【実質50分の試合】ローマ対ミラン【2022-23シーズン・セリエA第32節】

2022-23シーズン・試合ローマ戦
今回はセリエA第32節、ローマ対ミランのマッチレビューを行います。

スタメン

【22-23】ローマ対ミラン_スタメン

ベースフォーメーション:
ローマ「3-5-2」
ミラン「4-2-3-1」


実質50分の試合


勝ち点差なしの4位と5位の対決という事で、両チームともに「負けられない」という気持ちが球際のプレーに表れていたように感じます。
しかし、その結果はポジティブなものではありませんでした。

ピオリ「不思議な試合だった。106分のゲーム時間の内、実際に両チームがボールを使ってプレーしたのはわずか49分間だ。これではリズムを生み出すことが難しく、中断が多すぎてプレーをさせてもらえない」



実際のプレー時間については諸説ありますが(以下のソースだと55分間)、いずれにせよ頻繁にゲームが中断していたのは確かです。



このように、球際が激しいといってもそれが試合の面白さ(例えば攻守の頻繁な入れ替わりによる鋭いカウンターの応酬など)に繋がっていたわけではなく、負傷や治療による遅延といったネガティブな現象を引き起こす場面が頻発。そのようにして時間が経つにつれ両チームはリズムや勢いを失い、アディショナルタイムに入る前まで枠内シュートを1本も撃てないという体たらくでした。

中盤エリアの不利用


上述した試合展開の中ではありますが、主導権を握っていたといえるのはミランだったかと思います。

前半のローマは比較的高い位置からプレッシングを仕掛けようとするシーンもあったものの、ミランCBにプレッシャーをかける2トップに対し後ろが「背後のスペース」を警戒して十分に連動し切れない場面が多く、ミランボランチが比較的スペースのある状況でボールを持てるシーンが見られました。


【22-23】ローマ対ミラン_戦術分析1
――シーン1:ローマ2トップが最終ラインに圧力をかけ、テオに対しては中盤からボーヴェが寄せに行くが、ボランチのエリアで数的優位となったクルニッチがフリーでパスを受けた

この「ローマ2トップと中盤の間のスペース」というのはかなり利用できそうなエリアであったわけですが、実際のところミランは当該スペースを十分に活かすことが出来ず、例によって攻めあぐねる展開が続きます


【22-23】ローマ対ミラン_戦術分析2
――シーン2:ここでは持ち運ぶケアーに対しペッレグリーニが寄せにくる。そこでケアーは前方のベナセルに縦パスを通す。その間、トナーリは当該スペースに侵入


【22-23】ローマ対ミラン_戦術分析3
――その後の場面。ボールを受けたベナセルの近くにトナーリが走り込み、その落としを受けようとする。ここで受けられれば一気にスピードアップし、前方のレオンやテオと絡んで速攻へと持ち込めそうな状況


【22-23】ローマ対ミラン_戦術分析4
――その後の場面。しかしベナセルはトモリへバックパスし、遅攻を選択

ベナセルにはこういう状況下でボランチと絡みながら上手くボールを前進させ、攻撃を加速させる役割が期待されたものの、やはりこれまでより高い基本位置でのプレーですと勝手が違うのか、プレーの判断や精度に通常時のような明晰さは感じられません。
そもそもナポリ戦の時のように守備(ロボツカ対策)面を重視しての起用なら分かりますが、状況の異なる今回やエンポリ戦も判で押したような起用を続けているのは疑問の余地があります。


【22-23】ローマ対ミラン_戦術分析5
――シーン3:後半の一場面。テオからベナセルに縦パスが入る。同時にクルニッチが当該スペースに侵入。ここでクルニッチがベナセルからの落としを受けられれば、前方のブラヒムと絡んで速攻へと持ち込めそうな状況


【22-23】ローマ対ミラン_戦術分析6
――その後の場面。しかしここでベナセルは無理に前を向こうとする。その結果縦スライドしてきたマンチーニに寄せられ、ボールロストした(赤)

