【2020-21シーズン】ミランのベースとなる戦術について【プレシーズンマッチ・ブレシア戦】
この一戦にはヨーロッパリーグのGS進出が懸かっており、ミランにとって絶対に負ける事のできないものとなります。
さて。いよいよ公式戦が始まるという事で、今回は今シーズンのミランのベースとなる(なるであろう)戦術について、先日のプレシーズンマッチ・ブレシア戦を振り返りながら整理していこうかなと。
とは言えまだベストメンバーも揃っていませんし、当然すべてを説明できるわけではないため、現段階では基本的な事項への言及に止まってしまうことをご了承いただけると幸いです。

※ブレシア戦ハイライト
◎ビルドアップ①
ブレシアは守備時4-4-2で、ミドルブロックを作って待ち構える形が基本。
これに対し、ミランは基本的に後方から丁寧にボールを繋いでいきます。
この点に関し、ビルドアップ時におけるミランの最終ラインは昨季と同様、ボランチ(特にベナセル)の動きによって変化する形です。
ベナセルが中央もしくは横に下りてきて3バックを形成することもあれば、そうならずにそのままの陣形を維持する場合もある、と。この辺は相手のシステムに応じて機械的に決めているというよりは、プレーヤーのその時々の判断にある程度任せているようです。
とは言え、この試合では相手が守備時に2トップということもあり、最終ラインで数的優位を得るためベナセルが下がるシーンというのがほとんどでした。

――例えばこの場面。ベナセルが両CBの間に下りてボールを受ける
そして、もう片方のボランチ(ケシエ)は基本的に相手2トップの背後にポジショニングし、味方DFラインから相手第一プレッシャーラインを超えるパスを引き出そうとします。

――ケシエ(紫丸)は相手2トップの背後にポジショニング
そうしたケシエの位置取りによって、ブレシアは2トップ(のどちらか)もしくはボランチがケシエを見る必要性が生じるわけですが、仮に前者であればミランCBがボールを運びやすくなり、後者であればミラントップ下(チャルハノール)がライン間でボールを受けやすくなります(この試合のブレシアは前者。そのためミランは主に3バックの左右からサイドへと経由し、ボールを運んでいく)。

――例えばこの場面。右サイドに下りてボールを受けたベナセルから中央のケシエへとパスが通る

――ケシエに対し、近くのブレシア2トップが対応。これにより逆サイドにはスペースが生まれる。その後、ケシエは反転

――その後の場面。ケシエから左サイドのガッビアにパスが通る。フリーでボールを受けたガッビアは、前方のスペースへとドリブルで運び、サイドのテオへ正確なボールを展開した
個人的には、今回のケシエのような動きをトナーリに任せてみると面白いんじゃないかと。
トナーリは長短のパスを出せますし、何より素早く縦にパスを入れるのを好む傾向にある選手ですから、相手FWの背後でボールを受け、攻撃をスピードアップさせる選手としてうってつけです。
また、ベナセルとのポジションチェンジによる役割交換もできるため、相手のマークを混乱させられるでしょうし、よりバリエーション豊かな攻撃を実現させる存在になると思います。
◎ビルドアップ②
もう一つの主なビルドアップの形としては、ケアーからのロングフィードです。
昨季同様、左サイドへの対角線のロングパスは健在ですし、この試合では直線的なロングボールも数多く放り込んでいました。
無論、後方から丁寧にボールを繋ぐ精度を高めることは殊にビッグクラブにおいて必須とも言えますが、一方で、一気にゴール前にボールを運べることに越したことはありません。
まして、今のミランには超優秀なターゲットマンであるイブラとスピーディーかつ運動量豊富なアタッカー陣が揃っているわけですから、隙あらば積極的にロングボールによる速攻を狙っていくべきでしょうね。
◎左サイドからの崩し
続いて崩しの局面について。やはりテオが圧倒的な存在感を発揮し、左サイドから崩していきます。
この試合ではブレシアが中央を固め、サイドのケアを徹底していなかったこともあり、左CBのガッビアからテオへと比較的楽にボールを渡すことができました。
そして、そこからテオがドリブルないしワンツーパスで突破を図るわけですが、その際に重要になってくるのがサイドハーフの動きです。
第一にはテオが持ち上がるためのスペースを提供するために中央寄りに移動し、テオとの連携でサイドを崩す役割を果たす必要があります。そして、相手を押し込んだ後はストライカーとして積極的にペナルティエリアに侵入し、得点に絡んでいく、と。
こうした役割を昨季はレビッチが完璧に遂行していたわけですが、この試合では欠場。代役となったのはサレマーケルスです。
サレマは昨季のミランでは右サイドでのプレーがほとんどでしたし、左でどういったプレーを見せるか未知数でしたが、結論から言うと個人的には及第点という印象でした。
まず、テオとの連携についてはそこそこで、主にワンツーパスを用いて崩しに貢献します。

