ミラン対ヴェローナ 【セリエA第22節/マッチレポート】
スタメン

4-4-2のミランと3-4-2-1のヴェローナ。
○ヴェローナの守備とミランの機能不全
最初にヴェローナの守備について。
まず、前プレ時に前線の配置を変更。ヴェッレとザッカーニ(左シャドー)の2人で2CBをマーク。そしてヴェローゾとアムラバトの2ボランチがそれぞれ対面の相手ボランチをマーク。

――ヴェローナの守備陣形。ドンナルンマはロングボールを選択
一方で、右シャドーであるペッシーナは下がってテオのマークに付く形が基本。

――上記ロングボールのターゲットとなったテオ(とそこへ来たレビッチ)だが、ペッシーナがマーク(黒丸)
これは明らかにテオ対策。前回の対戦相手であるトリノも同じ3-4-2-1であったわけですが、2シャドー+1トップはそれぞれミランの2CBと「ボランチ(ベナセル)」に付いていたため、テオのマーク担当は基本的に右WB(シルヴェストリ)だったんですよね。
しかし、距離がやや遠いため状況によってはフリーにさせてしまうことが多々あり、テオがゴリブルを開始するスペースを与えてしまいました。
一方で、今回のように右シャドーがマークに付くのであれば距離的に近いため、上記の点は解消。あとは選手自身の能力にあるわけですが、ペッシーナは徹底的にマークしてテオを封じていきます。
後述するベナセル不在の影響や、テオ自身のコンディションもあったでしょうが、素晴らしく厄介なマークをされたことでテオは精彩を欠きました。

――自陣深くまで徹底マーク(黒丸)

――テオが右サイドのカスティジェホからのクロスに飛び込んだ際も、集中して対応
続いてリトリート後は、ザッカーニがサイドへと下りて5-4-1に変化。マンツーマン志向のかなり強い戦術で守ります。
ボナベントゥーラ(積極的に中央に侵入)に対するファラオーニの対応が顕著でしたね。
これに対するミランの攻撃についてですが、今回はベナセルがいないためボールを全く回せない。
代わりに左ボランチに入ったケシエはボールの受け方が壊滅的で(ボールを持ってもほとんど短距離の横パスかバックパス)、いつも通り攻撃面で全く機能していない。
左サイドハーフのボナベントゥーラも同上。というわけで普段はストロングポイントである左サイドが崩壊。
そのためテオも下がり目の位置でのプレーを余儀なくされ、あまり得意ではない作りの面でのプレーが多くなったため、普段の持ち味が中々発揮されない事態に。
ベナセル不在の影響が凄まじいことになっています。
それに、攻撃が停滞した際の頼みの綱であるイブラ(ロングボールのターゲット、ポストプレーヤー)もいないため、ボールが前線で収まらず押し上げも難しい状況。
序盤はポンポンとロングボールを放り込んでいくわけですが、レオンもレビッチもほとんど競り勝てないので尽くヴェローナに回収されていきます。
また、主にレオンがイブラの代わりにポストプレーをこなそうとしますが上手くいかず。
レオンは前を向いてナンボの選手でありますし、ポストプレーやフリーランニングは成長途中。今は未だ厳しそうです。
正直イブラが不在ならば4-4-2である利点はあまりないし、4-3-3の方がプレーしやすいんじゃないかとも思うんですけどね(イブラの欠場は結構突然でしたし、準備期間が少ないので致し方ない面もありますが。今回は中盤も欠場者多数ですしね)。
○ヴェローナの攻撃、ミランの反撃
そんなわけで、序盤は圧倒的にヴェローナペース。自身のストロングポイントである左サイドから攻める。
奇しくも今日のミランの右SBはカラブリアで、酷い守備を連発するためチャンスを量産。
ラゾビッチorザッカーニがサイドに張り、カラブリアの注意を引き付けたところでもう片方がその背後に抜けてボールを引き出したり、もしくは純粋に1対1で突破したりという形が基本。
すると13分、ザッカーニがミラン側右サイドを崩してクロス。これにファラオーニが合わせて得点を奪う。
この戦術だと、カラブリアのユルユル守備とテオのクロス対応の甘さの2つを突けるため、かなり厄介です。
ただ失点後は、徐々にミランが盛り返していく。
先述の通り、ヴェローナの守備はかなりマンツーマン志向が強いということで、まずボナベントゥーラが中央に移動したり下がったりして対面のファラオーニ(右WB)を引っ張る。
それにより生じたスペースをレビッチが流れて使うという形で、左サイドからのチャンスが少しずつ増え始めます。

