ガットゥーゾ・ミランの戦術的な特徴 【後編】
このシリーズも最終回です。ラストの今回は予告通り、ミランの守備における問題点を列挙していきたいと思います。
前回までの記事を未読の方は、以下のリンク先より閲覧していただけると幸いです。
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ガットゥーゾ・ミランの戦術的な特徴【導入】
ガットゥーゾ・ミランの戦術的な特徴【前編】
ガットゥーゾ・ミランの戦術的な特徴【中編】
まずガットゥーゾ・ミランの守備を端的に評価すると「献身的でアグレッシブ。しかし時に無秩序」と言えるかと思います。
チーム全体がコンパクトかつ集中している場合は持ち前のインテンシティの高さを活かして相手から自由を奪う一方で、組織的に守れていないシーンも散見され、その場合は相手に好き放題ボールを回されてしまいました。
開幕から10試合連続失点(昨シーズンからの分を含めると16試合)という記録からも分かる通り、守備に関しては上手く機能していなかったというのがここまでの実情だと思います。
では、具体的にどこが悪かったのか。これから見ていきましょう。
〇アンカーの両脇のスペースの管理不足
【前編】でも語りましたが、ミランの守備戦術の1つに「両インサイドハーフがプレスに飛び出す」というものがあります。
これにより、トップのイグアインが積極的に動いて体力を消耗することなく相手のビルドアップを妨害できるというメリットがある一方、インサイドハーフが飛び出すことでアンカーの両脇のスペースが大きく空いてしまうというデメリットがありました。

残念ながら、このデメリットに対する明確な対応策をミランは持っていなかったように思われます。
片側のインサイドハーフだけが飛び出してもう一方はアンカーと横並びの関係になる4-4-2の形も時に見られましたが場当たり的で、明確な戦術として採用されたものではなかったかなと。
実際のところ、このアンカーの両脇のスペースを使われてチャンスを作り出されるというシーンが多くの試合で目立ちました。
中でもサッスオーロ、インテル、ベティスといった相手はこのスペースを徹底的に狙い、ゲームを完全に支配していましたね。

上図はベティス戦のマッチレポートで使用したのと同じものです。
ベティスの場合はこのようにしてインサイドハーフを釣り出し、それにより空いたスペースを使ってボールを前進させていました。
〇2ラインの連携不足
サンプドリア戦からミランは4-4-2をスタートシステムに採用し始めましたが、このシステムでは2ボランチが基本的にDFライン前で横並びに位置するため先述のような構造的な弱点は無くなりました。
一方で、付け焼刃なシステムだということもあってか、DFとMFの8人で構成される2ラインの連携不足が目立ちました。

これはウディネーゼ戦のマッチレポートにて使用した図です。ウディネーゼ戦は疲労からか、このようなシーンが特に見られました。
中でもこの2ライン間の連係不足が致命的となってしまったのが、サンプドリア戦における2失点目に至るシーンです。

このシーンではハーフウェイライン付近でボールを持っている相手に対し、中盤は前に出てボールを奪いに行く意思表示を見せる一方で、DFラインはかなり下がってしまっています。
その結果として2ライン間に広大なスペースが生じてしまい、そのスペースでボールを受けた選手(サポナーラ)のアシストにより2失点目を喫してしまいました。
さらに言うと、この場面では中盤の選手のポジショニングも悪い気がします。2ボランチのビリアとケシエの距離が近すぎるかと。
これほどの悪いシーンはそう何度も頻発したわけではありませんでしたが、2ライン間のスペースを不必要に利用されてしまうという場面は多くの試合で見られましたね。
〇クロス対応とパスミス
クロス対応の悪さや不用意なパスミスにより決定機を作られる場面というのもありました。
インテル戦やキエーボ戦における失点がその典型ですね。
しかしこれらは戦術上の問題というよりは、個人の判断・技術ミスによるものだと言って差し支えないと思います。
そういうわけですので詳細は省きます。ただこの点に関する戦術上の課題を強いて挙げるとすれば、クロスを簡単に上げさせてしまうシーンが散見されることでしょうか。
特にスソがウイングバックやサイドハーフとして起用された場合にこの傾向が顕著になるので、そこは修正して欲しいですかね。
…以上が、僕の考えるミランの守備における戦術上の問題点でした。
■おわりに
これまで4回に分けて、ここまでのミランの戦術的特徴を振り返ってきました。
最後にミランの攻守に関する僕の見解と今後の展望をまとめます。
まず攻撃に関しては、ファイナルサードでの相手DFを崩す局面における戦術は比較的機能していると思います。
スソに多くを依存してはいるものの、彼とイグアイン、そしてインサイドハーフが絡む攻撃にはかなりの破壊力がありますね。
その証拠に、今シーズンのミランはインテル戦、ユヴェントス戦を除く公式戦の全てで得点を挙げています。
今後チャルハノールが復調を果たせば更に攻撃力が高まるでしょう。楽しみですね。
攻撃に関する課題としては、やはりビルドアップの局面における安定感の欠如が挙げられます。
ここを修正できれば攻撃だけではなく守備面においてもプラスになりますから、今後の改善に期待したいです。
守備に関しては、今回詳述した通りまだまだ多くの課題が残されています。
セリエAで安定して勝利を積み重ねるには堅守が必要不可欠です。出来る限り早く修正してほしいところです。
しかし今のミランは異常ともいえる怪我人の多さに苦しんでおり、これによりシステムすら自由に決められない位に悲惨な状況となっています。
この状況で内容まで求めるのは流石に酷ですから、まずはどんな酷い内容でも良いので結果だけは残してもらいたいです。
そして、冬の新加入選手や怪我人が復帰する頃には上記の課題をクリアしてもらい、盤石で安定感抜群なミランを見せてほしいと思います。
リーグ中盤戦以降のミランにも注目していきましょう!
随分と長くなりましたが、このシリーズを最後まで読んでいただき本当にありがとうございました。
チーム全体がコンパクトかつ集中している場合は持ち前のインテンシティの高さを活かして相手から自由を奪う一方で、組織的に守れていないシーンも散見され、その場合は相手に好き放題ボールを回されてしまいました。
開幕から10試合連続失点(昨シーズンからの分を含めると16試合)という記録からも分かる通り、守備に関しては上手く機能していなかったというのがここまでの実情だと思います。
では、具体的にどこが悪かったのか。これから見ていきましょう。
〇アンカーの両脇のスペースの管理不足
【前編】でも語りましたが、ミランの守備戦術の1つに「両インサイドハーフがプレスに飛び出す」というものがあります。
これにより、トップのイグアインが積極的に動いて体力を消耗することなく相手のビルドアップを妨害できるというメリットがある一方、インサイドハーフが飛び出すことでアンカーの両脇のスペースが大きく空いてしまうというデメリットがありました。