――テオにボールが渡った場面。サレマはサイドに流れ、テオからのパスを引き出す

――テオはパスと同時にインナーラップ(内側に走る)。サレマはCBを引き付けながらワンタッチで中に返し、テオにリターン
そして、圧倒的な運動量を活かした前線への飛び出しについても昨季と同様に健在。エリア内へと何度も良い形で侵入し、ゴールを脅かします。
大前提として今のミランの左サイドハーフには豊富な運動量が求められますが、その点においては申し分のない選手ですね。
ただし、問題点としては決定力の低さが挙げられます。この点については昨季もそうでしたが、シュートミスやラストパスのミスが目立ちますね。
また、左サイド起用ということで利き足とは逆のサイドですから、もう少しカットインできると望ましいかなと。
レビッチを基準にして考えるとどうしても厳しい評価となってしまいますが、普段とは異なるポジションで良くやってくれたと思います。動きの量だけならば現時点でもレビッチの控えとしてかなり有望だと思いますし、後はプレーの精度をどれだけ上げられるかですね。
サレマは若いですし、今後どのように使われていくのか注目です。
◎右サイドからの崩し
右サイドについては、SB(カラブリア)が積極的に上がって攻撃参加し、それに応じて右サイドハーフ(カスティジェホ)が中央寄り(俗にいう右ハーフスペース)に移動してボールを引き出す形が基本。
ですが、後半途中からカスティジェホが中央、果ては左サイドにまで顔を出すシーンが増えます。これによりブレシア守備陣をミラン側左サイドに寄せ、その後に右のスペースへ走るカラブリアに一気に展開するという形でチャンスを作っていきます。実際、3点目はこの形から生まれました。

――左サイドでチャルハノール(赤丸)がボールを持ち、その後逆サイドへと鋭いサイドチェンジ。このとき、カスティジェホ(黄丸)は中央やや左にポジショニング

――その後の場面。右サイドに張っていたカラブリア(水丸)が追いつき、クロスを上げる。そのクロスをカスティジェホが拾い、3点目を獲得した
また、後半途中からカスティジェホに代わってブラヒム・ディアスが同様の役割を持って投入されました。
まだまだ彼のプレースタイルについて断定はできませんが、裏抜けをしっかりと行っていたのは好印象です。
それに、噂では2列目の様々なポジションでプレーできるテクニックがあるという事で、これが事実であれば流動的な攻撃戦術を採用する今のミランとの親和性も高いですし、非常に楽しみな選手ですね。
◎守備
守備に関しても、昨季と同様にハイプレスを志向します。
この試合では前線に守備意識が高い選手が揃っていたこともあってか、今まで以上に前から奪う意識が高かったように感じました。
この点に関しては、今後イブラが入ることでハイプレスの強度が下がることは避けられないと思いますが、プレスを基本に据えた守備戦術は変わらないでしょう。
良い攻撃(カウンター)のためには良い守備が不可欠ですから、強固な守備組織を構築して欲しいですね。
守備に関して、今回だけだと判断材料に乏しいため、また別の機会で触れていきたいと思います。
まとめ
今季のミランについて、素晴らしい成績を収めた昨季後半戦の戦術をベースにしていくのは間違いないと思います。
そして破壊力のある攻撃と安定した守備を両立した昨季の戦いを再び実現できれば、宿願であるCL権獲得は十分に達成可能な目標といえるのではないかと。
ここだけの話、個人的にはここ6年間で一番期待しているシーズンですし、シーズン前にここまでワクワクしているのは本当に久しぶりです。
無論、選手層は万全とは言えず、CBを始め補強すべきと感じるポジションはいくつかありますが、インタビューなどを見るにマルディーニはちゃんと認識しているので多分問題ないはずです。とはいえ補強資金が捻出できなければどうしようもないですから、(実質)戦力外選手の売却とEL予選通過の両方は確実に遂行してもらいたいところですね。
また、今後の移籍市場の動向次第では状況も大きく変わってきますから、移籍期間が終わるころに、再度ミランの新シーズンについて展望していこうと思います。
それでは今回はこの辺で。