティジェホが素早く対応していく形で守ります。

――右サイドを経由してから中央のCBボヌッチにボールが渡ったシーン。レオンがデリフトをマークしてパスコースを消し、ハウゲがサイドを切りながらプレスをかける。中央の選手もそれぞれマークされているため、ボヌッチは逆サイドのフラボッタにパスを送る。しかし、そこには後方のカスティジェホ(画面外)が素早く反応

――素早くプレッシャーをかけることで相手のボールロストを誘い、そのこぼれ球をレオンが拾ってミランボールとなった
こういったミランの守備は非常に整理されているように見受けられました。が、しかしユベントスも次第に対応していきます。
まず、ミラン側右サイドに中盤の選手が下がる形が一つ。カスティジェホはフラボッタをマークしているため出づらいですし、もしボランチのカラブリアがそのまま付いて来れば中央スペースが空くため、そのスペースを突いていきます。

――この場面では、ボヌッチからこの位置のラビオにボールが渡る。

――ボールを受けたラビオに対し、中央のカラブリアが対応。これにより中央のスペースが空くため、ラムジーがそのスペースに侵入しパスを引き出す

――その後、サイドに張るフラボッタのマークに付いていたカスティジェホが遅れてカバーに入るも、フラボッタへパスを出され、クロスを放り込まれた。
もう一つは、シンプルにミラン側左サイドの狭いスペースを強引に突破していく形。アンカーとCBの流動的なポジションチェンジなどでマークを混乱させるなどして、そのまま同サイドを攻めます(こっちの方がよく見られましたかね)。
以上のような形で攻めこまれることもあったミランでしたが、その場合も素早い帰陣で何とか凌いでいきました。この点に関し、ケシエやケアー等の迅速なプレスバックやカバーリングはこの試合でも健在でしたね。
○チャルハノールの躍動
一方でミランの攻撃について。後半のミランは繋ぐ意識を高め、チャルハノールの下がる動きに対して縦パスを入れ、そこを起点に速い攻めを狙っていきます。

――例えばこの場面。守備時4-4-2でプレッシャーをかけてくるユベントスに対し、チャルハノールが下がってきてパスコースを作る

――ケアーからパスを受けたチャルハノールは、ワンタッチで右サイドに展開し、プレスを回避する
チャルハノールの起点となる動きは素晴らしいものがありましたし、関連してダロトも組み立て時に非凡なテクニックを披露。
やはり有望株だけあって、順調に成長すれば非常に優秀な選手になれそうですよね(ドライローンのため、その時ミランにいない可能性は高いですが)。
そして61分にもチャルハノールへのパスを起点に速攻に繋げ、一気に惜しいチャンスを作り出しました。

――この場面でもチャルハノールが下がってパスを引き出し、ワンタッチでサイドのダロトに展開。

――その後の場面。ボールを受けたダロトは、ラムジーの素早いプレスをいなして中にドリブルし、チャルハノールへスルーパスを通す

――その後、レオンが裏に抜けてチャルハノールからスルーパス受け、一気にエリア内まで侵入した
○痛恨の失点
しかし62分。上記のミランの速攻を防いだユベントスがカウンターを開始。その流れから最後はキエーザが決め、ユベントスが貴重な追加点をゲットしました。

――2点目のシーンについて。後方からパスを受けたディバラが、ロマニョーリのプレスをいなしてからサイドチェンジで一気に展開

――その後の場面。左サイドのフラボッタ&ロナウドに対し、ミランはダロト、カラブリア、カスティジェホで対応。しかし、中央へのパスコースが切れておらず、中央のスペースに侵入してきたディバラ(画面外)へのパスを許す

