インテル対ミラン ~天国から地獄~【セリエA第23節/マッチレポート】
スタメン

3-5-2のインテルと、4-4-1-1のミラン。
ミランは予想通りのスタメンでしたが、インテルは注目のエリクセンがベンチスタート。
○ミランの守備とインテルの攻撃
最初に、ミランの守備について。プレスとハイラインのブロックの併用。
まずは、インテルの3バックに対しては中央にイブラを置き、左右の相手CBどちらかがボールを持った際に、両サイドのカスティジェホとレビッチが相手WBへのパスコースを消しながらプレスをかけていくという形が基本。仮に相手のWBにボールが渡った場合は、サイドハーフが二度追いするかSBがチェックする。
そしてその際のポイントは、インテルの中盤と2トップへのパスコースを消すことです。
具体的方法として、まずは大方の予想通りチャルハノールにアンカーのブロゾビッチを徹底マークさせる。
続いて、ケシエは対面のインサイドハーフであるバレッラをマークするのが基本。彼があまりにサイドに行き過ぎる場合はコンティに受け渡す。

――ミランの基本的な陣形。カスティジェホがWBのヤングへのパスコースを消しながらボールホルダーに寄る(黒線)。チャルハノールはブロゾビッチをマーク(黒矢印)し、ケシエがバレッラに付く(黒丸)
そして、肝心なのがベナセルの役割。まずはインテル側右サイドにボールがあるときは、対面のベシーノをマークする形が基本。ただし、ベシーノはかなり自由に動き回るため、状況に応じてテオやレビッチと交代で見る。他の選手が対応している際は、やや後ろでカバーリングの態勢。

――ベシーノをマークするベナセル(赤)。ボールホルダーのゴディンは左サイドのシュクリニアルへ展開
一方で、インテル側左サイドにボールがあるときは、後方に残ってインテル2トップへの楔のパスコースを封じる。要はケシエやチャルハノールの背後のスペースに位置し、ライン間へとパスを入れさせないようにします。

――先述のシーンの後、シュクリニアルが前方へドリブルした場面。すぐさまベナセルはケシエ、チャルハノールの背後に移動して2トップ(画面外)への縦パスを警戒する
素晴らしいプレー。これによって逆サイドのベシーノが若干フリーになりやすくなるわけですが、ミランの前線のプレスはタイトなのでサイドチェンジをするのは難しいですし、縦パスへの警戒の方が優先順位は上ですから非常に良い動き方かなと。
こういった戦術に対し、インテルの攻撃は後方からボールを繋いで2トップへの楔のパスを狙っていくわけですが、上記の通りそのパスコースはベナセルがしっかりとカバーしていることが多いですし、またロマニョーリとケアーがしっかりと相手2トップに対しマークに付いていますから、序盤を除いてほとんど起点を作らせず。
3バック、中でも左サイドのシュクリニアルがボールを持つことが多かったわけですが、前方のパスコースはほとんど消されていますし、中盤やWBに預けたところでマークが厳しいので中々ボールを自由に持てず。そのためボールロストやパスミスを連発してショートカウンターを食らいまくります。

――例えば、インテル側左サイドで上手くミランが囲い込んだこの場面。ヤング(黄)は前線への縦パスを選択

――後方で構えていたベナセルがしっかりとインターセプトし、カウンターに繋げた
前半に訪れたインテルのチャンスらしいチャンスといえば、ルカクが強引にドリブル突破したときと数回のセットプレーだけでしたね。
○インテルの守備とミランの攻撃
続いて、インテルの守備とミランの攻撃を見ていきます。
インテルの守備はハイプレスがメインで、プレスを外されたら5-3ブロック。プレス時は(多分ミラン側の左)サイドに追い込んでボールを奪おうという狙いだったのでしょう。
しかし、ミランはしっかりと対策を準備。まず、ビルドアップ時はベナセル(まれにケシエ)が相手2トップの間や背後にポジショニングしてパスを引き出すことで、第一プレスを躱そうと試みます。
これに対して、インテルはアンカーのブロゾビッチが前に出てきてチェックしようとするわけですが、位置的に遠いのでそこまで効果的ではないですし、何よりこれはミランの読み通りの動きです。

――ケアーがボールを持った場面。ブロゾビッチ(緑)がベナセルのチェックの為に飛び出す
というのも、ミランはブロゾビッチが前に出ることで生じたスペースにイブラを侵入させ、そこへロングボールを放り込んでボールを収めさせることで一気にプレスを回避し、周囲に位置するチャルハノールやカスティジェホと連動して速攻へ繋げていきます。

