【16年ぶりのベスト4進出!】ナポリ対ミラン【2022-23シーズン・CLベスト8セカンドレグ】
今回はCLベスト8セカンドレグ、ナポリ対ミランのマッチレビューを行います。
スタメン

ベースフォーメーション:
ナポリ「4-3-3」
ミラン「4-2-3-1」
この試合のボールポゼッション率は「74対26」という事で、ナポリがボールを支配してミランが待ち構えるという基本構図がはっきりしていました。
個人的に、いつもよりも守備時のアプローチを結構変えたなぁという印象でしたが、その理由についてピオリは以下のように語っています。
ここで言う「低い位置」とはビルドアップ時の配置のことでしょう。

――シーン1:ラフマニからパスを受けるエンドンベレ
例えばナポリはCBがボールを持った際、何度か中盤の選手がその近くに寄る動きを見せます。
普段のミランであればボールホルダーの手近なパスコースは全てマンツーマン志向の強いディフェンスによりマークするため、上記のナポリの動きにより全体が前方へと誘引されることになる、と。
しかし、そうなると後方のスペースが空き易くなり、当該スペースをオシムヘンに利用されるリスクが高まります。したがって、この試合のミランは多くの場合に高い位置からのプレッシングは控え、後方のスペース・選択肢の管理を優先したのでしょう。

――その後の場面。ボールを受けたディ・ロレンツォに対してはトナーリが寄せに行き、中盤ではベナセルがスライドしてケア。これにより最終ラインの陣形を安定させる

――その後の場面。前線へロングボールが送られるも、オシムヘンに対してトモリとケアーの2人で対応。しっかりとボールを回収した
上掲のシーンのように、序盤からチームの狙い(優先順位)は明確だったと思います。
いつもより受動的なアプローチを採ったミランですが、それではナポリの強力な攻撃を止めるためのメカニズムはどのようなものだったか。具体的に見ていきたいと思います。
前トピックでも少し触れたように、ミランは最終ラインの安定を重視しました。
ケアーとトモリの2人でオシムヘンを非常に厳しく監視し、テオはポリターノ(途中からロサーノ)、カラブリアはクワラツヘリアをそれぞれ集中的にマーク。これにより対応関係を明確にします。
一方、最終ラインの安定を重視する分だけ前方やサイドで生じる局所的な数的優位に対抗するのは難しいです。ミランはアタッカーや中盤が何度かバランスを崩してプレッシングをかけましたが、その際にフリーの選手を使われて前進を許す場面も見られました。

――シーン2:ここではやや前掛かりになるミランだが、サイドに開いたフリーのエンドンベレにパスが通る

――その後の場面。ナポリに右サイド深くに持ち込まれると、ぽっかりと空いたゴール前のスペースにパスを通されピンチを迎えた
そのためミランは先述の通り、チーム全体が後方のスペース・選択肢の管理を重視していく、と。
オシムヘンに対してはCBコンビが、そしてもう1人の要注意人物であるクワラツヘリアに対してもカラブリアの他にクルニッチやブラヒムが献身的にサポートに入り、極力数的優位を保ちながら彼の仕掛けに対抗していきました。
カラブリア個人も素晴らしい集中力でクワラツヘリアを抑え込んでいましたが、その安定したパフォーマンスの背景には周囲の献身的なサポートがあったと思います。

――シーン3:クルニッチによるサポート

――シーン4:ブラヒムによるサポート
対するナポリは、自身のウイングに厳しいマークが付くのを利用し、後方からの飛び出しでスペースに侵入する形を1つ志向します。

――シーン5:ポリターノに対してテオとトナーリの2人がかりで対応。その間、ディ・ロレンツォとエンドンベレが前方のスペースを狙う
これについてもミランは事前に想定しており、当該スペース(最終ラインのギャップ)は中盤の選手が非常に注意深く監視します。
上掲のシーンでも、ディ・ロレンツォの走り込みに対してベナセルが、ゴール前のエンドンベレはクルニッチがマークすることで危険を防止。トップ下に中盤色の濃い選手を置くことで、ゴール前のスペースカバーの精度が向上するというメリットが活きていますね。