――例えばこのシーン。ボナベントゥーラ(青)の下がる動きに付いてきたファラオーニ(黒丸)。そこで、ボールホルダーのテオは前方のスペースへとロングパス

――続きの場面。レビッチ(赤)がマーカーの背後を取り、エリア内へドリブルを開始
29分、チャルハノールのFKが壁に当たってゴールに吸い込まれてミランが同点。
決定機がほとんどない状況からまさかの同点弾。嬉しい誤算です。
その後、カウンターからレビッチが決定機を迎えますが、ボールを持ち過ぎてシュートのタイミングを逃す。
一方のヴェローナは、自身の右サイドは守備に重きを置いているためあまり攻められない。
そこで、序盤から一貫して左サイドから攻めていくわけですが、決定機にまでは至りません。
ミラン側右サイドを崩されても、ロマニョーリを中心にしっかりとクロスを跳ね返していきます。
前半はそのまま1-1で終了。
果たしてこの状況をどう評価するか。
確かにチャンスは何度か作れているものの、決定機は少なくゴール前でのアイディア&決定力不足が目立っているという状況。中盤もかなり不味い。
しかしながら、ここ数試合、途中出場から大仕事をやってのけたレビッチ、チャルハノール、レオン辺りはいずれも先発しており、流れを変えるためのカードが少ないという事情もあるので、なかなか難しいところです。
個人的に、イブラ、ベナセルがいないのだから素直にパケタを入れれば良いと思うのですが(この2人が普段やるボール運びやキープがパケタなら能力的には可能だし、今回は役割が被らないから高確率で持ち味を発揮できそうなため)、起用されず。
チャルハノール&ケシエという良く分からないダブルボランチ(被プレス時に前を向けない、キープできない、飛ばすパスが出せない。要はボールを後方から運べないコンビ)よりよほど機能すると思うのですが…それほどパケタのコンディションか悪いのでしょうか。
まぁ確かに、色々とリスクのある選手であるとも思いますし、後半から流れを変えるために温存している可能性もありますかね。
もし後半から出すつもりなら、ボナベントゥーラに代えてパケタ(中盤起用)は絶対として、そこからチャルハノールを左に回すパターン(4-4-2継続)か、もしくはレビッチを左にしてチャルハノールトップ下の4-2-3-1が無難なところでしょうか。
いや、ケシエを守備専アンカーにしてパケタ、チャルハノールがインサイドハーフの4-3-3が一番あり得ますかね。
いずれにせよ、パケタにボール運びをやらせた方が良いんじゃないかと。
後半
後半序盤は変更なし。
序盤は勢いでミランが押し込んでいきましたが、徐々にヴェローナのボランチがボールを持てるようになると、前半同様左サイドから崩していく。
角度を付けたクロスに対し、ダイアゴナルに走りこんでくる相手に対応できず2度ほど決定機を作られます。
が、なんとかゴールポストに助けられノーゴール。
ミランも右サイドからいくつかチャンスを作りますが、決定機には至らず。
63分、ボナベントゥーラ→パケタ
ケシエアンカー、チャルハノールとパケタがインサイドハーフの4-3-3に変更。
直後の68分、アムラバトが足裏でカスティジェホを削り一発退場。
これによりヴェローナは両シャドーが中盤に下がって5-3-1。ローラインでガチガチに固め、隙を見て少人数でカウンターを仕掛けていく形に。
狭いスペースを崩す術に欠けるミランにとっては、逆に苦しい展開に。
70分、ヴェッレ→ボリーニ
ミランは、パケタがいくつか鋭い縦パスを出してチャンスを演出。
下がり目の位置からスペースへと効果的な縦パスを通すことが出来るのがパケタの魅力の一つでありますし、今日のような(ある程度自分のリズムでプレーできる)試合なら、下がり目の位置でパスの出し手としてプレーすれば持ち味を発揮できますね。
また、彼の存在によりカラブリアのオーバーラップも活き始めます。

