【発揮した粘り強さ】ナポリ対ミラン【セリエA第32節】
スタメン

4-5-1(4-3-3)のナポリと、4-2-3-1のミラン
○ミランの苦戦
守備時のナポリは4-5-1。最終ラインと中盤をコンパクトにしつつ、ミドルゾーン高めにラインを取る。そしてインサイドハーフがミランのボランチを見つつ、前に出てトップ(メルテンス)と共同してミランのCBにプレスをかけ、サイドにボールを誘導。そこへ待ち構えているサイドハーフがミランSBにしっかりとプレスをかけ、追い込んでボールを奪おうとするという形が基本。

――右インサイドハーフのファビアンに距離を詰められ。ロマニョーリはサイドのテオへパス。既にプレスの体勢に入っているカジェホンは、そのままテオに詰める

――その後、テオは前方のレビッチにパスを出すが、右SBにしっかりとマークされており前を向くことができない。そのままナポリの選手たちに囲まれ、ボールロスト

――ボールを拾ったファビアンは、前方のメルテンスに素早くパスを出してカウンターを仕掛ける
狙いとしてはローマにやられたそれに近い(サイドハーフがミランSBに起点を作らせない)ですが、ローマが4-4-2だったのに対しナポリは4-5-1のため、中央が更に固いんですよね。
そのため、インサイドハーフがしっかりとミランボランチを見れる(インサイドハーフが飛び出しても、アンカーがそのスペースを埋められる)ため、ミランが中央で上手くボールを持てないという状況に。それと、左サイドはテオとレビッチのどちらかもしくは両方のコンビネーションで強引に突破するシーンというのも少なからずありましたが、右サイドは完全に機能不全なので、サイド突破も難しい。
というのも、右サイドハーフのパケタが中央に入りたがるわけですが、中央にはすでにチャルハノール(トップ下)とイブラ(下がりたがる)がいるため使いたいスペースが被りますし、しかもサイドに張ったところでボールを上手く捌けないので右で詰まるという状況に頻繁に陥ります。
また、これによってイブラが気を利かせてか何度か右サイドに流れますが、この状況もよろしくない。

――コンティがボールを持った場面。サイドに流れるイブラ(緑)
9年ほど前ならサイドに流れてボールキープし、そこからチャンスメイクといったプレーもお手の物だったイブラですが、流石に今では体力的にも技術的にも厳しい。
中央寄り(それも高め)にいてポストプレーと空中戦に専念してくれないと怖さが半減しますし、それに彼が右サイドを埋めることでチャルハノールが右に流れ辛くなります。
チャルハノールは流動的に動いてこそ真価を発揮するわけで、ずっと中央にいても活きないわけですが(まして今回は中央が固い)、今回はフリーダムなイブラに代わって頂点で裏抜けしたり、逆に相手ブロックの外に下りてバランスを取ったりと、窮屈そうにプレーしている印象を受けました。
それならこれまで通り左サイドから中に入り込んでいく形の方がフリーでボールを受けやすいので良いですよね。今日は多分守備を重視してのトップ下起用だとも思うので、致し方ない面もありますが。
それと、先述の通りパケタが積極的に中央に入るため、右SBのコンティが高めの位置を取る必要性が大きくなり、それによってカウンターのリスクが増大します。
コンティの上がった裏のスペースを対面のインシーニェに突かれるのはかなり危険ですし、実際に何度かカウンターで突かれ、危ないシーンを作られます。