――シーン6:ポリターノに対応するテオと、そのサポートに動くトナーリ。同時にクルニッチはジエリンスキのマークをベナセルに託し、当該スペースをケア。これにより、トモリとケアーにオシムヘンを監視し易い状況を作り出す
また、この手の仕事をさせれば右に出る者なしのクルニッチが素晴らしいハイパフォーマンスを披露。90分を通して危険な選択肢・スペースを監視し続け、チームの守備の安定に大きく貢献しています。

――シーン7:後半の場面。ここではディ・ロレンツォが幅を取り、最終ラインのギャップをロサーノが狙う。そこにクルニッチが対応

――その後の場面。ディ・ロレンツォからオシムヘンにクロスが入る。同時にジエリンスキが時間差でゴール前に侵入。当初ロサーノを警戒していたクルニッチにとっては集中が切れやすい状況だったが、すぐさま切り替えてジエリンスキの走り込みに対応

――その後の場面。オシムヘンからジエリンスキへのワンタッチパスをしっかりとインターセプトした
さて。上記の通り組織的な守備によってナポリに対抗したミランですが、最終的に両チームの明暗を分けたのは他でもない「個の力」でした。
前半43分。レオンが自陣からドリブルで相手をごぼう抜きし、独力で相手PA内に侵入。そこからゴール手前のジルーにラストパスを送り、トータルスコアを2-0とする重要なゴールを演出しました。

――シーン8:ミランの守備に焦れたナポリは、エンドンベレがトラップミス。こぼれ球を拾ったレオンがこの位置からドリブルを開始する

――その後の場面。レオンが独力でニアゾーンまで持ち運ぶ得意の形からジルーのゴールをアシストした
ミランとしてはファーストレグで得た1点のリードがあったとはいえ、ベスト4進出を引き寄せるには何とか追加点が欲しい。ただし自陣での守備(失点しないこと)に重きを置く受動的なアプローチを採用したことで、トランジション時の組織的な攻撃力が低下することは避けられない状況でした。
故にいつも以上に求められたのは個人技による打開だったわけですが、レオンは120点のプレーでもって期待に応えてくれましたね。
他方、守備においては守護神メニャンがファーストレグに引き続いてハイパフォーマンスを披露。ナポリはミランの組織的な守備を前に攻めあぐねつつも強引にこじ開けにかかりましたが、メニャンが最後の砦として立ちはだかります。
最大のハイライトは82分。ナポリが得たPKをセーブし、ナポリに生じた大きな反撃の流れもシャットアウト。試合終了直前の93分には惜しくもオシムヘンにゴールを許したものの、出色のパフォーマンスでチームのベスト4突破に決定的な貢献を果たしました。
ナポリ1(1)-1(2)ミラン
前日のプレビュー記事でも言及した通り、「ファーストレグで得たアドバンテージ(1点リード)を活かせるか」というのは重要なポイントだったと思いますが、ミランは当該アドバンテージを存分に利用する方針を採りました。するとそうしたアプローチが結果的に功を奏し、実に16年ぶりとなるCLベスト4進出を決めています。
それにしても…クワラツヘリアに対してあれだけ注意深く守っても、彼は何度か強引に突破を図り決定機を創出。オシムヘンも自身に訪れた数少ないチャンスをきっちりとモノにし、ミランに一矢報いてきました。
組織的なディフェンスとレオン・メニャンのスペシャルなプレーによってミランが何とか上回ったわけですが、この2戦を通した率直な感想として、内容的にはどちらが突破していても不思議ではなかったと感じましたね。
それだけナポリは強かったと思いますし、逆に言えばそのナポリを破ったミランには称賛が与えられて然るべきでしょう。
この2戦を通しての勝利が選手たちの自信と成長に繋がることは間違いないですし、このCLでの快進撃がどこまで続くか非常に楽しみです。
野暮なことは言いません。もういけるところまでいっちゃってもらいたいと思います。
Forza Milan!
最後まで読んでいただきありがとうございました。
スタメン