残念ながら、このデメリットに対する明確な対応策をミランは持っていなかったように思われます。
片側のインサイドハーフだけが飛び出してもう一方はアンカーと横並びの関係になる4-4-2の形も時に見られましたが場当たり的で、明確な戦術として採用されたものではなかったかなと。
実際のところ、このアンカーの両脇のスペースを使われてチャンスを作り出されるというシーンが多くの試合で目立ちました。
中でもサッスオーロ、インテル、ベティスといった相手はこのスペースを徹底的に狙い、ゲームを完全に支配していましたね。

上図はベティス戦のマッチレポートで使用したのと同じものです。
ベティスの場合はこのようにしてインサイドハーフを釣り出し、それにより空いたスペースを使ってボールを前進させていました。
〇2ラインの連携不足
サンプドリア戦からミランは4-4-2をスタートシステムに採用し始めましたが、このシステムでは2ボランチが基本的にDFライン前で横並びに位置するため先述のような構造的な弱点は無くなりました。
一方で、付け焼刃なシステムだということもあってか、DFとMFの8人で構成される2ラインの連携不足が目立ちました。

これはウディネーゼ戦のマッチレポートにて使用した図です。ウディネーゼ戦は疲労からか、このようなシーンが特に見られました。
中でもこの2ライン間の連係不足が致命的となってしまったのが、サンプドリア戦における2失点目に至るシーンです。

このシーンではハーフウェイライン付近でボールを持っている相手に対し、中盤は前に出てボールを奪いに行く意思表示を見せる一方で、DFラインはかなり下がってしまっています。
その結果として2ライン間に広大なスペースが生じてしまい、そのスペースでボールを受けた選手(サポナーラ)のアシストにより2失点目を喫してしまいました。
さらに言うと、この場面では中盤の選手のポジショニングも悪い気がします。2ボランチのビリアとケシエの距離が近すぎるかと。
これほどの悪いシーンはそう何度も頻発したわけではありませんでしたが、2ライン間のスペースを不必要に利用されてしまうという場面は多くの試合で見られましたね。
〇クロス対応とパスミス
クロス対応の悪さや不用意なパスミスにより決定機を作られる場面というのもありました。
インテル戦やキエーボ戦における失点がその典型ですね。
しかしこれらは戦術上の問題というよりは、個人の判断・技術ミスによるものだと言って差し支えないと思います。
そういうわけですので詳細は省きます。ただこの点に関する戦術上の課題を強いて挙げるとすれば、クロスを簡単に上げさせてしまうシーンが散見されることでしょうか。
特にスソがウイングバックやサイドハーフとして起用された場合にこの傾向が顕著になるので、そこは修正して欲しいですかね。
…以上が、僕の考えるミランの守備における戦術上の問題点でした。
■おわりに
これまで4回に分けて、ここまでのミランの戦術的特徴を振り返ってきました。
最後にミランの攻守に関する僕の見解と今後の展望をまとめます。
まず攻撃に関しては、ファイナルサードでの相手DFを崩す局面における戦術は比較的機能していると思います。
スソに多くを依存してはいるものの、彼とイグアイン、そしてインサイドハーフが絡む攻撃にはかなりの破壊力がありますね。
その証拠に、今シーズンのミランはインテル戦、ユヴェントス戦を除く公式戦の全てで得点を挙げています。
今後チャルハノールが復調を果たせば更に攻撃力が高まるでしょう。楽しみですね。
攻撃に関する課題としては、やはりビルドアップの局面における安定感の欠如が挙げられます。
ここを修正できれば攻撃だけではなく守備面においてもプラスになりますから、今後の改善に期待したいです。
守備に関しては、今回詳述した通りまだまだ多くの課題が残されています。
セリエAで安定して勝利を積み重ねるには堅守が必要不可欠です。出来る限り早く修正してほしいところです。
しかし今のミランは異常ともいえる怪我人の多さに苦しんでおり、これによりシステムすら自由に決められない位に悲惨な状況となっています。
この状況で内容まで求めるのは流石に酷ですから、まずはどんな酷い内容でも良いので結果だけは残してもらいたいです。
そして、冬の新加入選手や怪我人が復帰する頃には上記の課題をクリアしてもらい、盤石で安定感抜群なミランを見せてほしいと思います。
リーグ中盤戦以降のミランにも注目していきましょう!
随分と長くなりましたが、このシリーズを最後まで読んでいただき本当にありがとうございました。