――相手ゴール前のこのシーンにおいて、パケタが中央でボールロスト。一方でコンティは右サイドのスペースに走りこんでいた

――その後、インシーニェがコンティの背後のスペースでボールを受け、カウンターを仕掛ける

――ケアーがカバーに入るが、インシーニェはその裏のスペースへ走るメルテンスにスルーパス。その後、敵陣深くまでボールを運び、CKを獲得
もしコンティが積極的に上がるなら、その彼に対する正確なロングフィードなどでナポリのサイドを突きたいところですが、ボランチからは出ませんし、ロマニョーリもこの手の対角線のロングパスはやらないので、中々コンティの上がりを活かせません。
得点シーンのような形(後述)をもっと作れると良かったんですけどね。
まぁそんなわけで、パケタをサイドで起用した(それも周囲との組み合わせが悪い)ため全体的に攻守共にチグハグになってしまったんじゃないか、と。これまで通り右サイドハーフはサレマで良かったと思うのですが、最近は出ずっぱりでしたし休ませたかったんでしょうかね?
後半開始と同時に速攻でパケタをサレマに代えたこともからも、多分ピオリもある程度こうなることを見越していた気もしますが…真相は果たして。
後はまあ全体的にコンディションが悪そうで、パスミスだったり出足が遅かったりというのが多かったのも痛かったですね。
○ナポリのライン間攻略
一方で、ナポリの攻撃はどうか。
ナポリの攻撃の狙いは明快で、それはミランのボランチ(特にケシエ)を釣り出して2ライン間を使い、ボールを前進させていくというもの。

――中央でファビアンがボールを持った場面。ケシエがチェックに行くが、その背後のスペースにポジショニングするジエリンスキにパスが通る

――その後、SBのディ・ロレンツォがタイミング良くオーバーラップし、ジエリンスキは右サイドへスルーパス。右サイドハーフのカジェホンは中央に移動してオーバーラップのスペースを作ると同時に、クロスに備える
様々な動きでライン間のスペースを作り出してきたナポリでしたが、中でもケシエの対面の選手であるファビアン・ルイスが下がってボールを受け、ケシエが付いてきたところで生じる背後のスペースにジエリンスキが移動してボールを引き出すという流れが良く見られ、何度もボールを前進させていきます。

――例えばこの場面。下がるファビアンにケシエが付いていき、中盤にスペースが生じる。ベナセルの背後に位置するジエリンスキはタイミング良くそのスペースに移動し、マクシモビッチから縦パスを引き出す
それに、左サイドのインシーニェないしトップのメルテンス等がポジションチェンジを繰り返しながらライン間に入ってくるためベナセル1人では対処できないですし、2CBが中盤のスペースを潰しにいくというのも中々できないので(元々そういうのが得意ではないタイプというのもあるでしょうが、過密日程のせいで更に出足が遅いですし、相手が流動的なのでマークを捕まえにくい)、中盤を好き放題されてしまいます。
この点に関連し、パケタは攻撃だけではなく、守備もちょっとまずい。
そんなわけで、ナポリに次々と自陣深くまでボールを運ばれ、数々のピンチを迎えるわけですが、その尽くをドンナルンマがシャットアウト。
最近の試合は被枠内シュートが少なかったのでさほど目立ちませんでしたが、こういう試合展開になると本当に頼りになる男です。
○得点シーン
上記のように攻守ともに上手くいっていないミランでしたが、20分。
レビッチの中央へ侵入する動きに合わせてベナセルが素晴らしい縦パスを通し、エリア内でレビッチがボールを受ける。その後、レビッチの放ったクロスにテオが完璧なボレーで合わせてミランが先制。
それまではチャンス皆無で押されていた状況でしたが、最初のチャンスをモノにしてくれました。

――得点シーンの少し前の場面について。下がってボールを受けたチャルハノールは、右サイドを走るコンティに向けロングパス。

――その後、ボールを受けたコンティは、パケタにパスを送る。それに対面のクリバリ(青)が反応し、前へ詰める。パケタは少しボールをキープした後、ベナセル(画面外)へバックパス

――ベナセルがボールを持った場面。先ほど、クリバリが前に出たことで生じたスペースへレビッチが侵入し、パスを要求。そこへベナセルが素晴らしいスルーパスを通し、無事レビッチにボールが渡る

――その後、レビッチは逆サイドのテオに見事なクロスを上げる。それにテオが合わせ、ミランが先制に成功する
左サイドハーフ起用のレビッチが中央に動いて飛び出すというは当然崩しのパターンの1つとして想定していたでしょうし、おそらくこれも狙い通りの得点ではないかと。
しかし流れは変わらずナポリ優勢で試合が進んでいくと、34分。セットプレーからディ・ロレンツォに決められてナポリが同点に追いつきます。
前半は1-1で終了。ミランが劣勢の状況の中、なんとかタイスコアで折り返せたという印象です。
○交代の効果
後半。先述の通りミランは、後半早々にパケタに代えてサレマを投入。
この投入により、早速前半との違いを見せるミラン。46分、チャルハノールが右に流れて後方からのロングボールを引き出し、敵陣深くへボールを運ぶ。最終的にはイブラがエリア内でシュートを放ちます。

