クルニッチのプレースタイルについて~卓越した状況判断能力~

ラデ・クルニッチ
4月に行われたナポリとの3試合の結果は2勝1分、トータルスコアにして「6-1」で上回ったミラン。
1戦目で4得点を奪った攻撃も然ることながら、好成績の最大の要因はやはり「安定した守備」にあったといえるでしょう。

そこで今回は「ラデ・クルニッチ」個人に焦点を当て、チームが安定した守備を実行するにあたって彼が担う役割の重要性を改めて考えていきたいと思います。

難しい守備対応


本題に入る前に、先日のCLナポリ戦セカンドレグで見られたミランの決定機について振り返ります。


【22-23】CLナポリ戦_クルニッチ_プレースタイル1
――シーン1

ミランが後方からナポリのハイプレスを回避し、速攻へと転じた場面です。ここで相手ウイングのポリターノの帰陣が遅れ、左サイドでは2対2(レオン&テオ、エンドンベレ&ディロレンツォ)の状況が生まれています。


【22-23】CLナポリ戦_クルニッチ_プレースタイル2
――その後の場面

レオンが前方のテオにボールを預けると、エンドンベレの体と意識もボール方向へと移動。それによりレオンへのマークが緩くなり、レオンはバイタルエリアのスペースへフリーで侵入。テオからパスを引き出しました。


【22-23】CLナポリ戦_クルニッチ_プレースタイル3
――その後の場面(赤)

レオンに対してマリオ・ルイが遅れてカバーに入った結果、レオンを倒してPKを献上してしまいます。


このように背走を強いられ自陣ゴール前で危険が生じたシチュエーションですと、ゴールに近いボールホルダーへと意識が強く向けられ、自身の後方からゴール前に飛び出してくる選手を認識・対応することがより難しくなります。

裏を返せば、そういった場面においても冷静に周囲の状況を見極めて相手のパスコースや選択肢を察知し、危険の芽を摘み取れる選手がいれば、チームは失点のリスクを大きく減らすことが可能でしょう。

この観点からミランにおけるクルニッチの重要性が浮き彫りとなるという事で、ここから本題に入ります。

クルニッチの守備


それでは具体的に、ナポリ戦におけるクルニッチのプレーを振り返っていきましょう。


【22-23】CLナポリ戦_クルニッチ_プレースタイル4
――シーン2

マッチレビュー記事でも言及した通り、ミランの選手たちはナポリのウイング(特にクワラツヘリア)に対しては非常に厳しく監視し、極力2人以上でその仕掛けに対応するよう強く意識づけられていました。そのため、ここでもクルニッチが素早くカラブリアのヘルプに入り、クワラツヘリアに対応します。

一方、ミランが複数人で1人の選手に対応することで、そこ以外のどこかしらにスペースや選択肢が生じやすいため、ナポリにとっては如何にスペースを見出しそこに人とボールを送り込めるかどうかがポイントになりました。

すると「シーン2」において、ナポリは最終的に中央突破を試みます。


【22-23】CLナポリ戦_クルニッチ_プレースタイル5
――その後の場面

ここで狙い目となるのはバイタルエリアのスペースです。まずクワラツヘリアからパスを受けたジエリンスキは、ワンタッチで前方のオリベラにボールを預けてベナセルのマークを回避。オリベラがトラップしたのを確認すると、鋭くバイタルエリアのスペースに向けて動き出します。


【22-23】CLナポリ戦_クルニッチ_プレースタイル6
――その後の場面

その間にクルニッチがサイドから迅速に戻るわけですが、ここで注目すべきはボールホルダーのオリベラへ強く意識が向きがちなところ、クルニッチはすかさず背後のジエリンスキの動きを確認し、飛び出してくるジエリンスキへのパスコースを警戒しながら(切りながら)戻っていることです。


【22-23】CLナポリ戦_クルニッチ_プレースタイル7
――その後の場面

その結果、オリベラからジエリンスキへのパスが実際に選択されるもクルニッチがしっかりとその間に入り、危険なパスをカットすることが出来ました。


状況判断能力


クルニッチのプレースタイルについて考える時、上記のシーンで見られるような「状況判断能力」を挙げることは欠かせないと思います。
攻撃に際しては周囲の敵味方の位置関係を把握しながらポジションを取り、後方からパスを引き出したり前方のスペースメイクをしたりする形でビルドアップに貢献。ただしオンザボール時のテクニックはあまり高くないため、ボール保持時のプレー選択にある程度の制限がかかることは否めません

一方、守備においてはスタミナ、献身性、フィジカル、インテンシティのいずれも高水準であり、それらに状況判断能力(インテリジェンス)の高さが組み合わさることで、高い位置でのプレッシングと自陣ゴール付近での組織的守備どちらの局面でもハイパフォーマンスを発揮できる、と。

そしてミランはプレッシングを守備戦術のメインとしているわけですが、いざプレスを外された場合に、相手の速攻を凌ぐためのバックライン(最終ライン+ボランチ)の耐久力は非常に重要です。
大量失点を重ねていた今年1月、ミランが抱えていた数ある問題の一つがこの点にあったことを考えると、「クルニッチのボランチ定着」という変化が現在の守備の安定に大きく貢献していることは間違いないでしょうね。


【22-23】ナポリ対ミラン_戦術分析15
――シーン3:リーグでのナポリ戦における一場面。ナポリがライン間に侵入してきたフリーのマリオルイにパスを送り、速攻を開始。そこで、クルニッチはプレッシングの関係で少し前に出ていたが迅速に帰陣し、最終ラインのサポートに動く


【22-23】ナポリ対ミラン_戦術分析16
――その後の場面。自陣深くに持ち込まれてクワラツヘリアへとボールが渡るが、クルニッチの的確かつ迅速な帰陣によりバイタルエリア(シメオネ)への危険なパスコースは閉じられた

ピオリ「多くの選手が持っていない『ゲームを読む力』というのがクルニッチには備わっている。今なら多くのファンが同意してくれると思うが、我々にとってクルニッチは非常に重要な存在だよ」



決して目立つタイプではありませんが、現チームにおいて非常に重要な役割を担っているクルニッチは正に「縁の下の力持ち」と評するに相応しい選手だといえますね。

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