【10年ぶりのサンパオロ攻略】 ナポリ対ミラン 【2020-21シーズン・セリエA第8節】
スタメン

ナポリ、ミラン両チームともに4-2-3-1が基本。
○ミランの好調な立ち上がり
序盤はミランが主導権を握り、次々とチャンスを作っていきます。
まずはミランの守備(ハイプレス)について。ミランは最初の段階(相手GKからのビルドアップ時)において右CBマノラスをフリーにし、そこにボールを出させます。その後、中盤からチャルハノールが縦のコースを切りながらマノラスにプレスをかけ、ボールをサイドに誘導。そこで待つ右SBディ・ロレンツォにレビッチがプレスをかけるという形で、ボール奪取を狙っていきます。

――マノラスがGKからボールを貰った場面、ミランの守備陣形について。チャルハノールがプレスをかけに行き、マノラスはサイドのディ・ロレンツォにパスを出す

――その後の場面。ケシエがファビアン、サレマがバカヨコにそれぞれマークを移す。手近なパスコースがないロレンツォはドリブルで打開を図るも、レビッチにカットされミランがショートカウンターでチャンスを作った
ナポリとしてもそれを分かってからは中々ディ・ロレンツォに素直にボールを渡しませんが、かといって他の有効策も見出せず、序盤は後方からのビルドアップを阻まれ続けました。
そうしてペースを握ったミランは敵陣深くまで侵入し、チャンスを作っていきますが、最後の局面ではしっかりとナポリに守られ得点には中々至りません。
一方でミランの攻撃(ビルドアップ~崩し)について。4-4-2でプレスをかけに来るナポリに対し、ミランは左SBのテオをチームとして上手く使いながらボールを運んでいきます。

――例えばこの場面について。チャルハノールがこの位置に下がってくることで、右サイドハーフのロサーノ(黄色)を引き付け、テオ周辺のスペースを作り出す。その後、ベナセルはテオにパス

――良い形でボールを受けたテオは、そのままドリブルで速攻に繋げた
テオはこの代表ウィーク期間中にしっかりと休息を取ることができましたし、加えて相棒のレビッチが本格復帰を果たしたことで見事に躍動してくれました。
また、この試合は左サイドからの組み立てが久々に多かったミランでしたが、詰まった場合は右に展開。この点についてはケシエが安定のサイドチェンジを披露し、比較的フリーの状態でカラブリアやサレマにボールを渡してチャンスシーンを演出していきます。

――この位置でボールを受けたケシエは、右サイドで手を挙げるサレマ(水色)へとパスを送る

――その後の場面。サレマが敵陣深くで上手く切り返し、シュートを放つもボールはゴールの上へ。この場面ではレビッチがバイタルエリアでフリーだったため、そこに出しても良かったか
そうして試合を優勢に進めていたミランは20分、テオのクロスにイブラが頭で合わせて先制に成功します。

――1点目のシーンについて。ベナセルがドリブルで運び、ロサーノを含む複数の選手を引き付ける

――その後、ベナセルはレビッチに縦パス。レビッチはワンタッチでフリーのテオにボールを渡す

――その後、十分な時間を与えられたテオは、エリア内へ正確なアーリークロス。そのクロスにイブラが頭で合わせ、ミランが先制点を獲得した
○ナポリの反撃
得点シーン後は一転してナポリのペース。もともと地力がありますし、1点ビハインドという事でミランを押し込んでいきます。
ミランのボランチを前もしくはサイドに釣り出し、それにより生じたスペースを使いながらミランを押し込んでいき、その後はサイドチェンジだったりハーフスペースからエリア内への飛び出しだったりでチャンスを作り出していく、と。

――例えばこの場面。流れの中で前線に侵入したクリバリが、ハーフスペースでインシーニェからのパスを引き出す。

――その後の場面。エリア内でメルテンスがクリバリからボールを受け強烈なシュート。ドンナルンマのファインセーブによりCKへ
その後のCKでは混戦からナポリが決定機を複数作り出しますが何とかミランが守り切り、事なきを得ました。
対するミランは(ロング)カウンターで反撃したいところでしたが、いくつかあったそのチャンスは上手くいかず。
また、序盤にハマっていたハイプレスも押し込まれているのでその機会が少なくなり、加えてナポリ側の対策およびミラン側の疲労によってあまり機能しなくなったため、流れを完全に持っていかれてしまいました。