――パケタのスルーパスにカラブリア(黄色)が反応。その後、鋭いクロスを入れる
77分、カラブリア→サレマーカーズ
新加入選手の登場。ミランは更に攻勢をかけます。
しかしながら、焦りからか徐々にミドルシュートや単調なクロスが増え始め、途中までそこそこ良かったパケタも相手エリア内で待つシーンが増え始めたため、個人としてもチームとしても停滞。
ミドルシュートは枠から逸れ、クロスは跳ね返される展開が続きます。
バイタルエリア、狭いスペースでのパケタのプレー判断・精度は大きな課題の一つであって、こういう展開になってしまうと全く活きなくなってしまいますね。ボールロストも目立ちました。
また、今日のレオンはダメダメで(イブラの代役としてのプレーを余儀なくされたため)、テオも先述の通り精彩を欠くという状況。
アディショナルタイム、カスティジェホの放ったシュートは無情にもゴールポストに阻まれ得点ならず。そのまま試合終了。
ミラン1-1ヴェローナ
雑感
欠場者が多い上に、相手は好調のヴェローナ相手ということで難しい試合だったと思いますが、上位進出のためには何としても勝利したかったというのが本音です。ローマを筆頭に、順位が上の多数クラブが勝ち点を落としていただけに尚更ですね…。
確かにイブラとベナセルの欠場が響いたのは明白ですが、二人とも今後も毎試合フル稼働できるわけではないでしょうから、彼ら抜きでもある程度戦えるようになる必要があります(イブラは体力的にキツいでしょうし、ベナセルは戦術的にサスペンションや疲労が多くなりそうなため)。
しかし今日のような試合内容では物足りないですし、この点(不動の主力選手の欠場時に、その穴をどれだけチーム全体でカバーできるか)は今後継続的に勝ち点を積み上げていくためには重要になってくるでしょうね。
続いて試合内容についてもう少し深く言及すると、やはり決定力不足が目立ちます。
この試合でも組織的には不十分ながら、個の力で多くのチャンスを作ったにも関わらず、シュートは尽く枠を外れていきました。
同点ないしビハインドのまま試合終盤までもつれた際、チーム全体が浮足立って精度の低いミドルシュートやクロスを連発する「悪癖」はここ数年のミランの特徴ともいえるものの、イブラ効果で多少の改善はなされたかと思われましたが…。まだまだ本人の存在なくしては落ち着けないようです。
最後に。この試合ではダニエル・マルディーニがミラントップチームでの公式戦デビューを飾りました。
試合にはほとんど関与していないものの、こうして親子三代がミランのトップチームでプレーするというのは感慨深いものがありますし、ダニエルには今後もミランで出場機会を得ていって欲しいと強く願います。
さて。次節はいよいよミラノダービー。スクデットを目指すインテルとの対戦です。
思えば、昨季後半戦は素晴らしいスタートを切った絶好調のミランでしたが、インテルとの直接対決に敗れてから調子が急降下し、最終的に4位インテルとの勝ち点差「1」の5位に終わるという苦い結果でした。
昨季の二の舞を避けるためにもここで負けたくはないですし、極めて厳しい試合になるでしょうが全身全霊で臨んで欲しいと思います。
Forza Milan!
最後まで読んでいただきありがとうございました。