――後半早々のチャンスシーンについて。コンティがボールを持つ。サイドに張るサレマを警戒するマリオ・ルイ、その背後にチャルハノールが走ってロングボールを引き出す。前半には見られなかった形

――その後、チャルハノールが敵陣深くでボールをキープし、サレマにパス。そのサレマは相手エリア手前のスペースにパスを出し、そこへボランチのベナセルが侵入

――ベナセルがエリア内で待つレビッチ・イブラにパス。最終的にイブラがシュートを放つ
組み立て時にサレマがしっかりとサイドに張ってくれるので、コンティが下がり目の位置でボールを受けられますし、トップ下のチャルハノールもライン間で動きやすくなり、攻守のバランスが良くなります。
それと、最終ラインもしっかり上げましたかね。前半はライン間を好き放題使わてしまったため、それへの対策ですね。
しかし、それでもミランはサイドチェンジのミスだったり、カウンター時の連係ミスだったりでボールロストするせいで流れを掴むことができませんし、後半も前線で堪えられないイブラがどうしても下がってくるシーンが散見されます。チャルハノールやベナセルに任せて良い領域だと思うんですけどね。
すると、60分、カジェホンのクロスにメルテンスが合わせ、ナポリが逆転に成功。
○後半中盤~終盤戦の攻防
61分、イブラ、チャルハノールに代えてボナベントゥーラとレオンを投入。
例えイブラであっても、動きが悪ければ容赦なく代えるのは良いと思います。
その後、ミランはレビッチを頂点にし、右ではコンティを積極的に上がらせ、それに応じてサレマを内に絞らせる。一方、左サイドではフレッシュなレオンが積極的に仕掛けるという形。前線に人数をかけ、得点を奪いに行きます。
ただナポリも守備の人数が多くそれでいてコンパクト。非常に固いので、レオンのドリブルスペースがなく、中央のレビッチ、サレマ辺りも良い形でボールを受けられない。逆にナポリからカウンターを食らい、危ないシーンを作られます。
手詰まり感があったミランでしたが70分。ボナベントゥーラが中央で強引に仕掛け、その後のこぼれ球をエリア内で自ら拾い、足を引っかけられPK獲得。ちょい微妙な判定にも思われましたが、ナポリと相性の良いボナベントゥーラが結果を残します。
そして73分、そのPKをケシエが冷静に沈めてミランが同点に追いつきます。
その後は、両チームとも疲労の見えるパフォーマンス。お互いに途中投入の選手を中心に攻めていきますが、両チームともゴール前は固いので中々決定機は訪れず。
86分にはサレマが退場。レビッチに代えてクルニッチを投入し、守備に比重を置くミラン。
結局のところ最後まで追加点を許すことなく、しかしながらこちらも追加点を奪えず、試合終了。
ナポリ2-2ミラン
雑感
内容的には勝ち点1を拾ったという印象ですが、無観客とはいえ恐ろしい敵地サンパウロでナポリ相手に勝ち点をもぎ取ったのは大きかったんじゃないかと。
強豪とのタフ過ぎる3連戦を2勝1分で終えたというのは望外の結果といえますし、超えるべき目標である5位ローマとの勝ち点差は「4」ということで、残り6試合ありますから十分に射程圏内です。
懸念材料としては、選手たちのコンディションがどこまで維持できるかという点です。
この試合でも選手たちの動きは明らかに鈍っていたわけですが、今後も続く過密日程が選手たちを決して休ませてくれません。
次は中2日でパルマ戦、それもサレマを出場停止で欠くということで、おそらく右サイドハーフ不在の非常にタフな試合となりそうです。
またしても合っていないパケタでいくのか、離脱中のカスティジェホが間に合うのか(望み薄)、はたまたシステムを変えるのか…ピオリの決断に注目です。
この3連戦の結果が報われるためにも、次節以降もしっかりと勝ち点を積み重ねていきたいところですね。
Forza Milan!
最後まで読んでいただきありがとうございました。