――例えばこの場面について。チャルがマノラスを追い込んでいくが、前方では楔のパスを受けにロサーノ(黄色)が下がってくる。マノラスはそこにパスを送る

――その後、ロサーノはファビアンにバックパス

――その後の場面。前向きでボールを受けたファビアンは、左サイドのマリオ・ルイに展開。このような形でファビアンをフリーにし、ミランのプレスを回避するシーンが散見された
終盤もナポリが優勢で、ミランが偶に反撃を行う展開。
それでも、ミランはケアーを筆頭に守備陣が奮闘。ゴール前ではナポリの攻撃をしっかりと凌ぎ切り、前半は0-1。ミランリードで終了します。
○後半の攻防
後半の入りもナポリが優勢。ミランのハイプレスに対しては引き続き右サイド前方に楔のパスを入れ、その選手が前を向いているファビアンにワンタッチで落とす形を継続しつつ、時に工夫して左サイドからもボールを回していこうという形。

――GKメレトがボールを持った場面。ミランがプレスに来る中、クリバリが前方に飛び出す

――その後の場面。前方に飛び出したクリバリにはサレマが対応する。これにより、マークが外れたマリオ・ルイは下がってメレトからボールを引き出した
対するミランはイブラへロングボールを放り込んでいく形を多用していきますが、中々収まりません。
しかし54分、ナポリのロングボールのこぼれ球を拾ったミランがカウンターを発動。テオ、チャル、レビッチと繋ぎ、最後はレビッチのクロスにイブラが合わせてミランが追加点を獲得しました。

――2点目の流れについて。ナポリはCK後、いったん自陣へとボールを戻し、再び前方に残っている選手に向けロングボールを送る

――その後、前線に残っていた選手にパスが通り、陣形が間延びしたミランはピンチになりかけるも、ナポリ側は連係ミスによりボールロスト。

――そのボールを拾ったテオは、ドフリーで構える前方のチャルハノールにパス。

――その後の場面。前方のスペースへ走るレビッチ(赤色)に向けチャルハノールがスルーパスを通す。ボールを受けたレビッチは、その後ファーサイドに走るイブラにクロスを送る。イブラがそのクロスに合わせ、ミランが2点目を獲得した
ナポリとしては前半失点後から優勢に試合を進め、ミランを押し込ながらもゴールには至らないという焦ったい状況であり、それもあって手早く敵陣深くにロングボールを入れたのでしょうが…。結果的にはそれが中盤にスペースを生じさせ、最前線に人数をかけた状態でボールロストした事でミランのカウンターの起点となりました。
前半途中からのミランは全体が押し込まれ、カウンターにも繋げられない状況がほとんどでしたが、こうして良い形でボールを受けられれば決定的なカウンターを仕掛けられる、と。ましてこの試合はレビッチが先発復帰したので、より縦に速い攻めが可能になりますしね。
○ターニングポイント
その後、ナポリはロサーノに代えてジエリンスキを投入。
2点ビハインドにこそなりましたが、引き続きナポリが気落ちせず攻勢をかけていきます、
一方のミランも59分に再度カウンターからイブラがネットを揺らしますがオフサイド。守備に関してはプレスの強度を落とし、ラインを下げます。
すると63分、ナポリはメルテンスがゴールを決め1点差に追いつきました。
非常に嫌な流れでしたがその数分後、バカヨコがテオを倒してイエロー2枚目で退場という事で、ミランにとってはだいぶ助かる展開に。
この退場でナポリは先ほどまでトップ下だったジエリンスキをバカヨコの位置に下げたため、前線のターゲットが一人減る形となりました。

――退場後の場面について。ディ・ロレンツォがポリターノにパス

――その後の場面。ジエリンスキがボランチに下がったこともあり、ここでは前方に身近なパスコースがない(黄色)。結局のところ、ポリターノはバックパスを選択。その後、ミランはプレスから敵陣深くでボール奪取し、シュートにまで繋げた
するとナポリは69分にポリターノに代えペターニャを投入。守備時は4-3-2に、攻撃時はインシーニェが前線に上がり4-2-3のような形に。
そして1人少ない状況になりながらも、ナポリはペターニャにシンプルに放り込む形とインシーニェ&マリオルイの左サイドコンビからチャンスを作っていきます。
対するミランも73分にレビッチ、サレマに代えてカスティジェホとハウゲを投入。そして79分にはイブラが負傷し、コロンボとの交代を余儀なくされました。
数的不利のナポリに対し、上手くいなしながらボールを運んでいくミラン。時間を使いつつ、隙あらば追加点を狙っていきます。
○采配的中
終盤も猛攻を仕掛けるナポリ、カウンターで応酬するミランというのが主な構図ですが、流石にナポリの帰陣が遅くなってきたこともありミランも決定機を作り出していきます。
そして87分、締めのクルニッチをチャルハノールに代えて投入。この点について興味深かったのは、クルニッチが左サイドに入り、2トップをコロンボとハウゲで構成した点です。

