【劇的な結末】ミラン対ラツィオ【2020-21シーズン・セリエA第14節】

今回はセリエA第14節、ミラン対ラツィオのマッチレビューを行いたいと思います。
投稿前に文字と作成した画像が消えてしまい、その復元(手動ですが)に時間がかかったため遅れてしまいました。申し訳ございません。

スタメン

【20-21】ミラン対ラツィオ_スタメン

4-2-3-1のミランと3-5-2のラツィオ。
ミランの守備とラツィオのプレス回避

まずはミランの守備について。
前節サッスオーロ戦ではプレスの開始位置を下げたミランでしたが、この試合では前線から積極的にプレスをかけていきます。

具体的に、前線を3トップ(サレマ、レオン、レビッチ)+1トップ下(チャル)で構成してラツィオの3バック+アンカー(+GK)に対応し、ボランチとSBがそれぞれ対面の相手をマークする形が基本です。

それに対しラツィオの攻撃はどうか。前半は左サイドから組み立てる形が非常に多かったラツィオは、インモービレもしくはコレアが中盤に下がることで数的優位を作り、そこへの縦パスを起点に崩していこうとします。


【20-21】ミラン対ラツィオ_戦術分析1
――ラドゥがボールを持った場面。サレマが左WBへのパスコースを切りながらプレスをかけ、ボランチがそれぞれ対面の相手をマークする。しかし一方、ラツィオはコレアが下がることで中盤に数的優位を作り、ラドゥからボールを引き出した

同様の形で、11分には決定機を作り出します。


【20-21】ミラン対ラツィオ_戦術分析2
――ミランが最前線からプレスをかけるも、GKレイナはアルベルトへパスを通す。その後、アルベルトは下がってきたインモービレにパス


【20-21】ミラン対ラツィオ_戦術分析3
――その後の場面。カルルが寄せに行くが間に合わず、インモービレから上がってきたアルベルトへとパスが通る。そのアルベルトも前線へ駆け上がるマルシッチにスルーパスを出す。その後、マルシッチがエリア内にまで侵入してシュートを放った

ミランとしては積極的にハイプレスでラツィオのビルドアップを阻みに行き、上手くいく場面もありましたが、一方でこのようにハイプレスを外される(外されかける)シーンというのも散見されました。


ミランの速攻

一方、ミランの攻撃はどうか。ミランはいくつか狙い通りの攻撃(速攻・カウンター)を披露し、チャンスを次々と作り出していきます。

これに関し、ラツィオはポゼッションを確立した後、左サイドに人数をかけて崩していこうとする形が基本ですが、右WBのラッツァーリは右サイドで幅を取るポジショニング。
そこで、ミランは(ボールがミラン側右サイドにある時は)ラッツァーリの背後のスペースをカウンターで突くため、レビッチに相手右CBをケアさせつつ比較的高い位置に残します(ちなみに右CBをケアすることで、相手の「左から右へのサイドチェンジ」という選択肢も減らせる)。

そして、ミランが中盤エリアなどでボール奪取に成功した場合、レビッチが素早く縦を突いてチャンスを演出していくと。
コンディション的に出場が危ぶまれていたレビッチを先発で起用したのも、この試合ではカウンター・速い攻撃が極めて重要になるとピオリ監督が踏んでのことでしょうし、実際にこの試合でレビッチが果たした役割は極めて大きかったと思いますね。


【20-21】ミラン対ラツィオ_戦術分析5
――例えばこの場面。マルシッチからのパスをカルルがインターセプトし、ボールを前方に運ぶ。そこで、パトリックが前に出て妨害を図るもカルルが躱し、敵陣深くまで侵入していく


【20-21】ミラン対ラツィオ_戦術分析6
――その後の場面。カルルがレビッチにパスを出し、レビッチからのグラウンダーのクロスにチャルハノールが合わせた。カウンターから惜しいチャンスを演出

