イブラヒモビッチ不在時における、ミランの戦術的特徴について

ズラタン・イブラヒモビッチ
はじめに

現ミランの絶対的エースであるイブラヒモビッチですが、実はここまで2020-21シーズンのリーグ戦14試合の内、半分以上となる8試合に欠場しています。



しかし、ミランの暫定成績はご存知の通りです。イブラ不在時もリーグ戦で6勝2分と無敗をキープするなど、好成績を記録しています。

そこで今回は、イブラヒモビッチ不在時のミランの戦術的特徴について、カウンターとポゼッションの両面から見ていこうかなと。
今のミラン(ベストメンバー時)はポゼッション・カウンターの両面で相手に脅威を与えることのできるチームですが、イブラ不在時においては後者の比重が大きくなります。


カウンター・速攻の局面

イブラの代役としてはレビッチ、レオンのどちらかが起用されているわけですが、両者ともに抜群のスピードと長距離をスプリントできる持久力を兼ね備えており、縦を素早く突くことが可能です。

そのため、ミランはボール奪取後もしくはビルドアップ時に素早くシンプルに相手DFラインの背後にボールを送り込むなどして、彼らのスピードを活かそうとする傾向が強くなります。


――一例:EL第4節、リール戦の同点シーンについて。ボール奪取に成功したトナーリは、その直後に相手DFラインの背後にスルーパス。それにレビッチが抜け出し、アシストを記録した(該当シーン:38秒~)


また、レビッチは守備においてもプレスの強度が高いため、彼のプレスをスイッチにチームが高い位置でボールを奪いにかかり、実際に良い形でボール奪取してカウンターに繋げるというシーンも良く見られます。

このように、イブラ不在時は縦に速いサッカーをより重視することでメンバーの特性を活かせますし、イブラ不在による問題点(後述します)もある程度はカバーできるため、理に適った戦術といえるのではないかと。

実際に先日のラツィオ戦やサッスオーロ戦では、全体としては相手に主導権を握られながらも、カウンターや速攻からチャンスを量産していずれも勝利を収めることに成功しています。



ポゼッションの局面

しかしながら、ポゼッションの局面(ここでの定義は「守備をセットした状態から、ブロックorプレスをかけてくる相手を崩す場面」とします)に関しては問題が生じています。

まず、引いた相手に対してかなり攻めあぐねてしまうというのが1つ。
イブラがいる場合、前線でのポストプレーですとか、彼の下がる動きに応じて2列目以下が飛び出す流動的な攻撃によって相手の低い守備も崩すことが可能ですが、イブラ不在時はそういった形が非常に少なくなります。


――一例:イブラを軸にした流動的な攻撃


最近でいえばパルマ戦など、イブラの代役として1トップに入ったレビッチがポゼッション時、縦パスを処理できずにボールロストしてしまうため、効果的に攻められないシーンというのが散見されていました。


続いて。相手がハイプレスに来た場合に関しても同様です。
マッチレビュー記事でも度々言及してきましたが、イブラは今なお世界最高クラスの空中戦の強さを誇っています。


【20-21】インテル対ミラン_空中戦勝利数ランキング
――参考1:今シーズンの第4節、インテル戦における空中戦勝利数ランキング


イブラヒモビッチ アタランタ戦空中戦1
――参考2:昨シーズンの第36節、アタランタ戦における空中戦勝利数ランキング



そのため、イブラにロングボールを放り込み、その周囲に味方が走り込んで落としを受け、速攻に繋げるというシンプルな戦術がハイプレス対策として非常に効果的でした。

一方でイブラ不在時は、その代役として起用されるレビッチもレオンも空中戦からのポストプレーが得意とは言えないため、競り合ってはくれるもののそこから味方に落として効果的な速攻に転じるというシーンは少なく、そのまま相手ボールもしくはスローインといったシーンが散見されますね。


また、最近はベナセルも負傷により欠場しており、それが後方からの組み立てに苦戦する要因の1つとなっています。

実際に2人が欠場した先日のサッスオーロ戦、ラツィオ戦にて、ミランは先述の通りカウンター・速攻主体のスタイルで勝利を収めたものの、相手に必要以上に主導権を握られてしまった点は否定できません。



おわりに

選手の特性に合わせた組織作りが巧みなピオリ監督は、イブラ不在時にはプレスとカウンターをより重視したチームを作り上げることで、変わらず結果を出し続けることに成功しています。

当然ながら中心選手が不在となればチームパフォーマンスに大きな影響を与えるわけですが、そんな中でも次善の策を用意し、結果を残し続ける点は称賛に値しますね。

一方で、イブラ不在時のポゼッションの局面に関しては十分に機能しているとは言えず、ボールを持たされた場合において攻めあぐねるシーンというのが散見されるのが現状です。

カウンター主体のスタイルとはいえ、ポゼッションの時間帯を作り、これを活かすというのは当然必要になってくるわけで、今後も安定して勝利を収めていくためにはそうした点の改善が多少なりとも必要になってくるのではないかと思います。

現有戦力の台頭、外からの補強など…これには様々な解決策が考えられますが、果たしてどうなるか注目していきたい所です。

そして何よりミランにとって、イブラが万全の状態で復帰するというのに越したことはありませんから、彼の一日でも早い完治と復帰を心より願います。


それでは今回はこの辺で。

2Comments

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今年もみなさんと管理人さん共々ミラン!ミラン!ミーラン!(笑)させていただきましてありがとうございました☆

戦術観点、たしかにそうだなぁと思うところがあり今後のゲームを見ていく上で参考にさせてもらえればと思います。

個人的には、チャイナミランが終わり今の体制になってから驚くべきことが補強の上手さと引きの良さです。
引っ張ってきた選手みんな当たりですね。
昨年のイブラから、ケアー、サレマ、ディアス、ハウゲ、トナーリ、カルル。
特に、ケアーとサレマがこんなにも大当たりなんて予想出来なかった。

ピッチ内外でも多角的な影響を与える戦略イブラの影響も大きいですが、最近の補強のうまさには少し驚きです。
この背後には、チームを背負って、ミランに本当に良くなってほしいというマルディーニさんのお陰だと信じたい(笑)

いつかイブラは離れるタイミングがくると思います。
そのときに今の強さと補強のピンポイントが継続していけば、向こう三年もあれば、CLで十分戦えるチームになるとワクワクです。

今年前半色々とあったと拝見してますが、またお戻りいただいてありがとうございました☆










  • 2020/12/31 (Thu) 11:08
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カカニスタ22

カカニスタ22

To altさん

コメントありがとうございます。

昨季から、低コストで次々と的確な補強に成功していますよね。
世界に網を張る優秀なスカウティングコーチの助言の下、マルディーニのカリスマと交渉術で有望株の獲得を遂行するという形は確立されつつありますし、今の方針ですと優秀な若手の確保は生命線ですから、この流れは是非とも続いて欲しいですね。
今のミランの主力選手は多くが20台前半ですし、彼らが成熟する数年後が本当に楽しみです。

こちらこそ、定期的にコメントをいただき誠にありがとうございました!
今後もボチボチと更新を続けていく予定ですので、来年もよろしくお願いいたします。

  • 2020/12/31 (Thu) 23:21
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