ベースフォーメーション:
ナポリ「4-3-3」
ミラン「4-2-3-1」
ミランの守備アプローチ
この試合のボールポゼッション率は「74対26」という事で、ナポリがボールを支配してミランが待ち構えるという基本構図がはっきりしていました。
個人的に、いつもよりも守備時のアプローチを結構変えたなぁという印象でしたが、その理由についてピオリは以下のように語っています。
ピオリ「ファーストレグで1-0とリードしていたことが、一方では我々の助けとなり、他方では我々を減速させることに繋がった。今回オシムヘンのいるナポリは少し低い位置にいることを選択していたから、我々は敢えて彼らに主導権を渡したんだ。多くの選手はこのような試合をしたことがなかったため、後半にドリブルの回数が減ったのは仕方ない。でも、みんなが全てを犠牲にしてくれたね。」
ここで言う「低い位置」とはビルドアップ時の配置のことでしょう。

――シーン1:ラフマニからパスを受けるエンドンベレ
例えばナポリはCBがボールを持った際、何度か中盤の選手がその近くに寄る動きを見せます。
普段のミランであればボールホルダーの手近なパスコースは全てマンツーマン志向の強いディフェンスによりマークするため、上記のナポリの動きにより全体が前方へと誘引されることになる、と。
しかし、そうなると後方のスペースが空き易くなり、当該スペースをオシムヘンに利用されるリスクが高まります。したがって、この試合のミランは多くの場合に高い位置からのプレッシングは控え、後方のスペース・選択肢の管理を優先したのでしょう。

――その後の場面。ボールを受けたディ・ロレンツォに対してはトナーリが寄せに行き、中盤ではベナセルがスライドしてケア。これにより最終ラインの陣形を安定させる

――その後の場面。前線へロングボールが送られるも、オシムヘンに対してトモリとケアーの2人で対応。しっかりとボールを回収した
上掲のシーンのように、序盤からチームの狙い(優先順位)は明確だったと思います。
守備のメカニズム
いつもより受動的なアプローチを採ったミランですが、それではナポリの強力な攻撃を止めるためのメカニズムはどのようなものだったか。具体的に見ていきたいと思います。
ピオリ「他の試合とは異なり、今回はCBコンビの位置をやや固定し、スライドを少なくした。それによりサイドで数的不利に陥ることも何度かあったけど、そこはオシムヘンとの数的優位を保つための選択を優先したんだ」
前トピックでも少し触れたように、ミランは最終ラインの安定を重視しました。
ケアーとトモリの2人でオシムヘンを非常に厳しく監視し、テオはポリターノ(途中からロサーノ)、カラブリアはクワラツヘリアをそれぞれ集中的にマーク。これにより対応関係を明確にします。
一方、最終ラインの安定を重視する分だけ前方やサイドで生じる局所的な数的優位に対抗するのは難しいです。ミランはアタッカーや中盤が何度かバランスを崩してプレッシングをかけましたが、その際にフリーの選手を使われて前進を許す場面も見られました。

――シーン2:ここではやや前掛かりになるミランだが、サイドに開いたフリーのエンドンベレにパスが通る

――その後の場面。ナポリに右サイド深くに持ち込まれると、ぽっかりと空いたゴール前のスペースにパスを通されピンチを迎えた
そのためミランは先述の通り、チーム全体が後方のスペース・選択肢の管理を重視していく、と。
オシムヘンに対してはCBコンビが、そしてもう1人の要注意人物であるクワラツヘリアに対してもカラブリアの他にクルニッチやブラヒムが献身的にサポートに入り、極力数的優位を保ちながら彼の仕掛けに対抗していきました。
カラブリア個人も素晴らしい集中力でクワラツヘリアを抑え込んでいましたが、その安定したパフォーマンスの背景には周囲の献身的なサポートがあったと思います。

――シーン3:クルニッチによるサポート

――シーン4:ブラヒムによるサポート
対するナポリは、自身のウイングに厳しいマークが付くのを利用し、後方からの飛び出しでスペースに侵入する形を1つ志向します。

――シーン5:ポリターノに対してテオとトナーリの2人がかりで対応。その間、ディ・ロレンツォとエンドンベレが前方のスペースを狙う
これについてもミランは事前に想定しており、当該スペース(最終ラインのギャップ)は中盤の選手が非常に注意深く監視します。
上掲のシーンでも、ディ・ロレンツォの走り込みに対してベナセルが、ゴール前のエンドンベレはクルニッチがマークすることで危険を防止。トップ下に中盤色の濃い選手を置くことで、ゴール前のスペースカバーの精度が向上するというメリットが活きていますね。