一方、レオンはロングボールのターゲットとして体を張りつつ、これまた裏への抜け出し(相手左WBの背後のスペースなど)を隙あらば狙っていきます。


【20-21】ミラン対ラツィオ_戦術分析7
――例えばこの場面。カルルが中盤エリアでボールを回収。一方、サレマへのパスを警戒したラドゥが前に出る。そこで、カルルはCB間(ラドゥ―フェリペ)にスルーパスを通し、同時にそこへレオンが抜け出す


【20-21】ミラン対ラツィオ_戦術分析8
――その後の場面。スルーパスに反応したレオンが一気に敵陣深くまで侵入し、シュートにまで持っていった。その間、逆サイドのレビッチは背後のスペースを突き、エリア内にまで侵入していた

このようにして、縦に速い攻撃を志向しチャンスを作り出していったミランは、9分にCKからレビッチが先制点を獲得。続く14分には上記の形からレビッチがエリア内でボールを受け、相手に倒されPKを獲得。それをチャルハノールがモノにし、早々に2点を獲得しました。


【20-21】ミラン対ラツィオ_戦術分析9
――2点目のシーンについて。中盤エリアでボールを奪ったミランがカウンターを開始。レオンが右斜めに走ることで、フェリペとパトリックを引き付ける


【20-21】ミラン対ラツィオ_戦術分析10
――上記のレオンの動きにより、レビッチへのパスコースが生じる。サレマはすかさずそのスペースにスルーパスを通す


【20-21】ミラン対ラツィオ_戦術分析11
――その後の場面。エリア内でボールを受けたレビッチは、その後倒されてPKを獲得。そのPKをチャルハノールがモノにした


これは正に狙い通りの形といえるのではないかと。



ラツィオの反撃

幸先良く2点をリードしたミラン。その後も順調に試合をコントロールできていたように見えましたが、26分にCKの場面でカルルがPKを与えてしまい、それによりラツィオに1点を返されます。

その後、30分過ぎからミランはハイプレス時の形が少し変わり、時おり4-3-3のような形に。これはサレマを一列下げることで、先述のラツィオの中盤での数的優位を無くそうとしたのかなと。体力的な理由もありますかね(※試合後のピオリ監督のインタビューを見るに、これは意図した形ではなかったようです)。

ただし、これもあり前線の圧が弱まったため、後方でのサイドチェンジだったりアンカーへのパスだったりを許し、押し込まれるシーンが散見されるようになりました。


【20-21】ミラン対ラツィオ_戦術分析4
――例えばこの場面では、サレマがアルベルトのマークを優先し、4-3-3のような形に。ただし、ここではアルベルトを経由しアンカーのエスカランテにフリーでボールを渡してしまった


また、ラツィオは両サイドCB(特にラドゥ)にも積極的にボールを運ばせるなどして攻勢を仕掛けます。最後は主にサビッチに向けクロスを入れて危険なシーンを作り出そうとしましたが、ミランも最後の局面では自由にやらせず。何とか弾き返していきます。

ミランとしてはもう少しボールを持って試合を落ち着けたいところでしたが、この試合のミランはプレス耐性の弱いボランチコンビという事もありボールを繋げず。また依然としてイブラ(前線で時間を作ってくれる)も欠場しているため、ポゼッションの局面で苦戦を強いられることになりました。ラツィオの継続的なプレスも効いていましたね。


ラツィオ戦_ポゼッション率
――参考:この試合の前半30~45分におけるポゼッション率について(『WhoScored』より)。この時間帯ではラツィオが約8割のボールポゼッション率を誇った

ミランも何度かカウンターから盛り返そうとしますがシュートまでには至らず。前半はそのまま終了。


後半序盤戦の攻防

後半のミランは最初の形で前から積極的にプレスをかけつつ、速攻・カウンターでチャンスを演出。テオ、レビッチ、そこにチャルハノールやレオンが絡んでいく形で主に左サイドから崩していきます。

