カリアリ対ミラン ~IZBACK~【セリエA第19節/マッチレポート】
スタメン

前日書いた予想スタメン通りのスタメン。
(キャプチャ画像の映像元はいずれも『Dazn』より)
○前半序盤戦の攻防
カリアリが主にポゼッションし、攻撃の中心である2シャドーを起点にした速攻と、サイドからのクロスがメイン。
中でもミランはシャドーのジョアン・ペドロを抑えることができておらず、速攻の起点を作られるシーンがやや目立ちます。
こうして何度か深い位置までボールを運ぶカリアリですが、最後の精度を欠き決定機までは持ち込めない。
一方のミランはあまりボールを持つ気がないし、持っても縦への意識が高く、すぐ前線へとロングボールを放り込んでいく。良い傾向です。
ポゼッションのし辛いこのメンバーで長くボールを保持してもしょうがないですし、またセットしてからのカリアリの守備は固く、カウンターも強力のため、危険な位置でのボールロストのリスクを減らす意味でも悪くないですからね。
○前半中盤・終盤戦の攻防
ミランは先述のロングボールの他にも、SB裏へのスルーパスや、右から左へのサイドチェンジを起点にチャンスを作っていく。

――カスティジェホ(赤丸)からレオン(画面外)へのサイドチェンジ
カリアリは基本的に4-3-2-1の形でコンパクトに守り、サイドで囲い込んで奪おうとするため、逆サイドにスペースが空くことが多い。そのためサイドチェンジはまずまず有効。
しかし、ミランは全体的にかなりパスミスが目立ちます。
確かに、先発メンバーの技術的に致し方ないところはありますし、何より連携面の問題もあるためこれは想定内ではあるのですが、それでもカウンターをもっと機能させて欲しいというのが正直なところ。
攻撃に関し、ミランは前回の記事でも予想した2トップを中心とした流動的なカウンターないし速攻を志向しています。
具体的には、イブラがロングボールのターゲットマンとポストプレーの役割で攻撃の起点となり、レオンがスピードと推進力でボールを運ぶという役割であって、そこへ走力のある中盤やSBが後方から前方のスペースへ走っていくという形です。

――カリアリCKの直後、ロングカウンターの場面。レオンがボールを運んでいる間に、カスティジェホ、カラブリア(黄)、ベナセル(紫)が前線に一気に飛び出す
狙いははっきりしていますし、とても良い。しかし、そもそも2トップに良い形でボールが入ることが少ない。
守備に関しても、両ボランチのケシエとベナセルが相手3枚の中盤に対応して前に出ることが多いためライン間が空きがちになり、そのスペースを相手2シャドーに使われる(ないし使われそうになる)シーンが目立ちます。

――ベナセル、ケシエがそれぞれ中盤をマーク(黒線)し、前からはめようとするが外されパスを出される。その後、前線のペドロ(画面外)のポストプレーにより、フリーのナインゴラン(青丸)へとパスが渡り、速攻を仕掛けられる
また両サイドのチャルハノールとカスティジェホはそれらのスペースを埋めるために頻繁に内に絞ることを要求されているのでしょうが、そうするとサイドのスペースが空く為、中央からサイドへボールを運ばれることもある。要は後手後手の守備対応。