――シーン6:ポリターノに対応するテオと、そのサポートに動くトナーリ。同時にクルニッチはジエリンスキのマークをベナセルに託し、当該スペースをケア。これにより、トモリとケアーにオシムヘンを監視し易い状況を作り出す
また、この手の仕事をさせれば右に出る者なしのクルニッチが素晴らしいハイパフォーマンスを披露。90分を通して危険な選択肢・スペースを監視し続け、チームの守備の安定に大きく貢献しています。

――シーン7:後半の場面。ここではディ・ロレンツォが幅を取り、最終ラインのギャップをロサーノが狙う。そこにクルニッチが対応

――その後の場面。ディ・ロレンツォからオシムヘンにクロスが入る。同時にジエリンスキが時間差でゴール前に侵入。当初ロサーノを警戒していたクルニッチにとっては集中が切れやすい状況だったが、すぐさま切り替えてジエリンスキの走り込みに対応

――その後の場面。オシムヘンからジエリンスキへのワンタッチパスをしっかりとインターセプトした
個の力
さて。上記の通り組織的な守備によってナポリに対抗したミランですが、最終的に両チームの明暗を分けたのは他でもない「個の力」でした。
前半43分。レオンが自陣からドリブルで相手をごぼう抜きし、独力で相手PA内に侵入。そこからゴール手前のジルーにラストパスを送り、トータルスコアを2-0とする重要なゴールを演出しました。

――シーン8:ミランの守備に焦れたナポリは、エンドンベレがトラップミス。こぼれ球を拾ったレオンがこの位置からドリブルを開始する

――その後の場面。レオンが独力でニアゾーンまで持ち運ぶ得意の形からジルーのゴールをアシストした
ミランとしてはファーストレグで得た1点のリードがあったとはいえ、ベスト4進出を引き寄せるには何とか追加点が欲しい。ただし自陣での守備(失点しないこと)に重きを置く受動的なアプローチを採用したことで、トランジション時の組織的な攻撃力が低下することは避けられない状況でした。
故にいつも以上に求められたのは個人技による打開だったわけですが、レオンは120点のプレーでもって期待に応えてくれましたね。
他方、守備においては守護神メニャンがファーストレグに引き続いてハイパフォーマンスを披露。ナポリはミランの組織的な守備を前に攻めあぐねつつも強引にこじ開けにかかりましたが、メニャンが最後の砦として立ちはだかります。
最大のハイライトは82分。ナポリが得たPKをセーブし、ナポリに生じた大きな反撃の流れもシャットアウト。試合終了直前の93分には惜しくもオシムヘンにゴールを許したものの、出色のパフォーマンスでチームのベスト4突破に決定的な貢献を果たしました。
ナポリ1(1)-1(2)ミラン
雑感
前日のプレビュー記事でも言及した通り、「ファーストレグで得たアドバンテージ(1点リード)を活かせるか」というのは重要なポイントだったと思いますが、ミランは当該アドバンテージを存分に利用する方針を採りました。するとそうしたアプローチが結果的に功を奏し、実に16年ぶりとなるCLベスト4進出を決めています。
それにしても…クワラツヘリアに対してあれだけ注意深く守っても、彼は何度か強引に突破を図り決定機を創出。オシムヘンも自身に訪れた数少ないチャンスをきっちりとモノにし、ミランに一矢報いてきました。
組織的なディフェンスとレオン・メニャンのスペシャルなプレーによってミランが何とか上回ったわけですが、この2戦を通した率直な感想として、内容的にはどちらが突破していても不思議ではなかったと感じましたね。
それだけナポリは強かったと思いますし、逆に言えばそのナポリを破ったミランには称賛が与えられて然るべきでしょう。
この2戦を通しての勝利が選手たちの自信と成長に繋がることは間違いないですし、このCLでの快進撃がどこまで続くか非常に楽しみです。
野暮なことは言いません。もういけるところまでいっちゃってもらいたいと思います。
Forza Milan!
最後まで読んでいただきありがとうございました。