ポゼッションの目的意識・連動性


プレッシングこそハマらないローマでしたが、彼らは積極的にボールを奪いにきたわけではなく、本領は自陣での守備にありました。

対するミランは案の定このタイプの守備に手を焼き、ボールを握れども中々決定機を作ることが出来ません。
先述の通り、この試合ではゲームの度重なる中断によりリズムを崩してしまったという同情すべき点はありますが、「ポゼッションの目的意識・連動性の低さ」といった部分は普段も同じです。


【22-23】ローマ対ミラン_戦術分析7
――シーン4:右サイドでボールを持つミラン(トナーリ)

例えば右サイドでボールを回している時、相手の意識やポジションを同サイドに寄せてから手薄な逆サイド側に展開するという形が考えられます。
「シーン4」のようにライン間にテオが潜り込んでダイアゴナルなパスを引き出せれば、それに続いてサイドのレオンへとボールを繋ぎ、良い形で彼に仕掛けさせることも可能でしょう。
しかし上掲のシーンを始め、普段からミランがそのような形を積極的かつ意図的に作り出そうとしているようには見えません。


【22-23】ローマ対ミラン_戦術分析8
――シーン5:逆サイドでボールを要求するレオン。しかしボールホルダーのトナーリは同サイドの狭いスペースへと持ち込む


【22-23】ローマ対ミラン_戦術分析9
――その後の場面。パス回しの後、ようやくクルニッチからテオにパスが入る


【22-23】ローマ対ミラン_戦術分析10
――その後の場面。テオはエリア内へのクロスを選択。しかしここで受け手になれるのはクロス対応が不得手な小柄のブラヒムとベナセルだけであり、肝心のジルーはエリアの外にいる。必ずしも悪い選択ではないものの、ここではレオンに預ける選択肢はなかったか

ピオリがピッチをワイドに使った攻撃を好んでいないのか知りませんが、現状ミランの最大のストロングポイントであるレオンをポジショナルなフェーズでももっと活かせる形を模索しても良いと感じます。別にそれが絶対的な正解とまでいうつもりはないものの、いつまで経っても改善しない「ファイナルサードでの明晰さ」とやらを考えると、1つの明確な方針があった方が選手たちのプレー精度も向上すると思うんですけどね。


さて。そんなわけで攻めあぐねたミランは後半になると、いつものようにデ・ケテラーレやオリギといったアタッカーを場当たり的に投入していきますが上手くいかず。すると94分にはローマがカウンターを発動し、エイブラハムに決められて失点を許します。
万事休すかと思われた97分、途中出場のサレマがレオンのクロスにダイレクトで合わせて劇的同点弾をゲット。虚無感漂う90分が過ぎてから怒涛の展開となり、ミランが(ある意味)前回対戦時の意趣返しを果たす形で勝ち点1を拾いました。

ローマ1-1ミラン


雑感


率直に言って退屈な試合でした。

試合展開的にはアディショナルタイムに先に失点したミランがその直後に追いついたという事で、相手と比べると試合後の後味こそ悪くないですが、ポジショナルな攻撃の精度の低さは相変わらず目を覆わんばかりです。

「引いた相手を崩すのは難しい」という定説はあれど、それはチームとしてしっかりとボールを運び、良い形を作り出した上での話だと思います。そもそもポゼッションから良い形すら中々作れない現在のピオリ・ミランはそれ以前の問題でしょう。

中盤(中央エリア)を効果的に使わずに片側サイドを中心に攻め込む一方、意識的に幅を使って相手を押し込んだり相手最終ライン間を広げたりするでもなく、最終的には無理くりに中央突破を図ってボールロストを連発。一体何を狙っているのかよく分かりません。

まぁ何とか最悪の結果は避けられましたし、順位もインテルに抜かれたものの勝ち点差なしの5位という事で、引き続き目標達成のために頑張ってもらいたいと思います。

Forza Milan!

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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