ルーベン・ロフタス=チークの特徴・プレースタイルについて~魅力的な能力といくつかの懸念~

先日、ルーベン・ロフタス=チークのミラン移籍が正式発表されました。



契約期間は「4年」で、背番号は「8」。また報道によると移籍金は「1600万ユーロ+ボーナス400万ユーロ」、年俸は「400万ユーロ」と見られています。

今回はそんなロフタスチークについて、その基本情報や特徴・プレースタイルを確認していきましょう。


基本情報


ロフタスチークは年齢27歳、身長191cmのイングランド人プレーヤーです。

8歳で入団したチェルシーのアカデミーにて順調に成長を続け、2014-15シーズンにトップチームデビューを果たします。その後17-18シーズンにクリスタルパレスにレンタル移籍して飛躍のきっかけを掴むと、翌18-19シーズンに復帰した際にはサッリ監督の下でキャリア最高の成績を記録。プレミアリーグとELの計35試合で10ゴール・5アシストを記録しました。
しかしながら、当シーズン終了直前にアキレス腱を断裂。凡そ9カ月に及ぶ長期離脱を余儀なくされ、また復帰直後にはコロナ禍によるシーズン中断にも見舞われた結果、トップチームでの公式戦復帰には1年以上を要しました。

この大怪我はロフタスチークのパフォーマンスに大きな影響を与えたようで、現在もまだその影響を完全に払拭できたようには見受けられません。今回のミラン移籍が完全復活を果たす契機になるのか注目されるところです。

なお、ロフタスチークの風評の1つに「怪我をしやすい」というものがありますが、実際のところはどうなのか。彼の負傷履歴は以下の通りになっています。

【22-23】ロフタスチーク_これまでの負傷履歴
――参考1(『transfermarkt』)

決して頑丈というわけではないものの、近年は離脱回数・時期ともに減少傾向にあるようです。そのため適度な休息を与えつつ、負荷をかけ過ぎないよう気を付ければ継続的な出場が見込めるかもしれません。


特徴・プレースタイル



続いてはロフタスチークの特徴・プレースタイルについて見ていきます。


1.ボール運び



ロフタスチークの強みとするプレーとして真っ先に挙げられるのが「ドリブルによる前進」です。

強力なフィジカルと優れたボールコントロール能力を兼備した彼は、相手のプレッシャーをいなしながらボールを前進させていく事が出来ます。


【22-23】ロフタスチーク_プレースタイル分析1
――シーン1:ニューカッスル戦の一場面。後方からの浮き球のパスをコントロールし、前を向くロフタスチーク(RLC)


【22-23】ロフタスチーク_プレースタイル分析2
――その後の場面。相手MFがプレッシャーをかけに来るが、フィジカルを活かしてしっかりとボールをキープ


【22-23】ロフタスチーク_プレースタイル分析3
――その後の場面。相手を剥がし、ボールを前進させていった


【22-23】ロフタスチーク_プレースタイル分析4
――シーン2:別の場面。GKから縦パスを引き出したロフタスチーク。ここで相手MFが激しいプレッシャーをかけにくるが、チークは身体で上手くボールを隠しつつ、ワンタッチで前方にボールを持ち出す


【22-23】ロフタスチーク_プレースタイル分析5
――その後の場面。相手に腕で引っ張られるも強引に剥がし、ボールを前進させていった

データを見ても、ロフタスチークがこうしたプレーを強みとしていることが分かります。


【22-23】ロフタスチーク_ドリブルスタッツ
――参考2:2022-23シーズンにおけるロフタスチークのボール運びに関する1試合平均のスタッツ、及びプレミアリーグのMFと比較したパーセンタイル


2.ユーティリティー性



中盤を本職とするロフタスチークですが、これまで彼は複数の監督の下、様々なポジションで起用されてきました。


【22-23】ロフタスチーク_これまでの主な出場ポジション
――参考3:これまでのロフタスチークの主な出場ポジション。

今季はボランチの他に、サブポジションとして右WBで比較的多く起用されており、当該ポジションにおいても先述したドリブルやフィジカル能力等を活かすことが可能です。

このユーティリティー性をミランでも発揮することが出来れば、クラブでの地位を高めやすくなるでしょう。
主に中盤で起用しつつも、必要に応じてトップ下やサイドアタッカーとしても起用できる形が理想的ですね。


3.消極的なパス・シュート選択



続いてはパス・シュート能力についてです。

ドリブルによって確かな存在感を示すことのできるロフタスチークですが、一方でパスやシュートに関して今季はやや消極的なプレーが目立ちました。


【22-23】ロフタスチーク_パススタッツ
――参考4;2022-23シーズンにおけるロフタスチークのパスに関する1試合平均のスタッツ、及びプレミアリーグのMFと比較したパーセンタイル

データを参照すると、パスのレンジについてはショートパスが基本で、ロングパスは少なめ。また、縦パスを通す技術・意識は水準以上ですが、パスによるチャンスメイクに関するスタッツは平均やや下となっています。