――内寄りのチャルハノール(桃丸)が上がってきたナンデスに対応するも、ライン間のペドロ(橙)にパスを出される。その後、ペドロはサイドから上がってきたファラーゴ(灰丸)へとパス
そのため、良い形でボールを奪うことは稀ですし、もし奪っても位置が悪いため良いカウンターにも繋げられないということかなと。
いっそのこと、ミドル~ローラインブロックでも良いと思うんですけどね。
それならライン間を比較的閉じることができるし、前方にスペースができるので中盤も飛び出しやすい。また、その方が2トップも動きやすいし、前線で時間も作れますしね。
2トップにボールが入ることが何よりも重要なこの戦術において、2トップにボールが中々収まらないというのはかなり厳しい。
両サイドのクオリティ不足が響いていますが、彼らは守備(と流動的なカウンター)時に不可欠のため決して責めることはできません。
終盤になると、見かねたイブラが下りてきてゲームを作り始める。8年ほど前に良く見た光景ですね(笑)
前半はそのままスコアレスで終了。
決定機こそ皆無、しかし可能性は感じる前半だったのというが率直な感想です。
狙いとする攻撃戦術は決して間違っていないと思いますし、そのためのメンバーも適切。
練度不足は致し方ないとして、修正可能な点があるとすれば守備(と守備からのカウンター)でしょうか。
後半
○後半序盤戦の攻防
後半開始早々の46分。ファールを受けたカスティジェホの速いリスタートからエリア内のレオンへパス。そのレオンが放ったシュートがDFに当たってゴールに吸い込まれ、ミランが先制!
時間が経つにつれてスタミナ面で苦しい展開になったでしょうから、この早い時間帯でゴールを奪えたのは僥倖。
カスティジェホの素早い判断、レオンの集中力が生んだゴールでもあったと思います。
しかし、先制後も流れはあまり変わらず。
上記の通り後手後手の守備対応が目立ちますし、そのためカウンターチャンスもあまりない。
イブラやレオンの持ちあがりで何度か惜しいシーンを作りますが、いずれも決定機には至らず。
カリアリも素早い展開からゴールを狙いますが、これといった決定機はなし。
○後半中盤・終盤戦の攻防
64分、チャルハノール→ボナベントゥーラ
この時間帯での投入は予定通りでしょうか。
いずれにせよチャルハノールはあまり良くはなかったし、妥当な交代。
その直後、テオのクロスにイブラヒモビッチがダイレクトで合わせてミランが追加点!!
ミランの試合を観ていて大声を上げたのは久しぶりです(笑)
69分、シメオネ→チェッリ
この辺りから、カリアリは4-3-1-2に変更。ナインゴランのトップ下です。
一方のミランも、システムを4-5-1のような形に変更。どちらかというと守備のための采配か。
ボナベントゥーラを左インサイドハーフに回し、レオンを左サイドに。
中央を固めようという狙いと、カリアリのSBの裏をレオンで突きたいという狙いの2つでしょうか。
加えて、右サイドではケシエが飛び出して前方のボールホルダーを追い回しつつ、その際にはカスティジェホを内にガッツリ絞らせて更に中央を固め、ケシエの背後にスペースを作らせない。

――ケシエがボールホルダーにチェック(黒線)しつつ、カスティジェホ(赤丸)が内に絞ってナインゴラン(青)へのパスコースを消す
これにより中央で起点を作らせず、ボールをサイドへと誘導。誘導後はカスティジェホorケシエがしっかりとスライドしてカラブリアと2人で対応。
中央を使いたいカリアリとしてはかなり腹立たしい状況でしょうね。
カスティジェホとケシエという、圧倒的運動量を持つ2人を存分に活かす素晴らしい采配です。
問題があるとすれば、レオンが体力的にどうかなという点でしょうか。
ドリブルで運べるフレッシュな選手(無理やり挙げるならレビッチか)を入れられたら完璧なわけですが、レビッチはほぼ構想外っぽいので流石に難しいか。
72分、カラブリア→コンティ
負傷交代。
75分、レオンが独力で自陣から一気に相手ペナルティエリア内まで運ぶ。凄い(笑)
カリアリはナインゴランへの縦パスを起点に中央を攻めたいのでしょうが、先述の通りミランの中央は固く、そのためサイドに流してのクロスが多い。
しかしミランにはロマニョーリ(ポジショニングが非常に良いので、クロスへの対応が上手い)がいますし、ムサッキオも後半は安定しているため、尽く跳ね返していく。ドンナルンマもしっかりとキャッチング。
76分、ログ→カストロ
76分、ナンデス→イオニタ
82分、ベナセルのクロスからイブラが頭で合わせてネットを揺らしますが、惜しくもオフサイド。
終盤は攻勢を仕掛けるカリアリに対し、ミランがしっかりと守る展開。
繰り返しになりますが、カスティジェホの途轍もない運動量には頭が下がります。ホントに尋常じゃない運動量。
ケシエも今日は良い。攻守に体を張ってくれてますし、戦術的にも合っているので持ち味が出ています。ベナセルも攻守に絶大な存在感で、抜群に効いている。
そしてドンナルンマ・ロマニョーリ・ムサッキオも先述の通りなため、ミランにとって危ないシーンというのはほとんどない。
90分、レオン→レビッチ
レオンはかなり疲れていたし、攻守において動けなくなっていたので良い交代だと思います。
あえてスソではなくレビッチというのも理に適っているし、良い。
その後も全員の献身の甲斐あり、失点することなく試合終了。
カリアリ0-2ミラン
○雑感
流石のドンナルンマ、安定したDF陣、攻守に走り回ったMF4人、特大のポテンシャルの一部を披露したレオン、そしてピオリの見事な采配…。
雑感としてポジティブに語りたいことは山ほどあれども、それを1つに絞るのは比較的容易です。
結局のところ、この試合に関する一番のトピックはイブラヒモビッチしかあり得ません。
Ibrahimovic: “I promised to celebrate as a God at San Siro, not here.”
— AC Forza Milan/News (@ACForzaMilano) 2020年1月11日
My striker ❤🖤 pic.twitter.com/xvwPRWn28X

