【徹底したレイオフ封じ】ミラン対ラツィオ【2022-23シーズン・セリエA第34節】
今回はセリエA第34節、ミラン対ラツィオのマッチレビューを行います。
スタメン

ベースフォーメーション:
ミラン「4-2-3-1」
ラツィオ「4-3-3」
最初に、ミランの攻守のセットアップについておさらいしておきます。
まず攻撃(ボール保持)時にはクルニッチがアンカーポジションに入り、トナーリが高めの位置に侵入する形が基本。システム表記するなら4―3―3です。

――参考1:この試合前半におけるミランの平均ポジション
その狙いは相手の守備陣形とのズレを生み出しつつ、サイドの幅を利用することにあったかと思われます。
ラツィオは極力4バックでラインを維持したまま守備を行う傾向があるため、ミランとしては両ウイングをサイドに張らせ、SBとの連携で効率的にサイドを起点に崩そうとした、と。

――シーン1:大外から裏に抜け出すカラブリア(赤)に、ケアーからロングパスが通る

――その後の場面。サイド深くでボールを受けたカラブリアからメシアスに渡り、バイタルに飛び出すトナーリへと繋がった

――シーン2:左アウトサイドでボールを受けたサレマにマルシッチが対応。ここで生じた最終ラインのギャップをテオが突き、スルーパスを引き出した
一方、守備時には4-2-3-1でセット。
最終ラインを高く設定し、相手の中盤3枚に対してはそれぞれ対面のベナセル、トナーリ、クルニッチがしっかりとマーク。そしてジルーのファーストプレスをスイッチに積極的なプレッシングを仕掛けていきました。
この試合のミランはプレッシングが実に良く機能し、ラツィオのビルドアップを妨害することに成功。その結果、(試合最終盤にやや危険なシーンはあれど)ラツィオの枠内シュート数は「ゼロ」という事で、この試合の最大の勝因だったといって良いと思います。
それでは具体的にどのようなところが良かったのか。完敗(0-4)を喫した前回対戦時と比較しながら、その違いを見ていきましょう。

上掲のレビュー記事にて触れた通り、前回のミランは相手アンカー(カタルディ)に多くの自由を許してしまいました。

――過去シーン1;カサーレに対して寄せに行くブラヒムだが、サビッチを経由したレイオフでカタルディがフリーでボールを受ける
当時は「ジルー対ラツィオ2CB」となっている前線に圧力を加えるため、段階的にトップ下(ブラヒム)がカタルディのパスコースを消しながら相手CBに積極的に寄せに行く形を採っていたわけですが、レイオフによるプレス回避はラツィオの十八番といえます。よって上掲のシーンのようにフリーのカタルディにボールが渡る場面が頻発していた、と。

――過去シーン2:同様の場面。ここではロマニョーリに寄せに行くブラヒムだが、サビッチ経由でカタルディがフリーでボールを受ける
しかし、この試合でトップ下に入ったベナセルは基本的に相手アンカー(アントニオ)のマークを徹底。そしてアントニオへのパスコースに最大限の注意を払い、レイオフの動きにもすかさず対応する非常に賢いポジショニングを取り続けました。

――シーン3:GKプロヴェデルからサビッチへと縦パスが入り、サビッチはすぐに横のインモービレに叩く。ここでアンカーのアントニオはインモービレからの受け手になろうと動き出す

――その後の場面。しかしここでベナセルはしっかりとアントニオへのパスコース上に入り込み、パスを阻止した
一方、前線ではジルーが相手2CBの間を切りながらファーストプレスをかける役割を担っていたわけですが、そのジルーをサポートする役目を主に担ったのが両サイドアタッカー(メシアス、サレマ)です。
例えば以下のように、ジルーが右CB(カサーレ)にプレスに行った際には中盤を経由してフリーの左CB(ロマニョーリ)へとパスを通されるリスクが生まれるため、そこへすかさずメシアスが寄せに行く事で前線の圧力を維持するわけですね。

