パケタとミランの1年間 【プレースタイル・長所・今後の課題】
ミランに加入して早1年が経とうとしているルーカス・パケタ。
昨季はシーズン途中の加入ながら、瞬く間にスタメンを奪取。
チームに合流してわずか数日後のコッパ・イタリア、サンプドリア戦で衝撃のスタメンデビューを飾ると、その後もサスペンションや負傷を除くほとんどの試合に先発するという素晴らしいシーズンを過ごしました。
しかし、今季はここまで苦戦中です。
まず、シーズンオフ期間にコパ・アメリカに参加したため、チームへの合流に大幅に遅れるという事態に。緻密で組織的な動きを求めるジャンパオロ新監督の下において、この遅れは痛恨でした。
それもあって、両者はプレーの内容に関して確執を生み、ジャンパオロが解任される最後まで、パケタが「らしい」パフォーマンスを見せることはありませんでした。
その後、新監督に就任したピオリの下でパケタは攻守にアグレッシブに動くプレースタイルを取り戻したものの、ここ2試合はベンチスタートとなっています。
さて。昨季とは打って変わって苦戦中のパケタですが、その要因は何なのでしょうか。
今回は、ガットゥーゾ監督時代と(ここまでの)ピオリ監督時代におけるそれぞれのパケタのプレーや役割を比較していくことで、その要因を考えていこうかなと。
なお、考察材料としてはピッチ上の事象(パケタのプレースタイル・役割の変化など)を主な対象としています。
まず、ガットゥーゾ・ミランの下でのパケタを振り返ります。
当時の彼のメインポジションは「左インサイドハーフ」。右インサイドハーフやトップ下でプレーしたことも(確かそれぞれ1試合ずつ)ありましたが、基本はそこです。
そんな彼の役割はボール運びでした。持ち前のテクニックを存分に活かしてボールをキープしつつ、相手マーカーを引き付け、それによって生じたスペースにパスを出したり、ドリブルやワンツーパスで突破したりすることで局面を打開するというスタイルですね。
当時のミランはボナベントゥーラを長期離脱で欠いており、ボールを運べる中盤がいないという状況でしたから、彼の存在は非常に貴重でした。
また、パケタの存在により左ウイングのチャルハノールが復活。両者の流動的なポジションチェンジにより、中央に侵入することが容易になったことでチャルハノールの持ち味が発揮できるようになりました。

上図は、カリアリ戦(パケタがゴールを決めた試合)におけるパケタのボールタッチポジションを図示したものです(右攻め。『WhoScored』より)。
左サイドで幅広くタッチしており、タッチライン沿いにも頻繁に顔を出していることがわかります。

また、コチラはアタランタ戦(1-3で勝利)におけるボールタッチポジション(左攻め)ですが、この試合では左インサイドハーフ起用ながら中央、果ては右サイドでも頻繁にボールタッチしています。
この試合のパケタは、攻撃においてはアタランタのハイプレスを鬼キープでいなしつつ、攻撃の起点となる素晴らしい活躍を見せており、スコアには直接関与しなかったものの勝利に大きく貢献してくれました。
このように、ガットゥーゾ監督はパケタに自由を与えつつ、パケタ(と厳密にはチャルハノール)を中心としたパス回しを行うことで彼の能力(テクニックを活かしたボールキープ、キープからのパス)を存分に発揮することに成功していました。
まぁ敢えてそうしていたというよりは、当時はスソが絶不調に陥って影響力が低下していたこともあり、必然的に左サイドからの攻めが増えた結果という側面も強いとは思いますけどね(事実、スソが復調してきた終盤戦は相対的にパケタの存在感は希薄になりました)。
〇ピオリ・ミラン時代
さて。それではピオリ・ミランの下でのパケタはどうなったのか。
まずはポジションについてですが、彼のメインポジションは「右インサイドハーフ」。ガットゥーゾ監督時代とは逆サイドです。
この狙いとしては、何より「ゴールに直接的に関与してもらいたい」というものでしょう。
利き足とは逆のサイドに配置し、中央志向のプレーをさせることで、より決定的なパスやシュートを引き出させようとしているのだと思います。
「パケタは決定的な場面にもっと関与しなければならない」というSPAL戦前のインタビューにおけるピオリの発言からも、この狙いは読み取れますね。
それでは実際のところはどうなのかということで、データを一つ。

