ミラン新監督、ピオリの戦術的特徴と実績について
ジャンパオロの後任として、ミランの新監督に就任したステファノ・ピオリ。
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— AC Milan (@acmilan) 2019年10月9日
この後任人事には否定的なミラニスタの方が多くいる一方で、中には「そもそもどんな監督なのかよくわからない」という人も少なくないのではないかと。
そこで今回は、ピオリがどのような監督かについて、主に実績面と戦術面の双方から見ていこうと思います。
まずは彼の指導歴を、2010年から振り返っていこうかなと(指導者としてのトップチームデビューは2003年から)
キエーヴォ 2010年6月~2011年6月
パレルモ 2011年6月~2011年8月
ボローニャ 2011年10月~2014年1月
ラツィオ 2014年1月~2016年4月
インテル 2016年11月~2017年5月
フィオレンティーナ 2017年6月~2019年4月
様々なセリエAのクラブを率いています。
ちなみに僕が初めて彼という人物をはっきりと認識したのは2011-12シーズンのボローニャ時代からです。
こうした指導歴の中で特筆すべき実績といえば、何といっても14-15シーズンにラツィオを3位に導いてCL(プレーオフ)権を獲得した点ですね。なお、このシーズンはコッパ・イタリアでも準優勝を果たしています。
強豪との相性はあまり良くありませんでしたが、攻守にアグレッシブなサッカーを展開して見事なシーズンを過ごしました。
後はデ・ブール監督の後任として途中就任したインテルでも見事にチームを立て直し、7連勝を達成するなどしました(終盤に大失速して解任されてしまったのですが…。)
○戦術
続いてピオリの戦術的特徴についてですが、そもそも彼は率いる選手の特性に応じて柔軟に組織を作り上げますし、フォーメーション変更もざらに行います。
なので一概に言うことはできないのですが、基本的に多くのチームで共通する特徴としては「ハイラインハイプレス」、「縦への速い攻撃」、「サイド突破」、「エリア内に多くの人数をかける」、「状況に応じたシステム変更」などが挙げられます。
1つずつ見ていきますが、彼は何よりも攻守においてアグレッシブな姿勢を重要視するため、まず守備はアグレッシブに前からプレスをかけていくのが基本で、マンツーマン気味に徹底的に相手を追い込みます。
で、上手くボールを奪えたときは素早くショートパスで繋いで流動的なショートカウンターで沈めるという形が理想。
というわけで、まず何よりも選手たちに運動量が要求されます。
続いて、攻撃(ポゼッション)時についてもスピードを重視した攻めは変わりませんし、相手がハイプレスで来るなら(狙いを付けた)ロングボールでのプレス回避も厭いません。
仮に相手にボールが渡っても、前述の通りハイプレスで奪いにかかって二次攻撃に繋げようということなのでしょう。それに自陣深くで奪われるリスクを背負うよりもいいだろ的な感じですね。
ポゼッションで崩す場合は、基本的にはサイドに3、4人が集まり、三角形ないしダイヤモンドの形を形成して素早くパスを繋ぎ、ボールを持ち運んでいくというのが一つのパターン。
例えばフィオレンティーナ時代では、攻撃時には3-4-3に変更して、サイドのCBと片方のボランチ、加えてWBとウイングの4人がサイドでダイヤモンドの形を作ってボールを素早く回す、みたいな感じですね。
後は裏抜けのパスとか、中盤がサイドに流れてパスを引き出すとか、試合状況や対戦相手のシステムに応じて様々です、ただ、「縦に速く」というのは基本でしょうね。
で、相手を上手く押し込んだ後は、中盤の選手や逆サイドのWGも積極的にエリア内ないしバイタルエリアに侵入し、クロスに備える形が良く見られます。
多分これもピオリのこだわりであって、「人数をエリア内外に多く割いて得点の確率を上げよう」というシンプルながら合理的な考えに基づくものなのでしょう。
インテル、フィオレンティーナ時代もこんな感じでしたが、特にこの形が顕著だったのがラツィオ(3位を獲った14ー15シーズン)時代かなと。
中盤のマウリやパローロ、サイドのカンドレーバやF・アンデルソンがゴールを量産したわけですが(ざっと調べたところ、パローロ、カンドレーバ、アンデルソンはリーグ戦それぞれ10ゴールで、マウリは9ゴール。ちなみにトップはクローゼの13ゴール)、それも彼らの能力以上に上記の戦術的要求に依る所が大きかったでしょうしね。
