【完勝】ナポリ対ミラン【2022-23シーズン・セリエA第28節】
スタメン

ベースフォーメーション:
ナポリ「4-3-3」
ミラン「4-2-3-1」
ミランのプレス回避
まずはミランの攻撃(ボール保持)とナポリの守備についてです。
プレッシング時にジエリンスキを前に上げ、基本的に4-4-2をベースに前からビルドアップの制限を図るナポリに対し、ミランは主に右サイド起点の前進を志向します。
その際、まずポイントになったのが「クルニッチのポジショニング」です。

――シーン1:ケアーからパスを受けるクルニッチ
このように、クルニッチが積極的にサイドに開くことでCBからのパスコースを作り出すと同時に、対面の左サイドアタッカー(クワラツヘリア)を誘引。そしてもう一方のボランチのトナーリが中央で手近なパスコースを作り、相手のボランチ1枚を誘引。更にクルニッチの動きに応じてカラブリアがプッシュアップし、相手左SB(マリオルイ)を牽制します。
その結果、前方の中盤エリアにスペースが生じやすくなり、そこへブラヒムとベナセルが侵入することでパスを受けようとする、と。

――シーン2:当該スペースにてパスを待ち受けるブラヒムとベナセルに対し、ここでナポリは一時的にボランチのロボツカ1人での対応を余儀なくされる。この後クルニッチからベナセルへとボールが渡った
このように、生み出した中盤のスペースを利用してボールを前進させる形から速攻を繰り出していきました。

――シーン3:ロングボールによる当該スペースの活用例。例によって相手を自陣深くに引き付けあと、ここではメニャンからレオンへロングボールが送られる

――その後の場面。レオンの落としをベナセルが受け、速攻を開始した
両ドリブラーの活躍
この試合では「両ドリブラーの活躍」というのも印象的でした。
というのも、ベースフォーメーション「4-2-3-1」の両サイドで起用されたブラヒムとレオンは、それぞれシステム変更による影響を少なからず受けています。
まずはブラヒムについては、ボール保持時の実際のポジションや役割こそこれまでと大差ありませんが、守備時には4-5-1の右サイドのポジションを務めるようになったことで、ポジティブトランジション時の基本となる立ち位置に若干の変化が生じました。
具体的にいうとこれまでよりもサイド寄りになったことで、トランジションに際してサイドから仕掛ける機会が生まれやすいわけですね。
この点、相手のプレッシャー(ネガトラ対応)を躱す力に長けたブラヒムはこれまでのミランの右サイドレギュラー陣に比べてドリブルでの打開に期待できます。実際に17分には見事なドリブル突破からレオンのゴールをアシストしました。

――シーン4:トランジション時、サイドでボールを受けたブラヒムに対しナポリは2人がかりでボールを奪いにかかる(赤)も、ブラヒムはそれらを躱して突破

――その後の場面。ブラヒムは裏に抜け出したレオンにラストパスを提供。ゴールをお膳立てした
一方、レオンは此度のシステム変更(もとい回帰)によってブラヒムよりもずっと大きな影響を受けています。
ここ2カ月間で起用されていた「3-4-2-1」の左サイドアタッカーでは基本の立ち位置が中央寄りとなり、得意の形でボールを持つ機会が激減したわけですが、今回はしっかりとサイドを起点にパスを受けることが出来ました。

――参考1:この試合前半におけるミランの攻撃(ボール保持)時の平均ポジション。ブラヒム(10)とレオン(17)の位置の違いに注目
すると25分。今度はレオンのドリブルが崩しの起点となり、最後はブラヒムが決めてミランが追加点の獲得に成功します。

――シーン5:サイドでボールを受けるレオン。ここでテオは少し内寄りにポジションを取り、前方に移動して相手SBを牽制

――その後の場面。ボールを受けたレオンをテオとベナセルがサポート。ここで、レオンは中央へのドリブルを開始

――その後の場面。レオンがジルーとのワンツーでライン間へと侵入

――その後の場面。レオンはベナセルへとパスを渡してチャンスメイク。この後、ベナセルのクロスから最終的にブラヒムのゴールへと繋がった
コンパクトな守備
続いてはミランの守備とナポリの攻撃についてです。
この局面におけるポイントは、ミランが「コンパクトな陣形の維持を重視したこと」にありました。

――シーン6:
守備時の基本フォーメーションは「4-5-1」で、高い位置からプレッシングをかけるタイミングを窺いつつも、基本的には深追いせずに中盤エリアのスペースの管理を重視します。
その結果、全体的なラインは従来よりも低くなり、コンパクトなミドルプレスによるボール奪取が守備時の基本スタイルとなります。
テクニカルなチームであるナポリにスペースを与えないことは非常に重要ですし、こうしたアプローチは理に適っているように見受けられました。

