ミランの守備組織について ~VSナポリ~
セリエA第7節のナポリ戦にて、ミランのポゼッション率は約37パーセントでした。
実際に、主導権を握っていた時間帯はナポリの方が長く、押し込まれる状況というのも多々ありましたが、それでもミランは組織的かつ献身的な守備を見せてナポリの攻撃を凌ぎ続け、1失点のみに抑えています。
そこで今回は、前回のマッチレビュー記事にて詳しく言及できなかったミランの守備戦術(リトリートの局面)に焦点を当てていこうかなと。
○ライン間の対応 ~ダブルボランチの圧倒的貢献~
前線にスピードとテクニックを兼備した選手を揃えたナポリは、それぞれが状況に応じて裏抜けと間受けを駆使しながらミランを押し込んでいきました。

――例えばこの場面。インシーニェがミランの中盤ライン手前でボールを受ける。同時に前線ではメルテンスとポリターノが裏を狙い、ミランDFラインを押し下げ、ライン間を広げる。

――その後、インシーニェが裏に抜けたポリターノにロングパス。ポリターノはワンタッチでDFライン手前のメルテンスに落とす

――その後、メルテンスが右サイドのロサーノに展開。チャンスを作り出した
こういった点に関し、厄介な動きを見せたのがポリターノ。システムの噛み合わせ上、ミランはトップ下に位置するポリターノ(もしくは内に絞ったロサーノ)を捕まえるのが難しく、ライン間でパスを引き出されるシーンというのが散見されました。

――ライン間でボールを受けるポリターノ
こうした動きに対しミランは、ダブルボランチのケシエとベナセルが持ち味の機動力を存分に発揮し、迅速にプレスバックすることでボールホルダーから時間とスペースを奪いにかかります。

――例えばこの場面。今度はインシーニェとメルテンスがミランDFラインを押し下げつつ、メルテンスがライン手前でパスを引き出す。これに対し、ベナセルが迅速にプレスバック

――その後の場面。メルテンスのトラップの直後を狙い、ベナセルがボールを奪取した(赤)
以下は別の場面です。

――ファビアンからロサーノにボールが渡り、ロサーノがレビッチのプレスをいなして前方へドリブル。

――このロサーノの動きにケシエが素早く対応し、体をぶつけてボールを奪った(赤)
この2人の守備時の貢献度は非常に高く、彼らが中盤にいる事でチームの守備は飛躍的に安定感を増しますね(CBが晒されることが非常に少なくなるため)。
この試合でも対面の相手ボランチ(ファビアン、バカヨコ)を常に監視しつつ、先述の通りライン間のケアやカバーリング等に奔走してくれました。
今季のミランには期待の新星であるトナーリが加入し、徐々にフィジカルコンディションを上げてきていますが、リーグ戦ここ2試合は出番なし。エラス・ヴェローナ、ナポリといった強度の高い相手に対しては、やはりベナセル・ケシエの鉄板コンビを崩したくないという判断がなされているのではないかと。
もちろん、今後トナーリにはレギュラー争いに本格的に食い込んでくることが期待されますし、後半戦に向けそろそろ本領発揮といきたいところです。
○飛び出しの対応 ~アタッカー陣の献身性~
崩しの局面において、ナポリはミランのSB-CB間に選手を飛び込ませ、そこへパスを通す狙いも見せました。
この間のスペースは基本的にボランチが埋めることが多いのですが、この試合のナポリはSBを頻繁に飛び込みこませることもあり、ミランはサイドハーフ(サレマ、レビッチ)がそのままナポリSBに付いていき、スペースを埋める形が散見されました。

――例えばこの場面について。流れの中でマリオ・ルイが中央に移動し、カラブリとケアーの間でパスを引き出す

――しかしこの動きにはサレマが対応し、ルイをゴール方向に向かせず(赤)
以下は逆サイドでの同様の場面です。

――左からのサイドチェンジをロサーノが収めた場面。テオがロサーノに対応。それにより生じたスペースにディ・ロレンツォが飛び込む

――その後の場面。ディ・ロレンツォのこの動きにはレビッチがしっかり付いていくことで、スペースを埋めた(赤)
こうしてナポリのエリア内でのプレーを抑制し、結果的にゴールから遠ざける、と。
サレマはもちろんのこと、レビッチも危険察知能力が高く、危ないと感じられるシーンではほぼ必ず自陣深くまで戻りますし、何よりプレスの強度が高いですよね。
レオンも徐々に守備意識が根付いてきましたが、この強度という点に関しては明確にレビッチとの差を未だに感じる部分です。
また、チャルハノールも状況に応じて中盤のスペースを埋めるために戻ってきますし、チーム全体の守備意識の高さというのがハッキリと感じ取れる試合でした。