また、ピオリは試合毎に割と選手の配置やシステムを変える人物でもあります。
対戦相手のシステム・戦術や試合展開によって柔軟に自チームのシステムを変える点は如何にも戦術家という感じですし、僕が個人的に彼を気に入っているのもこの点が大きいです(ボローニャ時代に比べ柔軟性はなくなった印象ですし、結構自滅したりもするのですが。笑)。
最後に、ピオリとジャンパオロの一番の違いの一つとして「選手に与える裁量の余地」が挙げられるかなと。
ジャンパオロは選手に厳格なポジショニングやシンプルなプレーを要求するため、ミランでは早々にパケタと確執を生じさせるなどしていました。
その点ピオリのチームはドリブルも結構使いますし、ポジションも流動的。特に、攻撃の中心に据えた選手にはかなりの自由を与えるので(ヴィオラではキエーザやベナッシ、ラツィオではマウリ、ボローニャではクリスタルドなど)、ジャンパオロの時よりも選手たちは遥かに息苦しさを感じることなくプレーできると思います。
○弱点
最後のメイントピックとして、僕の思うピオリの弱点について。
まず彼の指導歴を見てみると、各クラブでの就任期間の短さが目立ちます。
これまでも大抵のクラブで2シーズンは持たず、シーズン終盤に解任(ないし辞任)されていますし、その理由のほとんどは成績不振によるものです。
つまり、継続性に課題があるのかなと。
その理由として考えられるのは、やはり何といっても戦術に起因するものかなと。
例えばピオリのチームは先述の通り、基本的にマンツーマン志向の強いハイラインハイプレスのチームですから運動量が求められますし、誰かが守備を怠ればそこを起点に一気に攻め込まれます。
ですからシーズン終盤になると選手たちのコンディションや集中力が低下し、上記のような守備戦術が上手く機能しなくなるのかなと(彼がフィオレンティーナを率いていた時の最後のミラン戦も、プレスが機能していなくて大分苦戦していましたしね。まぁその相手にミランは負けたのですが。笑)。
また、攻撃時は前線に人数をかけますから、上記のような状態に陥るとカウンターにも非常に弱くなります。
更に、ポジジョンも比較的流動的なので、選手たちの動きが少なくなるとバラバラで無意味に無秩序な陣形となって攻撃が全く機能しなくなります。
つまりまとめると、終盤にコンディションが(場合によってはモチベーションも)低下し運動量が少なくなることによって戦術的に攻守両方が機能しなくなり、結果が出なくなって解任の憂き目に遭う傾向が強いのかなと。
まぁしかし、これまでの解任に関しては同情すべき点もあったとは思うんですけどね。
例えばボローニャ時代は怪我人が続出した上、そもそも戦力的にも厳しい状況でしたし(チームはピオリを解任して新監督を据えるも、その年あえなく降格)、ラツィオ時代2年目は守備の要であったデ・フライが長期離脱で1シーズンを棒に振りましたし、フィオレンティーナ時代は就任したシーズンに主力の大量放出があった中、若手を成長させつつ上手くやり繰りしていましたし、戦力相応の結果は残していたと思いますしね。
○おわりに
僕はピオリがかなり好きなので贔屓目に見ている部分もありますが、少なくとも「結果を出す」という点においては遥かにジャンパオロよりも優秀だと思うので、今回の監督交代自体は決して間違っていなかったかなと。
長期的に任せるとなると確かに不安はありますが、一方ですぐにチームを上昇させる術を持っている監督なので、現状のチームが目下求める監督像とも一致しますしね。
一番の問題は、間近に控えるレッチェ、ローマ、SPAL、ラツィオ、ユヴェントス、ナポリという強豪揃いの10~11月を上手く乗り切れるかという点です
ここを良い成績で終えられればチームの雰囲気はグッと向上しますし、最高の精神状態で日々のトレーニングや今後の試合に臨むことができるでしょうが、真逆の成績・結果になる可能性も十分に考えられますからね。
新監督就任早々に連敗街道まっしぐらなんて状況になったら目も当てられません。
そして、「シーズン終盤までコンディションが維持できるか」、それと「メイン戦術が機能しなくなった際にプランBを用意できているか」という点も重要です。
途中就任なので難しい状況ではありますが、これまでもその経験はありますし、なんとかそうした経験をフル活用して頑張って欲しい所です。
まずは次節のレッチェ戦。新生ピオリ・ミランのスタートに注目です。
Forza Pioli!!
長くなりましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。