――シーン4:CB間のパスを機にジルーがプレスを開始。それに合わせてメシアスがロマニョーリに寄せに行く

――その後の場面。カサーレからサビッチに楔のパスが入るも、手近なパスコースは全てマークされている状態。そこでサビッチはGKへのバックパスを選択
このようにして、レイオフによる後方からの丁寧なビルドアップを徹底的に封じ込め、ラツィオにストレスをかけ続けたミラン。すると17分にはハイプレスから相手ゴール前でボールを奪い、ベナセルがダイレクトボレーでネットに沈めて先制点を獲得します。

――シーン5:先ほどと同様の形で追い詰めるミラン。カサーレからアントニオへと縦パスが入るが、そこへベナセルが猛然と襲い掛かる

――その後の場面。この位置でボールを奪ったミランは決定的なシーンを作り出し、先制点を獲得した
先制点を獲得したミランですが、その数分前にはレオンが体に違和感を覚えて途中交代を余儀なくされています。
代わりに同ポジションに投入されたサレマはプレス強度を始めとする実質的な守備貢献度ではレオンを明確に上回っており、その意味で今回の肝であったミランのプレッシングに際しては問題になりません。一方、ポジティブトランジション時におけるレオンの存在は絶対的であり、攻撃力(打開力)の低下は避けられない状況でした。
そこで求められたのはコレクティブなプレー、すなわち連携による打開です。

――シーン6:ロマニョーリからインモービレに楔のパスが入るも、例によって手前のパスコース(アントニオ、サビッチ)は塞がれている状態。そのため出しあぐねたインモービレに対し、ケアーが寄せに行きボールを奪う

――その後の場面。ボールを奪ったミランはサレマに展開し、カウンターを開始。ここでテオがフルスプリントし、攻撃に厚みを加える

――その後の場面。走り込んだテオにサレマからスルーパスが通り、惜しい形を作り出した
サレマは緊急出場ながら守備時の貢献はもちろん、攻撃においてもテオやベナセルと絡みながら何度かボールを前進させてくれました。個人的に、サレマは左サイド起用の方が伸びしろを感じますね。
また、テオに関してはレオンが不在の分だけ個の打開をいつも以上に求められたわけですが、120点のプレーでその期待に応えました。
29分。相手のクロスをキャッチしたメニャンがすぐさま手前のテオにボールを預け、テオが自陣深くからロングカウンターを開始。そのまま1人で84.65mを疾走し、最後は強烈なミドルシュートをゴールに突き刺してフィニッシュ。異次元のプレーで追加点をもぎ取っています。
――当該得点シーン:1分29秒~
ミランはエースの負傷交代というアクシデントにも動じることなく、その不在をチーム全体でしっかりとカバーすることに成功。団結力の賜物でしょうね。
ミラン2-0ラツィオ
守備(プレッシング)とカウンターというミランの2つの強みが十全に発揮され、極めて重要な一戦に勝利することが出来ました。
今回は相手のチームスタイルに少なからず助けられた側面もあるため、ここで完勝を収めたからといって今後の試合を一概に楽観視することは出来ません。しかし、自分たちの戦い方に自信・確信を深められたという点では次戦以降に向けても意義深い一戦だったと思います。
話は変わって。この試合で負傷交代したレオンについては「大丈夫だ。大したことはない」という本人のコメントがあったようで、現時点ではさほど問題視されてはいないようです。
ただし、ここからの10日間でインテルとのCL準決勝2試合が行われることを考えると、たとえ短期間の離脱であってもチームにとっては大打撃といえます。此度の負傷が一時の戦線離脱すら必要ない軽微なものであると良いのですが…。とにかく検査結果を待ちたいところです。
さて。次の試合はCLで、好調インテルとの一戦になります。
下馬評ではミラン不利と見る向きは強く、個人的にも異論はありませんが、それでも望む結果はもちろんミランの勝利です。
ここまで持ち前のプレッシングとカウンターを活かして手堅く勝ち上がってきただけに、次の試合でもまずは守備局面の安定に期待したいと思います。その上で攻撃(カウンター)も機能すれば申し分ありませんね。
Forza Milan!
最後まで読んでいただきありがとうございました。
スタメン

ベースフォーメーション:
ミラン「4-2-3-1」
ラツィオ「4-3-3」
攻守のセットアップ
最初に、ミランの攻守のセットアップについておさらいしておきます。
まず攻撃(ボール保持)時にはクルニッチがアンカーポジションに入り、トナーリが高めの位置に侵入する形が基本。システム表記するなら4―3―3です。

