ミラン対ウディネーゼ 【セリエA第20節/マッチレポート】
今回は、セリエA第20節、ミラン対ウディネーゼのマッチレポートを行いたいと思います。
スタメン

4-4-2のミランと、3-5-2のウディネーゼ。
(※キャプチャ画像の映像元はいずれも『Dazn』より)
○ウディネーゼの守備とミランの攻撃
まずはウディネーゼの守備について。
守備時は5-3-2でとっととミドル~ローラインブロックを作ってミランの裏抜けを封じ、かつ中央(中盤3枚+2トップ)をコンパクトにして2トップへの縦パスを封じる。また、イブラの下がって貰う動きに対してもしっかりと3バックの一角が付いていき前を向かせない。
今のミラン対策としては完璧です。
今のミランの武器であるレオンとカスティジェホの裏抜け(裏にスペースがないため効果的ではない)、イブラへのロングボールorポストプレー(周囲に敵が多いし、そもそもボールが入らない)が機能しないため、サイドでボールを持たされるわけですが、両サイドハーフに突破力がないためあまり意味はない。
すると6分。ミランがサイドでボールロストし、ウディネーゼが素早く裏へとロングパス。そこにドンナルンマが不用意に飛び出してクリアミス。そのこぼれ球をラーセンに決められてミラン失点。

――失点シーンの少し前の場面。テオがレオンに縦パスを出そうとするも、中盤でインターセプト。その後、被カウンターから失点シーンに繋がった
その後も同様の展開で攻めあぐねるミラン。
そんな中でも、右サイドから左へのサイドチェンジを用いることでウディネの中盤の薄い所を突き(3枚なのでスライドが遅れる)、左サイドから崩そうとする狙いはわかるのですが、残念ながらあまり機能していない。

――カスティジェホ(青丸)からテオ(赤)へのサイドチェンジ
というのも、左サイドハーフのボナベントゥーラは相変わらず調子が上がらず、サイドで貰ってもほぼほぼ横パスかバックパスか無駄キープ。
そもそも、調子に関わらずボナベントゥーラのサイド起用は基本的に良くないし(ミハイロビッチ時代は除く)、彼はバイタル近くに置いてシュートやワンタッチパスに専念させるのが一番じゃないでしょうか。
せっかくの素晴らしいキック精度が勿体ないですからね。
そして実際に、時間の経過と共に彼が中央に入り始める頻度が増えますが(前半終盤はほぼほぼトップ下みたいな感じ)、先述の通りウディネの中央が固いためほとんどボールを受けられず。

――中央に位置するボナベントゥーラ(桃丸)
この試合展開なら、レオンをサイドに張らせた4-3-3の方が良い気もしますが…。
レオンが状況に応じてサイドに流れ、ボールを持った時の方が明らかに惜しいチャンスを作れていますしね。
あまり流動性がなく、アタッカーが軒並み相手DFライン手前で漂い始める嫌な展開に。
終盤になると、イブラが下がってボールを受けてチャンスを作ったり、彼への放り込みから無理やりチャンスを作ったりするシーンが増え始めますが、得点には至らず。
それにしても、無理矢理でもチャンスを作り出すイブラは凄い(笑)
○ミランの守備とウディネーゼの攻撃
視点を変え、次にミランの守備とウディネーゼの攻撃を見ていきますが、ミランの守備はこれまで通りマンツーマンでのハイプレスが主体。
具体的に、ミランはウディネーゼの3バック+中盤3枚(アンカー&2インサイド)の形に合わせるため、ハイプレス時は両サイドハーフの位置を移動させ、4-2-1-3の形に変更(序盤は4-3-3ぽかったですが、これだと相手アンカーがフリーになりやすいため途中からガッチリ噛み合わせる)。
カスティジェホを右ウイングにして相手左CBに付かせ、ボナベントゥーラをトップ下気味に移動させて相手アンカーに付かせるのが基本です(プレスを外されたらボナベントゥーラ、次にカスティジェホを段階的に下げて4-4-2に)。

――画面手前からレオン、ボナベントゥーラ、イブラヒモビッチ、カスティジェホがそれぞれ3CB+アンカーに付き、ボールをサイドへ誘導
しかし、ウディネーゼもしっかりと対応。まず、ウディネーゼのインサイドハーフがサイドに流れることで、対面のミランのボランチをサイドに釣り出し、中央のスペースを空けます。

――デパウルのサイドに流れる動きにベナセル(橙)が付いていくが、ラーセンは中央への縦パスを選択
その中央のスペースへとウディネ2トップが下りてきてパスを受け、周囲の味方にボールを落とすことでプレスを回避するという形です。