――王のゴールセレブレーション
チーム合流からわずか10日余りでチームの中心として君臨したかと思えば、スタメンとしての初戦で早速1ゴール。
ゴールだけではなく、空中戦の強さとポストプレーによって早くも戦術的キーマンとなり、チームの勝利に大きく貢献してくれました。

――この試合におけるオフェンス時の空中戦回数トップ5(『WhoScored』より)。両チーム合わせてもイブラヒモビッチが断トツ。

――イブラヒモビッチのボールタッチポジション(左攻め)
監督であるピオリも試合後、以下のように語っています(『Sky』より)。
「ズラタンの存在は、我々にチームを構築する上での基準点を与えてくれる。しかし、彼はそんなに多くスペースへと走らないかもしれない。だから、我々は彼の周りに走ることのできる選手を必要とした。今日で言えばレオン、カスティジェホ、チャルハノール、それからボナベントゥーラだね。我々はこのシステムに取り組み始めたばかりで、真にお互いを理解し合うには少し時間を必要とするだろう。だが、最初の印象はとてもポジティブなものだった。」
もちろん、38歳である彼を中心に据えるというのは今後のことを考えると必ずしも良いことばかりとは言えませんが、イブラを起用し、活かそうとする以上ピオリの言うような形になるのは必然かなと。
また、彼の側で覚醒を遂げそうなレオンや、システム・戦術変更によりモロに恩恵を受けたケシエやカスティジェホといった選手もいますし、彼の存在によって多くの選手が成長していければ、将来性という点でも決して悪くはないんじゃないかと思います。
それに、今回はパケタやピョンテクといった選手は外れましたが、彼らにも十分に活路はありますし(このままのシステム・戦術だと難しいですけど、少なくともマイナーチェンジはしていくと思うし、していかないとむしろ不味いので)、イブラの存在によって立場を完全に失うのは極一部の選手だけでしょうから特に問題はないかなと。
今までの4-3-3よりよほど発展性がありますし、このベースを軸に改良を重ねていければ数年振りとなる機能的なカウンターが見られるかもしれないと思うだけに、本当に楽しみです。
くどいようですが、もちろん戦術面・連携面共に改善は必須でしょう(今節も、全体的な内容自体はそこまで良くない)。ですが、イブラヒモビッチの帰還と共にミランに新しい形が生まれ、そのスタートを勝利で飾れたことをまずは祝いたいと思います。
さて。数日後にミランはSPALとのコッパ・イタリア・ベスト16を迎えます。
今季のミランがコッパ・イタリアという大会をどの程度重要視しているかはわかりませんが、個人的には是非とも優勝を目指して戦って欲しいと思っています。
ですが、一方である程度のターンオーバーはして欲しいとも思いますし、こういう時にこそ控え選手には存分に活躍をしてもらい、チームの競争力を高めて欲しいですね。
Forza Milan!!
最後まで読んでいただきありがとうございました。