――参考1:この試合前半におけるミランの平均ポジション
その狙いは相手の守備陣形とのズレを生み出しつつ、サイドの幅を利用することにあったかと思われます。
ラツィオは極力4バックでラインを維持したまま守備を行う傾向があるため、ミランとしては両ウイングをサイドに張らせ、SBとの連携で効率的にサイドを起点に崩そうとした、と。

――シーン1:大外から裏に抜け出すカラブリア(赤)に、ケアーからロングパスが通る

――その後の場面。サイド深くでボールを受けたカラブリアからメシアスに渡り、バイタルに飛び出すトナーリへと繋がった

――シーン2:左アウトサイドでボールを受けたサレマにマルシッチが対応。ここで生じた最終ラインのギャップをテオが突き、スルーパスを引き出した
一方、守備時には4-2-3-1でセット。
最終ラインを高く設定し、相手の中盤3枚に対してはそれぞれ対面のベナセル、トナーリ、クルニッチがしっかりとマーク。そしてジルーのファーストプレスをスイッチに積極的なプレッシングを仕掛けていきました。
徹底したレイオフ封じ
この試合のミランはプレッシングが実に良く機能し、ラツィオのビルドアップを妨害することに成功。その結果、(試合最終盤にやや危険なシーンはあれど)ラツィオの枠内シュート数は「ゼロ」という事で、この試合の最大の勝因だったといって良いと思います。
それでは具体的にどのようなところが良かったのか。完敗(0-4)を喫した前回対戦時と比較しながら、その違いを見ていきましょう。

【危機的状況】ラツィオ対ミラン【2022-23シーズン・セリエA第19節】
※関連記事
上掲のレビュー記事にて触れた通り、前回のミランは相手アンカー(カタルディ)に多くの自由を許してしまいました。

――過去シーン1;カサーレに対して寄せに行くブラヒムだが、サビッチを経由したレイオフでカタルディがフリーでボールを受ける
当時は「ジルー対ラツィオ2CB」となっている前線に圧力を加えるため、段階的にトップ下(ブラヒム)がカタルディのパスコースを消しながら相手CBに積極的に寄せに行く形を採っていたわけですが、レイオフによるプレス回避はラツィオの十八番といえます。よって上掲のシーンのようにフリーのカタルディにボールが渡る場面が頻発していた、と。

――過去シーン2:同様の場面。ここではロマニョーリに寄せに行くブラヒムだが、サビッチ経由でカタルディがフリーでボールを受ける
しかし、この試合でトップ下に入ったベナセルは基本的に相手アンカー(アントニオ)のマークを徹底。そしてアントニオへのパスコースに最大限の注意を払い、レイオフの動きにもすかさず対応する非常に賢いポジショニングを取り続けました。

――シーン3:GKプロヴェデルからサビッチへと縦パスが入り、サビッチはすぐに横のインモービレに叩く。ここでアンカーのアントニオはインモービレからの受け手になろうと動き出す

――その後の場面。しかしここでベナセルはしっかりとアントニオへのパスコース上に入り込み、パスを阻止した
一方、前線ではジルーが相手2CBの間を切りながらファーストプレスをかける役割を担っていたわけですが、そのジルーをサポートする役目を主に担ったのが両サイドアタッカー(メシアス、サレマ)です。
例えば以下のように、ジルーが右CB(カサーレ)にプレスに行った際には中盤を経由してフリーの左CB(ロマニョーリ)へとパスを通されるリスクが生まれるため、そこへすかさずメシアスが寄せに行く事で前線の圧力を維持するわけですね。

――シーン4:CB間のパスを機にジルーがプレスを開始。それに合わせてメシアスがロマニョーリに寄せに行く

――その後の場面。カサーレからサビッチに楔のパスが入るも、手近なパスコースは全てマークされている状態。そこでサビッチはGKへのバックパスを選択
このようにして、レイオフによる後方からの丁寧なビルドアップを徹底的に封じ込め、ラツィオにストレスをかけ続けたミラン。すると17分にはハイプレスから相手ゴール前でボールを奪い、ベナセルがダイレクトボレーでネットに沈めて先制点を獲得します。