――ウディネ2トップ(茶)が何とかボールを収め、上がってきた中盤にボールを預ける
その後は空いたサイドへスピーディーに展開し、クロスを放り込んでチャンスを作っていくという形。
前回のSPAL戦と違い、前線にはピョンテクとレビッチというプレス強度の高い選手がいないし、特に序盤は相手の中盤の形と噛み合わせるのに手こずったことで、ミランのプレスはあまり機能していませんでした。
しかし、途中からは相手もロングボールが増え始め、そのセカンドボールもミランが拾えていたためハイプレスについてはそんなに悪くなかったかなと。
ただ、この点に関して割を食ったのがボナベントゥーラで、彼はハイプレス時にはトップ下としてアンカーのマンドラゴラをマークしつつ、リトリート後は従来の左サイドハーフとして内に絞りつつサイドをケアするという豊富な運動量と高度な判断が求められたため、だいぶキツかったんじゃないでしょうか。
中途半端な位置にポジショニングしているシーンが散見されましたし、上記の攻撃面も考慮すると攻守において彼が今の役割をこなすのは厳しそうです。

――ボナベントゥーラ(桃丸)がマンドラゴラに付いていき、右サイドへ。しかし、ウディネはサイドチェンジを選択し、ガラガラとなったミラン側左サイドを突いていく
ウディネに関しては、早々に先制点を奪えたのでそこまでリスクをかける必要はなく、上述の整理されたポゼッション等から素早くサイドを攻めていく形を継続。
また、スピードやフィジカルのある選手が揃っているため、偶に繰り出すカウンターも強力です。
前半はこんな感じで、0-1で終了。
正直なところドンナルンマのミスが痛恨だったわけですが、彼にはいつも助けられているわけで、こういう時こそ攻撃陣が奮起していつもの借りを返してあげてほしいです。
後半
○ミランの戦術修正~2つのポイント~
46分、ボナベントゥーラ→レビッチ
こうした見切りの早さは最近のピオリの良い所ですよね。
先述の通り同情すべき点はあれど、交代は妥当。
すると48分、ミランが相手のパスミスからカウンターに繋げ、最後はコンティのクロスにレビッチが合わせて同点に成功!
コンティのインターセプト&クロス、レオンのワンタッチパス、レビッチの飛び出しと全てが素晴らしい。
イケイケムードのミランは、その後も主にカウンターから次々とチャンスを作り出していきます。
後半の主な修正点は2つ。
1つはレオンが明確に一列下がり、下がり目の位置からスタートして左サイド~中央で自由にボールを受けるようになったことで、彼のドリブルが活き始めるようになったこと。
これならサイドでカウンターの起点になれるし、レビッチの動き(後述)もあって流動的な攻めが可能に。
速攻の起点として申し分のない素晴らしい働きぶりです。

――前半のレオンのボールタッチポジション(右攻め。タッチ数17回。『WhoScored』より)

――後半のレオンのボールタッチポジション(右攻め。タッチ数30回。)
また、守備においても彼がアンカー(マンドラゴラ)のマークに付くようになったことで、左サイドハーフ(レビッチ)が守備時にそのままの位置をキープできるように。

――レオンがマンドラゴラをマーク(黒丸)
そして2つ目の修正点は、当然ながらレビッチの存在です。
正直レビッチがここまでできるとは思いませんでした、すみません。
彼が入ったことで縦に行けるようになったし(狭いスペースでもこんなに縦突破できるのか…)、流れを止めないので左サイドが活性化。
また、レオンがサイドに流れればレビッチは裏にも抜けられるし、中央にも積極的に侵入するのでポジションが被ることなく動くこともできる。
彼ら2人を中心に左サイドを崩し、その後は中央のイブラと右サイドから走りこんできたカスティジェホがフィニッシュに絡んでいくというパターンでチャンスを量産していきます。

