フランチェスコ・グイドリンとは何者か ~偉大な実績とその戦術的特徴~
ガットゥーゾ監督の去就が騒がれ始めてしばらく経ちましたが、メディアはその後任候補として様々な名を挙げています。
ユヴェントス、チェルシー、イタリア代表などを率いた経験を持つコンテや、元アーセナルのベンゲル、ミランOBにしてかつては日本行きも噂されたドナドーニなどなど…。
その中でも、個人的に最も注目しているのがフランチェスコ・グイドリンです。
Francesco Guidolin Disiapkan Jadi Pengganti Gennaro Gattuso https://t.co/W5934iC40E pic.twitter.com/0NPws4SP4l
— Ernyning (@ernyning) 2018年12月24日
最近セリエAを見始めた方や、セリエA自体にあまり興味のない方からすれば「グイドリンって誰?」「プレミアのスウォンジーですぐに解任された人」などといったポジティブではない印象を持たれているかもしれません。
しかし、戦術家としての能力と育成の手腕に関しては紛れもなく本物です。断言します。
今回は、そんなグイドリンの指揮していた当時のウディネーゼの成績・試合などを分析することを通じて、彼の凄さや戦術的特徴について明らかにしていきたいと思います。最後に、ミラン監督就任の是非について自身の見解を表明します。
ちなみに記事の執筆に至った理由は主に以下の3点です。
・ミランの監督に就任する可能性があるから
・その偉大な実績や実力に比べて知名度が低いと思ったから
・個人的に大好きな監督だから(これが最も重要です!笑)
彼という人物を語るにはあまりに不十分ながら、彼の凄さを明らかにする上では十分なデータがあります。
それが、ウディネーゼの過去のリーグ戦成績です。
09-10 15位
10-11 4位↓グイドリン就任
11-12 3位
12-13 5位
13-14 13位
14-15 16位↓グイドリン退任
15-16 17位
16-17 13位
17-18 14位
グイドリンが監督を務めた4シーズン(10~14)とその前後であまりに大きな差があることがわかります。
確かに、最終シーズンこそチームの核であるディ・ナターレの衰えや移籍した主力の穴埋めに苦戦したため好成績を残すことが出来ませんでしたが、それまでの3シーズンはクラブ規模や戦力を考慮すれば望外の結果と言えるでしょう。
特に最初の2シーズンはCL権まで獲得していますからね(予選プレーオフで敗退したため、惜しくもCL本戦に進むことはできませんでしたが)。
21世紀に突入してからはユヴェントス、インテル、ミラン、ローマ、ラツィオ、ナポリに独占されていた(もとい現在もされている)トップ3の座を唯一奪ったのがこのグイドリン・ウディネーゼです。
〇ウディネーゼでの偉大な実績②選手育成
選手育成が非常に上手であるというのもグイドリンの特徴であり、彼の本当に凄いところです。

これは10-11シーズンのウディネーゼの主なスタメンとそのシステム(※あくまで1例)ですが、もうこれを見ただけでお気づきの方もおられるかと思います。
そう、メンバーが凄いんです。詳細は省きますが、彼らの多くが数年後に上位クラブへステップアップを果たしています。
もちろん彼らはウディネーゼに来た当初から凄かったわけではなく、ウディネーゼ(グイドリンの下)で成長を遂げた選手がほとんどです。というか加入当時はほとんどが無名選手でした。
ちなみにこのシーズンの終わりにはサパタ、インレル、サンチェスという主力3人が抜けましたが、実力未知数であった新加入選手(ダニーロなど)が穴を埋めた翌シーズンは更に順位を1つ上げる(3位)サプライズを演出。
グイドリンの育成能力(及び組織構築能力)、そしてウディネーゼの才能発掘能力にはただただ驚かされましたね…。
〇グイドリンの戦術について
いよいよ、本題であるグイドリンの戦術の話題に移ります。
