【カンピオーネとは】ウディネーゼ対ミラン【2020-21シーズン・セリエA第6節】
スタメン

4-3-3のウディネーゼと4-2-3-1のミラン。
○前半序盤戦の攻防
ウディネーゼは守備時4-5-1でとっととミドル~ローラインブロックを作り、待ち構える形が基本(両サイドハーフ、特にプッセートがテオにマンマークで付き、5-4-1となる時も)。
ということで、ミランは中盤でボランチもしくは下がってきたチャルハノールがボール持って、ライン間にいる選手にボールを送り込みながら、時おりサイドチェンジを織り交ぜてチャンス演出。サイドハーフやSBが次々とエリア内に飛び出していく流動的な攻撃で、ウディネーゼゴールを脅かしていきます。

――例えばこの場面では、ケシエの裏へのパスにSBのカラブリア(赤)が飛び出した
しかし少し気になったのが、イブラが右ハーフスペースやや下がり目に継続的にポジショニングしていた点です。アクセントを付けるために下がってボールを受けるなら良いのですが、そこを基本ポジションとしていたため、サレマとポジションが被ったりサレマが代わって中央に入ったりしてやや窮屈そうにプレーしている印象でした。

――この場面では、ベナセルからのパスをイブラとサレマが同じ場所で受けようとしてしまう(黄色)。その後、サレマが中央へ移動した
10分には、引き続き好調のレオンのクロスにサレマが飛び込んでチャンスを迎えますが、惜しくも合わせることができず。
一方で守備に関してですが、CBのベカンを起点に組み立てようとするウディネーゼに対し、ミランはチャルハノールがアンカーであるアルスランのマークをベナセルに渡しながらプレスをかけ、ウディネーゼのビルドアップを妨害する形が基本です。
11分にはハイプレスにより敵陣深くでボールを奪い、ショートカウンターに繋げました。

――ハイプレス時における、ミランの守備陣形について。ベカンにボールが渡ってから、チャルハノールがプレスをかけに行く。同時にベナセルがアンカーのアルスランに付く。ベカンは縦パスを選択

――その後の場面。デパウル(ケシエがマーク)へのパスが通らず、ベナセルがインターセプト。ボールはそのままチャルハノールに渡り、ミランは敵陣深くでのボール奪取に成功した
○前半中盤~終盤戦の攻防
18分、ベナセルの裏へのパスにイブラが抜け出してエリア内でボールを収め、エリア内に飛び込んだケシエにパス。ケシエがダイレクトでシュートを突き刺し、ミランが先制に成功します。
スパルタ・プラハ戦に引き続き、ベナセルが素晴らしいパスでチャンスメイク。そして言うまでもなくイブラの抜け出しによるアシスト、ケシエの飛び出しによるゴールも素晴らしいと。
1点ビハインドとなったウディネーゼはプレスをかけるようになりますが、ミランがしっかりと回避し、逆に速攻から決定機を演出していきます。
しかし、試合中盤になると徐々にウディネーゼがボールを握る展開に。
ミランとしてはその分カウンターのチャンスが訪れましたが、パスミス等でモノにできず、10分ほど押し込まれる状況が続きました。
ウディネーゼは主に左サイドにボールを運び、デパウル等が左に寄って崩しの局面に関与していく形。ミランとしてはライン間にパスを入れられ、CBが前に出て対応せざるを得ない状況になると危ないため(ケアーはともかく、怪我明けロマニョーリの1対1対応に不安があるため)、少しだけヒヤリとしました。
ただ、左ウイングのデウロフェウとの1対1はカラブリアが制していましたし、SBやインサイドハーフを使った連携の形もほとんど見られなかったため、決定機を作られるシーンはほとんどありませんでした。

――例えばこの場面。ウディネーゼは速攻から左サイドにボールを運び、デウロフェウがカラブリアと1対1の局面を迎える(水色)

――その後の場面。周囲のサポートがなく、デウロフェウがそのまま仕掛けるがボールを奪われる
例えば前節の相手であるローマは、左サイドで1人がカラブリアに仕掛けつつ、他方がその背後のスペース(ハーフスペース)を突くという狙いがあり、ミランボランチの懸命な戻りがなければ危ないところでしたが、今回はそうしたシーンもありませんでしたしね。
終盤には、ミランが疲れの見えるウディネーゼを尻目に速攻からチャンスを作りますがモノにできず。この点に関してはイブラの身体がやや重そうで、パスミスやロストが散見されました。流石に疲労が溜まっているんでしょうかね。
あと、チャルハノールのコンディションもあまり良くなさそうです。練習中の負傷(確か捻挫)から想定以上の早さで復帰してはくれたものの、それだけにまだ完治していないのかもしれません。
もちろんこの2人に限らず、全体的にコンディションが良くなさそうですし、過密日程による疲労の影響がプレー精度に表れているように感じます。
まぁそんなわけで、前半は0-1で終了しました。
○後半の攻防
開始早々の47分、ロマニョーリがエリア内でプッセートを倒してしまったという判定によりウディネーゼがPKを獲得。
48分、そのPKをデパウルが決め、ウディネーゼが同点に追いつきました。
ミランは後半からイブラの基本位置を中央左サイド寄り高めにし、主にそこでボールを受ける形に変更。先述の前半の動きを修正しました(しかし、全体としてあまりパスは通らず)。