――シーン5:先ほどと同様の形で追い詰めるミラン。カサーレからアントニオへと縦パスが入るが、そこへベナセルが猛然と襲い掛かる

――その後の場面。この位置でボールを奪ったミランは決定的なシーンを作り出し、先制点を獲得した
ベナセル「(得点シーンについて)チームで取り組んだ。ラツィオが後方から頻繁にパスを繋いでくるのは分かっていたからね。プレーの感触は良く、上手く予測してボールを奪取できた。それからジルーが巧みにボールを置いてくれたので、良いシュートが打てたよ」
テオの躍動
先制点を獲得したミランですが、その数分前にはレオンが体に違和感を覚えて途中交代を余儀なくされています。
代わりに同ポジションに投入されたサレマはプレス強度を始めとする実質的な守備貢献度ではレオンを明確に上回っており、その意味で今回の肝であったミランのプレッシングに際しては問題になりません。一方、ポジティブトランジション時におけるレオンの存在は絶対的であり、攻撃力(打開力)の低下は避けられない状況でした。
そこで求められたのはコレクティブなプレー、すなわち連携による打開です。

――シーン6:ロマニョーリからインモービレに楔のパスが入るも、例によって手前のパスコース(アントニオ、サビッチ)は塞がれている状態。そのため出しあぐねたインモービレに対し、ケアーが寄せに行きボールを奪う

――その後の場面。ボールを奪ったミランはサレマに展開し、カウンターを開始。ここでテオがフルスプリントし、攻撃に厚みを加える

――その後の場面。走り込んだテオにサレマからスルーパスが通り、惜しい形を作り出した
サレマは緊急出場ながら守備時の貢献はもちろん、攻撃においてもテオやベナセルと絡みながら何度かボールを前進させてくれました。個人的に、サレマは左サイド起用の方が伸びしろを感じますね。
また、テオに関してはレオンが不在の分だけ個の打開をいつも以上に求められたわけですが、120点のプレーでその期待に応えました。
29分。相手のクロスをキャッチしたメニャンがすぐさま手前のテオにボールを預け、テオが自陣深くからロングカウンターを開始。そのまま1人で84.65mを疾走し、最後は強烈なミドルシュートをゴールに突き刺してフィニッシュ。異次元のプレーで追加点をもぎ取っています。
――当該得点シーン:1分29秒~
ミランはエースの負傷交代というアクシデントにも動じることなく、その不在をチーム全体でしっかりとカバーすることに成功。団結力の賜物でしょうね。
メシアス「重要なのは、プレーする選手がベストを尽くすことだ。僕たちは団結したグループで、誰がフィールドに立ってもチームのためにすべてを捧げる準備ができているんだ。それが昨季にスクデットを獲得できた理由だと僕は思う」
ミラン2-0ラツィオ
雑感
守備(プレッシング)とカウンターというミランの2つの強みが十全に発揮され、極めて重要な一戦に勝利することが出来ました。
今回は相手のチームスタイルに少なからず助けられた側面もあるため、ここで完勝を収めたからといって今後の試合を一概に楽観視することは出来ません。しかし、自分たちの戦い方に自信・確信を深められたという点では次戦以降に向けても意義深い一戦だったと思います。
話は変わって。この試合で負傷交代したレオンについては「大丈夫だ。大したことはない」という本人のコメントがあったようで、現時点ではさほど問題視されてはいないようです。
ただし、ここからの10日間でインテルとのCL準決勝2試合が行われることを考えると、たとえ短期間の離脱であってもチームにとっては大打撃といえます。此度の負傷が一時の戦線離脱すら必要ない軽微なものであると良いのですが…。とにかく検査結果を待ちたいところです。
さて。次の試合はCLで、好調インテルとの一戦になります。
下馬評ではミラン不利と見る向きは強く、個人的にも異論はありませんが、それでも望む結果はもちろんミランの勝利です。
ここまで持ち前のプレッシングとカウンターを活かして手堅く勝ち上がってきただけに、次の試合でもまずは守備局面の安定に期待したいと思います。その上で攻撃(カウンター)も機能すれば申し分ありませんね。
Forza Milan!
最後まで読んでいただきありがとうございました。