まずはグイドリン・ウディネーゼにおいておおむね見られたプレー原則(※攻守におけるチームの指針・超基本的な約束事)について説明します。
攻撃のプレー原則は「縦に速く、素早くフィニッシュに繋げること」、そして守備のプレー原則は「中央エリア、特にバイタルエリアでは絶対に相手を自由にさせないこと」であると言えるでしょうね。
続いて、こういったプレー原則を実現するための手法すなわち戦術について解説…といきたいところですが、最初に断っておきますとグイドリンが固執している戦術はありません。
「どういうこと?」と思うかもしれませんが、これがグイドリンのグイドリンたる所以です。
すなわちグイドリンの戦術の最大の特徴は、ほぼ常に「対戦相手に応じて攻撃・守備の戦術が明確に変わる」ことです。
試合前に対戦チームの長所・短所を徹底的に分析し、相手の「長所を潰す」守備と「短所を突く」攻撃を練り上げて試合に臨みます。
ですから相手の特徴に応じてシステムも頻繁に変わりますし、試合へのアプローチも様々です。
・自陣深くに引いて守ることもあれば、ハイプレスを仕掛けたりすることもある(ハイプレスはかなり稀でしたが)。
・純粋なゾーンディフェンスで守ることもあれば、相手キープレーヤーをマンマークで徹底的に封じるなどして守ることもある(WBを相手SBにマンツーマンで張り付け、ビルドアップに参加させないなど)。
・サイドから執拗にクロスを上げることもあれば、素早く相手DFラインの裏へとロングボールを蹴り込むこともある(蹴り込む位置も試合毎に変わる)。
以上のように、試合毎に(場合によっては1試合の中でも)様々な戦術を「明確に」使い分け、必要とあらば試合中にシステムをも変える。そしてその複雑な指示に忠実に応えるチームの組織力の高さと、それを作り上げたグイドリンの手腕。
これこそがグイドリンと彼のウディネーゼの最大の魅力であり、純粋な戦力から予想される成績を大幅に超えた結果を残した1番の理由でしょうね。
〇具体例 ~VSミランの場合~
以上の説明だけではピンと来ない人も多いと思うので、実際に当時(10-11シーズン)のスクデット覇者ミランに対し、グイドリンがどのような戦術を用いて臨んだのかを具体的に見ていきたいと思います。
当時のミランのシステムは4-3-1-2。さらに当時のミランにはイブラヒモビッチを筆頭に世界最高の選手たちがいましたので戦力差は明白でした(この試合ではネスタやピルロなど欠場者も多数いましたが。)
そんな彼らに対し、グイドリン率いるウディネーゼはどう対抗したのか。箇条書きにすると
・システムは3-5-2
・中央突破を図る傾向の強いミランに対し、まず中央をガッチガチに固めて中央エリアで出来る限りプレーさせず、サイドへボールと人を誘導。
・ミランのシステム上、サイドの幅を使うのは主にSBの役割。ゆえにサイドを「わざと」使わせることでミランのSB(主に左SBのアントニーニ)のオーバーラップを誘発する。
・ボールを奪ったら即座にカウンターへと移行。ミランはSBが上がってしまっているためもろに鋭いカウンターを浴びる場面が頻発。
・攻撃ではクロスを中心に攻めることで、相手CBのボネーラの抱える1対1と空中戦の弱さを突く。
・これに対しミランがサイドをケアすれば、今度は空きがちとなったバイタルエリアからインレルが強烈なミドルシュートで襲い掛かる。
…といった感じですね。
結局、この試合のスコアは4-4。スコアだけ見ると攻撃は良くても本当に守備が機能していたのか怪しいと感じるかもしれませんが、ミランのゴールはほとんどがイブラヒモビッチの破壊力、パトの決定力、カッサーノの創造力といういずれもトップクラスの個の力に大きく依存したものと言えました。
イブラとカッサーノの相性の良さは少なくとも僕の知る限り歴代最高レベルのものですし、ウディネーゼ(もといプロヴィンチャクラブ)がどれだけ見事な守備を披露してもゴリ押されてしまうレベルの個の力だったと思います。それに疲労もあったでしょう。