――例えばこの場面。ポリターノが三度ライン間でパスを引き出す。しかし、この動きにチャルハノールが戻って対応

――その後、ポリターノに体をぶつけて攻撃を遅らせた(赤)
○カウンターの対応 ~迅速な帰陣~
先述の通り、スピードのあるアタッカーを揃えるナポリにとってスピーディーなカウンターというのは大きな武器の1つです。そのため、この試合でもナポリは当然ながら鋭いカウンター・速攻を繰り出してきました。
しかし、一方のミランもスピードと献身性のある選手を揃えているという事で、ボランチのカバーリングや迅速な帰陣によってナポリのカウンターを封じていきます。

――例えばこの場面。ミランのクロスがGKにキャッチされ、その後ナポリはカウンターを発動。サイドに流れたポリターノにファビアンがパス。これにケシエが対応

――その後の場面。ケシエがポリターノにしっかりと並走(赤)し、前方のロサーノにはロマニョーリとテオの2人で対応。こうしてナポリの攻撃を遅らせることに成功した
試合開始早々こそロマニョーリがポリターノにぶち抜かれた事でピンチを迎えたシーンがありましたが、その後はこのようにしてケシエ、テオ、もしくはレビッチが迅速にカバーに入り、ポリターノを起点とする右サイドからのカウンターを大体において封じていましたね。
○フィニッシュの対応 ~DFリーダー・ケアーの存在感~
上記のようにして、ミランは大体においてナポリのチャンスを未然に防げていましたが、それでもナポリにゴール前で危険なシュートシーンを作られる場面というのがいくつかありました。
しかし、そこで印象的なパフォーマンスを見せたのがケアーです。ナポリのフィニッシュの局面において「壁」として存在感を発揮し、ゴールを阻み続けました。

――例えばこの場面。ミランのプレスを回避し、速攻に繋げるナポリ。ロレンツォからロサーノへとスルーパスが通る

――その後の場面。ロサーノがロマニョーリとエリア内で1対1を迎える(赤)。その間、メルテンスが斜めからエリア内に飛び込み、ロサーノからラストパスを呼び込む。しかし、その動きにケアーがしっかりと対応

――ケアーがメルテンスのシュートをブロックし、事なきを得た(赤)
このようにケアーは経験に裏打ちされた読みとポジショニングセンスを活かし、相手より一歩先に動くことでクリアやインターセプト、シュートコースを限定するプレーを連発します。
「CBにとって何より重要なのは読みとポジショニング。スピードやフィジカルは二の次」というのが僕の持論ですが、ケアーを見ていると改めてそう思わされますね。

――参考:この試合におけるケアーの守備スタッツについて(『SofaScore』より)。両チーム合わせてトップのクリア数「8回」を始め、数多くの優秀な数字を記録した
ロマニョーリのコンディションが上向きつつあるように見られるものの、依然として本調子とは言い難い今、DFリーダーとしての役割を果たすケアーはチームにとって極めて重要ですし、それだけに怖いのが負傷のリスクです。
この試合でも開始早々にあわや負傷交代というシーンがありましたし、代表ウィークでも休めていないので、疲労の蓄積が非常に気になります。
ガッビア、ドゥアルチが戦列復帰したというのもありますし、今後は彼らを上手く起用しながらケアーにも休養を与えて欲しい所です。
○おわりに
現在のミランはリーグで下から3番目の失点数という事で、数字にもその堅守ぶりが表れています(PK含むセットプレーでの失点が多いため、流れの中からの失点はかなり少ない)。
そして今回のナポリ戦では絶対的エースのイブラが負傷交代し、報道では1カ月近くの戦線離脱が予想されていますが、守備の堅さに関していえばイブラ抜きでもそこまで変わることはないでしょう(ただ、イブラは守備時のセットプレーでも重要な役割を担っているため、コーナーやFKが更に危なくなる可能性はアリ)。
長いリーグ戦を戦い抜く上で、高い守備力を有しているのは大きなアドバンテージですし、今の守備組織を維持し続けられる限り、この先もミランが大崩れすることは決してないと思います。
そして今後、上手く事が運べばロマニョーリの完全復調や外からの補強等により更に盤石な体制を築いていけると思いますし、チームの更なる守備面の強化にも期待していきたいですね。
それでは今回はこの辺で。
最後まで読んでいただきありがとうございました。