――クルニッチ交代後のミランの選手配置
ハウゲをそのまま左サイドに、そしてそのままトップ下にクルニッチを配するという采配も十分にあり得たわけですが、あえて配置変更したのはおそらくハウゲを前線に残すためでしょう。
というのもナポリは数的不利のうえ両SBを上げて攻め込むため、その裏が空きやすい。そのため、ドリブルが得意なハウゲがそのスペースに素早く流れながらボールを受け、カウンターを仕掛けるという狙いがあったのではないかと。
元々この試合のハウゲは若干前残りとなりトランジション時に上記の裏を狙う意識があったわけですが、左サイドハーフとしての守備も行わなければならないため、その両立(自陣深くまで戻っての守備とトランジション時の裏抜け)が難しいところでありました。
そこで、クルニッチが代わりに守備要員として左サイド~中央エリアを広く守ると。要は攻守のバランスの改善を図った形ですね。

――例えばこの場面。ジエリンスキがドリブルで一気に前方に運ぶ。それに対し、ケシエが付いていく

――その後の場面。敵陣深くまでボールを運んだジエリンスキはサイドのインシーニェにボールを預ける。また、サイドに流れていたファビアンにベナセルが付いていたため、バイタルエリアにスペースが生じる。そこへ、後方からメルテンス(黄色)が飛び込むが、クルニッチも反応。

――ここではクルニッチがバイタルエリアを埋めることで、メルテンスを牽制した
そして94分、この采配が結果的に功を奏します。
サイドに流れてボールを受けたハウゲがカウンターからドリブルで仕掛け、ボールをゴールに流し込んで決定的な3点目を獲得しました。

――3点目のシーンについて。ナポリのGKからのロングボールをテオがクリア。そのこぼれ球にロレンツォとクルニッチ、ハウゲが反応。ハウゲはロレンツォと入れ替わるようにしてサイドへ。最初にロレンツォがボールに触るも、倒れてボールロスト

――そのこぼれ球を拾ったベナセルが、サイドに流れたハウゲに素早くスルーパスを通してカウンター。その後、ハウゲはマノラスとの1対1を制し、ネットを揺らした
これがピオリの遠隔指示によるものなのか、はたまたボネーラ代行監督独自の采配なのかわかりませんが、いずれにせよ結果に繋がる見事な采配でした。
3点目の後はシレっとハウゲを左サイドに戻し、後方に人数をかけて試合を締めにかかるミラン。
ナポリは最後の最後まで得点を奪うために攻め続けましたが、ミランがしっかりと守り切って試合終了。
ナポリ1-3ミラン
雑感
ミランがナポリ相手に、敵地サンパオロにて実に10年ぶりとなる勝利を収めました。
2年前には2点リードしてから大逆転負けを喫するなど、近年のサンパオロでは良い記憶がまるでありませんでしたが、今季は例年と違うのだという事をまた改めて証明してくれました。
ちなみに10年前に勝った時も決勝点はイブラヒモビッチという事で、何というか感慨深いものがあります。
ナポリはかなり強く、非常に難しい試合でしたが、それだけにこの勝利を得られたというのは本当に大きいと思います。
また、選手個人に目を向けても、レオンが負傷により離脱を余儀なくされた左サイドではレビッチが躍動し、ハウゲも結果を残したという事で、今後に向け盤石な態勢を維持できていますね。
しかし、この試合で最大の問題はイブラの負傷交代です。
この試合でもドッピエッタの大活躍を見せたイブラですが、ハムストリングを痛めたという事で一時の戦線離脱が濃厚です。
ただ、ピッチに倒れ込んだときは最悪の事態も頭によぎっただけに、交代後もベンチに座り平静を保っていたのは一安心でした。
イブラの一日でも早い完治、そして復帰を心から願いつつ、エース不在時のチームの奮起にも同時に期待していきたいですね。
Forza Milan!
最後まで読んでいただきありがとうございました。