【22-23】ロフタスチーク_シュートスタッツ
――参考5:2022-23シーズンにおけるロフタスチークのシュートに関する1試合平均のスタッツ、及びプレミアリーグのMFと比較したパーセンタイル

シュートに関してはより消極的であり、シュート数自体が少ないため関連スタッツも軒並み低くなってしまっている、と。


【22-23】ロフタスチーク_チャンスメイクスタッツ
――参考6:2022-23シーズンにおけるロフタスチークのチャンスメイクに関する1試合平均のスタッツ、及びプレミアリーグのMFと比較したパーセンタイル

こうした傾向は「シュート機会の創出」というスタッツにも表れており、積極的なパスやシュートが少ないため、味方のシュート機会を作り出した回数も必然的に少なくなっています。

その結果というべきか、今季のロフタスチークは33試合(1912分)プレーして0ゴール・2アシストと成績が振るいませんでした。


ただしこれらの点についてフォローしておくと、今季のロフタスチークはチームの不振による影響を被った側面はあると思います。実際、昨季の上記スタッツは今季と比べれば軒並み良く、本人の意識・判断やチーム状況のポジティブな変化によって十分にパフォーマンスを改善できる部分ではないかと感じますね。


4.守備能力



最後に守備能力についてです。

彼の持つ恵まれた体格が守備面でも活かされることはありますが、総合的に見て守備に長けた選手だとは見受けられません。

例えば「カバーリング・危機察知能力」。ロフタスチークは周囲の相手選手の動き出しに対して注意散漫なシーンが散見され、そのことは味方DF陣との関係において小さくない問題を引き起こします。


【22-23】ロフタスチーク_プレースタイル分析6
――シーン3:被カウンターの場面。ここでニューカッスルは左サイドから攻め込む間、MFの1人が前線に飛び出すが、ロフタスチークはその対応に遅れる


【22-23】ロフタスチーク_プレースタイル分析7
――その後の場面。チェルシーの最終ラインは数的不利に陥り、ピンチを迎えた


【22-23】ロフタスチーク_プレースタイル分析8
――シーン4:別の場面。ニューカッスルが左サイド深くへの展開からチャンスを作り出す。この時点ではロフタスチークは相手のMFをマークしている


【22-23】ロフタスチーク_プレースタイル分析9
――その後の場面。相手がクロスの態勢を整える中、ロフタスチークはエリア内に飛び出した相手MFのマークを離す。ここで最終ラインは数的不利となり、かつマークの受け渡しも出来ていない状況


【22-23】ロフタスチーク_プレースタイル分析10
――その後の場面。フリーとなった相手MFへそのままクロスが入り、失点を喫した

特にミランの戦術上、積極的に動く(スライドする)DF陣をカバーするためのボランチの守備的な役割(ポジショニング)はとても重要です。しかし個人的印象として、ロフタスチークがそうした役割を十分にこなせるかは疑問の余地があります。

また、守備強度という部分においてもロフタスチークには物足りなさを感じるところです。


【22-23】ロフタスチーク_プレースタイル分析11
――シーン5:被カウンターの場面。相手ウインガーがサイドから中央に切り込んでくる。そこで近くのロフタスチークには相手ウインガーへ対応することが求められる


【22-23】ロフタスチーク_プレースタイル分析12
――その後の場面。しかし相手ウインガーへの寄せが甘く、逆サイドを走る相手選手へのパスコースは空いたまま


【22-23】ロフタスチーク_プレースタイル分析13
――その後の場面。当該コースにパスを通され、被決定機を迎えた

タックル、インターセプトなどによる個のボール奪取能力はデータを見ても低く、実質的な守備貢献には現時点であまり期待出来ません。


【22-23】ロフタスチーク_守備スタッツ
――参考7:2022-23シーズンにおけるロフタスチークの守備に関する1試合平均のスタッツ、及びプレミアリーグのMFと比較したパーセンタイル

上記の改善に当たっては本人の意識改革が強く求められそうですし、さもなくば起用法はかなり限定されてしまうのではないでしょうか。


おわりに


現在のミランが「合計2000万ユーロの移籍金+年俸400万ユーロ」を27歳の選手に費やしたからには主力としての働きが即時に期待されるところ、その十分な活躍のためにはいくつかクリアすべき技術的課題があるのではないかという話でした。

正直に言って結構リスクのある取引だとは思いますが、ここでは敢えてポジティブに捉えましょう。
彼の最大の持ち味であるドリブルを効果的に活かすことが出来れば、相手の守備陣を切り崩す上で大きな武器になり得ます。その上で怪我をすることなく、守備面を始め諸々のパフォーマンスも改善・安定すれば十分に主力として計算できるはずです。

このタイミングで背番号「8」を付けるのはプレッシャーにもなりそうですが、良くも悪くも彼はトナーリとは違います。自らの持ち味を存分に発揮し、新たな「8番」としてミラニスタに快く受け入れられるよう頑張って欲しいですね。

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