――中央のディバラから右のキエーザにボールが渡る。

――その後、キエーザはテオに仕掛け、狙いすましたシュートを突き刺した。
大体において封じ込めることができていた、サイドチェンジによる幅を使った攻撃をここではやられてしまい、結果として良い形でボールを持ったキエーザにまたしても点を奪われると。
ロマニョーリ対ディバラ、テオ対キエーザの部分は相手がかなり優勢だったため、こうなった場合は必然的にピンチを招いてしまいますね。
そんなわけで、かなり厳しい展開となった1点ビハインドのミランはハウゲに代えてブラヒムを投入し、前半のような形の猛プレスも再開。一方のユベントスも2点目直後にディバラとキエーザに代え、クルゼフスキとマッケニーを投入。
その後はカウンター・速攻の応酬という展開。
71分にはロナウド&マッケニー、72分にはテオがそれぞれカウンターからチャンスを作り出しました。
74分にはベルナルデスキとアルトゥールが投入され、選手層の厚さを見せつけるユベントス。
すると76分。ミランのハイプレスを躱したラビオがドリブルで一気に持ち運び、エリア手前でクルゼフスキにパス。その後クルゼフスキが対面したロマニョーリをあっさりと躱してクロスを送り、マッケニーが合わせてゴール。ユベントスが決定的な3点目を奪いました。

――3点目に繋がるシーン、ベルナルデスキがダニーロからのパスを受けた場面。ミランがハイプレスをかけ、ユベントスがプレス回避を目論む。

――その後の場面。ダニーロが前方に走り出す一方で、ラビオが下がる。この流動的なポジションチェンジによりラビオが一時的にフリーとなり、ベルナルデスキからラビオにパスが通る

――その後、ケシエのプレスを躱したラビオが長い距離をドリブルで運び、3点目に繋がった
この3点目の時点でひしひしと感じたのは、一部選手のクオリティ(と選手層)の差かなあと。ミランも良い攻撃の形は作れていましたし、後はそれを決定機にまで結びつけるクオリティがあったかどうかかなと。
正直、カスティジェホは守備こそ献身的で非常に良いのですが、このレベルの試合だと攻撃面で物足りなさすぎますし、ハウゲとブラヒムも成長の余地ありという事で…。多くの攻撃的ポジションの主力が不在となった今回、殊にフィニッシュの局面においては中々もどかしいものがありました。
さて。終盤に2点ビハインドとなったミランですが、諦めずに攻勢をかけます。
また80分過ぎからダニエル、カルル、コンティ、コロンボとフレッシュな選手を次々と投入。
そしてミランプリマ出身の若きアタッカー2人が攻めの姿勢を見せるものの、ユベントスの守備を崩し切るには至らず。
いくつかのシュートチャンスも最後の砦であるシュチェスニーが安定したパフォーマンスを見せてシャットアウトし、ゲームセット。
ミラン1-3ユベントス
雑感
リーグ戦27試合負けなし。約10ヶ月もの間無敗を続けていたミランでしたが、残念ながらその記録が途切れることとなりました。
しかしながらチームは、離脱者続出で満身創痍の状態ながら懸命に戦ってくれましたし、内容的には予想を大きく超えるパフォーマンスを見せてくれたのではないかと思われます。
この試合に関してタラレバが尽きることはありませんが、万全の状態で臨めなかったのはユベントスも同じこと。
とは言え、それでもなおあのクラスの選手たちを途中から出せる選手層は恐ろしいの一言ですし、王者としてのユベントスの強さというのを再認識させられる結果となりました。
暫定勝ち点差でいえば「7」とまだ余裕はありますが、ユベントスがここから猛追してくることは想像に難くありませんし、この敗戦でミランが落ち込めばスルッと追い抜かれることもあり得ます。
そうならないために求められるのは、次のトリノ戦に必ず勝利を収めることでしょう。
トリノ戦で怪我人が戻ってくる可能性は低く、そこに追い討ちをかけるかのようにチャルハノールもこの試合で負傷したとのことで、次戦も苦戦必至ですが何とか堪えて欲しい。
トリノは順位的にも勝つべき一戦ですから、チームの迅速な立ち直りに期待したいです。
Forza Milan!
今回は非常に長くなりましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。