――上記のシーンの後、ケアーが前線へとロングフィードを出した場面。イブラヒモビッチ(橙)がワンタッチで近くのチャルハノールに落とし、プレスを回避
イブラが素晴らしいプレーによって前線でボールを収めてくれるため、周囲のチャルハノールやカスティジェホ、レビッチなどは前を向いてボールを受けられますし、速攻によりスペースが空いているため上記3人の持ち味が非常に発揮されやすい状況ですね。
特にチャルハノール、レビッチは流動的に動きながらパスを受けられるので、4-4-2の左サイド起用時よりも活き活きとしています。
例えばイブラが最前線にいる時はチャルハノールが中盤を自由に動き回ってパスを貰って捌き、イブラが下がればレビッチが最前線に移動して裏に抜けたりと言った感じで、縦横無尽に攻めていきます。
更に、今日のミランは右サイドから組み立て、左サイドへと展開する形が多い(普段は左で組み立てて左で崩すのが多い)ので、相手の中盤のスライドが遅れ、テオのオーバーラップのためのスペースが生まれやすいという状況でもあります。

――右サイドからパスを受けたイブラが素早く左サイドへとパスを展開。駆け上がってきたテオ(桃色)はそのままドリブルを開始
そんなわけで、イブラのポストプレーを軸とした速攻もしくは相手からボールを奪っての(ショート)カウンターによって次々とゴール前に迫り、チャンスを量産していくミラン。
素晴らしい攻撃のわけですが、強いて言うならば、インテルを押し込んで「完全に」ポゼッションという形になるとそこまでよろしくない。
というのもインテルのローライン5-3ブロックは非常に固く、ゴール前でスペースがないのでボールを持っても決定機にまで持ち込むことはできません。
ミランには狭い所をラストパスなりドリブルで崩すことが得意な選手はいないため、ゴール前やサイド深くでボールを頻繁に回すも、最終的にはクロスか可能性の低いミドルかという状況に。
もちろん、ちゃんとフィニッシュで終えられたりこぼれ球を拾えたりしているので危険な被カウンターにはほとんど至らず、二重三重と攻め込むことができているので決して悪くはないんですけどね。
ただ、チャンスの質という点では速攻やショートカウンター時の方が遥かに良いという話です。
前半終盤の40分、イブラヒモビッチがエリア内でロングボールに競り勝ち、その落としをレビッチが決めて先制。
ゴールを決めたにも関わらずレビッチがクール過ぎる(笑)
そして46分、CKからイブラが頭で合わせて追加点。インテル0-2ミラン。
前半終盤の2得点により、ミランが2点リードで前半を折り返します。
攻守においてインテルを圧倒した素晴らしい前半。
イブラヒモビッチ、ベナセルという2人の中心的存在が圧倒的なパフォーマンスを披露し、他の選手もそれぞれの仕事をほぼ完璧に遂行。素晴らしい
後半
○インテルの反撃
51分、ブロゾビッチがミドルシュートを突き刺してインテルが1点差に追いつく。
53分、ベシーノがネットを揺らしてインテル同点。
なんだこれは…
後半からの変更点を挙げるとすれば、それはインテルが2トップへの(ロング)パスの意識を高めたことでしょうか。
例えば後方からのビルドアップに際しても、前半は繋ぐ意識が高かったものの後半からはシンプルに前線のスペースやルカクの頭へと(ロング)ボールを蹴るシーンが増えました。

プレスで追い詰められて致し方なく蹴るロングボールと、意図的に蹴るロングボールでは当然ながらその精度・効果が違います(多分ミランの前線のプレス強度が前半に比べて弱くなり、CBが比較的容易にボールを持てるようになったのもあると思いますが)
これならミランのプレスに引っかかってショートカウンターを食らうことはグッと少なくなるし、ルカクのフィジカルと走力を活かせる展開に。

――先述のロングボールが左SBテオの背後を抜け、ルカク(青)へと到達
純粋なフィジカル・スピード勝負だとロマニョーリではどうしても後手に回らざるを得ないですしね。大体において非常に良くやってくれていましたが。
後は、2トップがサイドへ流れてパスを引き出す形も序盤は結構ありました。

