鎌田大地の特徴・プレースタイルについて~ミランが評価したインテリジェンス~

チュクウェゼの獲得が決定的となったことで、ミランが鎌田大地を獲得する可能性は完全に消滅しそうです。

そんな状況ではありますが、今回は鎌田の特徴やプレースタイルについて言及していきます。6月時点に9割がた書き終えていた長文記事であり、お蔵入りするには忍びなかったのでご了承下さい。


インテリジェンス


鎌田の特徴として第一に挙げられるのは「インテリジェンス」です。

これは後述するプレースタイルに深く関係するものですが、インテリジェンスに優れた鎌田はチーム事情や試合状況に応じて様々な動きを見せることが出来ます。

また、ここでいうインテリジェンスを構成する要素の一つが「判断スピード」であり、素早く状況を認識して次のプレーに移行する能力が鎌田には備わっています。よって、物理的なスピードはそこまで速くないものの、トランジション時などのスピーディーな試合展開でも活きる、と。これは現在のミランで活躍するために極めて重要なスキルだと考えられます。

なお、ミランの指揮官であるピオリは6月初めに鎌田について問われた際に「鎌田が知的な選手だということは知っている」と発言し、そのインテリジェンスを評価していることを明かしていました。


得点力・アシスト力


鎌田の2つ目の特徴として、「得点力・アシスト力」が挙げられます。

17-18シーズンにフランクフルトに加入した鎌田は、翌18-19シーズンにシントトロイデンにレンタル移籍して36試合16ゴール・9アシストを記録。ここで得点力・アシスト力を開花させました。

自信を付けた鎌田はフランクフルトに復帰して以降もコンスタントに結果を残すことに成功。過去4シーズンにおける彼の得点数・アシスト数は以下の通りです。

・19-20シーズン
48試合 10ゴール 9アシスト

・20-21シーズン
34試合 5ゴール 13アシスト

・21-22シーズン
46試合 9ゴール 4アシスト

・22-23シーズン
47試合 16ゴール 7アシスト



スコアポイント(得点+アシスト)は1シーズン平均で約「18」。特に今シーズンは「20」を超える見事な活躍ぶりでした。

鎌田がこのように得点・アシストを量産できる理由については、先の「インテリジェンス」による側面と、「技術(テクニック)」による側面の両方が密接に関係しているのでしょう。

「状況に応じて適切なポジションを取り、優れた判断と技術によって正確なプレーを選択」。一言でまとめるならこのようにシンプルに表現できそうですが、これをハイレベルに実践できる選手は稀ですね。


頑丈さ


最後に、鎌田の特徴の3つ目として「頑丈さ」を挙げたいと思います。

フランクフルトは過去4シーズン中3シーズンで欧州カップ戦に参加したことで、レギュラーの鎌田もその分だけ出場数が増加していました(※先に掲載したシーズン毎の出場数を見ればその傾向は明らかです)。また、2020年からは日本代表にも定期的に招集されており、ここ数年かなりタフな日程をこなしてきています。

そんな中でも、鎌田は怪我による戦線離脱をほとんど経験することはありませんでした。


【22-23】鎌田大地_負傷歴
――参考1:鎌田の負傷履歴(『transfermarkt』)

連戦によりパフォーマンスが低下したり安定感を欠いたりする時期はあるものの、継続的にプレーし続けられる頑丈さは非常に魅力的です。ミランでも怪我なくプレーしてくれると嬉しいですね。


ポジショニングセンス


さて。ここからは鎌田のプレースタイルについて、実際のプレーを参照しつつ具体的に見ていきたいと思います。

まず注目すべきは鎌田の「巧みなポジション取り」です。

例えば相手による前からのプレッシングに対し、中盤の選手がしっかりとパスを引き出し、ボールを展開させられるかどうかという点はチームのプレス回避の質に大きな影響を与えます。特にミランの場合は、トップ下の選手がスペースを見出して後方からパスを引き出し、相手のプレスを回避すると同時に速攻の起点となる役割が強く求められるところです。

この点、鎌田はそうした役割を十分にこなし得る優れたポジショニング能力を持つという事で、一例を見ていきましょう。


【22-23】鎌田大地_プレースタイル分析1
――シーン1:第33節シャルケ戦の一場面。フランクフルトGKがボールを持ち、そこにシャルケの前線がプレッシャーをかける

フランクフルトのベースフォーメーションは「3-4-2-1」で、この試合の鎌田は「2」の一角で起用されました。
対するシャルケのベースフォーメーションは「4-2-3-1」。ただし守備(プレッシング)時は基本的に右サイドアタッカーが一列上がり、前線ラインを2枚で構成してプレッシャーをかけてきます。

このような両チームのセットアップにおいて、鎌田は主に相手両ボランチの背後(ライン間)でパスを引き出す役割を担い、プレス回避に貢献。その際には味方のダブルボランチやもう片方のシャドーと協力し、巧みなポジション取りによって当該タスクを遂行しようとします。


