ハウゲのプレースタイルについて(2) ~ELで躍動する大器~
先日、ELグループステージの全日程が終了し、グループHのミランは6戦4勝1分1敗という成績で、難敵リールをかわして首位での決勝トーナメント進出となりました。
ミランは全試合を通して控え中心のメンバーで臨んだものの、その控え選手たちが躍動し、見事な結果を残すことに成功しています。
そして、中でも強烈なインパクトを残したのが、今夏に加入した期待の新星イェンス・ペッター・ハウゲです。
280分というELでの出場時間で残した成績は3ゴール1アシスト。第5節のセルティック戦では1ゴール1アシスト、そして先日行われた6節のスパルタ・プラハ戦では決勝ゴールを記録するなど、尻上がりに調子を上げ、早くも左サイドハーフのレギュラー争いに本格的に食い込んできました。
Jens Hauge's game by numbers for Milan vs. Slavia Prague:
— Squawka Football (@Squawka) December 10, 2020
100% shot accuracy
86% passing accuracy
6 touches in opp. box
3 ball recoveries
3 shots
3 shots on target
3 take-ons completed
2 fouls won
1 interception
1 goal
What a talent. 🌟 pic.twitter.com/2m5sNhz3Ln
(※スパルタ・プラハ戦におけるハウゲの主要スタッツ)
そこで今回は、これまでレビュー出来ていなかった4節リールから6節プラハ戦について、ハウゲのプレースタイル及び役割の変遷と共に見ていこうかなと思います。

第3節では0-3と大敗を喫した相手でしたが、4節の結果は1-1のドロー。
リベンジ達成とはいかないまでも、貴重な勝ち点1をゲットしました。
しかし、この試合でハウゲは苦戦。そもそもボールに触れる機会が少なかったこともあり、あまり見せ場を作ることなく77分に交代しています。

――参考:リール戦におけるハウゲのボールタッチポジション(左攻め。『WhoScored』より)。77分の出場で「23回」のボールタッチ数に止まっている
この試合までのハウゲに求められた主な役割は、左ハーフスペースに位置し、サイドでボールを受けたテオの動きに合わせてサイドに斜めに走り、テオから縦パスを引き出そうとする(&対面のマーカーを引き付ける)というのが一つでした。

――テオが後方からボールを受けた場面(図解)。リールのSBが縦を切りながらテオにチェックに付く。その背後へハウゲが斜めに走り、対面のCBを引き付ける
しかし、このような形はあまり上手くいかず。というのも、テオからハウゲへのパスコースは相手によって封じられるため、中々ハウゲがボールを受けることができません。
とは言え、こうした動きによって1トップのレビッチへのスペースおよびパスコースが生まれやすいため、もしレビッチに楔のパスが入るのであれば有効な崩しが期待できるわけですが…こちらも中々上手くいかず。
というのも、テオは左利き(かつ右足の使用頻度が少なく、精度も低い)なので、左サイドからカットインをしてもそこから縦パスはあまり出せませんし、また仮にレビッチにボールが入ってもレビッチ自身が後ろ向きでのプレーを得意とはしていないため、そこで有効なプレーというのはあまり期待できない、と。

――先ほどの図から間もなくの場面。テオが右足でレビッチにパスを出すも、処理が難しい浮き球のパスに。また、そのパスをレビッチがトラップミスし、ボールはタッチラインを割った
そんなわけで、中々ハウゲに(カウンターを除き)良い形でボールが渡りませんし、チームとしても攻撃に関してはあまり上手くいっていなかったのではないかと推測します。
○セルティック戦について~躍動~

続いて第5節のセルティック戦について。ミランが4-2で勝利した試合ですが、先述の通りこの試合でハウゲは1ゴール1アシストを記録する大活躍を見せました。
その理由の一つとして、この試合では(おそらく途中から)ハウゲは役割を少し変え、サイドに張ってボールを受ける場面が増えます。

――セルティック戦におけるハウゲのボールタッチポジション(右攻め)。タッチライン沿いで多くのボールを受けていることがわかる。なお、ボールタッチ数はフル出場で「59回」を記録。
一方、同SBのテオは下がり目の位置で組み立てに関与する形を増やす、と。
これは敢えてテオがサイドに張らず、下がり目かつやや内寄りの位置を取ることで相手のサイドハーフ(マンツーマン気味に対応してくる)を前に引き付け、それからハウゲにパスを送ることにより、ハウゲにドリブルで仕掛けるスペースを作ることが可能となります。
ハウゲはプレースタイル的に、ボールを持って前を向き、そこから相手と正対して引き付けてからドリブル突破orパスといった形が得意ですし、そういう形をチームとして作り・活かせた事で、ハウゲが素晴らしいパフォーマンスを披露できたという側面は確実にあると思います。