――サンチェス(茶色)がサイドへ抜け出してヤングからパスを引き出し、サイドで起点を作る
サイド深くで起点を作られるとDFラインを下げざるを得ませんし、押し込まれればバイタルでボールを持たれたり、サイド深くからクロスを入れられたりといったリスクが高まります。
そしてもう1つの変更点は、前線からの守備の意識。
前半は一方的に攻められたこともあってか、途中からラインが恒常的にだいぶ下がったインテルでしたが、しっかりと気合を入れ直してプレスをかける。
加えて、やや緩慢な動きの目立った2トップもしっかりと集中した入りを見せます。
ハーフタイム中に相当コンテに絞られたんですかね。

――このシーンでは、ケシエからベナセルへの軽率なパスをサンチェスがインターセプト
こうした修正に対して、ミランは追い込まれる。
先述の通り、インテルのビルドアップでのミスが減ったのでショートカウンターができなくなったし、守備もコンパクトかつタイトになったので中々イブラにボールが入らず、前線で速攻の起点が作り辛い状況に。
おまけに、早々の2失点で完全に気落ちした感があります。後半も失点までは悪くない入りに見えただけに、こうしたメンタル的原因が一番大きいですかね。
同点に追いつき、ペースをやや落としたインテルに対しても盛り返すことはできず、パスミスなどで自らリズムを崩していきます。
そして70分、CKからデフライが技有りゴールでネットを揺らし、インテルが逆転。
うん…1失点目はもちろん、3失点目のCKを取られたきっかけもブロゾビッチですし、後半は彼を抑えきれなかったのが痛恨って感じですかね。
少しでも自由にさせれば即結果を残すところは凄いとしか言いようがないです。チャルハノールもかなり頑張ってたんですけどね。
72分、サンチェス→エリクセン
3-5-1-1にして、守備時はミラン2ボランチのケア、攻撃時は比較的自由に動いてパスを散らす役割。
その後はレオン、パケタ、ボナベントゥーラと投入してスクランブル攻撃をするミランに対し、カウンターで応酬するインテルというのが主な展開。
ミランはパケタのクロスに飛び込んだイブラがヘディングシュート、インテルはカウンターからバレッラがそれぞれ決定機を迎えますが決めきれず。
しかしながら93分、ルカクがヘディングで沈めて勝負あり。
試合終了。インテル4-2ミラン。
雑感
ミラニスタにとってはまさに天国から地獄。気持ち的には最悪の試合といって差し支えないものとなりました。
試合終了後はしばらく放心状態だったのですが、半日経って改めて振り返ると、少なくとも前半に関しては素晴らしいパフォーマンスでしたし、ポジティブな面もあったかなと。
この試合に際してのピオリの戦術・組織作りは素晴らしく、それにちゃんと応えた選手たちも同上。
問題の後半についてですが、これに関してはブロゾビッチの1点目が痛恨でした。
後半早々のあのスーパーゴールで気落ちし、立て直す間もなく2失点目を献上。これにより完全に勢いが削がれ、このような惨状に繋がったのかなと。
無論、このことに関してピオリの責任がないとは思いませんが、何より(一部を除いて)ディフェンダー(の守備能力)と中盤選手の個人クオリティが違い過ぎたんじゃないかなあ、と。
前半のミランが圧倒した時間帯において、あれだけ崩されてもゴール前で決定機を阻止できるインテルDF陣の個人能力は素晴らしいですし、特にデフライが非常に厄介でした。
ブロゾビッチの得点シーンにしたって、仮にあれと同様のシーンがケシエに10回訪れたって決まりませんからね。
前半から後半の落差がデカすぎるので印象も最悪ですが、組織と戦術でインテルを完全に上回った前半のパフォーマンスについてはもう少しフィーチャーされても良いんじゃないかと。
…まぁ、ここまでお綺麗な感想を述べましたが、試合終了直後の僕が書いたとしたら全く違う内容になったとは思います(笑)
さて。次のミランの試合はミッドウィークに行われるコッパ・イタリアベスト4、ファーストレグのユヴェントス戦です。
イブラも仰るように、大事な試合をすぐにまた迎えるミランにとって意気消沈している暇はないですし、何とかメンタル面を立て直して欲しいと思います。
僕も今回の敗戦はアタランタ戦以上にキツかったんですけど、イブラのコメントを見て少し前向きになれました。ミラニスタの皆さんも間違いなく辛いとは思うのですが、また共に応援していきましょう。
Forza Milan!
最後まで読んでいただきありがとうございました。