――参考2:この試合前半におけるミランの守備時の平均ポジション

――参考3:比較用として、第7節ナポリ戦前半におけるミランの守備時の平均ポジション
対するナポリは攻め所の一つとしてレオンの背後のスペースを想定し、ディ・ロレンツォがタイミング良く攻め上がることでミランの守備の基準点をずらし、ボールを前進させる狙いが見られましたが、コンパクトかつコレクティブなミランの守備組織を前に手を焼くことになります。

――シーン7:サイドのディロレンツォに対応するトナーリ。そこでベナセルがスライドしてロボツカのパスコースを消しながらアンギサに付き、ジルーも下がってロボツカを監視する

――シーン8:別の場面。ディロレンツォに対してトナーリが対応し、その内側で受けようとするアンギサに対してはレオンが下がって対応。トモリもアンギサへのパスコースを警戒する
この点に関し、特に素晴らしいパフォーマンスを披露したのが中盤の3枚(ベナセル、トナーリ、クルニッチ)です。
彼らはそれぞれ対面の相手MFを監視してそのプレーを妨害する役割を基本としつつも、周囲のスペースにも注意深く気を配り、的確なカバーリングを実行。
例えばベナセルは自身と似た身体的特徴を有するロボツカをタイトにマークしつつ、自陣ゴール前などでは積極的にボランチのサポートに入ってバイタル近辺をケア。トナーリは対面アンギサの監視と共に攻め上がってくるディ・ロレンツォのケアも行い、そのフィジカルで何度もボール奪取を成功させます。

――シーン9:右サイド深くへボールを運んだナポリ。ここで、DFラインのギャップを狙うアンギサに対してはクルニッチが対応し、エリア中央のスペースにはベナセルが下がってジエリンスキに付く
そして、クルニッチは基本的にジエリンスキのマークを行いながら随所に抜群のカバーリング力を発揮。その結果、相手キーマンのクワラツヘリアに対して、カラブリアやケアーと協力して見事に抑え込むことに成功します。

――シーン10:ナポリがライン間に侵入してきたフリーのマリオルイにパスを送り、良い形を作り出す。一方クルニッチは迅速に帰陣し、最終ラインのサポートに動く

――その後の場面。クワラツヘリアへとボールが渡るが、クルニッチの的確かつ迅速な帰陣によりバイタル(シメオネ)への危険なパスコースは閉じられた状態になる

――その後の場面。3人がかりで対応し、クワラツヘリアの仕掛けを封じた
焦れたナポリは59分、ジエリンスキがドリブルで打開を図るもトナーリが見事なボール奪取を見せ、ミランがカウンターに移行。レオンが十八番のプレーからチーム3点目を奪い、勝負を決定づけました。

――シーン11:パスを受けたジエリンスキは、中央方向へとドリブルを開始してクルニッチを躱そうとする

――その後の場面。しかしトナーリに身体をぶつけられてボールロスト(赤)

――その後の場面。ボールを奪ったトナーリはすぐさま前方のレオンに展開。このあと得意の形からレオンが自らゴール前に持ち込み、ネットを揺らした。
67分には途中出場のサレマがダメ押しとなるチーム4点目を決め、終わって見ればミランが0-4の完勝。なお、試合後に発した敵将スパレッティの以下のコメントは今回の試合内容を端的に表しています。
我々は相手の得意とするライン間に度々スペースを与えてしまい、ミランはそのスペースをとても巧みに利用してきたね。一方の我々はボール回しに問題を抱え、多くのミスを犯した。正しいポジションを取れず、相手にマークされる状態が続いてしまったんだ
ナポリ0-4ミラン
雑感
4月のナポリとの3連戦初戦は大方の予想に反し、ミランの大勝という結果に終わりました。
勝因として戦術的な観点から第一に挙げられるのは、システムを変更すると共に、各選手の配置と役割に合理的な修正を加えたことではないでしょうか。特に鬼神のごとき働きを見せたクルニッチとトナーリのダブルボランチと、やや不慣れなポジション・役割ながら攻守に奮闘したベナセルの3枚を軸にした守備時のスペース・選択肢の制限が非常に効いていたように思われます。
また、前半の内にチャンスをモノにして流れを一気に引き寄せたレオン、ブラヒムの両アタッカーも称賛に値しますね。
ただし、もしこれがナポリとの今季最終戦であればもっと手放しで喜ぶことも出来たのでしょうが、来るCLでの2試合を考えたときに見直すべき点はいくつかあると感じます。
例えば今回のバカヨコ投入などというバカげた采配をCLで見る心配はないものの(登録メンバー外のため)、いずれにせよ試合終盤のコントロールについてはもっと的確に行う必要があるでしょう。また、連戦が続く中で主力選手たちが今回のようなパフォーマンスを持続できるかについても、その実現のために期待される監督の控え組の活用能力を見るに疑問の余地があります。
ナポリ相手に0-4という完勝を収めたからといって油断や慢心は禁物ですし、引き続き高い集中力をもって4月の連戦に臨んでもらいたいですね。
Forza Milan!
最後まで読んでいただきありがとうございました。