――例えばこの場面。チャルハノールから左サイド高めに位置するイブラ(赤)に縦パスが入る。

――その後、イブラは裏に抜けるレオン(黄色)にワンタッチでパスを出すも、デ・マイオにカットされる
更に57分、ミランはベナセルとサレマに代え、トナーリとディアスを投入。
ベナセルは疲労を考慮してでしょうが、サレマは精彩を欠いていたので納得の交代ですかね。
それにディアスは右サイドハーフ起用という事で、得意の位置(右ハーフスペース)にポジショニングできます。また細かいテクニックを有するのでウディネのブロック守備に対しても有効です。

――ケシエがボールを持っている場面。ディアス(桃色)はここにポジショニング
そして案の定、主に右ハーフスペースでボールを引き出し、細かいパス交換からチャンスを作り出していきます。

――その後の場面。ケシエからチャルハノールにパスが入り、チャルハノールはそのままディアスにパス。

――その後、ディアスはチャルハノールにリターンパス。このようにしてDFを中央に引き付けてから、サイドでフリーのカラブリアにスルーパスを出す。惜しくもこのパスは通らず
一方、トナーリの推進力と縦パスも大きな武器になり得ますし、実際に62分にはカウンターの起点となる縦パスを供給し、チャンスを演出しました。

――カウンターの場面。トナーリはドリブルでボールを運び、その後ライン間のチャルハノールに正確な縦パスを供給した
対するウディネーゼは時おりプレスをかけながらも基本はローラインでのブロック守備を行い、カウンターで応酬していく形。攻勢をかけるミランの背後のスペースを狙っていきました。
○カンピオーネ
そして71分にはダロト、レビッチと交代カードを切り、更なる攻勢を仕掛けるミラン。
一方のウディネーゼはデウロフェウに代えて5番のアウエヤンを投入し、変則的な5バックに変更。
ウディネーゼはアウエヤンがダロトの攻め上がりに対応することで縦のスペースを消し、かつハーフスペースのディアスにもキッチリとマークを付け、中央突破も封じ込めようとします。

――例えばこの場面。トナーリからサイドのダロトにパスが通るも、アウエヤンがしっかりと対応。

――その後、ダロトはハーフスペースで構えるディアスにパスを出すも、サミルが付く

――ディアスは上手くトラップして前を向くが、カバーに入ったデパウルに止められボールロスト(橙)
それでもディアスはチャルハノール等と協力しながら狭いスペースでチャンスを作りかける見事なパフォーマンスを随所に見せますが、あと一歩及ばず。
また、ウディネーゼは先述の通りテオにはプッセートがマンツーマンで付くこともありますから、時には6バックのような形となり、徹底的に守備を固めていきます。
こうしてミランは攻めあぐねてしまい、このまま1-1で引き分け濃厚かに思われましたが…84分。イブラがクロスのこぼれ球をオーバーヘッドで押し込み、スーパーゴールで逆転に成功しました。
この試合のイブラは疲労もあり、全体的にそこまで良いパフォーマンスではなかったと思うのですが、それでも要所で決定的なプレーを見せて1ゴール1アシストを記録、と。素晴らし過ぎますね。
その後はウディネーゼが攻めに出ますが、ミランもカウンターで応酬。最後まで2失点目を許すことなく、試合終了。
ウディネーゼ1-2ミラン
雑感
ミランが大いに苦しみながらも敵地で勝利を収めました。
引き分け濃厚な試合でしたが、個人的にはチームの動き方自体は決して悪くなかったと思いますし、あともう少し歯車が噛み合っていれば(選手個々のコンディションが良ければ)もっと多くの決定機を生み出し、もっと早く追加点を決められたと考えています。
しかし、その「あともう少し」が足りない試合というのは往々にしてあるわけで、その結果勝ち点を取りこぼしてしまうという事は非常にありがちです。
そういった事態を「個」で覆し、チームを勝たせてしまう選手こそが「カンピオーネ」であり、まさにミランにとってはイブラヒモビッチがそれに該当する選手なのだと、改めて思い知らされた試合でした。
まだ第6節が終了した段階であり、まだまだシーズンは始まったばかりではありますが、こういう試合を勝ち切ったミランには優勝争いに加わる資格があるのではないかと。むしろ、イブラヒモビッチを擁しておきながら優勝争いをしないというのは失礼じゃないかとすら思い始めています。
過密日程、コロナと様々な障壁はありますが、もし幸運が味方に付けば、今のミランならチャンスはきっと訪れる。そんな風に感じることのできるチームになってくれたことにただ感謝したいです。
さて。この試合に話を戻すと、ディアスに右サイドハーフのスーパーサブとしての起用の目処が立ったのは大きいんじゃないかと。
チャルハノールやレビッチに代わってトップ下もしくは左サイドでスタメンというのがこれまでのディアスの主な起用法でしたが、今回のように相手の守備を切り崩す存在として途中から右サイドで使うというのも非常に有効だと感じました(場合によっては先発もアリかなと)。
今回の起用法はカスティジェホが不在だったというのも関係していそうですが、果たして今後ディアスをどう使っていくのか。ディアスが優秀なだけに様々な起用法が考えられますから、注目していきたいですね。
また、ドンナルンマ、ガッビア、ハウゲがコロナから復帰し、レビッチも怪我からの復帰を果たしたということで、今後どのようなスタメンが(主にELで)組まれるかも楽しみです。
この勢いで次戦のリール戦も勝利といきたいところですね。
Forza Milan!
最後まで読んでいただきありがとうございました。