【22-23】鎌田大地_プレースタイル分析2
――「シーン1」の場面では、相手のMF(トップ下+ボランチ)3枚がフランクフルトのボランチ+シャドー(ゲッツェ)に付くことで、鎌田が中盤でフリーとなる。そこで鎌田は相手右サイドアタッカーが一列上がることで生じる右サイド側のスペースに移動し、味方左WBと数的優位を形成してプレス回避を図る


【22-23】鎌田大地_プレースタイル分析3
――シーン2:別の場面。シャルケが同様の形でハイプレスを仕掛けるが、フランクフルトは前方のゲッツェに縦パスを供給


【22-23】鎌田大地_プレースタイル分析4
――その後の場面。当該エリアでは相手のボランチ1枚に対しゲッツェと鎌田が数的優位を形成。そしてゲッツェからのパスを予期した鎌田が位置を微調整し、しっかりとパスを引き出した

一方、第34節のフライブルク戦ではベースフォーメーション「3-4-2-1」のボランチの一角として鎌田は先発しましたが、相方のボランチ(ソウ)と異なり積極的に高い位置を取ります。


【22-23】鎌田大地_プレースタイル分析5
――シーン3:フライブルク戦の一場面。ソウ(相方ボランチ)がアンカーポジションに入る一方、鎌田は両シャドーと同じ高さに移動して相手ライン間に侵入

対するフライブルクもベースフォーメーションが「3-4-2-1」という事で、基本となるセットアップは噛み合うことになります。そこで鎌田が高い位置を取ることで陣形の噛み合わせをずらし、自チームにとって有効なスペースを生み出すための主導的な役割を担っていく、と。


【22-23】鎌田大地_プレースタイル分析6
――シーン4:鎌田がライン間中央にポジションを取ることで、相手のダブルボランチを引き付ける。これによりCBから左シャドー(リンドストローム)へのパスコースが空き、そこへパスが通る


【22-23】鎌田大地_プレースタイル分析7
――フリーのリンドストロームが前を向き、良い形を作り出した

このように鎌田は、自身がボールを受けようとするだけでなく味方のパスコースを作り出すスペースメイクも起用に行える選手です。


パスによるチャンスメイク


それでは、巧みなポジション取りなどでパスを引き出した後のプレー(オンザボール)はどうか。

判断スピードが速く、優れたテクニックと視野を持っている鎌田は主に「素早いパスの選択によるチャンスメイク」を得意としています。

具体的に言うと、例えば「周囲の味方への落としのパス」です。先述の能力に秀でた鎌田は楔のパスの処理が上手く、スペースに走り込む周囲の味方に対して正確なパスを供給することが出来る、と。


【22-23】鎌田大地_プレースタイル分析8
――シーン5:味方ボランチからの楔を受けに下がる鎌田とゲッツェ(シャドー)。味方ボランチはここで縦パスを送り、自らは前方スペースに飛び出す


【22-23】鎌田大地_プレースタイル分析9
――その後の場面。鎌田がワンタッチで味方ボランチの前方にボールを流す


【22-23】鎌田大地_プレースタイル分析10
――ボランチが前向きでボールを持ち出し、チャンスシーンへと繋がった


【22-23】鎌田大地_プレースタイル分析11
――シーン6:別の場面。CBからの縦パスを収める鎌田。


【22-23】鎌田大地_プレースタイル分析12
――その後の場面。鎌田が味方シャドーのスペースへの走り込みに合わせ、その前方にパスを通す

また、パスレンジの広い鎌田は「ロングパス」による打開も可能です。


【22-23】鎌田大地_プレースタイル分析13
――シーン7:この位置でボールを奪った味方から鎌田にパスが通る。鎌田は素早く前方の状況を確認


【22-23】鎌田大地_プレースタイル分析14
――その後の場面。鎌田は左サイドに張るゲッツェに素早く展開し、1対1の状況を演出した

そして「スルーパス」。これもまた味方の動き出しに敏感に反応することで、相手守備組織の綻びを効果的に突くことが可能となります。


【22-23】鎌田大地_プレースタイル分析15
――シーン8:相手CBを引き連れながら楔のパスを受けに下がる鎌田。


【22-23】鎌田大地_プレースタイル分析16
――その後の場面。縦パスを引き出した鎌田は周囲の状況を読み、裏に抜け出す味方右WBへワンタッチスルーパス。その間、味方ボランチが鎌田に釣られた相手CBの背後のスペースへ飛び込む


【22-23】鎌田大地_プレースタイル分析17
――その後の場面。鎌田のスルーパスを受けた右WBからクロス。エリア内はフランクフルトが圧倒的に優位な状況であり、決定機が作り出された