一方のラツィオは後半からカタルディを投入。前半よりも右サイドからの組み立てを増やして両サイドを広く使いつつ、最後の局面ではインモービレを筆頭に左からチャンスを演出。
この点に関しては、右CBカルルが全体としては及第点以上のパフォーマンスを披露ながらも、時おり見られたミス(対面の相手を意識しすぎた結果、危険なスペースを空けてしまうなど)が痛かったですかね。

すると59分、サビッチの浮き球のパスにインモービレがダイレクトで合わせ、ラツィオが同点に追いつきました。
これはアシスト・ゴール共に技術レベルの高いものでしたが、そもそも左右に振られて自陣に押し込まれた状況を長く作られたことが良くなかったかなと。
押し込まれるとレビッチが中々戻り切れませんし(体力的にも、戦術的にも)、ボランチの守備力が(ケシエ、ベナセルと比べて)ないので、ゴール手前で守り切るという事が難しいですしね。


後半中盤・終盤戦の攻防

その後もラツィオは左右を幅広く使ってミランを押し込んでいく形。ミランにとってはかなり苦しい展開になってきました。

すると64分、サレマに代えてカスティジェホを投入。サレマは途中から精彩を欠いており、プレスも躱されていたことから、主に守備面を重視した妥当な交代かなと。

一方のラツィオも、全体的に疲れが見られるようになるわけですが、すぐに対応。疲れの見えるサビッチ、インモービレに代えてアクプロ、ペレイラを投入。対するミランも79分にレオンに代えてハウゲを投入し、終盤戦へ突入します。

ミランは両サイドにフレッシュな選手(ハウゲ、カスティジェホ)を投入したことで、左右を幅広く使うラツィオに素早いスライドで対応。守備面を改善します。
また、攻撃に関してはテオが躍動し、(おそらく)テオ封じが一つの役割だったであろう途中投入のアクプロを圧倒。86分にはハウゲとの連携で左サイドをぶち抜いてクロス。レビッチが合わせますが、相手GKレイナがファインセーブ。そして直後の87分にまたしてもレビッチが決定機を迎えますが、決めきることができません。

万事休すかに思われましたが92分、CKからテオが頭で合わせ、ミランが最後の最後で勝ち越しに成功。
その後、得点後のラストワンプレーをしっかりと凌いで試合終了。

ミラン3-2ラツィオ


雑感

ミランがラツィオとの激闘を制し、勝ち点3を手にしました。
これにより、暫定勝ち点は34ポイントで1位。僅差ではあるものの、ミランが暫定首位で2020年を締めくくることとなります。

振り返ればちょうど1年前、ミランはアタランタに屈辱的な0-5の敗戦を喫したわけですが、その時とは正反対の状況といえますね。
イブラの帰還を機に、チームは徐々にあるべき姿を取り戻してきたわけですが、まさかここまで理想的な結果(暫定ではありますが)が得られるとは1年前には思いもよりませんでした。

これも全て監督・選手・スタッフ・フロント、チーム関係者全員の努力の成果だと思います。本当に感謝ですね。

そして近年のミランは、シーズン前半戦に低迷し、後半戦に多少なりとも盛り返すものの前半戦の低迷が足かせとなり、最終順位は中位というのが恒例行事になりつつありました。しかし、この点も今シーズンは全く違います。
約10年前まで感じられていた類の「観戦の喜び」を思い出すとともに、1試合観るだけでこれほどまでにエネルギーを消耗するものだったかと驚いています(笑)



さて。リーグ無敗記録を更新中のまま2020年を締めくくったミラン。とは言え、完全無欠のチームというわけではありません。
殊に、選手層に関してはインテルやユベントス等と比べて大きく差のある部分であり、長丁場となるリーグ戦においてはその差が順位に決定的な影響を及ぼし得ます。

ミランをあるべき地位に戻そうと奮闘するピオリを始めとするコーチ陣、そして選手たちをサポートするためにも冬の補強が強く求められますし、マルディーニ等補強担当者たちには是非とも来るべきメルカートにて素晴らしい立ち回りを見せてもらいたいと思います。

最後に。この2020-21シーズンがミランにとって復権の大きな大きな第一歩になる可能性は日に日に高まっています。
一ファンとして、今回こそは歓喜のシーズンになることを心より願います。


Forza Milan!

