サンドロ・トナーリのプレースタイルについて【パス編】
Tonali & Diaz get their first official start for AC Milan ❤️🖤 pic.twitter.com/bhTop7b42A
— Italian Football TV (@IFTVofficial) September 27, 2020
フィジカルコンディションやチームへのフィットはまだまだとはいえ、先日の試合では早くも自身の特長を発揮していくつかの見せ場を作り出してくれました。
気が早いことは承知ですが、今回はそんなトナーリのパスに関するプレースタイルを見ていこうかなと。
◎ロングパス
まずは、トナーリの大きな武器の一つであるロングパスについて。

――ケアーからサイドのカラブリアにパスが送られた場面。その間にトナーリ(赤)は前線の状況を確認しながらカラブリアに寄っていく

――その後の場面。サイドのカラブリアからトナーリにパスが送られる

――パスを受けたトナーリは、そのままワンタッチでロングパスを前線に供給

――前線へ走り込んだチャルハノールにそのロングパスが通りかけるが、相手DFにより惜しくもクリアされる
このような「体の向きに対し、90度近い角度へとワンタッチで前線にロングパスを出す」プレーというのは、俗に言う「レジスタ」に類する選手が得意とするものです。それこそ昔のミランだとピルロがこういうパスをバンバン出してましたね。
ワンタッチで角度の付けたパスを縦に出せる技術力(テクニック)はもちろんのこと、前線で動く選手を認識し、そこに合わせる視野の広さとパス精度が求められる高度なプレーですから、この手のパスが正確に出せる選手は非常に少ないです。
また、一般的に、サイドから横パスを受けた選手が次に取りうる選択は、「トラップして前を向く」か、「ワンタッチで周囲の味方にボールを預ける(主に後ろ向きのパス)」かの2つ。そのため、上記のトナーリのようなプレーは相手の意表を突き、一気に決定機へと繋げ得る非常に効果的なものといえますね。
もちろん、こうしたプレーはパスの受け手の動きも非常に重要になってくるわけですが、今のミランにはチャルハノール(走力、インテリジェンスが高くスペースを見つけるのが上手い)ですとかレビッチ(走力、スピード、裏抜けの意識いずれも高い)等がいますので問題なし。
というわけで、これから練習と試合をこなし、相互理解を深めていくことで、トナーリの上記のプレーはチームにおいて非常に有力な武器になると思います。
◎スルーパス

――右サイドでカラブリア、チャルハノール、トナーリとパスが繋がり、トナーリがボールを持った場面

――その後、カラブリア(黄)はサイドからエリア内へ走り込む。それに合わせてトナーリがスルーパスを供給する

――その後、パスを受けたカラブリアはワンタッチでクロス。チャンスを演出した
このようなチャンスメイクの形も、今後のトナーリに期待したいことの1つです。
相手が人数をかけて引いて守ってきたとしても、今のミランのベストメンバーであればイブラがいますから、彼のポストプレーや空中戦で強引に得点をもぎ取ることが可能です。しかし、先日のクロトーネ戦を始め、イブラが不在のときには別の形を作り出す必要があります。
その点で、上記のように狭いスペースへパスを通せる彼の技術は確実に貴重になってきますし、今後はこうした敵陣での決定的なチャンスメイクを積極的に行って欲しいところです。
後はピンポイントで相手のライン裏に落とすミドルパスなんかも見たいところ。最初に紹介したようなパスが出せるトナーリであれば、技術的には問題ないと思いますしね。
◎パス精度
以上、ここまでトナーリの素晴らしいプレーを振り返りましたが、一方でこのようなプレーも見られました。

――中央でボールを持ったトナーリは右サイドのカラブリアへと浮き球のパスを送ろうとする。

――その後の場面。コントロールがずれ、ボールはそのまま相手に渡る。相手はワンタッチで前方の選手(11番)にパスを送る

――これにより、ミランは被カウンターの局面を迎えた
ブレシアにいた頃から、トナーリの軽率なパスミスについては散見されていた印象です。

――参考:トナーリのパスに関するスタッツ(『SofaScore』より)
実際、昨季のトナーリが記録したパスに関するスタッツを見ると、アシスト・ビッグチャンスクリエイト数に関しては素晴らしいものがある一方で、パスの成功率(上から5,6,7番目のスタッツ)に関しては改善の余地があるように思われます。
それでは比較として、昨季におけるミランのボランチコンビのスタッツを見てみましょう。

――参考:ベナセルのスタッツ(『SofaScore』)

――参考:ケシエのスタッツ(『SofaScore』)
ベナセル、ケシエともにパス成功率は約9割で、内訳を見ても敵陣での成功率が8割強、自陣での成功率は9割以上となっています。
ちなみに、このくらいの数値は、傾向として他の強豪クラブのボランチにも同様に見られます。
一方で、先述の通りトナーリのパス成功率は76%、そのうち敵陣での成功率が64%、自陣が85%ということで、いずれも下回っていることがわかりますね。
無論、当時所属していたブレシアは戦力面で他の多くのセリエAクラブより劣っていたのは事実ですし、その中でプレーしていたという点は留意すべきでしょうが、いずれにせよ今季はパス成功率を上げていかなければなりません。
まして、ミランに加入した今季からはよりボールを触ってプレーする機会が増えますからね。つまり、今後は丁寧にボールを捌きつつ、相手の固い守備を崩していくゲームメイク能力を向上させていくことが求められます。
現時点で素晴らしいパスセンスがありますから、そこにゲームメイク能力が加われば鬼に金棒です。カンピオーネになるためにも、またチームのためにも是非とも伸ばしていってもらいたい部分です。
○おわりに
これからのミラン、そしてイタリア代表の柱となることが期待されるトナーリ。
そのためにも改善すべき点はありますが、今回見てきたように素晴らしい才能を持つ選手であることは間違いありません。
この調子で成長を続け、ミランでも不動の存在として中盤に君臨して欲しいと強く願います。
それでは今回はこの辺で。