【22-23】鎌田大地_プレースタイル分析18
――シーン9:別の場面。味方CFからの落としを受ける鎌田


【22-23】鎌田大地_プレースタイル分析19
――その後の場面。鋭く背後のスペースを狙う味方CFへワンタッチでスルーパスを供給した


いずれのシーンも鎌田の「素早い」パスの選択によってチャンスや良い形が生み出されています。こうしたプレースタイルは速攻や後述するポジティブトランジションにおいても活かされており、鎌田を優秀な選手たらしめる重要なポイントでしょうね。

一方、有効なパスコースがないときにはいったんボールキープすることでタメを作る動きを見せることもあります。そうして味方が良い位置に移動する時間を作りつつ、いざタイミングが来たら例によって正確なパスを送り込む、と。いずれにせよ球離れが良いため、味方の動きをしっかり活かせる機能的なプレーヤーといえますね。


【22-23】鎌田大地_プレースタイル分析20
――シーン10:トランジション時、自陣後方からサイドでパスを受ける鎌田。ここで鎌田はいったんボールをキープし、味方の上がりを待つ


【22-23】鎌田大地_プレースタイル分析21
――その後の場面。ボールをキープしながら敵の注意を引き付け、その間に中盤スペースに走り込んだ味方へパスを送った。


ドリブル・シュート


テクニック(ボールコントロール)に長けた鎌田は「ドリブルによるキープ」も巧みで、相手の重心の逆を突いたり相手の足の届かない位置にボールを置いたりして上手くボールを持ち出すことが可能です。
また、物理的なスピードがあまり速くないこともありドリブラーとしての印象は薄いですが、主に左サイド側から切り込んでシュートに持ち込む一連のプレーは1つの武器だと考えられますね。



ちなみに、このゴールのように「ミドルシュート」も鎌田の強みといえ、彼は昨季のブンデスリーガにおいて「PA外からのシュート」により4ゴールを記録。これはリーグ最多タイの数字だそうです。


守備・トランジション


最後に守備とトランジションについて見ていきます。

フランクフルトのアタッカーは流動性が高めで、守備への移行時に所定の位置から離れていることが珍しくありません。
そこで求められるのは自身と味方の位置を把握し、所定の場所以外でも守備の一員として組織的に振る舞える能力になりますが、この点について鎌田は問題なく対応しているように見受けられます。


【22-23】鎌田大地_プレースタイル分析22
――シーン11:ここでは流れの中で鎌田が1トップの位置に入り、相手CBにファーストプレスをかける


【22-23】鎌田大地_プレースタイル分析23
――その後の場面。味方がサイドでプレッシャーを強める中、鎌田は相手CBへのバックパスを予想してしっかりと距離を詰める


【22-23】鎌田大地_プレースタイル分析24
――その後の場面。余裕のない相手CBにロングボールを蹴らせ、フランクフルトがそのボールを回収した

複数ポジションでのプレー経験があることで、上記のような守備時の柔軟性やポジショニングの意識というのはしっかり根付いているようです。

一方、プレス強度や守備範囲に関してはやや疑問の余地があり、果たしてピオリの要求水準を満たしているかは断定できません。個人的な印象だとミランのトップ下としての守備は水準を満たしていますがボランチとしてはやや怪しく、その点でもミランではトップ下での起用が主になると予想しています。


守備に続くトランジションは、先述した鎌田の素早いプレー判断が活きる重要な局面です。


【22-23】鎌田大地_プレースタイル分析25
――シーン:自陣右サイドでボールを奪うフランクフルト。それに合わせて鎌田も素早く移動を開始


【22-23】鎌田大地_プレースタイル分析26
――その後の場面。鎌田はライン間に潜り込み、味方から縦パスを引き出す


【22-23】鎌田大地_プレースタイル分析27
――その後の場面。間髪入れずに前方の味方CFにパスを送り、1対1の状況を演出した

鎌田が中継役となることで、前方のウインガーや機動力のあるCFに良い形でボールを供給する流れを確立しやすくなります。この点についてミランでは、エースであるレオンと良い関係を築けそうな予感がしますね。


おわりに
~ミラン移籍破断の理由~


ここまでを書き、後は正式発表を待つのみ…でしたが結果はご存知の通り、鎌田のミラン移籍は実現しませんでした。

ミラン移籍が破断した理由については、様々なメディアで報じられているのを見るに複合的なものです。手続き上の遅れにより移籍交渉を完了させられなかったという形式的な問題に加え、実質的側面としてはミランの強化体制の変更に伴う補強方針の転換により、鎌田獲得の優先順位が下がった点。更にはEU圏外枠の関係上、優先順位の下がったEU外選手である鎌田を獲得する余地はほとんど残されていませんでした。

この記事は鎌田の長所に焦点を当てた内容となっていますが、かといって完全無欠な選手というわけではないですし、新体制ミランが個の打開力やフィジカルをより重要視するようになった以上は鎌田のプライオリティが下がるのも致し方ありません。

個人的には鎌田の加入に好意的だっただけに破断は残念ではありますが、こうなってしまったからには鎌田にとってより良い新天地が見つかると良いですね。

0Comments