――ハウゲの得点シーンについて(右攻め)。テオが内寄りかつ下がり目の位置からハウゲ(赤色)にパスを渡す。これによりSHを前に引き付け、ハウゲと相手SBとの1対1の状況を作り出す

――その後の場面。チャルハノールが相手ボランチ(42番)を引き連れながらサイドに流れることで、ハウゲ(赤)に中央へのドリブルコースを作り出す。

――ハウゲがカットイン。プレスバックしたSH含む3人に囲まれながらも強引に突破し、エリア内に侵入

――その後、素早いシュートでネットを揺らした
また、ハウゲがサイドでキープする間にテオがインナーラップしてゴール前に侵入するという動きが見られたようで、こうした動きが今後、テオとハウゲが組んだ際に増えるようになるとより相手にとって脅威になるのかなと。

――例えばこの場面(左攻め)。テオはサイドのハウゲにボールを渡し、自らはインナーラップ。同時にレビッチはCB-SB間へ斜めに走り、CBを引き付ける

――その後、レビッチの作り出したスペースにテオが走り込み、そこへハウゲがパスを通した
○スパルタ・プラハ戦について~真価~

第6節のプラハ戦においても、ハウゲは決勝点を挙げて1-0勝利の立役者となりました。

――プラハ戦におけるハウゲのボールタッチポジション(左攻め)。90分でボールタッチ数は「46回」を記録
この試合では殊に得点シーンにおいて、ハウゲの真価がハッキリと見られたのではないかと思います。

――画像1・得点シーンについて(左攻め)。左サイドのダロトがドリブルで敵陣深くまで侵入して相手のWBと中盤の選手を引き連れてから、中央寄りに位置するハウゲにパスを送り、ハウゲがトラップする
このようにトラップの時点で、エリア中央やゴール方向にスペースがあるため、そちらに向けてすぐにボールを運んでもおかしくない場面です。しかし、ここでハウゲは直進し、相手WBと正対します。

――画像2・直進し、相手WBと正対するハウゲ

――画像3・その後、股抜きで相手WBを躱してエリア内に侵入し、CB-WB間のスペースに入り込むことに成功

――画像4・その後、CBと対峙するハウゲ

――画像5・最終的にハウゲは、CBの股を抜くシュートでネットを揺らした
もしも画像1の場面で、ハウゲが最初から以下のように中央方向への進路を取っていたならば、相手WBはハウゲのゴールへの進路を塞ぐためにすぐさまCB-WB間を埋めに移動したでしょうし、そうなればエリア内に侵入することは難しくなっていたはずです。

――もしもの状況
自らが最終的に使いたいスペースを事前に認識し、良い状態でそこへ至るために敢えて手前の相手WBとの正対を選び、相手を足止め・そして置き去りにすることで守備を無力化したハウゲ。もちろん、実際に対峙した相手を抜くスピード・キレ・テクニックを有するからこそできる選択ですから、この得点はハウゲの判断面・技術面2つの側面の優秀さによるものだといえるのではないでしょうか。
(※上記キャプチャ画像の映像引用元
①ttps://www.youtube.com/watch?v=GATPgLkjHVo
②ttps://www.youtube.com/watch?v=Jjlk8_V7Yqk)
○おわりに
現時点で印象的なパフォーマンスを披露し、結果も残しているハウゲですが、彼はまだ21歳です。
これからも更なる成長を遂げることは間違いなく、いずれは世界的な選手となる可能性を大いに秘めています。
ピオリ監督も言うように改善すべき点はまだありますが、素行面についても非常に真面目で勤勉だと報じられるハウゲがそういった点を早期に改善することは想像に難くありません。
Hauge sadar ia masih kesulitan berbahasa Italia dan dlm penerbangan ia sempatkan untuk belajar bahasa Italia
— Rossoneri Per Sempre (@RossoneriGoal) December 10, 2020
Video by AC Milan pic.twitter.com/n1oLJEzKOA
(※映像:移動中。イタリア語を熱心に勉強するハウゲ)
彼のような選手の成長をミラン加入直後から見届けられることに喜びと幸せを感じますね。
今後ともハウゲには要注目です!
最後まで読んでいただきありがとうございました。