最後まで読んでいただきありがとうございました。

4Comments

Aki

2020年最後の試合(劇的勝利)をレポートいただきありがとうございました。
最後に、本当に嬉しい勝利をXマスプレゼントしてもらった感じです。朝っぱらから大喜びしてしまいました。
(申し訳ないですが)戦術的な話ぬきで試合展開が、
2点リード→同点→さらに猛攻を受ける…でやっぱダメかと落差を感じていたところで、まさかの勝利にテンションが爆上げとなりました!
チームというか、クラブの雰囲気が本当に良くなったなと感じられる勝ち方と喜び方だったと思います。

これからのメルカートと、新年からの試合も楽しみにしています。来年もどうぞよろしくお願い致します。
良いお年を!

  • 2020/12/28 (Mon) 15:39
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Ap21

レポお疲れさまです。

ミランの心臓であるケシエとベナセル抜きなので初黒星を覚悟した自分を反省しました。
なんて素晴らしいチームなんでしょう。
ガジディスCEOのあんなに喜ぶ姿を見たのは初めてかも。パオロの嬉しそうな姿に胸が熱くなりました。2人の溝も少しは縮まったのかなぁ。

昨年末アタランタに大敗した後だったのもありここでカカニスタさんに愚痴(ごめんなさい)りながらも『年明けには勝者のメンタリティが帰って来てくれる』と書いた記憶があります。もちろんイブラ1人が全てを変えた訳ではないですが彼の帰還がここまでのチームになるとは昨年末には全く予想もしてませんでした。
これから負ける事もあるだろうけど今のチームなら引きずる事なく前に進んでくれると根拠のない自信ありデス(笑)

今年も沢山の更新本当にお疲れさまでした。
そして楽しい時間を有り難うございました。


                   
ヒトリコド      
愛するピルロへ
"スクデットはうちが貰うよ"(希望)








 

  • 2020/12/28 (Mon) 19:40
  • REPLY
カカニスタ22

カカニスタ22

To Akiさん

コメントありがとうございます。こちらこそ読んでいただき感謝です。

去年のクリスマス(アタランタ戦)はプレゼントを貰えませんでしたからね(笑)今年は最高でした。
仰る通り、決勝点直後の選手たちやフロント陣の盛り上がりっぷりを見るに、現チームの雰囲気の良さが外からでもひしひしと感じられますね。メンタル的にも大きく成長し、試合終盤のパフォーマンス(集中力)に関してはホントに素晴らしいものがあります。

ここから年末年始にかけて更新頻度を上げていきたいと思います。こちらこそ、来年もよろしくお願いいたします!

  • 2020/12/29 (Tue) 05:39
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カカニスタ22

カカニスタ22

To Ap21さん

コメント&労いのお言葉ありがとうございます。

昨年末から翌年にかけてのフロントのゴタゴタには頭を抱えただけに、(少なくとも表面上は)こうして一枚岩となったフロント陣を見られたのは感慨深いものがありますね。
僕は当時からマルディーニを支持していましたが、一方でエリオット(ガジディス)の基本方針に関しては尤もだとも思っていたので、結果として両者が歩み寄ることとなったのは非常に喜ばしいです。

イブラの帰還をきっかけに、仰るようにチームがここまで劇的に変貌を遂げたのには流石に驚きでしたね。
メンタル面が技術的なパフォーマンスに影響を与えるというのは知られたことではあるものの、イブラ帰還後のミランは正にそのことを完璧に立証したチームなんじゃないかと思います。

こちらこそ、たくさんの閲覧&コメントありがとうございました。来年もよろしくお願いいたします!

  • 2020/12/29 (Tue) 05:39
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