――レオン(赤)がサイド深くで仕掛ければ、レビッチ(青丸)は中央へ移動

――別の場面。レオンが敵陣浅くからボール運びを始め、サイドに流れた際は、レビッチは裏に抜け出してパスを引き出す

――その後、ドリブルでサイド深くまで抉ってから、中央に侵入してきたレオン(赤丸)へとリターンパス。2点目に繋がるCKを獲得した
ただ、その分守備がどうかなーとは思いますが、それは前半も良くないので応急処置としては決して悪くないし、攻撃に関しては間違いなく改善しました。
そして72分、上述のCKのこぼれ球からテオのスーパーボレーが炸裂し、ミランが逆転に成功します。
○ミランの守備と、ウディネーゼの攻撃
一方のミランの守備・ウディネーゼの攻撃はどうか。
先述の通り、ミランはレオントップ下の4-2-1-3のような形で攻め続け、SBもガンガン上がっていくため守備がヤバい。
実際にウディネはミランSB裏をガンガン突いてカウンターから決定機を量産していきます。が、ドンナルンマがスーパーセーブを連発して尽く決定機を防ぐ。
これはアレですね、敢えてドンナルンマに名誉挽回の機会を与えて自信を回復させるための粋な計らいでしょうか(笑)
まぁ真面目な話をすると、右サイドに関してはケアーが相手2トップのスピードに付いていけておらず、周囲のコンティ、ケシエの守備も軽いため、このままでは不味いかもしれないです。
そして左サイドに関しても、レビッチがカスティジェホと比べて守備の戻りが遅く、攻め残る傾向が強いため、前半同様スペースがかなり空いています。
おまけに、中盤はリトリート後もプレスをかけ続けるためラインがバラバラだし、ライン間がかなり空く状況。
基本的には何とか踏ん張ってはいるものの、誰かがマークを外せば一気にボールを運ばれかねない状況です。
ウディネーゼは先述のカウンターの他にも、ガラガラのサイドを突いてクロスを放り込んでいきますが、ミランが何とか踏ん張る。
77分、カスティジェホ→クルニッチ
レオンを右サイドにし、クルニッチはトップ下と左インサイドハーフの中間的なポジション。
しかし、これはどうなのか。
まず、交代前までは左サイドのレビッチとレオンの流動的なポジションチェンジによって左サイドから崩し、中央のイブラと右からカスティジェホがエリア内へ飛び込んでゴールに迫るという形が上手く機能していたわけで、レオンを右に移動する意図が良く分かりません。
それに今日は走り回っているため既に疲労困憊のようですし、ここから攻守に走れるかはかなり怪しい。
また、クルニッチが若干高めの理由は相手アンカーを抑えるためと、イブラの周囲に位置して彼へのロングボールのこぼれ球を拾わせたいというものだとは思いますが、普通に3ボランチにして守備を固めた方が良くないかと思うんですけどね。
すると85分、ミラン側左サイドを崩され、最後はクロスにラザーニャが頭で合わせてウディネーゼに同点弾を決められる。
防ぐべき失点でした…。

――失点の少し前の場面。デパウル、マンドラゴラ(茶丸)がフリーでボールを受け、彼らを起点に左サイドを崩されて失点
○劇的な幕切れ
後半最終盤は、4-4-2(その後再び3-5-2)で引いて守るウディネーゼを何とかこじ開けようとするミラン。
88分にはイブラへの放り込みからクルニッチが決定機を迎えますが外してしまう。
これまでのミランだったら、おそらくこのまま2-2で試合終了のホイッスルが吹かれていたでしょう。
しかし93分。放り込みから最後はレビッチが冷静にコースを突いたシュートを流し込み、劇的決勝ゴール!!!
🎶 Don't stop me now...
— AC Milan (@acmilan) 2020年1月19日
... 'Cause I'm having a good time! 🎶#MilanUdinese #SempreMilan pic.twitter.com/0jLXapCpDV
試合終了。ミラン3-2ウディネーゼ
雑感
守備ヤバくないか?とか、必要不可欠な主力選手が多すぎないか?とか、言いたいことは色々とありますが、今回ネガティブな雑感は一切書きません。
ただただ、感動をありがとうと。久々でしたねこういう試合は。
パフォーマンスに差はあれど、この試合に関しては全員の献身性や、最後まで諦めない気持ちが生んだ勝利だと思いますし、とにかくこの勝利は大きい。
こうした粘り強さこそ強豪クラブたる証だと僕は思いますし、やはりこの粘り強さがイブラヒモビッチの復帰と無関係だとは到底思えません。
ゴールこそ逃しましたが、彼がピッチに立つことによる精神的効果は想像以上にデカく、レオンとカスティジェホを始め、ほとんどの選手のパフォーマンスがどんどん上がっていることも無関係ではないでしょう。
とは言え、今日の主役に関していえば、それはレビッチ以外あり得ません。
チームに欠けていたサイドからの突破力と走力を存分に発揮し、2ゴールをあげて勝利の立役者となりました。
極めつきは何といっても、アディショナルタイムでのゴールですよね。
持論ですが、大舞台や試合の土壇場でゴールを決めるっていうのは、純粋な技術以上に精神力が必要とされるものだと思っていまして、こういうのを持つ選手というのは本当に貴重だと思うんですよね。
正直、僕はレビッチのレンタルバックには賛成でしたし、クラブ・選手にとって最良の選択だと思っていたのですが、手のひらを返します(笑)
こういう勝負強さを備えた選手はミランに絶対に必要ですし、もちろん技術的にも今の彼は非常に有用。
今後は間違いなく出場機会が増えていくでしょうし、是非ともミランで活躍し、来るEURO2020へと臨んでほしいと思います。
さて。公式戦3連勝となったミランの次の相手はブレシアです。
この勢いそのままに、確実に勝利を収めて欲しい所です。
Forza Milan!!
非常に長くなりましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。