上図は先述のSPAL戦におけるパケタのボールタッチポジションです(右攻め)。
基本は従来の右インサイドハーフとしてのポジショニングながら、ファイナルサード付近になると中央でのボールタッチが非常に多くなっています。
また、この試合では6本ものシュートを放っているように、昨季よりもファイナルサードでのプレーやチャンスは明らかに増えている印象です。
つまり、パケタに課された主な役割は「ボール運び」から「チャンスメーカー兼ゴールゲッター」に変化したといえると思います。
しかし、パケタは今のところその役割を十分にこなせていないというのが現状です。
というのも、今季のパケタの成績は0ゴール1アシストですからね。その1アシストもジャンパオロ監督時代によるものなので、ピオリ・ミランの下では未だにゴールもアシストもありません。
具体的な内容を見ても、シュートは枠外に飛んでいってしまうシーンが少なくなく、ファイナルサードでのパス、ドリブルに関しても決定的なものはあまり見られません。
そのため、当初はスタメンで継続的に起用されていたものの、ここ3試合は先発から外れてしまいました(内1試合は負傷による欠場ですが)。
そんな現在、パケタの上記の役割を担っているのがウインガーのスソです。
丁度、パケタが先発から外れたパルマ戦辺りから中央に侵入することが多くなったスソは、ボローニャ戦では右サイド中央寄りでボールを持ち、対面のDFをドリブルで躱した後に決定的なスルーパスを送ってテオのゴールをアシストしました。
また、負傷から本格的に復帰し、ここ最近左インサイドハーフとしての地位を確立したボナベントゥーラは、正確かつ強力なミドルシュートによって早くも2得点を記録。
おそらくピオリとしては、こういったプレーを本来はパケタにも期待しているはずです。
そしてもう1つ、今パケタが抱える問題点としては、球離れ(テンポ)の遅さが挙げられます。
足技に自信のあるパケタは、ボールを長くキープして相手DFを引き付けつつ、テクニックと体の使い方によってそのマーカーを躱していこうとする傾向があります。
昨季に関しては、その傾向が基本的にプラスに働いていました。
パスのテンポがチーム全体として遅かったし、何よりパケタがパス回しの中心的存在の1人だったため、ボールキープによるDF引き付けが崩しの一つの形として比較的機能していましたからね。
一方、今のピオリ・ミランは全体的に縦への志向が強く、パスのテンポが比較的速いため、基本的には1タッチ2タッチでの素早いパスが求められます。
しかし、パケタはビルドアップの局面において素早くボール捌ける場面でも、ボールを持ち過ぎて流れを止めてしまうことが多々あり、最悪の場合そこでボールをロストしてショートカウンターに持ち込まれるというシーンも何回か見られました。
ファイナルサードでの局面等、状況によっては彼のキープ力は非常に有用なものですし、決して封印すべきものではないと思うのですが、シンプルにプレーすべき場面ではボールを持ち過ぎないことは重要ですよね。
つまり、プレーの判断を磨くことが重要だと思います。
まとめ
長々と語ってしまいましたが、以上の話をまとめると
・チームの戦術や、ポジション・役割の変化に応じて、パケタに求められるプレー内容も変化
・それにより、「ファイナルサードでのプレー精度」や「全体的なプレーの判断・テンポ」といった課題が露呈
こんなところでしょうか。
おわりに
今回は、パケタ苦戦の原因を僕なりに考えさせていただきました。
そんな当記事の最後に強調したいのは、彼が未だ22歳の若者であり、セリエAに挑戦してわずかに約1年しか経っていないということです。
ゴール前のスペースの無さ・守備陣の堅さに関しては今なおトップクラスのリーグだと僕は思っていますし、彼がファイナルサードで思うようなプレーがまだ出来ないというのは十分に想定の範囲内です。
そもそも、昨季のセンセーショナルな活躍を予想できた人は決して多くはないでしょうし、移籍当初の期待値を考えれば想像以上に早いペースで順応できていると思います。
現在は壁にぶち当たっているように思われますが、22歳という年齢でこうした細かいテクニックやインテリジェンスを磨く必要性に迫られるというのはむしろ良いことですし、彼の持っているであろう潜在能力を考えれば決して乗り越えられない壁ではないはずです。
僕は心からパケタの成長を願っていますし、だからこそここまで長々と書かせていただきました。
年内最後となるアタランタ戦は、累積警告により欠場が確定しているため、次にパケタのプレーが見られるのは来年になります。
2020年はパケタの成長にも大いに期待していきたいですね!
長くなりましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。