実際、カッサーノが投入されたのは69分で、その後78分から92分という終盤の時間帯に3ゴールが生まれましたしね。それまでのウディネーゼは攻守ともに本当に素晴らしい組織的なサッカーでした。
このトピックの最後に、上記の試合のデータを参照します(以下の画像はいずれもWhoScoredより引用。)

ミランの平均ポジションを見ますと、やはり左SBのアントニーニ(77)が高い位置を取っていることがわかります。

一方のウディネーゼですが、こちらはミランに比べ縦にも横にもコンパクトですし、しっかりと組織的に守っていた1つの証拠と言えるでしょうね。
またこの画像だと26番のパスクアーレがやや浮いていますが、おそらくウディネーゼ側右サイドにミランを誘い込んだ際に反対側でカウンターに備えていたことが原因だと思われます。
〇グイドリンの欠点
最後に。ここまで彼の素晴らしい部分のみに焦点を当てて紹介してきたわけですが、もちろん彼にも欠点は存在します。箇条書きにしますと
①組織の構築にかなりの時間がかかること
②相手にボールを持たされた時の打開力にやや欠けること
③上層部と何度か対立を起こしていること
④ ビッグクラブでの指揮経験がないこと
…といったところでしょうか。
それぞれについて解説もとい弁解をします(笑)
①について。最終的に4位に食い込んだ10-11シーズンですが、実は開幕から4連敗スタートだったんですよね。
もしビッグクラブでそんなことをすればメディアとサポーターからの大バッシングは間違いなく、最悪の場合は開幕早々の解任すら起こりえます。
途中就任から何度かチームを立て直している実績があることからも、時間がなければどうしようもないというわけではないと思います。
しかし彼の本領は時間がたっぷりあってこそ発揮されるでしょうし、十分な猶予を保証するべきでしょう。
その分、組織が完成した際の威力は凄まじいですからね。
②について。ビッグクラブではボールを持たされる試合が多いですから、この欠点はビッグクラブを指揮する上では見過ごせません。
まぁしかしプロヴィンチャクラブとは戦力の質も量も違いますし、戦力さえあれば改善する可能性はあると個人的には思います。
③について。何度か上層部との確執により退任ないし解任されたことがあるのですが、これは主にパレルモの名物会長であるザンパリーニ氏との間で起こったことというのは考慮すべきでしょうね(笑)
④について。かつてのインタビューで語っていましたが、年齢の問題もありビッグクラブでの指揮にあまり関心がないそうですね。
確かにプレッシャーやしがらみの少ないプロヴィンチャクラブで自身の辣腕を振るうのが性に合っているのかもしれませんが…。
彼の実力であれば、もう少し上のクラブでも十分に通用すると思うんですけどね。
〇終わりに
以上、ここまで当時のウディネーゼの成績・試合の分析を通じてグイドリンの凄さや戦術的特徴、及びちょっとした欠点を見てきました。
これでも精選したつもりなのですが…とんでもない文量になってしまいました(笑)
それだけ僕という男がグイドリンを崇拝しているのだと好意的(?)に受け取っていただけたら幸いです。
正直のところミランに来る可能性は低そうですし、仮に来てくれたとしても上記に挙げた欠点を考えると成功することはかなり難しいとは思います。
ですが大好きなクラブで大好きな監督が指揮を執ることを想像したらやはりとてつもなく嬉しくなりますし、もし実現したら狂喜乱舞するでしょうね(笑)
ものすごーーーーく長くなってしまいましたが(間違いなく当ブログ史上最長記事)、最後まで読んでいただき本当にありがとうございました!
ちなみにもしも、「自分もグイドリン大好き!」「グイドリン良い監督っぽいじゃん」などという好意的な感想をお持ちになっている方がいましたら、コメントないし↓の「拍手」で意思表示していただけると大のグイドリンファンとして非常に嬉しいです。
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